【完結】TSぼくっ娘「そうかそうか、つまり君はそういうやつなんだな」   作:守次 奏

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第九話「君が好きだと叫びたい」

「えへへ……りゅーじ、どうだい? ぼくの新しい装いは?」

「可愛い、可愛いって! 今朝も言ったしこんな人通り多いとこでベタベタくっつくもんじゃ……!」

「えへ、ありがとう……でも、しょうがないじゃないか。ぼくはりゅーじの『彼女』なんだから」

 

 世界の全てが輝いて見えた。

 親友殿──いいや、りゅーじの腕に縋りつきながら、ぼくはそのたくましい筋肉に頬を擦り寄せる。

 

 初めての夜から、大体半年ぐらい。

 再び春を迎えたこの世界で、ぼくたちもまた、青い春を全力で満喫していたという話だ。

 

 髪の毛のお手入れをする方法を学んだ。

 どんな髪型が可愛いか、必死に研究した。

 ぼくの癖っ毛を活かしたツーサイドアップに白い、楚々としたワンピース。

 

 何度でも、何度だって大好きな人に「可愛い」と言ってもらうための格好だ。

 ぼくは多分、どこかがおかしくなってしまったのかもしれないね。

 

 でも、おかしくたっていいじゃないか。

 恋を知ったんだ。その痛みも、その甘さも、全部、全部この身体で味わって、今もお互いに貪り続けているのだから。

 

 おかしくなければ恋ができないのなら、ぼくはいくらでもおかしくなろう。

 ぼく、という言葉がりゅーじの気に入らないのなら、わたし、でもあたし、でも、好きなように呼び方を変えようじゃないか。

 

 ああ、この持って回った口調もいらないと言われたら全力でどこかに放り捨てよう。

 

 別に、ぼくは世界で一番可愛くなりたいわけじゃない。

 ただ一人、たった一人に「可愛い」と言ってもらえるのなら、世界で何番目だって構わないから、「可愛い」を磨き続ける。

 

 それがぼくという女なのだ。

 もう、男だった時間の全てが遠巻きに見えるほど、ぼくは今という時間に、この刹那に情熱を燃やしている。

 

 この身を捧げてもまだ足りない、恋。

 心を燃やして、燃やし尽くしてもまだまだ消えることのない、炎。

 

 それがぼくの心の中で、めらめらと燃え盛り続けていた。

 

「本当、信じられないくらい素直になったよな、お前……」

「そうかい? でも、りゅーじがそう言うなら、ぼくは素直になったのかもしれないね」

「前のお前だったらこんなことしないだろ」

「……今のぼくは……嫌、かい?」

「あー、もう泣くな泣くな! 嫌だったら付き合ってねえって!」

「えへ、そっかぁ……ぼくが好きだから付き合ってくれるんだね、りゅーじ」

 

 じわりと溜まった涙もどこかに引っ込んでしまうほど、好きな人に認められるというのは嬉しくて、幸せで。

 生きててよかった、なんて、前までは考えもしなかったことを考えてしまうのだ。

 

 生きることは苦しみでしかない。

 だから、そこから逃げ出すように、その鎖を少しでいいから緩めるためにゲームへ没頭していたのが、今は恋に変わっただけなのかもしれない。

 

 だけど、その苦しみを二人で背負い合えるのなら、分かち合えるのなら、半分ぐらいは前向きになれるだろう?

 その半分で、ぼくは恋をする。残り半分を押し除けるように、焼き尽くすように焦がれ続ける。

 

「だからずっとそう言ってるだろ……お前が好きじゃなきゃデートなんてするか、可愛いなんて言ったりするもんかよ」

「ああ……嬉しいなぁ。ねえ、りゅーじはぼくに変わってほしいところとか、あるかい? あるなら、ぼくはいくらでも君の願う通りに変われるよ」

 

 口元に笑みを浮かべながら、小首を傾げて問いかける。

 それが流行りのアイドルを真似たものでもいい。あるいはもっと過激なことでもいい。

 

 ぼくは、君に染められたいんだ。

 それこそが、ぼくという女の子が望むこと。ただ一つだけ、いつだって願い続けていることだった。

 

「変わんなくていい!」

「ふむふむ、つまるところ?」

「俺は今のひかりが好きだからさ、その……なんだ、可愛くなろうと頑張ってるとことか、相変わらず対戦ゲーになると容赦しねえとことか……全部ひっくるめて好きだから、付き合ってんだよ」

