Final FantasyⅨ-リリカル・クロニクル RE. 作:竜の蹄
また、戦闘シーンについて、ご指摘があれば改善させて頂きます。
ジタンは大荒れとなった吹雪の中、走っていた。既に靴が半分、埋もれる程、雪が積もっていた。
「チクショウ‼︎ これじゃ、視界が悪過ぎる‼︎」
ジタンは雪を蹴り付けて毒吐いた。翠屋は吹雪の為に客が帰った後、臨時休業にする運びになった。桃子と美由希はジタンが帰る際、こんな事を言っていた。
「お父さん、大丈夫かしら? 雪のせいで帰って来れないかもって……」
「お兄ちゃんも今、連絡があった。けど、変な天気だよね。この吹雪、海鳴市だけ限定した吹雪だって。気象予報士も、異常気象じゃ無いかって首を傾げてた」
美由希の言葉でジタンは確信を得た。この吹雪は異常気象でも何でも無い、明らかに魔法の力による物だと言う事を。
海鳴市に限定して吹雪だなんて、都合が良過ぎる。これは、ジュエルシードが裏で絡んでいる、と見て間違いない。
フェイトに連絡を取るべきか、と一瞬、考えた。しかし、美由希の話が事実なら、この吹雪は海鳴市を全体に吹雪いているらしい。フェイト達と住む遠見市は海鳴市の真隣だから、少なからず影響が出ている筈だ。
それに、ジタンはフェイト達との連絡手段を持っていない。フェイトの話では、この世界には電話なるものがあり、ガイアじゃ手紙でのやり取りが常識だったジタンには、馴染みの低い物だ。翠屋にはテスタロッサ家に引いてある電話番号を教えてあるが、それ以外にフェイトに状況を知らせる方法が無い。
と、なれば、ジタンは単独で、この吹雪の原因を探す事を決めた。万が一、ジュエルシードであったなら、フェイト達が勘付いて動く筈だ。ならば、自分に出来る事は、ジュエルシードの場所を特定する事だ。
しかし、肝心のジュエルシードが何処にあるかなんて、ジタンには皆目、見当が付かない。
八方塞がりだ、と悩ませていると……。
「ハローハロー、誰かお探しですか〜‼︎」
突然、響いた声にジタンは辺りを見回す。だが、誰も居ない。ジタンは溜め息を吐いた。
「空耳か? ッたく、こんな時に……‼︎」
「もしも〜し! 其処の金髪の貴方‼︎」
やっぱり、声が聞こえた。声の方を見てみたら、何と空中で寝転がりながら肩肘付いて浮かんでいる、道化師みたいな奇妙な男が見ていた。
「な、何だ、お前⁉︎」
「私? 私はケフカ・パラッツォ。以後、お見知り置きを!」
相変わらず、だらけた姿勢に、ケフカと名乗った人物は言った。その明らかに胡散臭い見た目、空中に浮かんでいると言う出立ちにジタンは勘付いた。
「お前、何者だよ? 魔導師か?」
「さ〜て、誰でしょう? 私は何者か教え……教え……教えな〜い‼︎ 教えないのかよ、一本取られたよ〜!
