Final FantasyⅨ-リリカル・クロニクル RE. 作:竜の蹄
また、今回はなのはは空気ですが、次話では目一杯、活躍させます!
今話のラストで意外な人物が出ますので、乞うご期待下さい‼︎
フェイト達が攻防を繰り広げていた頃……同時刻に、海鳴市の上空を飛んでいる者が居た。それは、ジタンとも関わりのある少女、なのはだ。
「ジタンさん?」
なのはの肩に乗っかる様にしがみ付くイタチの様な小動物ーユーノが喋った。高町なのはには秘密があった。
ほんの数日前、なのははこのユーノと知り合ったばかりだ。だが、ユーノは彼女と出会った際、怪我をしていた。
曰く、彼の部族が発掘したロストロギア『ジュエルシード』が、誤って地球の海鳴市へ流れ着いてしまったらしく、彼は地球に単身で降り立ち、それを探していた。だが、油断して怪我を負ってしまった所を、なのはに助けられ、彼女に自身が持ち込んだデバイスを渡し、彼女は魔導士になったと言う訳だ。
そして曲折を経て、なのははユーノのアシストを得ながら、海鳴市に散らばったジュエルシードを探し、封印する事となった。
今、ジュエルシードを探す傍ら、ジタンの話題をユーノに話している途中だった。
「うん。すっごく優しくで、いい人なんだ‼︎ 今、お店の方で働いてくれてるんだよ!」
なのはは嬉しそうに話すが、ユーノは険しい顔をした。
「……なのは……。その人はもしかしたら、ジュエルシードを狙ってる悪者かもしれない……。注意した方が良いよ」
「そんな事無いよ‼︎ ジタンさんが悪者なんて絶対無い‼︎ ユーノ君も会ったら解るよ‼︎」
ジタンを悪者呼ばわりされた事に対し、なのはは眉を吊り上げて睨む。ユーノは困った様に言った。
「なのは……君の秘密を彼に話してないよね?」
「え? ジタンさんには話してないよ、何で?」
それを聞いて、ユーノは胸を撫で下ろす。百歩譲って、彼が悪者じゃないにしても、なのはの秘密を彼に知られれば面倒な事になる。それは、なのはの両親、友達も尚更である。
「今は、ジタンさんの事は置いておこう。既にジュエルシードが暴走を始めたみたいだ。早急に封印しなくちゃ」
「……うん……そうだったね……」
「なのは?」
少し声のトーンが下がったなのはを、ユーノは気遣わしげに見た。
「……もしかして、この前にあった金髪の子の事を考えてる?」
「うん……」
なのははジタン同様、もう一つ気掛かりな事があった。先日、ジュエルシードを巡って、自分と同年代くらいの女の子と対峙したのだ。
その子も、なのはと同じ魔道士であり、どう言う訳か、ジュエルシードを集めて回っているらしかった。
「……なんで、ジュエルシードを集めているのか……あの子が何を考えているのか分からないけど……私は、彼女の事をもっと知りたいの! だって、あの子は昔の私と似ていたから!」
なのはは、自身のもっと幼い頃を思い出した。父が重傷を負って、家族が看病と店を切り盛りする為、大変だった時の事を……。
その頃の彼女は、家族に迷惑を掛けまいと幼いながらも自分の気持ちを押し殺し、聞き分けの良い子になり切ろうとした。
その後、父が回復した後も、その時に味わった孤独と無力は時折、なのはの心を苛める事があった。だからだけに、あの頃の自分と似た雰囲気のある金髪の少女を放って置けなかったのだ。
更にキッカケとなったのは今日、ジタンから送られて言葉だった。
『……考えの合う合わない、じゃなくてさ……仲良くなりたいなら、しつこいくらい付き纏ってみるのも手かもしれないぜ?』
