Final FantasyⅨ-リリカル・クロニクル RE. 作:竜の蹄
ジタンがフェイトの家に転がり込んでから、はや一週間が経とうとしていた。ジタンは、フェイトを介して「この世界」の常識を知る事が出来た。この世界の名は『地球』。本で見たそれはガイアに良く似ていたが、文明水準はガイアを大きく凌駕していた。霧や蒸気ではなく電気で機械や船を動かす、街の眺めを見てみれば森の数より建物の数が多かった。更に驚く事に、この世界にはモンスターが存在しない。
ジタンは怪我が治るまでの間、フェイトの家から一歩も出る事が出来ず缶詰め状態だった。だが……
「た〜〜いくつだなァ……」
ジタンは天井を仰ぎながら独り言ちた。フェイトはアルフと共に出ており、夕方まで帰らない。彼女は「学校」があるから、と言って出て行ったが、どうもジタンには腑に落ちない節が幾つかあった。
先ず彼女の素性だ。この家には自分とフェイトとアルフの3人しか居ない。彼女の両親は居ない。この事をフェイトに尋ねると「母さんは外国で仕事してる」とだけ答えた。
もう一つはフェイトとアルフは、夜になると外出している様だった。最初は気付かなかったが、ある日、2人が深夜に帰ってきた際、ボロボロになっていたのを横目で見ていた。翌日、フェイトが傷を負っている姿を見たジタンは問い詰めたが、彼女は「転んだだけ」しか言わない。アルフもまた然りだ。
「……あいつら、俺に何か隠してるよな……」
敢えて突っ込まなかったが長年、盗賊家業を生業としてきたジタンには相手の嘘を見抜く事が出来る。明らかにフェイトは何か秘密を持っている。だが、ジタンは深く追求はしなかった。人は踏み込まれたくない秘密を幾つか抱えている。もし、フェイトの秘密がそれなら自分が下手に手出しするべきでは無い。だが、もちろんジタンとしても彼女が苦しんでいるなら助けに入るつもりだった。
等と考える、のどかな午後……ジタンは窓から階下の道を見下ろす。仲の良さそうな子供達が笑いながら走り去っていく。どうやら学校は終わったらしい。外は快晴、出かけるには持って来いだ。
「…………行くか♪」
ジタンは街の様子を散策する良い機会だとして、外へと飛び出した。因みに尻尾は、上手く「隠して」だ。
「平和だねェ……」
夕明りに染まり始めた街並みをジタンは1人のんびりと散策していた。道行く人、街の様子、どれを取っても平和な日常だった。
ふと見れば、そばには川があった。ジタンは土手を下りながら川を眺める。思えば、こうやって景色を眺める事など久方ぶりだった。
今頃、ダガーはどうしてるだろう? ビビは元気にしているだろうか? 土手に腰を下ろしながら、ジタンは懐かしき仲間達の顔を思い馳せる。そのまま寝っ転がりながら、空を仰ぐジタン。すると誰かの顔が覗き込んできた。
「うおッ⁉︎」「ひゃッ⁉︎」
思わず驚いてジタンは跳ね起きる。驚いたのは少女も同様だった。
「びっくりしたァ……。ごめんなさい、驚ろかしちゃって……」
「いやァ、いいよ。こっちが勝手に驚いたんだし…………」
そう言いながらジタンは少女を見つめる。栗色の髪をピンクのリボンで左右に纏めた少女。年の頃ならフェイトと変わらないだろう。
「? あの……私の顔に何か付いてます?」
「いや、そうじゃなくて…………中々、魅力的な女の子だなって思っただけ」
「にゃッ⁉︎」
ジタンの言葉に女の子は顔を赤くする。するとジタンは悪戯っぽく笑った。
「ごめんごめん、からかうつもりは無くて……君と同じ位の子と一緒に暮らしてるから、さ」
「そうだったんですか。あ、私は高町なのはっていいます」
「タカマチ……ナノハ? じゃあ、タカマチが名前なんだ」
少女はクスッと笑う。ジタンは怪訝な顔をした。
「? 何か変な事言った?」
「いえ……お兄さん、外国人でしょ?」
「ん……まあ外国人と言えば外国人だな」