ヒ〜ハ〜‼︎」
「馬鹿にしてんのか、お前⁉︎」
その舐めた態度に、ジタン半ばキレながら怒鳴る。ケフカはケタケタと笑った。
「そ〜んな、怒ったら髪が抜けますよ〜‼︎ 尻尾を隠したお兄さん?」
「‼︎」
ジタンは慌てて身構えた。何で尻尾を隠しているのを知ってるんだ。いよいよ、只者では無い。
「……まさか、この吹雪を起こしたのも、テメェの仕業か⁉︎」
「初対面の人間捕まえて、テメェは無いでしょう?」
「話を逸らすな! テメェ、何か知ってるんだな‼︎」
今や、ジタンは完全にキレていた。しかし、ケフカはのらりくらりと、はぐらかすばかりだ。
「そ〜んな、上から目線の言い方されちゃ、ぼくちん、喋りたくなくなっちゃうな〜!」
「クッ‼︎ 道化師はロクな奴が居ないな‼︎」
ジタンは舌打ちをしながら言った。道化師と言えば、アレクサンドリアに仕えていた双子の道化師の老人を思い出す。ただ命令された事に従い、強い者には媚びへつらい弱者には居丈高に振る舞う、典型的な小悪党だった。
ケフカは少し、気分を害したのか、ジタンの前に降り立つ。こうして見れば、ジタンが見上げる程、背の高い男だ。
「人を見かけで判断すると、痛い目に遭いますよォ! 私は
「……もう良い。お前と話してる時間が勿体無い!」
頭のおかしい奴とは関わり合うだけ時間を無駄にするばかりだ、と悟ったジタンは踵を返した。
「願いを叶える不思議な石ころを探しているんでしょう?」
ケフカは急に口を開いた。ジタンは振り返る。
「……ジュエルシードの事か?」
「さァ? 知っていると言えば知っているけど、知らないと言えば知らない」
「……月まで、ぶっ飛ばされたいのか?」
相変わらず、神経を逆撫でする様な言動をするケフカに、いい加減、ジタンは手を出しそうになった。
「やれやれ、セッカチだねェ、君は……。て言うか、こんな所で油を売っている場合じゃ無いんでしょう?」
絡んできたのは自分の癖に、いけしゃあしゃあと言い放つケフカ。そろそろ、ジタンも我慢の限界だ。
「……俺が理性を保っている間に消えろ。じゃないと、お前を殴り殺すかもしれないぞ」
「オー、怖い怖い‼︎ じゃあ、ケフカちゃんはトンズラぶっこいちゃいましょう‼︎ けど……一つ、良い事を教えてあげましょう。さっき、栗色の髪の可愛い女の子が大きなビルに向かって飛んでいくのを見ましたよ」
「なのはか⁉︎」
ジタンは叫んだ。ケフカはニヤニヤと笑う。
「早く行ってあげたらどうです? 今頃、寒ーい教会の大ーきな絵の下で、ワンちゃんと一緒に凍りついてるかもしれませんねェ?」
「‼︎ なのは‼︎」
ケフカの放った不吉な言葉に、ジタンは脇目を振らず走り出した。
「走りなさい、走りなさい‼︎ 走れば今生のお別れには間に合うかもしれませんよ〜‼︎ ホワァーハッハッハッハッ‼︎」
背後ではケフカが高笑いを上げながら叫んだ。ジタンは意に介さず、走り続けた。大きなビル……今はそれだけが頼りだ。
(なのは‼︎ 無事でいろよ‼︎」
ジタンは走りながら、彼女の無事を祈った。
「雪が降るやなんて、変な天気やなァ……」
その頃、八神家では、はやてが窓の外で積もり始めた雪を見ながら呟いた。家事をひとしきり終え、ビビと図書館に行くつもりだったが、こんな吹雪では外出は出来ない。
「仕方ない……今日は静かに読書しよか……」
そう言いながら、器用に車椅子を操作して、今のテーブルに置いてあった本を手に取る。
ビビが自分の下にやって来て、一週間と少しが経った。一人きりの生活を送って来た彼女かりすれば、ビビと過ごす生活は、はやてにとって細やかな幸せな日々であった。
ビビは最初こそ、記憶喪失も手伝い、常識にも疎い為、様々な事を教えなければならなかった。しかし、ビビは教えれば教える程、知識を身に付けていった。事に、図書館で借りて来た本を毎日、読み漁り、ビビはどんどん賢くなっていく様だ。