『自分が考えてる事、そいつをどう思ってるか、腹割ってぶつけてやれ。そうしたら、向こうもこっちに興味を持ってくるさ』
「自分が考えてる事を……相手がどう思っているか……」
なのはは、ジタンの言葉を繰り返した。金髪の子の事、そしてジタンの事……なのはは何も知らない……知らないからこそ、それを知る事が出来る……‼︎」
なのはは自身の信念を、魔導士となった事への決意を固めた。最初は単純な動機でしか無かったが、今は確かな考えと思いを持って、戦う事が出来る。
「行くよ、ユーノ君! ジュエルシードを封印しに‼︎」
「了解、なのは‼︎」
なのはは桃色の魔力で構成した足の翼をはためかせ、目的の場所へと向かった。
ジタン、アルフはユミールとの交戦を続けた。相変わらず、ユミールの殻は強固で幾ら攻撃しても砕ける気配は無い。
試しに、ジタンはメイジマッシャーを投げナイフの様に投擲してみたが、やはり無駄に終わった。
「チッ! 参ったな……あの殻、鋼鉄ででも出来てんのかってくらい、頑丈だな……‼︎」
跳ね返って来たメイジマッシャーをジタンは受け止めるが、このままではキリが無い。何か突破口を見い出さなくては……。
「狙い目は、アイツの生身の部分だな。あそこには、間違いなく攻撃が通る筈だ」
「それなら、さっきからずっとやってるよ‼︎ けど、アイツは攻撃しようとしたら、すぐに殻に篭っちまうし、雷の魔法をぶつけたら、カウンターで電撃を撃ってくる! 下手に手出しは出来ないよ‼︎」
「敵の守りは盤石……か……。だが、本当にそうか?」
アルフの反論に対し、ジタンは冷静に返した。
「どう言う意味だい?」
「確かに、マトモに殴っても奴さんにはダメージは与えられない。けど……一点に集中してブチ込めば……?」
ジタンはユミールの殻の一部を指差した。さっきから幾多とダメージを与えている部位に僅かだが、亀裂が入っていた。ジタンは、其処に勝機を見る。
「恐らくだが、あそこが化け物の弱点と見て間違い無いだろう。其処をぶっ叩いてやる‼︎」
「口じゃ簡単に言うけどね、アイツは電撃を放ってくるんだよ! 亀裂を破壊する迄、何もしないなんて……」
「だから、お前の力が必要なんだろ? 俺が、アイツを攻撃している間、お前が囮になってくれよ」
ジタンの言った作戦はこうだ。要は、ジタンが殻を攻撃する際、アルフがユミールの注意を引き付けておけ、と言う事だ。
「……アンタ、それ真面目に言ってるのかい?」
「俺は至って、大真面目だぜ?」
「……誰かが注意を引き付ける必要があるなら、私がもう一度、バインドで拘束すりゃ、早い話じゃないかい」
「ん……?」
アルフの的確かつ最もな提案に、ジタンは顎を手に乗せて考えてみた。
「あ〜……それも良いな!」
(コイツ、本当に大丈夫なのかい? ただの馬鹿なのか……?)
やっぱり、この男は当てにならない、とアルフは嘆息した。次の刹那、ユミールは口からネバネバした粘液を吐きかけて来た。
ジタンとアルフは左右に避けて躱した。粘液は木にぶつかり、木を粘液まみれにする。かと、思えば、ジタン達に狙いを定め、粘液を続けて吐いて来た。
(妙だな……アイツの動き、まるで知性があるみたいだ……殻に閉じ籠るタイミングと言い、こっちの攻撃に合わせて返して来やがる……。
まさか……誰かに操られてるんじゃ……‼︎)
ジタンの考察は、的を射ている様だった。ユミールの戦法は粘液で獲物の動きを鈍らせ、動きが鈍った所を襲い掛かると言った物だ。
だが、動きは大体、読めた。ユミールは、その図体の大きさから、機動力は欠けていた。ならば……