 

 りゅーじは気恥ずかしそうに頬を紅く染めて、ぼくから照れ隠しのように視線を逸らしてそう答える。

 ふふ、そうかそうか。つまり君はそういう男の子なんだね。

 

 なら、いいじゃないか。

 ぼくはりゅーじのためにいくらでも可愛くなれるように頑張ろうじゃないか。最近はメイクの勉強をしているから、印象を変えて驚かせてあげるのも悪くない。

 

「……んっ、ありがと、りゅーじ。ぼくも君のことが……ぼくを愛してくれる、たくましくて素敵な君のことが、大好きだよ」

 

 そう囁いて、ぼくはりゅーじの頬に口づけを落とす。

 観衆たちが、道行く誰かがぼくたちのことをなんと言おうと、なんと詰ろうと、羨もうと関係ない。

 

 ぼくはもう、りゅーじのものだし、りゅーじはもう、ぼくのものなのだから。

 そんな風に、お互いを担保にして生きていくことの、なんて素晴らしいことだろう。

 

「飛ばしてんなあ、ひかり……まだ映画も観ちゃいないんだぜ?」

「ん、別に観たくないなら映画も観なくて構わないよ。君がぼくとしたいことを、ぼくにしたいことを好きにしてくれて構わないから」

「俺は雰囲気を大事にしたいんだ、雰囲気を。わかるだろ?」

 

 なるほど、ムードか。

 そういわれてみるとそうかもしれないね。

 別にぼくは朝から晩までコースでも構わないけれど、夜までお預けされていると思えば、これはこれで。映画を観るのも嫌いってわけじゃないし。

 

「そうだね、でも……唇が寂しいんだよ、りゅーじ」

「わかったわかった、ほら」

「んむっ……んっ、えへ……すき……」

 

 ああもう、全力でそこら中を走り回って叫びたい気分だよ。

 君のことが好きだって、大好きで大好きで仕方ないって。

 

 神崎ひかりは、市ヶ谷竜司が心の底から大好きでどうしようもない女の子です、って。

 いっそ今から言いふらしてしまおうかと悩んだけど、それだとりゅーじが恥ずかしがってしまうからね。

 

 普段はとってもたくましくて格好いいのに、意外とシャイなところも可愛いものだよ。

 それを言ってしまうともっと照れてしまうから、ぼくの心の中にしまっておくけど。

 

 景色の全てを包み込んでリボンをかけるように、ぼくはそっとかわした唇を舌でなぞって目を閉じる。

 

 思えば、最初に女の子になったときはどこまでも淡々としていて、普段となにも変わらなかったし、りゅーじも「ぼくとは付き合えない」なんてことを言ってたような気がするけど、今思えば戯言もいいところだね。

 

 こうしてぼくたちは、心につけた火で燃え続ける、赤い糸で結ばれたのだから。

 指先が焼け落ちるそのときまで、決して離しはしないし離れはしないから、覚悟をしてくれたまえよ、ぼくの恋人。

 

 今なら言える。今ならわかる。

 見上げた宇宙からなにかが降ってきたのは、無意味な奇跡なんかじゃないって。

 

 こうしてぼくたちを包み込んでくれるぬくもりを連れてきてくれた、神様からの贈り物なんだって。

 

 ここに至るまでの痛みや苦しみも、今噛み締めている幸せも、全部を含めて空のギフト。

 きっと誰かが見れば悍ましいと目を背けるような、あるいは羨ましいと唇を噛むような、ぼくとりゅーじの間だけに存在する、世界で無二の宝物なのだから。

 

「ね、りゅーじ」

「どうした、ひかり?」

「ぼくは、君を好きでいて本当によかったよ」

 

 それがどこから始まったのかもわからないけれど、ぼくの中で燻り続けて、今火がついたその感情。それこそが、きっと。

 

「俺だって……お前が彼女で、今すっげー幸せだ、ひかり」

「えへ……えへへ……しあわせ……うん。ぼくも、しあわせ……」

 

 ああ、本当に。

 最初は理不尽に思えたことが、今は至上の幸せに変わっているのだから、人生というものはわからない。

 

 要するに、一言でいってしまうのなら、だ。

 

 ぼくは、女の子になって心の底からよかったと……よかったなんて言葉じゃ語りきれない幸せを今、味わっているということだった。

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