ビビは、自分が何者であるかを不安に感じていたが、その度にはやてが優しく励ましていた。
『大丈夫や。自分が何者かなんて誰もが皆、解ってないもん。けど、色々と学んで知って行く内に、自分が何をすべきなんか見えて来るから!』
まるで、姉が弟に諭す様に、はやてはビビに言って聞かせた。ビビは、はやての言葉に素直に「うん」と首を縦に振り、また帽子が擦れた。はやては大いに笑った。
こんな風に笑える日々が来るなんて、少し前のはやてには想像が付かなかった。今は、ビビが側にいてくれるだけで、こんなにも毎日が輝いて見えるのだ。ふと、はやてはビビに呼び掛けた。
「ビビくーん! 一緒に読書でもしよかー‼︎」
はやてはビビを呼ぶが、返事は無い。はやては首を傾げた。
「変やな……お昼寝しとるんやろか?」
はやてはそう考えた。だが、ビビは昼寝をしていない。さっきまで、部屋に1人で居たのだが、まるで忽然と姿を消したのだ。その場から一瞬でワープしたかの様に……。
なのはは吹雪を起こしていた怪人、黒のワルツ1号と対峙していた。彼は翼を持っており、なのは同様、空を飛ぶ事が出来た。
この吹雪を止めるには、彼を倒して鈴を破壊するしか無い。なのはは意を決して、レイジングハートを構える。
「気を付けて、なのは‼︎ コイツは今までの奴とは違うよ‼︎」
「分かってる‼︎」
ユーノの忠告に、なのはは返した。この黒のワルツ1号は、様子が変だ。まず第一に、その奇妙な格好もさる事ながら、普通の人間には見えないのだ。
第二に、彼からはジュエルシードの反応がしない。彼自身、ジュエルシードを知らないと言っていたが、どうやら、この吹雪はシードの力では無く、彼自身の起こした力と言う事になる。
しかし、考えていても仕方が無い。なのははレイジングハートを握り直し、黒のワルツ1号に突撃した。
「ジュエルシードの力で暴走したんじゃ無くて、自分の意思で町をメチャクチャにしようとしてたなんて……そんな事、絶対に許さないから‼︎」
「ククク! 許さない、は良かったな! 脆弱な人間の小娘に何が出来るのだ! この黒のワルツ1号の敵では無いわ‼︎」
大切な町を壊そうとする黒のワルツ1号に、なのはは怒りを露わにしたが、対して彼は余裕綽々だ。
ユーノはなのはの肩から降り立ち、後ろ足で立ち上がった。
「《封時結界》‼︎」
ユーノが術式を詠唱すると、辺りの景色の色が変わった。これは、ミッドチルダ式の結界魔法であり、通常空間から一部を切り取り、時間の信号をずらし、他の魔力を持たない人間から、視覚的にも察知出来なくなり、音や気配も無くなる。専ら、地球の様な魔力を持たない管理外世界で戦闘を行う際の機密保持の為に、使用される事が多かった。
幸い、今は吹雪の為、視覚的に発覚は難しいが、念には念を入れて、と言う事だ。
「なのは、結界は張った‼︎ これで思う存分、戦えるよ‼︎」
「うん! ユーノ君、ありがとう‼︎」
なのははブーツから出現した桃色の羽で舞い上がり、黒のワルツ1号と対峙した。
「お手並み拝見と行こうか!」
「《チェーンバインド》‼︎」
ユーノは魔法の鎖を出現させ、黒のワルツ1号を締め上げた。
「こんな子供騙しで、俺を捕らえたつもりか! くだらん!」
そう吐き捨て、黒のワルツ1号は強引に鎖を引き千切ろうと力を込めた。鎖はギシギシと音を立てて、あっという間に破壊された。
だが、これは飽くまで時間稼ぎだ。なのはは黒のワルツ1号から距離を取り、レイジングハートを構える。
《マスター、チャージ完了です》
「分かった、行くよ……《ディバインバスター》‼︎」
放たれたのは桃色の魔力弾。現在、なのはの使える魔法の中では最高の攻撃力を誇る。が、チャージにある程度の時間を要する為、ユーノによる補助があって、奇襲による砲撃が可能としていた。
黒のワルツ1号はディバインバスターに飲み込まれて行く。なのはは「た、倒したのかな?」と一瞬、思った。