「アルフ‼︎ そのバインドって技、俺が合図を出したら使ってくれ‼︎」
「上手く行くんだろうね⁉︎」
「ああ! 信じろ‼︎」
ジタンの叫びにアルフは渋々ながらも了承した。ジタンは体勢を前屈みにして、素早い動きでユミールの真横を走り抜けた。アルフは、ジタンの合図を待って、魔法を放つ準備に入った。
ユミールはアルフへと迫って来たが、ジタンはユミールの背後にある木に登り、一番上の枝に立つと大声を出した。
「アルフ、今だ‼︎」
ジタンの指示に従い、アルフは再び魔法を唱えた。
「《チェーンバインド》‼︎」
呪文と同時にユミールの身体が再び、魔力の鎖で雁字搦めに縛られた。ユミールは鎖を引き千切ろうと、身体を仰け反らせる。
すると、ジタンが木から飛び降りて、ユミールの殻の亀裂が入った箇所にメイジマッシャーを叩き込んだ。すると、亀裂はみるみる広がった。ジタンは好機とばかりに、立て続けにメイジマッシャーで斬り付けた。
『グゴゴゴ……‼︎』
殻の上から生身を斬り付けられたユミールは苦しげに唸った。そして、大きく身体を震わせ、ジタンを吹き飛ばした。だが、ジタンは上手く体勢を直してアルフの横に着地する。
「へへッ‼︎ どうよ⁉︎」
「今度こそやったかい⁉︎」
得意気に北叟笑むジタンと、様子を伺うアルフ。すると、ユミールの殻はビシッビシッと音を立てながら砕けた。だが、ユミールは身体が不自然に変体を始めた。砕けた殻は体内に吸収され、盛り上がった背中から手の様な物が2本、出現した。頭頂にはまるで横に引き裂かれた様な小さい裂け目が二つ、大きい裂け目が完成し、小さい裂け目が開かれると緑色の眼球がギョロギョロと動き、瞬きをし始める。更に大きな裂け目はガバッと開き、まるで口の様だ。
「な⁉︎変身しやがった⁉︎」
「ジュエルシードの力だよ‼︎ あれは、近くにいる者の願いを勝手に叶えるんだ‼︎」
「その願いの結果があれかよ⁉︎ 趣味が悪過ぎるぜ‼︎」
ジタンとアルフの言葉を無視して、ユミールは再び動き出した。しかも、今度は口から所構わず、電撃を吐き散らす始末だ。
このまま放置したら、公園がメチャクチャになってしまう。再び、ジタンはメイジマッシャーを構えた。
「その、ジュエルシードってのを吐き出させれば、倒せるのか⁉︎」
「多分……‼︎」
そう話していると、ジタンの身体が眩く輝き始めた。やがて強い光を発し、その光が収まると、ジタンの姿は桃色に輝く獣人の様な姿に変わっていた。
「な、何だい⁉︎ アンタのそれは⁉︎」
ジタンの変わり様に、アルフは驚愕を隠せなかった。だが、ジタンはニヤリと笑う。
「コイツは『トランス』だ‼︎ 感情の昂りで変身して、力が溢れ出てくるんだ‼︎」
「と、トランス⁉︎ ジタン……アンタ、一体……⁉︎」
アルフは開いた口が塞がらない。尻尾が生えている人間ってだけで只者では無いとは思っていたが、やはりジタンは普通の人間では無い。だが、今のジタンなら、あの化け物をも倒してしまうかも、とアルフは期待を持った。
「さァ! 一気に片を付けてやるぜ‼︎」
トランス・ジタンは力強く、檄を飛ばした。
気を失っていたフェイトは夢を見ていた。だが、夢の中にはアルフは居なかった。居たのは、暗く冷たい室内に天井から吊るされた鎖に両手を拘束された自分と、もう1人……
『この役立たず‼︎ なんで、貴方は母さんを困らせるの⁉︎』
耳を劈くばかりの罵声と共にやってくるのは“母”からの折檻だ。鞭を手にした母が自分の顔を腹を手足を、執拗に叩き付けた。