「高町は私の性です。私の名前は、なのはです」
「そっか……悪りぃ、俺こっちに来てから1週間くらいなんだ。俺はジタン・トライバル。ジタンでいいぜ」
互いに自己紹介を経て、なのははジタンの服装を見た。
「ジタンさんって、風変わりな格好してますね……あんまり、そんな格好の人いませんよ?」
「そっか? 俺の国じゃ結構、当たり障りない格好だけどな……」
「ジタンさんの育った国って、どんな国なんですか?」
なのはは尋ねた。ジタンは手元に転がっていた小石を川に投げた。石は4回ほど、水面を跳ねた。
「リンドブルムって国でさ……良いところだぜ? 王様が少し、スケベなオッさんなんだけどさ」
「スケベな王様?」
「ああ! 綺麗な奥さんがいる癖に、ちょっと綺麗な女を見ると鼻の下を伸ばしちまうんだ! そのせいで、奥さんを怒らせた事もあってな……」
「へェ……」
悪戯っぽく話すジタンと、まだ幼く男女のいざこざには疎いなのは。話しながら、ジタンはふと、リンドブルムの人々の顔が頭に浮かんだ。
シド大公、ヒルダ王妃、バクー、タンタラスの面々……本当に懐かしい顔触ればかりだ。
元気にしているだろうか……そんな考えがジタンの脳裏に浮かんだ。
「なのはにはさ……家族が居るのか?」
「はい、お父さんとお母さんとお兄ちゃんとお姉ちゃんと私……私が末っ子なんです……」
「そっか……きっと優しい家族なんだろうな……」
「ジタンさんに家族は?」
「……居るぜ。親父が一人な……って言っても、血は繋がってはいない。孤児だった俺を引き取って育ててくれた……」
そう言ったジタンの顔は、とても優しげだった。バクー……思い返してみれば、あの頃の自分にとって、タンタラスは“家”だった……。
一度、自分の生まれた場所を探して、無断でタンタラスを家出し、結局は見つけられずに帰った時……バクーには思いっきり、ぶん殴られたのを覚えている。あれは、かなり効いた。
だが、その後……バクーは、声を上げて笑った。その姿を見たジタンにとって、タンタラスこそが、自分の“いつか帰る場所”となったのだ。
「……そういやさ、なのはの家族は何をやってる人なんだ?」
「“翠屋”って、カフェを経営してるんですよ。私も偶に手伝う事があります」
「……ヘェ……カフェね…………。もし良ければさ、其処で俺を働かして貰えたりできるか?」
「ヘッ? ジタンさんを?」
突然の申し入れに、なのははキョトンと首を傾げた。
「訳あってさ、今、知り合った女の子の家に居候させて貰ってんだ。けど、金もいれないで住み続けるなんて、あんまり良い気しないだろ?」
そう言いながら、ジタンは苦笑した。なのはもニッコリと笑う。
「分かりました! お母さんに話しておきますね! 明日、翠屋に来て下さい!」
「ああ! じゃあ、俺は行くよ」
そう言ってジタンは立ち上がる。なのはは名残惜しそうに見ていた。
「お店の場所、分かりますか?」
「ん〜〜、多分な。分かんなかったら、人に聞いて探すよ!」
そう言いながらジタンは背中越しに手を振る。その後ろ姿を、なのはは何時までも眺めていた。今日、初めて会った人なのに、また会いたいと思えてしまう。
「ジタンさん……か」
彼の名を呟きながら、なのはも帰路を急いだ。
ビビは、はやてに付き添い海鳴大学病院に来ていた。はやては生まれつき足に障害を抱え、歩く事すらままならない。だから、定期的に検査を受け病気を治そうと頑張っていたのだ。
「ごめんね、ビビ君……退屈やろ?」
はやては隣に座るビビに話し掛ける。だが、ビビは首を振る。
「僕は大丈夫だよ、お姉ちゃん」
ビビは最近になり漸く、はやてを「お姉ちゃん」と呼ぶ事に対してのくすぐったさから解消されつつあった。ビビの見てくれは兎も角、端から見れば仲の良い姉弟に見えなくも無い。