だが、光の隙間から鋭く尖った氷の塊が飛んできて、なのはは慌てて避けた。
「ヒャッ⁉︎」
「馬鹿な小娘が……そんな付け焼き刃な魔法で、この黒のワルツ1号を倒そう等……甘いわ‼︎」
何と、黒のワルツ1号は全くの無傷だ。驚愕するなのはに、ワルツ1号は鈴を持たない左手を翳した。
「真の魔法とは、こうやるのだ‼︎ 《ブリザラ》‼︎」
《プロテクション》‼︎
黒のワルツ1号の詠唱と共に放たれた魔力が、氷の結晶を出現させなのはの巻き込んで砕け散った。咄嗟に、レイジングハートが防御魔法であるプロテクションを放ったが、それを差し引いても、衝撃は緩和されなかった。
「きゃあァァッ‼︎」
なのははブリザラの奇襲を受け、バランスを崩し落下した。バリアジャケットのお陰で負傷は免れたが、レイジングハートを落としてしまう。
「大丈夫、なのは‼︎」
「う、うん……何とか……‼︎」
なのはは四つん這いで身体を起こすが、攻撃は反動は大きかった。その時、目の前に黒のワルツ1号が降り立ち、 なのは達を見下ろした。
「まだ息があったか……悪運の強い奴め」
黒のワルツ1号は、自身の足下に転がっていたレイジングハートを見つけると、片足で蹴り飛ばした。レイジングハートはビルの下へと落ちていく。
「フン……これで貴様は、ただの小娘だ。跡形もなく砕け散って死ね!」
黒のワルツ1号は冷徹な言葉を吐きながら、なのはに左手を向けた。だが、急に吊り目を細めた。
「いや……貴様には生きたまま、氷の檻に閉じ込めてやろう……《フリーズ》‼︎」
そう言って魔法を唱えるワルツ1号。すると、なのはの右足が凍り付いた。
「い、いや……‼︎」
慌てて立ち上がるが、右足に続いて左足も凍り付いてしまう。完全に動きを封じられた。ワルツ1号は右手に持つ鈴を鳴らし始める。すると、凍結部は下半身を経て上半身、両腕に渡り、残すは頭だけになった所を、ワルツ1号は鈴を止めた。あっという間に、なのはは全身が氷柱に閉じ込められてしまった。
「なのはァァ‼︎」
ユーノが叫ぶが、なのはは身動きを取る事が出来ない。
「か……身体が動かない……寒くて凍えちゃいそう……」
なのはは震えながら呟く。吐く息も白い。
「クハハハ! 良いザマだな、小娘‼︎ どうした? さっきまでの勢いは何処へ行ったのだ?」
ワルツ1号は煽る様に、なのはを嘲笑した。ユーノはワルツ1号の足下に行くと、噛み付いた。
「なのはを解放しろ! この悪魔! 人でなし!」
「……小煩い獣が……鬱陶しい‼︎」
ワルツ1号は、ユーノを蹴り飛ばした。壁の方まで飛ばされる。
「……ユ……ユーノ君、た……助け……て……!」
なのはがユーノに助けを求めたが、ユーノ1人ではどうする事も出来ない。
(元の姿に戻ったとしても……僕じゃ、アイツには勝てない……どうしたら……)
ユーノは考えた。このままでは、なのはは凍え死んでしまう。だが、レイジングハートも無い今、逆転の術は無い。
「待ってて、なのは‼︎ 助けを呼んでくるから‼︎」
ユーノは、そう言って走り出す。背後では、氷漬けのなのはの姿があった。悔し涙を浮かべながら、ユーノは走る。
(ゴメン……必ず助けに戻るから! なのは、ゴメン‼︎)
「……ユ……ーノく……ん……」
消え入りそうな小声で、なのはは言った。しかし、寒さの余り思考も働かない。更に急に眠たくて仕方がなくなって来た。
「フリーズの檻が体温を奪い、思考を破壊し、永久の眠りに誘う速さは大した物だろう? 貴様も、あと半時間もすれば完全に凍り付くだろう。
その半時間の間に見ておくが良い‼︎ お前の町が雪と氷に包まれた死の町と化して行く様をな!」
「……お……ねが……い……止め……て……」
なのはは声を振り絞って静止を訴えたが、ワルツ1号は聞き入れず、再び鈴を鳴らした。すると、吹雪が勢いを更に増していった……。
「うう〜! さ、寒い‼︎ 寒くて、気がどうにかなりそうだ‼︎ 何だか、氷の洞窟を思い出すな‼︎」
