Final FantasyⅨ-リリカル・クロニクル RE. 作:竜の蹄
翌日、ジタンはなのはから指定された店、翠屋へ向かっていた。今日は日曜日と言う事もあり、子供達が楽しげに走り回っていた。
まだ、身体も本調子とは言えないが、軽く動かすくらいなら問題無かったし、何より居候で、テスタロッサ家に居座り続けるのは、ジタン本人も抵抗があった。
『自分の事は自分でする‼︎ 働かざる者、食うべからず‼︎』
タンタラスの掟の1つであり、故にタンタラスでは誰しもが食い扶持は自分で稼ぐ。食えない下っ端の奴らは、バクーが面倒を見ていたが、自分で稼げる様になればタンタラスの戦力として動き回るか、独り立ちをするかだ。
さて、翠屋の場所を通りがかる通行人に聞いたり、街の見取り図を参考にしながら、目指す翠屋を探していた。
そうしてる間に、ジタンは大きな公園の近くを横切った。と、その際……。
「やめなさいよ‼︎」
空を裂くばかりに大きな声が聞こえてきた。声の方を見ると3人の少女が、如何にもガラの悪そうな男と揉めているのが見えた。
「あの子は…………」
ジタンは女の子の1人に目をやる。ジタンがよく知る顔だ。放っておく訳にも行かない為、ジタンは騒ぎの方へと向かっていった。
「何だァ、このガキは? 邪魔すんじゃねェよ!」
人相の悪いチンピラ風の男は金髪の気の強そうな少女を睨みつける。
「うるさいわよッ‼︎ 私の友達に手を出したら許さないから‼︎」
金髪の少女は小さな身体に反して大きな怒気を溢れ出しながら負けじと睨む。隣にいた少女も金髪の少女に並ぶ。
「いい加減にしないと警察呼びますよ‼︎」
少女は、なのはだった。なのはが庇う様に濃い青色の長髪の少女が不安気に見ていた。
「アリサちゃん、なのはちゃん……、私は大丈夫だから……」
「すずかは黙ってなさい‼︎ とにかく‼︎ あんたみたいな馬鹿に、すずかは連れて行かせないから‼︎」
「‼︎ のガキィ……言わせておけば……」
アリサと呼ばれた少女の暴言に対しトサカに来たチンピラは大人気なく拳を振り上げる。その拳を誰かが掴んで止めさせた。
「な、誰だ⁉︎」
「その辺にしとけよ」
手を押さえたのはジタンだ。チンピラはジタンを見ながら驚くが、何より驚いたのは、なのはだ。
「ジ、ジタンさん?」
つい昨日、知り合ったばかりのジタンと思いもよらない場所で再会したのだ。チンピラは突然、現れた男の登場に面食らうが、すぐにジタンを睨みつける。
「て、テメェ何しやがる⁉︎ 放せよ‼︎」
「何しやがる? そりゃ、お前だろ? ガキ相手に手を上げて恥ずかしくねェのか?」
「う、うるせェ‼︎ 手を離せってんだ‼︎」
チンピラは強引に手を振り払うと、ジタンに怒りの矛先を向けた。
「カッコつけやがって‼︎ テメェは何なんだ⁉︎」
「う〜ん……正義の味方?」
「ふッ……ざッけんなァッ‼︎」
チンピラはジタンに拳を突き出す。
「あ、危ない⁉︎」
なのはが声を上げるが、紙一重で躱すジタン。
「そうカッカすんなって。早死にするぜ?」
「……の野郎‼︎ 調子付きやがって‼︎」
完全に頭に血が上ったチンピラはジタンに掴み掛からんとして来る。対するジタンは余裕綽々、と言った具合に見ている。なのは達は、オロオロと見ているばかりだ。
「あ‼︎ あれはなんだ⁉︎」
「あぁ⁉︎」
ジタンはチンピラの後ろを指差す。釣られて男は指差す方角を見るが、その隙にジタンはチンピラの右腕を捻り上げた。
「イテテテッ‼︎ 折れる、折れちまう‼︎」
「折られたくなけりゃ、もう2度と弱いものイジメするなよ。いいな?」