だが、来院者や病院のスタッフは、ビビを怪訝な目で見ていた。明らかに周囲の人の格好から浮いているビビは目立っている。
「……なんか皆、見てくるよ……」
「大丈夫や、ビビ君が可愛いからや!」
はやてはそう言うが、ビビははやて以外の人間と話したり接したりするのは今日が初めてだ。だから、いつも以上に縮こまってしまう。
「ママ〜! あの、お兄ちゃん、変な格好してる〜‼︎」
「こら、指差しちゃ行けません‼︎」
向こうからやって来た親子の小さな娘に指をさされながら「変な格好」と言われ、母親が「すいません」と詫びてきた。
「この格好……そんなに変かな……」
内心、気にしていたのか、ビビは、はやてに尋ねた。
「う〜〜〜ん、ハロウィンはまだ先やしなァ……でも大丈夫や! ビビ君には似合っとるよ‼︎」
ハロウィンが何の事か分からないが、はやてにも変な格好だと思われていた事に、ビビは凹む。
と、様々な事がありながらも、順番は進み……
「八神はやてさ──ん、医務室にどうぞ──!」
看護師さんが、はやての名を呼ぶ。
「は──い。ビビ君、行こか?」
「うん……」
車椅子を動かすはやてに促され、ビビは彼女に付いて医務室に入っていった。
はやての主治医である女医、石田幸恵先生は、まだ若いが優しくしっかりした医師だった。彼女に付き添って医務室に入ってきたビビに最初は驚きながらも、はやてが遠縁の親戚の子と言ってからは親しく接してくれた。
「へェ……はやてちゃんの親戚の子なんだ……ちょっと浮世離れな感じの子ね……」
石田先生は、ビビのとんがり帽子を被った頭の先から、靴の先まで値踏みする様に見た。はやてと似ている、云々より今時の子とは少し違う……良く言えば石田先生曰く浮世離れした、悪く言えば風変わりな子だと彼女は感じた。
「え、えっと……」
ビビは、はやての陰に隠れる様に身を縮める。彼女は悪い人では無い事は、はやてに聞かされていたが改まって自分を見られるのは、あまり気分の良い気はしない。
「あの……ビビ君は理由があって少し記憶が無いんです……そやから、ちょっと変わった子やけど……悪い子や無いですよ?」
はやてがフォローに入った。記憶が無い、と言われて石田先生は憐れみに似た顔になる。
「まァ……それは気の毒に……。私の知り合いの精神科の先生を紹介しましょうか?」
途端に、ビビはブンブンと首を振る。はやてと離れ離れになるのは嫌だったし、未だにビビは、この世界の常識を把握出来ていない。
そんな状況で、見知らぬ場所に1人で放り出されるのは酷な話である。
「あの……ビビ君を連れてきた人が言うには、時間が経てば回復すると言ってました……そやから……」
「うんうん、解ってるわ。記憶喪失は荒療治より自然に回復するのを待った方が良いかもね。所で……はやてちゃんの足の事なんだけど……」
あまり深く詮索されたく無い、と察した石田先生もしつこくは追求して来なかった。その後、はやての病状の進み具合、検査の予約等の話に入った為、ビビはホッとした。
記憶が無い……それは、ビビが考えていた以上に深刻な状況だった。ある意味では、はやての足の病気よりも深刻た。
だが、石田先生の言う通り無理やり思い出そうとしても、ビビの頭の中に白い靄が掛かった様になって、思考を邪魔してしまう。
「……と言う訳で、今の所は病気に思わしく無い進展は無いから安心して? はやてちゃんの足については……今の所は、どうなるか分からないけど良くなっていく様に、最善を尽くすつもりよ」
「はい。分かりました」
石田先生の報告に対し、はやては明るく応える。
「はやてちゃん……少し変わったわね……」
「へっ? そうですか?」
「そうよ。はやてちゃんとは長い付き合いだけど、そんな楽しそうに笑うはやてちゃんを見るのは初めてよ?」
石田先生の指摘に、はやてはビビを見る。自分が変わったとすれば、それは恐らく、ビビとの暮らしが始まった事が大きいのだろう。