フェイトは抵抗する気力が無いのか、壊れたラジオの様に『ごめんなさい……母さん、ごめんなさい……』と謝り続けるだけだ。
こんな事は日常的である。これまで、母から理不尽な折檻を受けた事など、一度や二度じゃ無い。母は自分を痛めつけながら、鬼の様な憤怒の形相を浮かべている。だが、両目には涙を浮かべているのが見えた。
自分が悪いんだ……自分が不甲斐ないから……母さんを悲しめるから、いけないんだ……。フェイトは、どんなに酷い仕打ちを受けても母に逆らう事はしなかった。母の望みを叶えさえすれば、昔の優しい母に戻ってくれる……フェイトは、それだけに一縷の望みを賭け、この過酷な環境の中を生きていた。
(リニス……)
ふと思い出す事がある。多忙な母に代わり、自分に知識を与え、力を与え、愛を与えてくれた人を……。彼女の存在があったから、フェイトは内向的ながらも優しい少女に育った。
だが、もうリニスは居ない……彼女が居なくなってから、母の折檻は日を増す毎に酷くなった……。
そう考えたフェイトは、母の折檻が止んだ事に気付く。恐る恐る目を開けると、其処には母は居ない。代わりに母では無い人影が立っていた。
『り……リニス……?』
懐かしい育ての親の名を呼ぶと、その人影の姿が露わになった。リニスでは無いが、優しい笑みを浮かべ、フェイトを労りに満ちた顔で見ている青年……。
『ジタ……ン……』
フェイトが、名を呼ぶとジタンは優しく微笑みながら、フェイトに手を伸ばす。フェイトも鎖に繋がれた右手を伸ばそうとしたら、鎖は煙の様に霧散して消えた。フェイトはバランスを崩して倒れそうになるが、ジタンが優しく受け止めてくれた。
『ジタン……ジタン……‼︎』
堰を切った様に泣きじゃくりながら、フェイトはジタンを呼んだ。彼は言葉を発さないながらも、フェイトを抱きしめ続けた……。
途端に、フェイトの意識は戻った。どうやら、自分は気を失っていた際に夢を見ていたらしい。ユミールから受けた電撃に身体を打たれて、麻痺してしまったのが原因だ。
フェイトは右手の指を動かしてみた。どうやら、気を失っていた間に麻痺は回復したらしい。足も動く。しかし、まだ痛みが残っているのか、節々が痛む。
その時、彼女の視界に眩しいばかりの光が覆った。その光をよく見ようと目を凝らした所、目の前には光に包まれた人影の姿があった。背中を見せているが、長く伸びた尻尾だけは確認出来た。
「じ、ジタン……?」
それは、姿こそ異なるが、紛れもないジタンその人だった。フェイトは、ジタンが自分を助けに来てくれた事に感謝しながら、瞳から一筋の涙を流した……。
トランス化したジタンは再び、ユミールと対峙する。ジュエルシードの力で更なる異形の姿に成り果てたユミールは、歪な人型となった上半身を蠢かせた。口から、まるで吐瀉するかの様に、雷撃を吐き出してくる。攻撃は激しくなったが、堅牢な殻が破壊された事で強靭な防御力は失われているらしい。
ジタンはメイジマッシャーを構えて、ユミールへと突撃した。歪な体躯となった事で、ユミールの動きは益々、緩慢になっていた。
「ッるァァッ‼︎」
ジタンはメイジマッシャーを連結させ、その状態でユミールの右目を斬り裂く。切られた箇所からは緑色の体液が流れ落ちた。
アルフも負けじと、ユミールの懐に飛び込み、その巨体に連続で拳打を叩き込んだ。やはり防御がない分、ダメージがよく通る。
しかし、アルフの動きが徐々に鈍くなっていった。ジタンは、アルフの隣に着地すると彼女の異変に気付く。
「どうした、アルフ⁈」
「変なんだよ! 身体が思う様に動いてくれない……‼︎」