そう言いながら、ジタンは小さく笑う。だが目は笑ってない。
「分かった……分かったから手を離してくれ‼︎」
チンピラは左腕をバタつかせながら喚く。漸く、ジタンは手を離した。チンピラは右腕を抑えながらジタンを睨む。
「く、クソッ‼︎ 覚えてやがれ!」
三下の悪役が総じて吐き棄てそうな捨て台詞を残してチンピラは逃げ去っていった。
「あ、ありがとうございます‼︎ お陰で助かりました‼︎」
その後、ジタンは、なのは達に感謝されつつ彼女の実家である翠屋へと案内された。
「いや気にすんなって。昨日ぶりだな」
ジタンは、なのはに対して笑いかける。なのはは頬を赤らめた。
「はい……昨日は……」
「ちょっと、なのは⁉︎」
2人の会話に割り込む様に、アリサが入ってきた。
「一体、誰なのよ、この人‼︎ 説明しなさい‼︎」
「あ……えっとね……」
アリサの問いに関して、なのはは口ごもる。
(エーコそっくりだな、この娘……)
ジタンは活発的に振る舞うアリサの姿を見て、かつて世界を守る為に共に戦った召喚士の末裔たる少女の姿を思い浮かべる。
「俺はジタン・トライバル。なのはとは友達だな」
不信感を募らせない様に、ジタンは笑って見せる。
「友達……ですか?」
すずかもジタンを見ながら呟いた。どう見ても、ジタンの方が年上であるが、なのはの様子を見れば、悪い人では無いだろう、と彼女の中で確信を得た。
「ま、なのはが友達だって言うなら間違い無いだろうけど……さっきの奴から守ってくれたのは、ありがとう」
「気にすることないって……えっと、アリサちゃんにすずかちゃんだっけ?」
ジタンの言葉に、アリサはムッとした顔でジタンを睨む。
「アリサちゃんなんて子供扱いしないでよ‼︎ 私は、アリサ・バニングス。アリサ、でいいわ‼︎」
「私は月村すずか、すずかで良いです」
子供扱いって充分、子供じゃないかと思いながら、ジタンは苦笑いする。
「娘が、お世話になったみたいで、ありがとうございます」
話に介入してきたのは、なのはと何処となく感じが似た女性だった。ジタンは一目で、なのはの母親だと分かった。あと中々の美人だった。
「あ、いえいえ良く出来た娘さんで……」
女好きのジタンは明らかに調子が変わった様子で話しかける。その姿に、なのは達は失笑した。
(この人、どういう人なのかな?)
(さあ……?)
(にゃははは……)
ジタンのもう一つの一面を垣間見た3人だったが、桃子が話を戻した。
「なのはから聞いてますけど、ウチで働きたいとか?」
「あ……。実は、そうなんです。職を探していて……」
「仕事探し? 貴方、いい歳して無職なの?」
アリサの何気ない言葉にジタンは肩を空かす。だが、現在のジタンの状況は限りなく居候の無職、悪く言えばニートのそれに値する。
因みに、ジタンの年齢は17歳であり、地球では高校生に当たるのだが……。
「無職って……なんか引っ掛かるな…………」
頭を掻きながら、ジタンはバツが悪そうに項垂れる。そこへ、なのはが提案してきた。
「お母さん‼︎ ジタンさんならカッコいいし、女の人のお客さんもいっぱい来てくれると思うの!」
キラキラと期待に応えた表情で桃子を見る。アリサはジトっとした目で、なのはを見た。
「随分、カッコいいって強調するじゃ無い?」
「……あ……えっと……にゃははは……!」
「なに、笑って誤魔化してんのよ」
なのはは慌てていた。桃子は、娘の提案に顎に手を当てて考える。
「そうねェ……そろそろ、バイト募集かけようと思っていた所だし……ジタンさん、接客業に経験は?」
「接客業…………まあ一応は……」