少しドジでそそっかしく、見た目以上に幼く見えるビビ……。まるで弟の様な存在のビビとの触れ合いが、辛い現状に置かれながらも懸命に生きなくてはならない自分の緩和してくれたのだ。
「……ビビ君のお陰なんかも知れません。彼が来てから、こんなに笑う事が出来た……。ビビ君が来てへんかったら私、誰かに心を許す事なんて出来なかった……」
改めて感慨深げに、はやてはビビを見る。当人のビビは、何の事か分からずに、まごまごしている様子だった。
「えっと……僕が何か……」
ビビは自分が褒められているとは分からずに尋ねた。はやてはクスリと笑う。
「ビビ君のお陰やって事」
そう言われた後、ビビはよく分からずに首を傾げるばかりだった。そんな様子を、石田先生は微笑ましそうに見ていた。
はやてが検査に向かった後、ビビは1人、待合室に居た。幸い、室内には自分しか居なかった為、周りから奇異な視線を向けられる事は無かった。だが独りで居ると、余計な事ばかりを考えてしまう。
その為、ビビは、はやての事を考える様にしていた。
彼女の足は病気によるものだった……それの原因は分からず、今日まで石田先生を悩ませる結果となった。
「ビビ君?」
突然、待合室のドアが開いて石田先生が入って来る。思わず、ビビは金縛りにあった様に硬直した。
「そんな緊張しなくて良いわよ。取って食べようって訳じゃ無いんだから」
石田先生は気さくに言ったが正直ビビは、はやて以外の人間に対して少なからず恐怖を抱いている。信用に足る人物と頭で分かっていても、身体が過敏に反応してしまう。
石田先生は少し困った様に、苦笑する。
「でもまあ、記憶の無いビビ君に見知らぬ私を信用しろ、と言っても無理な話よね……でも、はやてちゃんの為に聞いて欲しいの……」
「はやてお姉ちゃんの為……?」
ビビは、はやての名を出されて漸く警戒心を解いた。それを察した石田先生は、ビビの隣に座った。
「そう……はやてちゃんの病気の事は知ってわよね?」
「えっと……足が動かない病気くらいしか……」
正直言って、ビビは病気に付いて詳しく無い。はやてを苦しめる病気の名称等、聞いたって無駄な事かも知れないが……大好きなはやての為に、石田先生の話に耳を傾けた。
「そう……しかも、単純に小児麻痺の様な足が動かなくなる病気じゃ無くて彼女の場合は原因不明の神経性麻痺、と言うのが正解かしら?」
ビビは、やっぱり理科が出来ずに首を傾げた。
「無理に理解しようとしなくて良い、そう言う病気であると認識してくれれば……。ただ、この病気は今は足の麻痺だけで止まっているけど……最悪の場合、心臓や脳と言った他の臓器に影響を及ぼす可能性もあるの……」
「え、それって……」
ビビは急な話に恐る恐る尋ねた。石田先生は頷く、
「そう……。ちょっと厳しい言い方をするけど、このまま病状が進行すれば心臓や脳まで麻痺してしまって……はやてちゃんが死んでしまう可能性が高いわ……」
石田先生の口から発せられた言葉は、あまりにも残酷な宣言だった。
はやてが死ぬ……そんな事、考えつきさえしなかった。
「はやてお姉ちゃん……死んじゃうの?」
ビビは途端に震え出した。はやてが居なくなれば、自分はたった独りでどうやって生きて行けば良い? 何より……はやてが死んでしまうなんて想像も付かない。いつも笑顔で、足が不自由な事以外は健康そのものなのに……。
「ごめんなさい、怖がらせちゃったわね……。でも、本当に辛いのははやてちゃん本人なの。あの子は歳とは不相応に、思慮深くて聡明な子だから……わざと平気な風に振舞って居るの。本当は不安で仕方ない筈なのに……」
石田先生は眼鏡をずらし、目頭を抑える。彼女が小さな頃から知っているから、余計に愛着が湧いてしまうのだろう。
