【完結】TSぼくっ娘「そうかそうか、つまり君はそういうやつなんだな」   作:守次 奏

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第二話「ぼくらの些細な」

 ぼくは飛び抜けて頭がよかった。

 

 そういってしまうと、ただの自慢話にしか聞こえないのだろうし、その後を話したとしても、多くの人がそう受け取るのだろう。

 

 だけど、同世代の子供たちと比べてぼくが圧倒的に勉強が得意で、苦にならない体質だったことに間違いはない。

 

 だからといって、そう上手くいくわけがないのが人生というものなんだけれどね。

 天は二物を与えずとはよくいったように、ぼくは勉強ができる代わりに、その他が全て壊滅的だった。

 

 運動はできないし、部屋は汚いし、机の中も汚いし、溌剌とコミュニケーションが取れるわけでもない。

 ふふ、自分でいっていてもひどい有様だ。

 

 要するに、ぼくが嫌われ者になるのには、そう時間はかからなかったということだった。

 

 出る杭は打たれるといったように、ただ頭がいいだけの、小賢しいだけのぼくは露骨にいじめられこそしなかったけど、疎まれてはいたのだと思う。

 

 陰では相当貶されてただろうけどね。

 クラスのグループLINE、その裏グループとでも呼ぶべきものにぼくは招待されなかったのだから。

 

 それが直接の原因ってわけじゃあないけど、単純に嫌気が差したんだと思う。

 

 顧みられることがないのにも、ぼくという存在がただクラスの中で根付くことなく浮き続けていたことにも──そもそも、存在を根付かせる必要があるような環境にも。

 

 そして、なにもかもが嫌になって、今に至るというわけさ。

 別に面白くもなんともない、ありふれた話だ。だけど、親友殿は違っていたらしい。

 

 今日もゲームをするため、ぼくの部屋に入り浸っている親友殿を横目で見ながら、ふっ、と小さく笑う。

 

「なんだよ、急に?」

「別に、ただ君が計算だとか打算だとか、そういうのと縁がないタイプだということに感謝していただけだよ、親友殿」

「なんか知らんけど喧嘩売られてる気がしたぞ? お?」

 

 喧嘩を売ったつもりは一ミリたりともないんだけどなあ。

 血気にはやってシャドーボクシングを始めた親友殿に苦笑しながら、ぼくは上目遣いでその瞳を覗き込む。

 

「ごめんよ。そんなつもりはなかったんだ、許しておくれよ……」

「うっ、だからそれはやめろって! 谷間! 谷間見えてんだよ!」

「ふふっ、うぶだなあ親友殿。ぼくが女の子になっても気にしないんじゃあなかったのかい」

 

 がりがりのもやしっ子だったぼくがどうしてこんな、乳と尻が無駄にでかくて腰は細いダイナマイトボディになっているのかはわからないけど、親友殿をおちょくる材料になるからひとまずはいいとしよう。

 

「気にしないとは言ってねえよ、付き合えねーとは言ったけどな。むしろ気になることだらけだよ」

「そうだねえ。同時多発的にこういった現象が起こっていたのならわかるけれど、今のところそういった話はメディアにも出ていないからねえ」

 

 神様が気まぐれに転がしたサイコロの目が、ぼくのところだけ当たりになった。

 あるいは、何千、何億、何兆……計り知れない天文学的な確率を引き当ててしまった。

 

 そのどちらでも構わないけど、一日経っても元に戻る気配もなければ、これ以上なにか身体に変化がある気配もない以上、ぼくの性別と容姿はこれで固定されてしまったということだろう。

 

 だからといって、ぼくらの日常が変わるわけじゃない。

 

 いつも通り、ずっとそうしてきた通り、親友殿が放課後にぼくの部屋を訪れて、ゲームをしたり漫画を読んだり……そんなだらだらとした日々がこれからも続いていくからなにも問題はないだろう、と、そんなことを頭の片隅に浮かべながらゲームのコントローラーを手にとったときだった。

 

「なあお前、今週の土日暇か?」

 

 不意に、漫画本を読んでいた親友がぱたん、とページを閉じて、ぼくに問いかけてくる。

 