元々、ジタンの所属するタンタラスは盗賊であると同時に劇団の表の顔があった為、客に関わる事は日常茶飯事だった。
「働くとなったら、いつから出られますか?」
「何なら、今日からでも?」
「分かりました! 主人には話を通しておきますので、連絡先を……」
その後は、トントン拍子で話が進んだ。ジタンは携帯を持っていなかった為、差し当たりテスタロッサ家の電話番号を桃子に渡す。
ジタンが働く事が決まった際、なのはは終始、ウキウキした様子だったが、その様子をアリサは面白くなさげに見ていた。すずかはニコニコしながら、なのはを見ているだけだった……。
その日、ビビとはやては図書館に来ていた。ビビは椅子に座り、辺りを見回して見る。沢山ある本棚には多種多様な本が陳列されてある。子供向けの童話、大人向けの難しい小説……正直、どれに手を出せば良いか分からないが、はやては沢山の本を抱えて戻って来た。
「何を読むの?」
興味津々に、はやての持ってきた本を覗き見る。はやては少し苦笑しながら……
「ビビ君には少し難しい、かな? 読んでみる?」
そう言われ、はやてが差し出した本を開いてみる。内容は何やら蟻が這った様な細かい字が書き並べられ、何が何だかさっぱり分からない。ビビは本の内容を理解しようと、ウンウン唸る。
「ビビ君……唸り声が出てるよ?」
はやては苦笑しながら、ビビを見た。ビビは悲しそうに……
「全然、分かんないや……」
そう言って、はやてに本を返した。
「これな、医学書やねん。私の足が早く治る方法を探してるんよ」
「はやてお姉ちゃんの足、動ける様になるかな?」
ビビが希望を抱きながら尋ねると、はやては少し眉を下げた。
「分からへん……けどな、こんなに沢山の本があるから、病気についても載ってる筈や。私は、そう信じてる」
はやては希望に満ちた目で言った。自分と、そんなに変わらない筈なのに、はやてはとても大人びて見えた。
ビビも自分に読める本を探しに行こう、と席を立つ。だが、高く立ち並んだ本棚に、ギッチリと詰め込まれた本の山を見ると、どれに手を出せば良いか分からない。
そんな中、ビビは自分の目の前にあった分厚い本に手を伸ばす。
「ロミオと……ジュリエット……?」
表紙に書いてあった題名を読み返してみる。ビビは本のページを捲って見た。やはり小さな文字で埋め尽くされているが、これなら自分にも読めそうだ。文字の読み方は、はやてに教えて貰った為、ゆっくりなら読む事が出来る筈だ。
内容は男女の悲恋話だ。とても読みにくい話だが、不思議とビビには話が頭に入ってきた。
話を読み耽っていたビビは、またしても何やら懐かしい感情に襲われた。男女の恋……けど報われない結末……何だろう?
「ビビ君……ビビ君ったら⁉︎」
余りに夢中になるが故、近付いてくるはやてに気が付かなかった。気が付いた時、はやてが自分の隣に居た為、ビビは大いに驚く。
「……もう、何度も呼んでるのにビビ君、ちっとも気付かないんやから……その本、そんなに気に入った?」
「あ、えっと……」
ニマニマと笑い掛けるはやてに対し、ビビは焦りながら本を隠す……が、本の題名をはやてにバッチリ見られてしまったを
「ふむふむ……ロミオとジュリエットな〜……ビビ君、見た目に反して意外とロマンチストなんかな?」
「ち、違うよ‼︎ これは……‼︎」
思わず大きな声を上げるビビだが、側で本を直していた司書のお姉さんが、コホンと咳払いした。
「此処は図書館だから静かにな?」
はやてに窘められ、ビビは押し黙る。だが、ロミオとジュリエットの本の続きが気になった為、そのまま借りる事にした。