「……だからこそ、ビビ君。はやてちゃんの支えになってあげて欲しいの。あの子が折れそうになった際、ビビ君が受け皿になってあげて……」
「……僕には何にも……」
石田先生は、自分を買ってくれてる様な期待を寄せるが、はっきり言って自分に、はやての支えになれるとは思えない。
はやてに助けられてばかりの自分なんかに……。だが、石田先生は優しく微笑んだ。
「支えると言うのはね、なにも物理的な事だけじゃ無いの。その人の側にいてあげるだけで気持ちは楽になるし、前向きになれるのよ。
今日、はやてちゃんを見てはっきりしたわ。今の、はやてちゃんにとってビビ君は心の拠り所となっているの。長年、あの子の主治医をしているけど、あんなに生き生きとしたはやてちゃんを見たのは初めてだわ」
石田先生は、しみじみと答えた。彼女は、医者としてはやての人生を見守り続けて来たからこそ、はやてに対しては並々ならない迄に思う所があるのだろう。
「ねェ、ビビ君。はやてちゃんの側に寄り添ってあげて。貴方自身が大変な状況である事は承知の上で、お願いして良いかしら?」
ビビを見る石田先生に表情は真剣な面持ちだった。ビビは、自分がはやてが支えになれる自信は無い……だが、ビビの脳裏に言葉が浮かぶ。
〜誰かを助けるのに理由が居るかい? 〜
誰が言ったか分からないが、ビビの胸に染み渡る。
はやてを助けるのに、理屈なんか意味の無い事だ。自分が彼女の側に居る事で、はやての命を繋げるなら……。
「……分かりました……」
ビビは了承する。石田先生は笑顔で「はやてちゃんを、お願いね」と改めて、依頼した。
検査が終わった帰り道……ビビとはやては家に向かい歩いていた。
「どうしたん、ビビ君? 何や、浮かない顔やな……」
はやては隣を歩くビビを心配そうに見る。ビビはビビで、はやての事を考える。はやてが死ぬなんて、実感が湧かない。石田先生曰く、その時が来るのは1年先か2年先か……或いは明日かも知れない。
言うなれば、はやてはいつ爆発しても可笑しくない爆弾を抱えながら生きているも同然なのだ。
それなのに、自分の前では弱気を見せず直向きに生きているはやてを見ていると、やり切れなくなる。果たして、自分が彼女の為に何をしてあげれるだろうか?
「ひょっとして、私の病気の事?」
勘の良いはやては、ビビの考えを言い当てた。ビビは隠し事が下手な為、隠し切れなかったのだ。
「……はやてお姉ちゃん、怖くないの?」
「ん〜、私自身、実感が湧かんからな〜……けどな、ビビ君と離れ離れになるのは怖いかな?」
あっけらかんと答えながらも、肩が震えているのが見えた。
「……なんてな……。ビビ君に心配掛けたくないから隠しとったけど、本当は怖い……まだ死にた無いよ。学校にも通いたいし、皆と勉強したいし…………」
ふと車椅子が止まる。はやては声を出さずに泣いていた。
「ゴメンなァ……頼りないお姉ちゃんで……ビビ君が私の前に来てくれてから、急に死ぬのが怖なったんよ……。それ迄は1人ぼっちの私が死んでも誰にも気に掛けられないし迷惑にもならないし……怖くなかった。でも、今は死ぬのが怖くて仕方ないねん……」
はやては、静かに咽び泣いた。ビビは、オロオロした様子で立っていた。石田先生の言葉が、ビビの脳裏に響く。
〜その人の側にいてあげるだけで気持ちは楽になるし、前向きになれるのよ〜
ビビは意を決して、泣きじゃくるはやてに寄り添う。
「……お姉ちゃん……僕は、お姉ちゃんを守れる様な強さは無いけど……僕が、お姉ちゃんの側に居るから……。だから、泣かないで……」
「ビビ君……‼︎」
はやては堪えきれなくなり、小さなビビを抱き締め泣き続けた。ビビは、はやての気が済む迄、泣かせてあげた。どんなに達観して様が……まだまだ、はやては子供だ。
ビビは涙を流さないが、悲しみに暮れるはやてを思うと胸が潰れる位、悲しかった。
一頻り、泣き通したはやては、すっかり薄暗くなり始めた辺りを見て、ビビに微笑む。