ジタンは寒さに震えながら言った。ジタンの格好は肩から腕を露出させたノースリーブの服装だ。寒くて当然である。
さっきのケフカの言葉を頼りに、高いビルのある辺りをしらみ潰しに探したが、一向になのはは見つからない。
それ所か益々、吹雪は強くなって行き、視界も悪い事この上無い。このままじゃ、ジタンも凍死し兼ねない。
「異世界に来て、町の真ん中で遭難して凍死なんか冗談じゃねェぞ‼︎」
しかし、なのはの手掛かりも掴めず、完全にジタンは迷ってしまった。と、その際、足に何かが当たった。
「こ、コイツは……⁉︎」
それは、 なのはが持っていた杖の様な道具……レイジングハートだ。注意深く見てみたが、どうやら、壊れてはいないらしい。
だが、これが此処にあると言う事は……近くに、 なのはが居る事になる。ジタンは慌てて、辺りを見回してみる。
すると雪で視界が悪いが、古くなった廃ビルが目の前にある事に気付く。
「……此処か……?」
ジタンが思案していると、ビルの入り口から一匹の小さな動物が飛び出して来た。それは、イタチの様な動物だ。
イタチはジタンの前に来ると、そのまま動かなくなった。
「何だ、コイツは……? おーい、生きてるかー?」
ジタンは屈みながら、イタチに呼び掛けた。すると、イタチはバッと顔を上げた。
「お願いです! 助けて下さい!」
「うおッ⁉︎ 喋った⁉︎」
ジタンは驚く。比較的、動物に近い姿の種族……仲間であるフライヤ達、ブルメシアのネズミ族や、クイナの様なク族、妖精であるモーグリみたいな生き物が多いガイアから来たジタンだが、言葉を話す動物は初めてだ。
「……な、なのはが……なのはが死んじゃう……‼︎」
「はァ⁉︎ 今、 なのはって言ったか⁉︎」
ジタンはイタチを持ち上げると、大事で聞いた。
「此処に、なのはが居るんだな⁉︎」
「……は、はい……」
ジタンは廃ビルを見上げる。そして、イタチを持ちながら、ビルを駆け上った。
「……どうだ? 意識が朦朧として来ただろう?」
黒のワルツ1号の言葉だ。だが、なのはは聞こえているのか聞こえていないのか、壊れたラジオの様に言葉を繰り返する。
「……町を……ま……も……るか……ら……」
こんな状態になっても、なのはの心は折れなかった。しかし、氷に閉じ込められ冷え切った身体と、殆ど機能していない思考でうわ言の様に呟くだけだ。
「そんな姿になっても、まだ折れぬとは……小娘にしては大した奴だな。冥土の土産に良い事を教えてやる。俺に命令した奴は、こんな事も言っていたな。
誰かは解らんが、金髪に尻尾の生えた男を探せ、見つけたら始末しろ、とも言われている」
「ジ……タン……さん……を……⁉︎」
なのはは薄れゆく意識の中でジタンの顔を思い出した。だが、直ぐに寒さで掻き消されてしまう。
「その分では、半時間と待たずに貴様の心の臓まで凍り付いてしまうだろうな……。しかし、感謝するが良い。貴様は、貴様の家族や友が死に絶えて行く姿を見る事無く、凍り付いて死んでいくのだから……さらばだ、愚かで無知な小娘よ……」
ワルツ1号は吐き捨てた。もう、なのはの意識は限界だ。
(お母さん……お父さん……お兄ちゃん……お姉ちゃん……アリサちゃん……すずかちゃん……ユーノ君……ジタンさん……私、もう駄目かも……)
家族、友人、相棒、そして憧れの人の顔が次々と走馬灯の様に浮かんでは消えて行き、なのはは意識を手放しそうになった。
「起きろ、なのは‼︎ 目を覚ませ‼︎」
突然、大声が響いた。なのはは薄っすら目を開けると、其処に居たのは……大好きな顔だった。
「ジタン……さん……来て……くれた……」
「なのは、しっかりしろ‼︎ 寝たら死ぬぞ‼︎」
ジタンは、なのはを呼び掛けつつ、ペシペシと頬を叩いてやる。それで、何とかなのはは意識を繋ぎ止めた。
「何処の誰か知らんが……また死にたがりがやって来たか」