その後、はやては器用に車椅子を動かしながら歩道を進み、その隣をビビが歩く。通行人は車椅子に乗った少女を気遣わし気に見る反面、相変わらず浮いた格好のビビに奇異の視線を向けられていた。
とは言え、今日は非常に天気も良く出歩くには持って来いだった。ふと、ビビは空を見上げると巨大な飛行船が飛んで行くのを見た。
「……飛空挺だ……」
「えッ?」
「あれ……」
はやてが、ビビの見ている方を見るが、飛行船が海上を飛んでいるだけで特に珍しくは無い。
「あれは飛行船や。飛空挺、とは言わへんよ?」
「そう……なんだ……」
はやてに教えられて、ビビは頷くが、不思議な事にビビは飛行船を見ていると堪らなく懐かしく感じてしまう。
ひょっとしたら、自分は飛行船では無い飛空挺に乗っていたかも知れない。等と考えていると……
「痛ッ‼︎」
急に何かにぶつかった様だ。見上げると、ガラの悪そうな男が睨みつけて来た。
「このガキ、何処に目ェ付けてやがる‼︎」
案の定、男は因縁を付けてきた。
「あ、あの……ゴメンなさい……」
「あ〜⁉︎ 謝って済めば警察は要らねェよ‼︎ テメェが、ぶつかって来た所為で足が折れちまったよ! どうしてくれんだ、オォ?」
やたらと凄んで来る男に、ビビは後ずさる。すると、はやてが車椅子を押しながら男達に突っかかって行く。
「子供が足にぶつかった位で骨折する筈ないやろ⁉︎ ビビ君も謝ってるんやから、許したっても良いやん⁉︎」
「アァ? なんだ、生意気なガキだな⁉︎ 俺が誰だか知ってんのか⁈」
「誰かなんて関係ないやろ⁉︎ 小さい子供に対して、大人げないと思わんの⁉︎」
明らかに年上、しかも出来る限りなら関わり合いになりたくないタイプの人種に対し、はやては臆する事なく抗議した。
「ハ‼︎ 近頃のガキは礼儀を知らないらしいな……さっき、スカした金髪野郎にやられて苛々してんだ! どれ……少しばかり礼儀を教えてやる!」
チンピラが、腕をポキポキ鳴らしながら身構える。ビビは怯えながら、はやてを見る。はやては強い態度を崩していないが車椅子を持つ手が微かに震えていた。はやても怖いのを堪えているのだ。
ビビは咄嗟に思った。はやてを守らなくては……。そう思うと同時に、ビビははやての前に仁王立ちになる。
「ビビ君⁉︎」
「あ〜、なんだテメェ? 一丁前に、女の子を守ろうってか⁉︎ブルブル震えながら構えても、説得力無いぜ⁉︎」
心配そうに声を掛けるはやてと、ビビを小馬鹿にする様に嘲るチンピラ。
「……い……」
「い?」
ビビの蚊の鳴くような声に対し、チンピラは首を傾げた。その際、息を大きく吸い込んだビビは……
「いい加減にしろよな、このヤローッ!!!!!」
急に大きな声で、チンピラを威嚇した。流石のチンピラも、こんな小さな子供に怒鳴られるとは思わなかったらしく、尻込みした。
「な、なんて声出しやがるんだ、このガキ……⁉︎」
チンピラ達は一旦はたじろいだものの、こんな子供に背を向けたとあっては男が廃る、と言わんばかりにビビに拳を振り上げた。
「止めろ‼︎」
急にチンピラの背後から鋭い声がした。振り返ると、濃い茶髪に跳ねッ毛の端正な青年が睨みつけている。
「あ、ああ⁉︎ 何だ、テメェは‼︎ 邪魔すんじゃ……」
「子供に拳を振り上げる様な真似をする奴を放っておけるか!」
青年は鋭い目線で威嚇した。すると、チンピラは途端に青ざめた。
「ゲッ……! 確か、お前は何とかって言う古武道の師範代やってる恭也って奴……」
チンピラは、恭也と言う青年を見ながら狼狽えた。
「何だ? 文句があるなら、相手になるぞ?」
恭也が挑発的に促す。だが、チンピラは完全に戦意を喪失してしまい「あはは……」と、貼り付けた様な愛想笑いを浮かべながら、そそくさと立ち去って行った。
