いつものアズ監前後の監督生ですが、今回アズール先輩は名前しか出てきません
3章と4章の間くらい。名前の呼び方である程度時期決めてるけどたまに間違えるのは許してクレメンス……後だし設定のための訂正とか、そっと直したりしてます。見逃して
「イデア先輩」
約束通りの時間に教室に顔を出すと、振り返った先輩は驚いたように私を見た。
「え、何どうしたの監督生氏、教室間違えた?」
「いや、イデア先輩が云ったんじゃないですか。今日は一日対面で授業に出なきゃいけないから、部活前に迎えに来てくれないとヤダって」
どうやら自分で云ったことをすっかり忘れていたらしい。
わかりやすく慌てている様子の先輩に、しかし怒りは湧いてこない。だって忘れてたってことは、そこまでしんどくなかったということだ。基本が引きこもりの先輩が一日生身で授業に出ただけで万歳三唱ものなのだから、むしろ喜ぶべきところ。結果的には無駄足になっても、元気な先輩の姿が見られたのでとんとんだ。……私は一体何目線で先輩を見ているのだろうか。
とにかく、先輩が元気な以上他学年の他クラスに長居する理由はないので、私はお先にボードゲーム部の部室に向かおう。あ、その前に図書室に寄って週末に読む本を借りてからにしようかな。
「じゃ、私行きますね。アズール先輩が今日は絶対負けないって息巻いていたので、部活はきっと白熱しますよ」
「まままま待って監督生氏、一緒に行こ!」
「無理しなくても」
「無理じゃないのぉ! 今からクルーウェルのところ行かなきゃなんないから、そしたら拙者のSAN値/Zeroになるから!!」
「いや別に私イデア先輩のSAN値下がり待ちしてるわけではないんですよ」
「とにかくパッと行ってパッと帰ってくるから待ってて!!」
そう云って先輩は、私の制止も聞かずに走って行ってしまった。体力ないのにあんなに走って大丈夫なのかと思っていたら、案の定廊下の途中で立ち止まってゼーハーしていた。可愛い人だ。
このまま先輩を置いて行ってもいいのだけれど、待っていてというのならば待とう。私は先輩に甘い。
イデア先輩は端末以外の荷物を置いて行ったようで、机の上は教科書が散乱していた。多分先輩、教科書や資料のデータは全部端末に移しているし、メモやら板書もデータに全部しているのだと思う。それでも一部の頭の固い先生たちは形だけでも実物を持っていないと何かとうるさいから、仕方なく持ってきているのだろう。扱いが雑だ。一冊一万マドルもするような高価な資料も、イデア先輩にかかれば単なる紙切れと変わらない。
貧乏性なつもりはないけれど、やっぱり根が庶民なので物は大事に長く使うのが当たり前な私は、余計なお世話を自覚しつつも先輩の机を片付けることにした。そうしたら、先輩が戻ってきたらすぐに出られるしね。
というわけでほとんどの生徒が出て行った人気のない教室で荷物をまとめていると、ひょっこりと机に影がかかる。顔を上げればそこにいたのは。
「やっほー監督生ちゃ~ん」
「こんにちは、ダイヤモンド先輩」
「んもう、気軽にけーくん先輩って呼んでいいのにぃ! 監督生ちゃんのいけず!」
「ははは……」
遠慮します、とは云わず、私は乾いた笑いを漏らすしかない。
ダイヤモンド先輩のこういう気さくなところがきっといろんな人と友達になれる強味なのだと思うけど、あいにく私には合わないようだ。
どちらかというと根暗な自覚はあるので、やっぱりイデア先輩やアズール先輩と一緒にいる方が気が楽だし。いや、別に、決して彼らを根暗だと云っているわけではなくて、慣れている人と一緒にいたほうが安心するというだけの話です。他意はないです。
どうやら挨拶をして立ち去るということではなく、ダイヤモンド先輩は片付けを続ける私に構わず前の席を跨いで座り、次々と話題を振ってきた。当たり障りのない返答をしながら、そういえばイデア先輩とダイヤモンド先輩が同じクラスであったことを思い出す。つくづく、イデア先輩って陽の人に縁がある。
こうしている間にもダイヤモンド先輩のおしゃべりは留まることを知らない。よくもまぁここまで会話を続けられるものだ。私は一応返事はしているけれど、とてもじゃないが会話を続ける気がないのはわかるだろうに。
空気は読んでも読まないで押し切る、さすがナイトレイブンカレッジ生。
しかしすぐに片付けも終わったので、いよいよこのままではダイヤモンド先輩との会話に集中しなければならなくなってしまった。授業が終わったのだからさっさと部活なり遊びなりに行けばいいのに。暇なのだろうか。
そんな態度がが滲み出ていたのかどうかはわからないけれど、ふと目が合ったダイヤモンド先輩はにっこりと笑顔を深くした。なんとなく嫌な予感がして、思わず身構える。