ワルツ1号の言葉に、ジタンは恐ろしい目で睨み付けた。
「其れは、テメェだろ? 一度、俺に倒された奴が、また蘇りやがって‼︎ なァ、黒のワルツ1号‼︎」
ジタンは啖呵を切った。しかし、ワルツ1号は首を傾げる。
「倒された? なんの事だ? 俺は貴様に会った事など無いぞ」
「ざけんな‼︎ 氷の洞窟を忘れたのか⁉︎」
ジタンは激昂しながら怒鳴った。しかし、ワルツ1号は低く笑う。
「……そうか……貴様が金髪に尻尾のある男か……探しに行く手間が省けたわ。そして、貴様が言っているのは、別の黒のワルツ1号だ」
ワルツ1号の言葉に、ジタンは眉を顰める。
「別の? じゃあ、お前は後から作られた量産型か?」
「その通り。従って、貴様の事は知らん」
「じゃあ、誰がお前を作った⁉︎ お前を此処に嗾けたのは誰だ⁉︎」
ジタンが問い質すが、ワルツ1号は低く笑うだけだ。
「間も無く死ぬ奴が、そんな事を知ってどうする? その小娘の隣で氷漬けになって、仲良く死ぬがいい」
「仲良く死ねだって⁈ ハハハハ! コイツは傑作だ!」
ワルツ1号の言葉に、ジタンは笑った。
「何が可笑しい?」
「生憎だけどな、俺は女の子と一緒に心中するなんて安っぽい悲恋物語はナンセンスだと思ってるんでね。俺が求めるのは、ハッピーエンドのこれ一択だ‼︎」
「……フン、くだらんな。だったら、氷漬けは無しだ。骨の髄まで、魂の一欠片も余す事無く凍てつかせて、粉々になるまで踏み砕いてやる」
「……面白ェ……やってみろよ。もう一度、返り討ちにしてやる!」
ジタンが挑戦する様に言い放つ。しかし、このままでは、なのはが冗談抜きで凍死してしまう。それに、この吹雪である。早い所、片を付けなければ、海鳴市全体が氷に覆われてしまう。
と、その際……
「《ファイア》‼︎」
突然、後ろから声がした。すると、ジタンの横を通り抜け、火の玉が黒のワルツ1号に直撃した。
「ちィッ⁉︎ ファイアだと⁉︎」
ワルツ1号は慌てた様子で火を払った。ジタンは驚く。今の黒魔法の一つで火を司る魔法、ファイアだ。
これを使えるのは、ジタンの知り得る限りでは一人だけだ。ジタンは振り返ると、其処に立っていたのは……
「ビビか⁉︎」
果たして、其処にはジタンにとって掛け替えのない仲間の一人である黒魔道士の少年ビビ・オルニティアの姿があった。
ビビは両手を翳して、ワルツ1号にファイアを放ったのだ。
「ビビ! やっぱり、お前なんだな‼︎ 何だよ、お前もこっちに来てたんじゃねェか‼︎」
「……あ、あの……僕は……」
ビビは何で自分が此処に居るか分からなかった。さっきまで、はやてと一緒に家にいた筈だ。にも関わらず、こんな場所に来てしまった。彼は混乱した。
「お前が来たんなら、こっちのモンだ‼︎ ビビ、力を貸してくれよ‼︎ アイツを倒さないと町がヤバいんだ‼︎」
「……町が?」
「そうだ‼︎ この吹雪じゃ町全体が凍り付いちまう‼︎ 一緒に戦ってくれよ、今までみたいにさ‼︎」
「……今まで?」
ビビはジタンの言う事が、てんで理解出来なかった。更に言うなら、記憶喪失であるビビは、自分の名を連呼するジタンが不可解でしか無い。
「ジタンさん! 話し込んでる場合じゃ無いよ! 早くしないと、なのはが‼︎」
ユーノに言われて、ジタンはなのはを見た。すっかり顔は青白くなっており、凍死間近、と言う具合だ。
「ビビ! さっきのファイアを使って、この子の氷を溶かしてくれよ‼︎」
「えッ……は、はい……」
ジタンに促され、ビビは力を溜めた。
「《ファイア》‼︎」
ビビの掌からファイアが放たれ、なのはを覆う氷柱に直撃した。すると瞬く間に氷柱は溶け出し、やがて、なのはは自由となった。
氷から解放されて、なのはは前に倒れそうになるが、ジタンが受け止めた。
「なのは! しっかりしろ‼︎」
「なのは‼︎」
ジタンとユーノは、なのはに呼び掛けた。なのはは未だ震えながら、ジタンに言った。