「大丈夫だったか?」
恭也が先程の鋭い目では無く、温和な表情でビビ達に近付いてきた。
「あ、はい‼︎ ありがとうございました‼︎」
はやては素直に、お礼を言った。一方のビビは、恭也をジッと見詰めながら立ち竦んで居た。
「? ビビ君、どないしたん?」
はやてが心配しながら伺うと、ビビはヘタヘタと尻餅ついた。
「こ、怖かったァ…………‼︎」
今更になって恐怖が襲って来たらしい。そんな様子を見て、恭也とはやては大笑いだ。
「開口一番が、それか? はっはっは‼︎ 度胸があるのか無いのか、分からないな⁉︎」
恭也は腹を抱えて笑う。はやても涙を流す程、笑っていた。
「もう……! 怖いんやったら、あんなに突っ張らんで良いやん?」
「だ、だって……はやてお姉ちゃんが危なかったから……お、お姉ちゃんだって怖かったんでしょ?」
ビビはブルブル震えつつも、はやてに言った。すると、はやても恥ずかしそうに……
「うん……少しな……そやけど、ビビ君のお陰で助かったわ」
「仲が良いな、姉弟……か?」
ようやく笑いが収まった恭也が、2人を見くらべるが姉弟と言うには、どうも判別が付き難い。
「ほんまの姉弟ちゃうんやけど、私達は家族やもんな、ビビ君?」
「う、うん……」
ビビも、やっとの事で腰を上げれた。
「だけど、さっきのは中々、勇ましい怒声だったぞ? 最後が少し、残念だったけどな」
揶揄う様に、恭也は言った。ビビはズボンの砂を払いながら、俯く。
「なんか……お姉ちゃんを守らなきゃって強く思ったら頭に浮かんで来て……怖いのも、その時は忘れちゃって……」
ビビは、おずおずと答えた。恭也は温かい目で見た。
「……そうか、君は誰かの為に頑張れるタイプなんだな。そう言う男は、カッコイイぞ?」
「そ……そんな……」
褒められたビビは照れ臭そうに、顔を隠す。今度は、はやてが尋ねた。
「お兄さん、何で私達を助けてくれたん?」
「俺にも君くらいの妹が居るからな。だから、放っておけ無かったんだ。あと、女の子のピンチを守るのは男の役目だからな」
恭也が笑顔で応えると、ビビはジッと彼を見ていた。
「? どうした? 顔に何か付いてるか?」
ビビの視線に気付いた恭也が尋ねると、ビビは応える。
「僕……今の言葉と同じ事、言う人知ってる気がする……」
「そうか? でも柄にも無くキザな事言ったから、少し恥ずかしいな……」
恭也は頬を掻きながら赤らめる。
「ま……あんな奴等が居たら、誰かに助けを求めたら良い。子供なんだから、大人を頼ったら良いからな」
そう言うと、恭也は背を向けて立ち去って行く。その背に、はやては……
「ほんまに、ありがとうございます‼︎ お兄さんの、お名前は〜⁉︎」
はやてが、礼を言いながら名前を聞く。すると、恭也は背中越しに……
「俺は高町恭也‼︎ 気を付けろよ‼︎」
そう言って、恭也は立ち去って行った。
「カッコエエな……まるで、ヒーローや……」
うっとりした様に、はやては言った。ビビは少し、シュンとした様に俯いた。
「僕は……震えてただけだった……」
打ちひしがれた様に、ビビは呟く。そんな様子を見兼ねて、はやてはビビに笑い掛けた。
「そんな事無いよ? ビビ君かて、私の為に戦ってくれたやん。嬉しかったよ?」
慰めてくれるはやてに対し、ビビは少し気持ちが軽くなった気がした……。
時間はいつの間にか夕方……ジタンはなのは、アリサ、すずかと共に河原に腰掛けていた。昨日、ジタンとなのはが知り合った場所だ。
「無事にバイトが決まったよ。ありがとな、なのは」
