今日更新分は短めです。
エリーの昔の話?どうしたの急に、昔の男の影でも見えスナァ……。全く!それがひとにものを尋ねる態度かね?……そう心配しなくても、我が妹は自分を安売りするようなマネしないから大丈夫だよ。あとそれするとお父様が発狂する。
しかし、昔話ねぇ……。
エリーと私が14歳差というのは話したことあったかな?私15の頃から数年は家を出ていてね。時々帰ってはいたのだが、幼子にとって共に住んでいない兄なんてのは、認識しづらいだろう。兄という役職の一族のひとりくらいの覚え方されていたんだよね。……あの歯ブラシヒゲめ、妹の可愛い盛りを見逃したと思うとますます腹立つな。
ンン、なんでもないとも。それがどうして今の仲良し美人兄妹になったかというとだね、コラ!最後まで聞きなさい!
エリーは私に負けず劣らず、それはそれは愛らしい子だった。ルーマニアの城で蝶よ花よと育てられた彼女は、よく笑う、家族思いの優しい子供だったとも。時代柄どうしても、世間知らずなきらいはあったがね。まだまだ幼い時分で、そうおかしなことでもなかった。
だから、まぁ、言ってしまえば事故みたいなもんだったんだよね。
ある年、エリーの誕生日に合わせて家に帰った。というか、11月は大抵ルーマニアの城で過ごしてたんだよ、誕生日多いから。その中でも早いほうのエリーの誕生日に合わせて帰ったんだけど、運悪く天気最悪、もう風が強いのなんのって。そんな中を私が歩いたらどうなるか、分かるだろう?死んだときちょっと塵が散ったらものだから、集まっていた一族中大慌てでね。結局、御祖父様もいたし、大事には至らなかった。
ただ、その間エリーをひとりにしてしまった。一段落して気付いたときには見当たらなくなってたんだ。時勢も時勢だったし、皆で青い顔して探したよ。
彼女が見つかったのは使われていない暖炉の中だった。私が見つけたのだけど、小さな蝙蝠がうずくまって泣いていたんだ。あれはなんと言うか、胸に来るものがあったよ。
とにかく、こんな寒々しいところに置いておけないと思って抱き上げたんだけど、これがまぁ嫌がられて。しかも「お兄様なんか嫌い」って大泣き。あれだけで5回は死ねたさ。
よくよく話を聞くと、どうも彼女より私が大切にされてると思ったらしい。誕生日の夜だというに、いつも自分を見てくれる大人が誰も相手にしてくれなくなったからね。いなくなってみても、秘密裏に練習していた変身を披露してみても構ってくれない。一族にしても末子で目一杯甘やかされていたから、自分から関心が逸れることに慣れてなかったんだろう。私もいなかったから。さぞ驚いたし、悲しかったんだと思うよ。
実際のところ?ないない。確かに私が直系で長男だけど、うちそんなので差なんてつけないし。だいたいそれって、家を継ぐからそう考えるわけでしょ?私より御祖父様のほうが長生きしそうじゃない?だから勘違い。
そもそも彼女も結構そういうところ敏感だから、本当にそうだったらちゃんと感じ取れてたよ。あんなに驚くことなかったんじゃないかな。つまり、本人が自分が世界の中心だと疑わなくなるほどの猫可愛がりだったんだが。笑っちゃうよね、ほんと。ぜんぜん笑い事じゃないんだけど。
それで、「エリーは皆に愛されているし、私も愛しているよ」と根気よく伝えて、信頼を勝ち取ったから、今の仲良し美人兄妹になったとスナァ。
話してやったというに、何が不満なんだね!全部私のせいじゃないかって!?……そ、そんなことないとも。ね、ジョン。ジョン?
ん?スマホ鳴ってないかい。……なんだって?エリーが今から?それはまた噂をすれば何とやら。さぁ行った行った。エスコートくらいちゃんとしたまえよ、君。
あ、私が話したことエリーには秘密ね。なぜって、話したのバレたら私が怒られるからだが。嫌われたくないなら君も黙っていたほうがいいぞ、もう私たちは共犯スナァ。
……ロナルド君。私が話したこと、ちゃんと覚えていてくれ。我が妹はあれで、わりと繊細だから。
愛しい妹のむくつけき恋人は部屋を出ていった。
先程の話に実は伏せた部分がある。
あの時、私はきっと間違えた。それは、可愛い妹に嫌いと言われた焦りで、幼い妹が自分より上手く能力を使った嫉妬で、何より、彼女が私を遠ざけようとした恐怖から。
あの子は、自分から関心が逸れることをひどく嫌う。いっそ怖がっていると言っていい。それは幼少期に受けた傷だ。
成長に傷は心身共につきものではある。けれどそれを、今になっても癒えないものにしてしまったのは、私のせいでもあるのだろう。もっとゆっくり、世界に触れることで気付くべきを無理強いした。欲に駆られて、かける言葉を誤った。
そして、私にはもうあの傷に触れることは出来ない。ロナルド君が薬になるか毒になるかは分からないが、これはきっとまたとないチャンスだった。
妹の幸せを願っている。
あの若造に託すほか無いのは、正直かなり癪だが。
「お兄様なんか嫌い!」
小さな蝙蝠は線の細い少年の手のひらで身を捩る。少年も妹と同じで、つい最近までそれはもう甘やかされていた。だから面と向かって嫌いと言われたことも無いし、同年代や年下と喧嘩の経験さえ無い。驚いて、動けなかった。
「お父様もお母様も、みんなも、私よりお兄様が大切なんでしょう!みんな……」
悲痛に声を上げ涙を零すその子を、慰めたいと少年は確かに思っていた。そんなこと無いと、母も父も君をいっとう愛していると、言おうとしたはずだった。
「みんな嘘つき……エリーのこと愛してるって言ったのに……」
しかし、言えなかった。
「私は、エリーのこと一番に愛しているよ」
代わりに口をついて出たのは、一見とびきり甘く、きっと傷を残す言葉だ。
「ほんと?」
変身を解いて目を合わせる妹に、少年は笑いかける。
「本当。私がエリーを一番にしてあげる」
【ドラルク】気にし過ぎなシスコン兄の吸血鬼。強メンタルでも自己肯定感激高でも、繊細な時期というのはある。兄もまた子供だったのだ。
【エリー】執着強めなブラコン妹の吸血鬼。確かにこの時のことを引きずっているのだが、自覚は無い。黒歴史兼、兄との美しい思い出として記憶している。
【ジョン】主人の妹と喧嘩した日もあったアルマジロ。今は基本的に仲良し。戯れにドラルクを取り合うことはある。
【ロナルド】弟であり、兄であり、恋人であり、同居人の退治人。知らんところでなんか背負わされた。頑張れ。