「こんなに泣いたの久しぶりやわ……おおきにな、ビビ君……」
「……うん……。帰ったら、またお姉ちゃんのご飯、食べたいな……」
「そやな……ビビ君の為に、腕を振るうから!」
そう言って、2人は歩き始めた。ビビは、はやての横を歩きながら考える。はやてを守ろう……力の有る無しの問題じゃ無い……はやてが笑ってくれるなら……彼女と過ごす時間が永遠に続いてくれるなら……その為なら、運命にだって立ち向かって見せる……そう、ビビは小さな身体に強い信念を秘めて……。
それとは別の場所で……ジタンは帰り道を歩いていた。すっかり日は斜めに傾き、当たりオレンジ色の夕焼けに染まっていた。
高町なのは……会って話したのは僅かだったが、すっかり仲良くなった……こんな風に、誰かと気兼ねなく話したのは、ジタンには久しぶりだった。
などと考えていると自分の前から、フェイトが歩いて来るが見えた。
「よッ、お帰り」
「‼︎ ジタン⁉︎ まだ出歩いちゃ…………‼︎」
「もう大丈夫だって。それより帰ろうぜ。腹減ったよ、俺」
そう言いながらジタンはフェイトの隣を並んで歩く。ジタンはフェイトを見ると、悲しそうな顔をしているのが見えた。
「何かあった?」
「…………別に…………」
気丈にしつつも、フェイトの顔を曇ったままだ。ジタンはフェイトの手を握ってやる。フェイトは驚いた様にジタンを見た。
「ジタン?」
「俺じゃ頼りないかも知れないけど、悩んでる事があったら相談にのるぜ? 今は俺とフェイトは『家族』だからな」
その言葉は、フェイトの心に深く染み渡ってくる。何時しか涙が溢れ嗚咽が漏れてきた。
「…………ありがとう……」
そう呟くのが精一杯だった。フェイトは声を押し殺しながら涙を流す。そんな彼女をジタンは笑顔で手を繋いでいてくれた。すると、ジタンが口を開く。
「……あとさ、今日、フェイトくらいの子と知り合ったんだ……高町なのはって言うんだけどよ」
「そうなの?」
「ああ。その子の親がやってる店で働かせて貰えないか、頼んできたぜ! だから、働く様になったら、俺も家賃をいれるからさ!」
「……そんなの、気にしなくて良かったのに……」
フェイトは、ジタンが居候しているのに、ただ養われている事を気にして、行動に移した事に驚いた。だが、ジタンはニッと笑う。
「俺が好きでやるんだ。だから、気にすんなって言うのは、こっちさ! それにさ……フェイトと、その子が友達になれたら良いんじゃ無ェかなって思ったんだ!」
「……友達……?」
ジタンの何気ない言葉にフェイトは困惑した。自分に友達なんて、考えた事も無かったからだ。アルフは友達と言うより、姉妹と言う関係だ。
難しそうな顔をするフェイトを見たジタンは優しく頭を撫でてやる。
「難しく考えんなって。友達になりたいと思ったら、誰とでも友達になれるからよ! フェイトならあっという間に人気者になるかもな!」
「……そうかな……?」
「そうだって!」
ジタンの明るい口調に、フェイトも自然に笑顔となった。そうして、2人はまた歩き始めた。
その際、ジタンは向かいの道を歩く2人の影を見た。車椅子に乗っているフェイトと同じくらいの女の子だ。その横を歩く小さな子供の姿に、ジタンは一瞬、我が目を疑った。先の折れ曲がったとんがり帽子を被っている様に見えたからだ。
「ビビ?」
ジタンは思わず声を出した。振り返ってよく見ようとしたが、夕焼けの光に遮られ、よく見えなかった。そうしてる間に2人は曲がり角を曲がってしまう。
「どうかした?」
フェイトが不思議そうに、ジタンに尋ねた。だが、ジタンは笑顔で取り繕う。
「いや……きっと気のせいだったんだ……見間違いだな……」
「?」
フェイトは首を傾げたが、それ以上は追求しなかった。そうして、2人は夕焼けに照らされた小道を歩いって行った……。