「にゃはは……」
ジタンの礼に、なのはは照れながら笑う。それを見ていたアリサは、ジタンを怪訝な目で見た。
「……さっきの、なのはのお母さんへの態度で気づいたけど……貴方、相当な女好きでしょ?」
アリサの言葉に、ジタンは困った様に頭を掻く。
「最近の子供ってのは、ませてんのな……まあな。自慢じゃないけど、俺は女の子の頼みは断らない主義なんだよ」
冗談めかして言ったジタンだが、アリサは益々、警戒しながら言った。
「……断っとくけど、妙な真似したら、大声上げるからね?」
「別に妙な真似なんかしねェよ……。それに、俺は大人の色気を出した女性が好みだしな」
「はァ⁈ 私が色気の無い子供だって言いたい訳⁈」
「色気があるかどうかは別にしても子供だろ?」
「何ですってェ⁉︎」
まだ出会って、さして時間が経ってないにも関わらず、ジタンとアリサは口論を始めた。最も、ジタンからすれば、アリサを揶揄って楽しんでるだけだ。
「図星を突かれて怒るから、お子ちゃまだってんだよ」
「怒ってないわよ‼︎」
「あ、アリサちゃん、落ち着いて……」
「すずかは黙ってて‼︎」
ギャーギャーと荒ぶるアリサをすずかは宥めた。その様子でさえ、ジタンは楽しんでいる風だった。
「ハハハ……。なんか、こんなのどかな会話も久々だわ」
「そうなんですか? そう言えば、ジタンさんの住んでたリンドブルムって、どの辺りにあるんですか?」
なのはの質問は、遠い目をしながら懐かしげに言った。そもそも、リンドブルムは地球では無く、ガイアにある国だ。別世界からやって来ました、なんて言った所、信じはしないだろう。
「……遠い所だよ。帰ろうにも、簡単には帰れないな」
「……お父さんが居るんですよね? 寂しくないんですか?」
なのはは心配そうに尋ねた。恐らく、ジタンが故郷に想いを馳せていると思ったのだろうが、ジタンは小さく微笑む。
「全然? 親父の下を離れるなんて、これが最初じゃ無いしな。それに……俺は自分が“いつか帰るところ”を知ってる。だから……寂しくないんだ」
そう言ったジタンの顔は、とても優しく見えた。ふと、なのははジタンに尋ねた。
「……ジタンさんは……考えの合わない人とは、どう接してるんですか?」
「? 唐突だな? 何で、そんな事を聞くんだ?」
ジタンは、なのはの質問に首を傾げた。だが、なのはは頬を染めて……「き、聞いてみただけ……」と、言葉を濁したり
「……そうだな……俺は寧ろ、考えが100%合う奴とは会った事が無いな……けど、考えの合う合わない、じゃなくてさ……仲良くなりたいなら、しつこいくらい付き纏ってみるのも手かもしれないぜ?」
「それで、もし嫌われちゃったら?」
なのはの聞き返した言葉に、ジタンはニヤッと笑う。
「自分が考えてる事、そいつをどう思ってるか、腹割ってぶつけてやれ。そうしたら、向こうもこっちに興味を持ってくるさ」
実に、ジタンらしいアドバイスだった。ジタンも、そう言う一面を持っていた。少なくとも、これまでジタンが関わって来た者達は最初からジタンに好意的だった訳じゃ無い。しかし、ジタンの考えを、そして思いをぶつけ、時にはぶつけ合う事で、彼の人となりを知って仲間となっていったのだ。
そうしてる間に、ジタンはゆっくりと立ち上がった。
「じゃあな、なのは。明日から働かせて貰うから、宜しくな」
「うん!」
「すずかもまたな。あと……あれ? アリサは帰っちまったか?」
「ここに居るわよ‼︎ てか、わざとでしょ⁈」
「ハハハ。じゃあな、おチビちゃん!」
ジタンはヒラヒラと手を振りながら去っていく。アリサは、その後ろ姿を憤慨しながら睨んでいた。
