君のワガママは全部聞いてあげたい   作:三月ウーナン

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4巻〜7巻あたりのどこかのイメージ
奮闘ダイジェストです


鈍感が緒を引きちぎる

 さて、私が新横浜に来てから一ヶ月が経った。

 その間に毎日のように事務所にお邪魔して、ロナルドさんへのアピールは欠かしていない。しかし、結果は芳しく無い。今後に反省を活かすためにも、この辺りで一部抜粋して振り返ってみようと思う。

 

 まず初日、初めて事務所に訪ねたときのこと。自分の恋心に気付いた私はさっそくこの時から行動を始めていた。といっても、この時点ではまだまだ私はロナルドさんにとって同居人のすごく可愛い妹でしかない。私自身に興味、あるいは好感を抱いて頂かなければいけない。

 この日は出会ってすぐから、からかい過ぎていた自覚は少しあったので、まずは素直に褒めたり感謝したりしてみる。気恥ずかしくはあるが、特に嘘をつく必要はないので簡単だ。

 

「ロナルドさん、改めて今日はありがとうございます。おかげで怪我することも卵を頭から被ることもありませんでした」

「いや、お礼を言われるほどのことはしてないからな。それに、クソ砂はともかく、あの一族の娘なら自分でなんとか出来たんじゃないかって。あの時もえらく落ち着いていたようだったし、余計なことしたんじゃないか?」

 

 ロナルドさんはワンピースの裾を見ている。そこにはもう汚れなんて残っていないのに、気にしているようだった。

 

「確かに自分でなんとか出来たかもしれないです。でも私、嬉しかったのですよ、庇って貰えて。それに助けて頂いたのは事実ですから。だから、ありがとうございます。」

 

 ここまで言ってもどこか納得していなさそうな顔をしているので、さらにダメ押しをする。

 

「私みたいな美女からこんなに心から感謝されることそうそうないですよ!素直に受け取っておいたほうがお得です。私もそのほうが嬉しいですから」

 

 ここでにっこり美少女スマイル。ロナルドさんは照れ照れと頭を掻きながら、どういたしまして、と控えめに答えた。

 

 ふむ、このあたりは順調だ。なかなか好感触だったと思う。お兄様と一緒になって弄り倒していたとしてもマイナスでは終わらない印象になったはず。実際、この日ホテルに帰る私の足取りは軽かったし、そのまま滞在延長を申し込んだ。

 

 別の日、お兄様とジョンと遊ぶのを名目に事務所を訪れる。私はロナルドウォー戦記、通称ロナ戦を手に装備。ロナルドさんの様子からしてこのカードを切ってもよいと判断した。個人的に親しくなる前にファンとして認識されてしまうと恋愛関係には結び付きにくそうだと思い今までは出さなかったのだ。

 

「ロナルドさん、実は私、ロナ戦読んでいまして。もしご迷惑でなければサイン頂けませんか?」

「えっ!読んでたのか!?ありがとうございます。俺のサインでよければいくらでも」

「はい、お兄様が出てると聞いて読んでみたのですが、お兄様関係なくとても面白かったです!本業でも忙しくしていらっしゃるのに、執筆までなさるなんて凄いですね」

「い、いや、それほどでも」

 

 ロナルドさんは手馴れた様子でサインを書いてくれた。ふむふむ、満更でもなさそうだ。ちなみに我が一族では件の新年会以降ロナ戦が流行った。

 

「そういえば、ロナ戦のロナルドと実際のロナルドさんって何だか少し印象が違いますよね」

 

 にやけ気味だった顔が明らかに強ばった。

 

「ガッカリしたか……?」

 

 恐る恐るというように出された問。どうもやはり現実とはかなり乖離がある内容らしい。お兄様の描写からしてそうだろうとは思っていたし、ロナルドさんにしても会って話してみると雰囲気が違う。本の中より騒々しくて自信なさげな印象だ。

 

「いえ、むしろもっと好きになりました」

「えっ」

「このお話はロナルドさんが苦労して手を加えたからこそ、こんなに面白いものになったんだと思うんです。それってなんだか、とっても素敵です。だから私は、ロナ戦もロナルドさんのことも、もっと好きになりましたよ」

 

 ロナルドさんは明後日の方向を向いたまま赤面していた。こういうところが本とは違うなと思う。そして、可愛いなとも。

 

 なかなか良いのでは?とっても順調では?