アルフは訝しげに言った。しかし、ジタンはアルフの身体にテカる様な液体に目が行き、事態を察した。
「アルフ、粘液だ‼︎ コイツの身体を殴る度、粘液が湧き出て来てるんだ‼︎」
ジタンに言われ、自分の身体を見てみれば、腕や脚に粘液がネバネバと纏わりついて、彼女の動きを著しく妨害していた。
「クソッ‼︎ これじゃ迂闊に近距離から攻撃できないじゃないかい‼︎」
「そうだ……‼︎ 俺のメイジマッシャーもさっきので、粘液に塗れちまった。これじゃ、斬れ味も最悪だ‼︎」
ジタンはメイジマッシャーを持ち上げた。緑色の体液に混じり、ネバネバの粘液が刀身に絡み合っていた。「チッ」と舌打ちをするジタン。
殻による防御が無くなった今、ユミールは文字通り『丸腰』なのだが、攻撃すればする程、こちらの動きが殺されてしまう。
となれば、ジタンはメイジマッシャーをしまった。
「何する気だい?」
「あんまり多用は出来ないけど、やってみる価値はある‼︎」
ジタンは何か策がある様だった。と、その際、フェイトが起き上がり、ジタン達の横に立った。
「フェイト! 目が覚めて良かった‼︎」
「大丈夫か⁉︎ まだ、動いちゃ……‼︎」
アルフはフェイトの回復を喜ぶが、ジタンは先程に彼女が受けたダメージを気遣い、心配していた。
「平気だよ……! でも、どうしてジタンが此処に居るの? それに……!」
フェイトはジタンが自分達と共に戦っている事もそうだが、彼の身体が光り輝いている事への疑問を口にした。
「今は説明している場合じゃない‼︎ 兎に角、あの化け物を倒す事が先だろ⁉︎」
ジタンはフェイトの質問に、そう返した。ユミールが、さっきの時とは異なる姿に変化している事に、フェイトは驚いた。が、すぐに状況を把握して、バルディッシュを構えた。
「私が魔法で撹乱する‼︎ ジタンが、アイツを倒して‼︎」
「待ちな、フェイト‼︎ アイツの身体から出てくる粘液に触れたら、動きが鈍ってしまうんだ‼︎それに、まだアンタ、飛べないだろ⁉︎」
アルフは負傷した身体に鞭を打ち戦おうとするフェイトに心配げに叫ぶ。だが、フェイトは力強く答えた。
「……戦えるよ、私……! だって……ジタンが助けに来てくれたから‼︎」
そう言ったフェイトの顔は強い決意が顕れていた。ジタンも優しく笑い、フェイトの頭を撫でてやる。
「援護は任せるぜ、フェイト‼︎ 頼りにしてるからな‼︎」
「うん‼︎」
ジタンのエールに、フェイトは力一杯、頷いた。ジタンもまた、フェイトと並び立つと、あの時を思い出さずにはいられない。
忘れもしない……アレクサンドリア脱出後、劇場艇が墜落した魔の森で、攫われたダガーを助ける為、『霧』特有のモンスター達に勇気を振り絞り、黒魔法で援護してくれた少年の姿を……。
(ビビ……)
気弱でドジで何処か危なっかしいとんがり帽子の男の子……フェイトは、かつてのビビを彷彿させた。
気が弱かった彼が、自分達に必死に着いてきて、最後は世界を救う戦いまで乗り越えた。彼の生い立ち、境遇は決して楽観した物では無かったが、彼は自身の運命さえ受け入れて乗り越えた。
ジタンはまだ、フェイトの全てを知らない。それでも、ジタンと言う男は極めて単純で真っ直ぐな男だ。相手が助けを求めていれば手を差し出し、助けを拒んだとしてもジタンが助ける、と決めたら、必ず助け出そうとする。例え、自分が傷付く事になったとしてもだ。そんな彼女を、ジタンが助けない理由はない。
ジタンはフェイトを守ると決めた。この小さな身体に大きな勇気と強さを持った少女を……必ず、守ってみせると……!