「アッタマ来た‼︎ 今度、会ったら、私を馬鹿にした事、後悔させてやるんだから‼︎」
「もう仲良くなったんだね、アリサちゃん」
「違うわよ! すずか、話聞いてた?」
アリサは変わらずギャンギャン喚き、すずかがそれを宥めていた。なのはは、ボーっとした様子で、遠ざかっていくジタンの後ろ姿を見ていた。
「どうしたの、なのはちゃん?」
すずかが声を掛けると、なのはは我に帰った。
「……あ……な、何でもないよ‼︎ じゃあね、2人共‼︎ 明日、また学校でね‼︎」
そう言うと、なのはは慌てながら走って行った。残されたアリサとすずかは顔を見合わせたが、アリサが先に口を開く。
「なのは……なんか嬉しそうだったわね……」
長い付き合いになるが、あんな嬉しそうな親友の姿を見るのは、アリサも初めてだった。
「そうだね……なのはちゃん、ジタンさんと話してる時の笑顔、私達にも見せた事ないくらい嬉しそうだった……」
すずかも同様の意見だった。なのは、アリサの出会いは1年生の頃……引っ込み思案だった自分に、アリサが悪戯を仕掛けた際に止めに入ったなのはが、アリサの頬にビンタして大喧嘩、そこからは互いに大親友となって今日まで過ごしてきた。以降、なのはを見てきたが、ジタンを見る、なのはの姿は今迄、見た事がないまでに輝いていた。
「あ〜〜、何だろう……ムカムカしてきた」
アリサは小難しい顔をして唸る。そんな姿に、すずかはニッコリと微笑む。
「アリサちゃんは、なのはちゃんがジタンさんに盗られたみたいでムカムカするんだよね?」
「はァ⁉︎ 何言ってるのよッ⁉︎ 別に、なのはが誰と仲良くしようと私の知った事じゃないわよッ‼︎ ただ、なのはに変な奴が纏わり付かないか心配なだけ‼︎」
「うん、分かってるよ。アリサちゃんは優しいね」
「分かってないじゃない‼︎ もう私、帰る‼︎」
痛い所を突かれて居心地が悪くなったアリサは、ズンズンと帰路を歩いて行った。その後ろを駆け足で、すずかも続く。
例え、いつどうなっても自分達は友達だ、すずかには確信があった。少々、素直じゃない親友と妙な所に意固地な親友、そして引っ込み思案な自分、性格も生まれも全く異なるが、自分達には切っても切れない繋がりがある。照れた顔を夕焼けで誤魔化すアリサを微笑ましく見守りながら、すずかは夕焼け道を歩いて行った。
とある場所に存在する、妖しい煙が立ち込める部屋……研究室を思わせる室内に3人の人影があった。
「本当に貴方の言う通りで上手くいくの? 貴方が信用に置けないんだけど……」
1人は背の高い女ー顔色は死人の様に青白く不健康な紫色の唇の女性だった。
「勿論さ。僕は嘘は言わないよ。だから、君は今まで通り、ジュエルシードとやらを集めれば良い。その為に、僕が力を貸すんじゃないか」
1人は背の高い男ー腰まで伸ばした銀髪に中性的な容姿の青年だった。
「……そもそも、貴方達は何が目的なの? 私の計画に力を貸して、何のメリットがあるの?」
女は苛立たしげに、青年を睨んだ。青年はクスクスと笑う。
「……信じるも信じまいも君の勝手さ。だが、僕には僕の目的がある。利害の一致、と言う訳だ。仲良くしようじゃないか」
「…………ふん、まあ良いわ。ふふふ……もう少しで、ほんの少しで私の愛しい、あの子を抱きしめる事が出来る。ふふふ…………あははははははははッ‼︎」
女は狂った様に笑い続けた。そんな彼女の様子を青年は薄笑いを浮かべながら、右に立つ大柄な人物に呼び掛けた。
「聞いた通りだ。そっちの計画は、君に任せるよ?」
その影は青年の指示に従い、無言のまま、暗闇の中へ歩いて行った……。