「これまた唐突だね。ぼくがいつでも暇人なのは君も知っての通りだろう?」

「そりゃ知ってるけどよ、家族との予定とかと被ったらアレだろ、気まずい」

「ぼくの家族ならとんでもないレベルの放任主義だからねえ」

 

 突然女の子になっても驚きすらされなかったのだから、そういう意味では親友殿の方がよっぽど真っ当な感性をしているよ。

 

「なんだそりゃ……被ってねえならいいんだけどよ」

「おっ、そうかい? それならなにをするつもりなんだい、親友殿? 泊まりがけでTRPGをするのも悪くないねぇ」

「今のお前の部屋に泊まったら俺の社会的生命が死ぬだろうが」

「なんだい、同じベッドで寝るのが嫌ならぼくはソファで寝ることもやぶさかじゃあないんだよ?」

 

 なんでそんなに泊まることに対して前向きなんだよ、と、親友殿は頭を抱える。

 

 ふふ、からかってみただけなんだけど、こうして見ると可愛らしいねぇ。そういうところは昔から変わらないんだから、こう……お腹の底がきゅん、としてしまうよ。

 

「とにかく、泊まりとかじゃねえ! お前の服とか下着とかを買いに行くんだよ!」

 

 びしっ、とぼくに人差し指を突きつけて、親友殿はそう宣言した。

 そうかそうか、服と下着……えっ?

 

「すまないね親友殿、ぼくの聞き間違いかもしれないから、もう一度言ってくれないかい」

「お前の服と下着を買いに行くんだよ。そのダボダボのTシャツとトランクス一丁とかいうどうしようもない格好、最低限どうにかしねーとダメだろ」

「そんな殺生な!」

 

 服と下着を買いに行くということは、人混みが不可避なショッピングモールに行かなくてはいけないということじゃあないか!

 

「ぼ、ぼくが女の子になっても……気にしないんじゃあなかったのかい!?」

「さすがに俺でも気にするわ……これまではともかくとして、これからはそりゃお前、女の子なわけだし……」

「ぐ、ぐぬぬ……」

「女の子がTシャツ一枚とトランクスだけで部屋の中を徘徊してるって構図はこう、いくら元男でもヤバいだろ」

 

 ぐっ、正論パンチだ。

 古今東西、正論が人を救ったことはないというのになんたる所業だ、親友殿。

 君に人の心はないというのか!

 

「そ、それなら……ネット通販ではダメなのかい? ほら、今なら検索すれば下着とかも手に入るみたいだし」

「お前、自分のスリーサイズとか把握してんの?」

「うっ……」

「そんなわけで今度の土日は服買いに行くぞ、決定な」

 

 うう、ぼくが人混みが苦手だと知っていながら、なんという仕打ちだ。

 とはいえ、親友殿も悪意があって言っているわけじゃないのはわかっている。

 

 むしろ、百パーセントの善意でそう提案してくれているのだということくらい、理解している。理解しているとも。

 

 だけど、それとこれとは話が別だというか、どうしたってぼくが人混みだとか行列だとか、そういうものが苦手も苦手だというのは揺るぎない事実なわけで。

 

 やはり、腹を括るしかないのだろうか。

 それにしたって無理難題がすぎる。出資者は無理難題を仰るのが世の常だというのか、君は。

 

「うぅ……君はやはり意地悪だ」

「お前に言われたくねーわ」

「失礼な、ぼくは正直者だろう!?」

「ハメ技だの盤外戦術だの散々こすい手使ってきて今更被害者ぶってんじゃねえよ!?」

 

 親友殿は日頃の鬱憤を晴らすかのように叫ぶ。

 それはそうだけど、別にルール違反をしているわけでもレギュレーション違反をしてるわけでもないんだからそれとこれとは話が別だろうに!

 

「……う、うぅ……」

「仕方ないだろ、腹括れって」

 

 ぽん、とぼくの肩に手を置いて、親友殿は溜息混じりに苦笑する。

 全く、か弱い女の子が相手だというのに情けも容赦も血も涙もないから困る。

 いや……元々、男なんだけどね。

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