「フェイト! 行くぜ‼︎」
「了解‼︎」
ジタンの言葉にフェイトも応えた。ジタンはユミールへ再び突っ込んだ。ユミールは右手を振り上げ、ジタンを叩き潰そうとする。
「《プラズマランサー》‼︎」
フェイトは術式を唱え、別の魔法をスフィアより発射した。プラズマランサーは、言うまでもなくフォトンランサーの系統の直射型射撃魔法だ。
だが、プラズマランサーはユミールの横を掠る様に外れた。一見すれば外した様に見えたが、それがフェイトの作戦だ。
「《ターン》‼︎」
フェイトの言葉に合わせ、プラズマランサーは直線の軌道を変え、まるで折り返す様に戻ってきた。そして、ユミールの背中に直撃した。
これが、プラズマランサーの真骨頂である。直線的な攻撃だが、術者の意思である程度は誘導を可能とし、応用の利かせた戦法を得意とする。
ユミールは背後から受けた奇襲に気を取られ、鈍い動きで振り返ろうと試みた。だが、それがジタンの接近を許してしまった。
「喰らえ、化け物‼︎ 《フリーエナジー》‼︎」
突き出したジタンの両手から、エネルギーを凝縮させた光弾が放たれた。ユミールは危機を察したが、既に回避は不可能だった。光弾は、ユミールの顔面へと叩き込まれ、爆発を起こす。
更にエナジーの一部が口内に入り、口の中でも破裂した様だ。ユミールは大口を開けて、だらしない顔をする。ジタンは、そのチャンスを逃がさない。
「これで……トドメだァァァッ!!!」
連結したメイジマッシャーを振り下ろし、開かれた口から腹にかけて一気に斬り裂いた。ユミールの傷口からは粘液と共に夥しい体液が漏れ出て来る。その奥に、まるで“心臓”の様に脈打つ筋に覆われた宝石が見えた。見ようによっては碧眼の瞳の様な形状と色をした宝石だ。
「あれだよ、フェイト! ジュエルシードだ、封印しちまいな‼︎」
アルフが叫んだ。フェイトはバルディッシュを構える。
「《ジュエルシード、封印》‼︎」
フェイトがそう唱えると、ジュエルシードから青い光が噴出した。光は一瞬、みるみる間に大きくなったが、やがて光は小さくなっていく。そして、ユミールも縮小して行った。
やがて、カランと音がした。3人が近づいてみると、封印されて沈黙したジュエルシードと1匹のカタツムリだけが残された。
「どうやら、このカタツムリがジュエルシードの力で、あの化け物になっていたんだね……」
アルフが推測したが、ジタンは訝しげだ。
「本当にそうか? 俺は、このカタツムリだけの力とは思えねェな。何者かに操られてたんじゃ無いか?」
「何者かって、誰さ?」
ジタンの言葉にアルフは眉を顰めた。いくらジュエルシードの力が暴走したとは言え、こんな事をやってのける奴など只者では無い。と、ジュエルシードを回収したフェイトが口を開く。
「そこまでは解らないけどよ……」
「……ジュエルシードは封印できたから、これで良かったんだよ……」
2人の話の腰を折る様に、フェイトが呟いた。だが、ジタンは納得がいかない様子だった。そして、フェイトに向き直る。
「なァ、フェイト。話してくれねェか? なんだって、お前はこんな危険な代物を集めているんだ? 多分、これが最初じゃないんだろ?」
「……それは……」
フェイトは言い辛そうに俯いた。やはり、何か言えない事情があるらしい。だが、関わってしまった以上、ジタンは真実を知る必要がある。
アルフはフェイトと顔を見合わせる。恐らく、2人共、ジタンに話すべきか否かを考えているのだろう。
と、その際、別の人物が姿を現した。
「ユーノ君、ここだよね⁉︎」
それは、ジタンはよく知る声だ。声のした方を見ると、フェイトとは様相が異なるが、バリアジャケットを着用し、これもまたフェイトの物と少し似ているが別物の杖を所有したなのはの姿があった。
(なのは⁈)
ジタンは、自分のバイト先の娘であり、こっちに来てからフェイト以外で最初に親しくなった少女が姿を現した事に驚愕した。
反対に、フェイトとアルフは警戒心を剥き出しにしている。どうやら、この3人は顔見知りではあるが、友好的な関係には無いらしい。
「また、アンタ達かい……‼︎ けど、一足遅かったね!