 よしよし、この調子でさらに別の日。

 この日、ロナルドさんはお兄様を伴ってお仕事。流石に着いて行くわけにもいかないので、事務所に勝手に上がり込ませてもらう。

 この時間を使って料理でも、と思ったのだが、問題は料理の腕で私がお兄様に勝てるわけがないところだ。私のような美女がご飯を作って家で待ってるというシチュエーションだけでも十分な気はするが、実際食べてみて「思ったよりフツー」だとか「ドラルクの料理のほうが美味い」だとか思われるのはちょっと耐えられない。

 では、どうするのかというと、お兄様が作らない料理を作れば良い。最低限比べられることだけは避けられる。料理が趣味のお兄様が絶対作らなくてちゃんと美味しい料理、私は一つしか思いつかなかった。ずばり、ニンニクを使った料理である!

 しかし、私も死にはしないが普通にニンニクは苦手なので手早く作れる料理がよい。完成までにグロッキーになってしまうのは避けたい。あと、モタモタしているとロナルドさんたちが帰ってきてしまう。ここはペペロンチーノにしよう。好きな人に初めて出す料理が絶望パスタってどうなの?っていう気もするが、レパートリーもないしもうこれで行く。うん、たぶん大丈夫。はい。お留守番のジョンもそう言ってる。とりあえず先にサラダとスープは作っておこう。

 さて、お兄様から仕事が終わったと連絡が入った。ちなみに今日のことはお兄様とジョンには伝えてある。お兄様はロナルドさんの様子見担当、ジョンは味見担当をしてもらっている。ちなみに、お兄様は私が片付けと換気を終わらせるまで帰ってこないし、ジョンはたまにはニンニクも食べたいそうで一食まるまる食べる。

 なんとかほぼ準備が整ったところで事務所のドアが開いた。

 

「おかえりなさい、ロナルドさん!もうすぐご飯できますよ」

「エリさん!?来てたのかよ、しかも飯って」

「今日はジョンのリクエストでペペロンチーノです。たまにはニンニクも食べたくなるみたいで」

 

 ジョンはよく出来た子なので、私が突然嘘八百並べだしても合わせてくれる。ありがとう、ジョン。

 

「あぁ、それであいつは出掛けてったのか。俺までいただいちゃっていいのか?」

 

 そして、ロナルドさんは全く疑わない。ジョンのためなのかなるほど、という顔をしている。咄嗟に私が言ってしまった嘘のせいなので仕方ないが、なんというか、少し複雑な気持ちだ。

 

「もちろんです。ロナルドさんにはいつもお世話になってますから、お返しさせてください。私の手料理なんてとってもレアなんですからね!嬉しいでしょう?」

 

 私はやけ気味に言った。別に料理に自信が無いから自分に言い聞かせているとかではない、本当に。

 

「ああ!嬉しいぜ」

「えっ」

 

 あまりにも朗らかに返答が帰ってきて驚いてしまった。そうか、嬉しいのか。

 

「え?」

 

 ロナルドさんが困惑している。この様子では私の手料理が嬉しいのか、単に腹ペコなだけなのか分からない。

 

「なんでもありません。じゃあ、ご飯にしましょうか」

 

 私がうっかりかなり喜んでしまったの、上手く隠せているといいなぁと思いながら料理の仕上げに取り掛かった。

 

 悪くはないのではなかろうか。料理も美味しいと言ってくれていたし。食べている最中に私がじっと見すぎてロナルドさんが少し食べにくそうにしていたのは申し訳なかったが、それ以外は概ね好評だった。ただ、やはりニンニクで気分は悪くなったので次の日は一日ホテルにいた。

 

 だんだん今日に近づいて来た。これは一週間くらい前のこと、この頃にはある程度関係は築けたと判断して「個人として好かれる」という方向性より「女性として意識してもらう」という方向性に近い行動が増えた。こんなに可愛くて色気だってちゃんとある私がそんな方針を取る羽目になるとは思っていなかったのだが、仕方ない。ロナルドさんが予想以上に鈍かったのが敗因だ。このまま仲良くなっても友達にしかなれないなっていう雰囲気がすごかった。ちなみに具体的には、有志から巨乳好きと情報を得たこともあって胸元の開いた服を着たり、さり気なく押し付けたりしている。こんな感じだ。

 

「きゃー、何故か床に段差が!」

 

 私は知っている。この下には若い女の子が出入りしている扉があり、その分少し床板が歪んでいる!ヒナイチさんに特に恨みはないが、妬みは普通にあるのでついでに少し強めに踏んでおく。実質同じ屋根の下に住んでるって何なの!えいっ。

 躓いたのを装って抱きつく。ついでにロナルドさんも反射神経に優れるので私をキャッチ。

 

「エリさん!?」

 

 上手く抱き合うような体制になったので、しっかり目に抱きついておく。さらに都合のよいことに今ロナルドさんは仕事着、つまり前面は薄いインナーで防御力は低い!柔らかさとか匂いとかで存分にドキドキするといい!そして、防御力は低いが攻撃力は高い!私も結構恥ずかしい!高めの体温とか鍛えられた体とか感じてしまう!背中に抱きつく予定だったのに!