「……もう駄目かと思った……」
「喋る元気があるなら大丈夫だ‼︎」
ジタンは、ホッと一息吐いた。しかし、黒のワルツ1号が再び、動き出す。
「貴様等……この俺を虚仮にするとはいい度胸だ! 全員纏めて、氷漬けにしてやる‼︎」
ワルツ1号は怒り心頭だったが、それはジタンだって同じだ。なのはを雪の積もってない建物の陰に座らせ、ユーノを呼んだ。
「お前、なのはを頼むぜ! 俺は、アイツをぶっ倒して来るから‼︎」
「で、でも……」
「心配すんな‼︎ コッチにはビビも居るんだ! 負けやしねェ‼︎」
「えッ? 僕も戦うの?」
既に頭数に加えられていた事にビビは困惑したが、ジタンは言った。
「大丈夫だ、ビビ! お前なら出来るさ‼︎」
「……何が何だか分からないけど……分かった‼︎」
どうして、このジタンと言う人は自分の事を知っているか解らないが、彼の言葉通りなら、このまま放置したまら、町全体が氷に覆われ、はやてだって無事じゃ済まない。
ビビの中に眠る記憶の一部が、勇気を引き出させた。
「おのれ……五体満足では済まされぬと思え‼︎ 《ブリザガ》‼︎」
黒のワルツ1号が左手を翳すと氷が収束を始めた。ジタンはビビを抱えて、横に逃げる。すると、ジタン達の居た場所に巨大な氷柱が出現、更に地面から現れた無数の氷柱に貫かれ、最後は粉々に砕け散った。
「おのれ、ちょこまかと‼︎ 《ブリザガ》‼︎《ブリザガ》‼︎ 《ブリザガ》‼︎」
ワルツ1号が激昂し、ブリザガが連発する。しかし、足の早いジタンの前には無意味だった。最強の氷魔法も形無しである。
ジタンはジタンで、ただ逃げている訳じゃない。ワルツ1号はブリザガを撃った直後、10秒間は無防備になっていた。
「今だ、ビビ‼︎」
「《ファイア》‼︎」
ジタンはワルツ1号の攻撃を躱しつつ、ビビに黒魔法ファイアを放たせた。ファイアはワルツ1号に直撃し、彼は苦しんだ。
氷の魔法を得意とするワルツ1号は火属性の攻撃が弱点だと言う確信があったが、案の定であった。
ジタンのヒットアンドアウェイな戦法を前に、ワルツ1号は翻弄されて行った。
さっきから逃げては攻撃、逃げては攻撃、と言うチマチマしてはいたが、確実にダメージを与え続け、ワルツ1号は目に見えてダメージが蓄積していった。
「く、くそッ‼︎ こんな事で……‼︎」
ワルツ1号は遂に片膝を突いた。そのチャンスをジタンは見逃さない。
「サンキュー、ビビ‼︎ 後は俺が片を付ける‼︎」
ジタンはビビを下に降ろすと、メイジマッシャーを連結させて力の限り、投擲した。するとメイジマッシャーは回転しつつ、ワルツ1号の身体を斬り裂いた。
「グ……アア……‼︎」
ワルツ1号は胴体を真っ二つに裂かれ、大地に倒れ伏した。メイジマッシャーはブーメランの様に回転しながら、ジタンの手に戻ってくる。
「勝負あったな、黒のワルツ‼︎」
ジタンが勝ち誇る。ワルツ1号は口惜しげに彼を見上げて、右手にある鈴を握り締めた。
「し……死なば諸共……‼︎ 任務は完遂させる……‼︎
出でよ‼︎ 氷の巨神コキュートス‼︎」
ワルツ1号はそう叫び鈴に、ありったけの魔力を注ぎ込んで、そのまま機能を停止した。だが、残された鈴は周囲にある冷気を集め始めた。
やがて、固形化した冷気は巨大な体躯を形成し、左右から突き出した氷柱が両腕と化す。
更に頭頂部がひび割れ、黄色く光る眼光が見えた。
「な……コイツは⁈」
ジタンは、”それ“を見上げながら絶句する。氷の身体を持つ巨神コキュートスが咆哮を上げた……。
BOSS《ライブラ》
−黒のワルツ1号
かつて、ジタンによって倒された改造黒魔道士兵の1人。氷系の魔法を操り、手にした鈴の音を鳴らして、吹雪を引き起こす。
何者かによって新たに作成されたらしく、ジタンが戦ったワルツとは、別個体らしい。策を用いた知略者な反面、防御力は高く無い(だが、なのはのディバインバスターを無傷で耐え切るくらいの強度はある)。