ジュエルシードは、もう封印しちまったよ!」
アルフが勝ち誇った様に言った。フェイトを見ると、彼女はなのはの登場に戸惑いを隠せない様子だ。
その際、なのはがジタンを見ても、自分に気付いていない事を理解した。どうやら、未だトランスが解けていないジタンを、なのはは彼だと認識できない様だ。それに、今のジタンは尻尾を出している為、フェイトの使い魔だと勘違いしているのだろう。
「私は高町なのは! 私立聖祥大附小学校3年生!」
突然、声を張り上げる様に彼女は言った。
「私がジュエルシードを集めるのは、ユーノ君の探し物を見つけてあげたいから‼︎ それに、貴方の事を知りたいから‼︎」
なのはの正直な叫びは続いた。
「ある人が言ってた……仲良くなりたいなら、自分が考えてる事、相手がどう思ってるか、自分の考えをぶつけてみろ、って言われた!
最初は考えの合わない人とは、これからも合わないって思ってた! でも、違うの‼︎ 大人ぶってカッコつけて、言いたい事を言えないままなんて、私はそんなの嫌だ! 私は、貴方をもっと知りたい‼︎」
なのはの言葉は、ジタンが彼女に送った言葉だ。彼女の言ってた考えの合わない人って言うのが、誰を指してるか、ジタンは察した。
しかし、その言葉をアルフが遮る。
「フェイト、答えなくていい! 優しくしてくれる人達の所で、甘ったれて暮らしているような奴に何が分かる⁉︎」
「お、おい……‼︎」
アルフのあまりの剣幕にジタンは戸惑う。だが、アルフは明らかに憤っていた。フェイトもまた、様子が普通では無い。
と、考えていると、フェイトはガクリと膝を突いた。
「フェイト‼︎」
間一髪、ジタンが彼女を支えた。彼女を見れば、顔色が酷く青褪めていた。やはり、さっきのユミールの攻撃で受けたダメージは、彼女の身体を深刻に蝕んでいたのだ。
ジタンは、フェイトを抱えると、アルフに呼び掛けた。
「行くぞ‼︎」
アルフはジタンの声に我に返り、狼の姿に戻る。そして、呆然とするなのはを睨み付けた。
「次は無いよ‼︎ 今度、私達の周りを嗅ぎ回ってたら、ガブリと行くからね‼︎」
そう叫ぶと、アルフはジタンの後に続いた。その場に残されたのは、なのはとユーノだけだ。
「……なのは、悔しいけど、他のジュエルシードを探そう……なのは?」
呆然としているなのはをユーノは首を傾げた。
「……さっきの人……さっきの声……まさか……⁉︎」
夜の闇に包まれる公園で、なのはは暫く動く事が出来なかった……。
ジタン達の戦いが終えた後、臨海公園を一面に見渡せる公園の展望台に天辺に人影が立っていた。
長身痩躯で性別は金髪の男性だが、全身を赤、青、黄色、紫、白と奇抜な衣装を身に包んだ奇怪な人間だ。顔は白く塗りたくり、口には濃い紫のメイクをした姿は、まるで道化師だ。
「ヒッヒッ……‼︎ あの小娘を張っていたら、こ〜んな面白い奴に出くわすなんて‼︎ しかも、ぼくちんの嗾けたユミールを倒しちゃうなんて……シンジラレナーイ‼︎」
道化師はまるで幼児の様にはしゃいでいた。そして、邪悪にニヤリと笑う。
「どゥれ! 世界はしっちゃかめっちゃかにする破壊ショーの前座として、アイツを私の玩具にしてあげましょう‼︎」
そう叫ぶと、道化師は背後の満月をバックに高笑いを上げ続けた……。
BOSS 《ライブラ》
−ユミール
ジュエルシードの力でカタツムリが変異した怪物。何者かによって操られており、強化されている。
殻は頑強な上、電撃を吸収し、カウンターとして対象を攻撃する。また、口から粘液を吐き出す事も。防御は硬いが、動きは鈍い。
殻を破壊されると、第二形態に変異する。
−ユミール 第二形態
殻を破壊されたユミールが変異した姿。歪だが目と口、上半身と両手が出現し、下半身の頭は機能を停止している。
電撃を見境なく吐き出してくるが、殻は無くなった為、防御力は低下している。身体から微量に粘液を捻出しており、触れると動きが鈍くなる。
強引な身体の変異から、より動きは緩慢になっている。