 

「大丈夫か?」

 

 ロナルドさんがこちらを見ている。まずい、何言おうと思っていたのか忘れてしまった。

 

「えへへ、ロナルドさんってなんだか良い匂いしますよね。何の匂いですかねこれ」

 

 完全にやってしまった。何だそれ、ただただ気持ち悪いやつだ。絶世の美女じゃなかったら社会的に死んでた。

 

「はぇ!?柔軟剤とか!?!?」

「へ、へぇー」

 

 ……会話が途切れた!何これ?どういう間!?ドン引きしてるの?それとも向こうも混乱中?

 恐る恐るロナルドさんを窺う。

 ウワッ目が合った、睫毛が長い!違う!これは確実にロナルドさんも混乱している。顔が真っ赤で、凄い汗のかき方をしているので。しかし、これここからどうするのが正解だろう。

 

「若造、夜食ができたぞ……って何をしているんだね君たち」

 

 お兄様とジョンが住居スペースのほうから現れた。私はこれ幸いと駆けていってお兄様に抱きつく。

 

「お兄様!あぁ、このガリガリヒョロヒョロ低体温……落ち着く……」

 

 慣れ親しんだお兄様の体温がひどく心地よかった。

 

「ひょっとして喧嘩売られてる?妹相手でも買うよ私は」

 

 ジョンがなんとなく状況を察してお兄様の肩から慰めてくれる。優しい……。一方、お兄様はすこし少し呆れ気味だ。

 

「そんな!エリーはこんなにお兄様のこと大好きなのに」

 

 私が大袈裟に悲しむと、お兄様は満更でもなさそうな顔をして私の頭を撫でる。

 

「うーん、まぁ、許そう。他ならぬエリーだしね」

 

 よし、いつもの茶番をしているうちに平常心が戻ってきた。付き合ってくれるお兄様に感謝だ。あとさっきのこともなんとなく有耶無耶になった。ロナルドさんをドキドキさせるという目的は恐らく達成しているので万事OKだ。

 

 ……思い出すエピソードを間違えた。

 しかし、何をしていたのかというとこういう感じで間違ってはいない。ちなみに最初はもっと自然で軽いボディータッチなどから始めたのだが、鈍すぎて何も伝わらなかったのでこうなった。途中少し失敗はあったが概ね成功していたように思う。

 ここまで私はかなり露骨に好意を伝えてきたつもりだ。ここ一週間なんてあからさま過ぎるほどに。それなのにロナルドさんから手応えのある反応が帰ってこない。それはまぁ、先程のようにからかって楽しい反応を返して貰うことはある。しかしそうではなく、私に気がありそうな反応とか、私の好意の意味合いを窺っている反応とかがないのだ。

 

 極めつけは昨日のこと。

 私はまた事務所にお邪魔しており、お兄様とお話していた。いつだってロナルドさんに構っているわけでは流石にないので、そういうこともよくある。ロナルドさんは何かパソコンでデスクワーク中で、集中力が途切れたのか少しぼんやりとこちらを見た。

 

「エリさんは、ほんとにドラ公のこと好きなんだな」

 

 ただ今思ったことをそのまま口に出しましたという風で、ロナルドさんは話した。私は少し虚をつかれたあとで、怒りと戸惑いが込み上げてきた。もちろん、お兄様のことは好きだけれど、今の言葉とはつまり、お兄様がここにいるから事務所に来ているし、ロナルドさんにも構っているという旨で間違いない?

 

「ロナルドさんは」

 

 思っているよりも随分と低い声が出た。異変を察してか、パソコンの向こうの人影はぴくりと揺れた。

 

「私がお兄様とジョンのためだけにここに来ていると思っていらっしゃると?」

 

 ロナルドさんは口を引き結んでいたけれど、顔には「そうじゃないんですか」と書いてあった。

 私は呆れてものも言えず、怒りで冷静さを欠き、悔しくて泣いてしまいそうで、悲しくてこの場から逃げ出したくなった。煮えた感情を逃がすように一つ息をついて立ち上がる。

 

「今日はもうお暇させていただきます」

 

 一部始終を見ていたお兄様とジョンは心配げに私を見ている。

 

「そうだね、そのほうが良いだろう。話し相手は必要かな?」

「今は少し一人にしてほしいです。けれど、そう、明日。また明日」

「承ろう。また、明日ね」

 

 お兄様は私を玄関までエスコートして、慰めるように旋毛にキスを落とした。閉じる扉の奥でロナルドさんが顔を青くしているのが見えた。

 

 これが昨日のこと。そして今日、私はちょうどお兄様が来るのを待っているところだ。一日経てば私もある程度冷静になる。むしろ、私は今燃えていた。

 絶対に、絶対に、私のこと好きって言わせてみせます!

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