「監督生ちゃんとイデアくんってさー、仲良しだよね~」
「はぁ、そうですね」
「あ、そこはすんなり認めるんだ?」
「事実なので」
「それにオクタヴィネルの三人組とも一緒にいること多いよねぇ」
「まぁ、縁があるんですよ」
すげなく云うと、特に気分を害した様子もなくそっか~と先輩は笑った。
あ、なんだ、これだけか。
ホッとして、警戒して神経質に疑り過ぎたかと少し反省しようとした、その次の瞬間。
「じゃあエースちゃんとデュースちゃんは?」
続いた問いに、私はピタリと動きを止める。
それから顔を上げて、ダイヤモンド先輩を見た。
「……何をおっしゃりたいのですか」
思わず低くなってしまった声。
いつも通りたいして表情は変わらずとも、不機嫌をまったく隠せていない。それを自覚しつつも直せないのだから、まだまだ修行が足りないと反省する。
「別に、なぁんにも」
ダイヤモンド先輩はにこにこといつものように笑っている。
明るく、裏なんてありませんよ、というキラキラで完璧な笑顔だ。
だからこそ余計に腹が立つ。
世間話の一つのように、今私が一番気にしていることをつついて、あれ、そんなに気にしてたの、気付かなかったよごめんね、と白々しく云うのだろう。
悪気がないような態度で、突かれたくない場所を実に腹立たしいタイミングで突いてくるこの人が、私は得意にはなれない。
私はまとめたイデア先輩の荷物を持って立ち上がる。
「失礼します」
「ありゃ、イデアくんのこと待たないの?」
「クルーウェル先生のところに行くと云っていたので、そちらに向かいます」
「校内って広いしルートもいくつかあるし、すれ違っちゃうかもよ?」
「その時はその時です」
「んじゃ、けーくんがイデアくんに連絡しといてあげよっか。『けーくんと一緒に居たくないから、監督生ちゃん教室から逃げちゃった』って」
扉に向かっていた足を思わず止め、振り返る。
そこにあったのはにんまり、とした意地の悪そうなダイヤモンド先輩の笑顔。さっきまでの笑顔とは正反対の性質を持つ、ソレ。
対する私の顔が引きつったのは云うまでもない。
「あなた、意外といい性格していますよね」
「ありがと☆」
褒めてない。断じて。
とはいえ、本当にそんな文章を送ったりはしないだろう。いくら知恵の輪のごとくひん曲がった性格の持ち主の多いナイトレイブンカレッジでも、そこまで腐ってはいないと、思いたい。
そもそもの話、ダイヤモンド先輩がイデア先輩の連絡先を知っているのかどうかも怪しい。だってイデア先輩、そういうことは特にガード固いし。仮に教えていたとしても、ブロックしてるとか、基本通知オフにしていて自分で確認しない限り気付かない設定とかにはしてそうだ。
だからダイヤモンド先輩の言葉を信じる必要はないし、仮に本当にそんなメッセージを送ったのだとしても本当のことなのだから仕方がない。私は悪いことはしていないはずだ。
……が。
私はどうにか舌打ちを堪え、元通りイデア先輩の席に着いた。ため息は我慢しない。
「わぉ、おかえり!」
「ダイヤモンド先輩は帰らないんですか」
「うん、今日は部活もないし寮の仕事もないし、イデアくんが戻ってくるまで監督生ちゃんと遊んでよっかなって!」
私と、ではなく、私で、の間違いだと思う。
つくづく、ナイトレイブンカレッジ。曲者しかいない場所だと痛感した。
私の元の世界の周囲もなかなかに個性派揃いだと思っていたけれど、ここの人たちには負ける。比べるのも彼らに申し訳ないので、無事元の世界に帰れたら謝ろうと固く心に決めた。きっと彼らは、何のことかと首を傾げるだろうけど。
とにかく今は、この場を乗り切らなければ。
私はほとんどダイヤモンド先輩と関わってこなかったので、共通の話題などない。まぁ共通の知り合いはいても、この場にいない人の話で盛り上がるのもどうかと思う。いや、まぁ、時と場合にもよるけれど、少なくともダイヤモンド先輩と話すようなことではないだろう。
しかしこの距離感に座っていて無言もいかがなものか、後輩としてはそれなりに気を使って話題を振った方がいいのか、ナイトレイブンカレッジ生らしく我を通して黙っているべきか。
ああ、はやくイデア先輩帰って来て。
そんなことを考えていると、キャピッとギャルのような効果音が似合う表情を浮かべたダイヤモンド先輩は云った。
「折角だしもっといろいろお話しようよ~! けーくん、監督生ちゃんに興味あるなっ」
ウィンク付きで弾んだ声を出す先輩に、一瞬驚いて。
それから私は、ハッと息を吐き出した。
「――ご冗談を」
思わず零れた笑いは、図らずも嘲笑のようになってしまった。
驚いたように口を噤んだダイヤモンド先輩が再び口を開く前に、私は云う。
「あなた、本当は誰にも興味なんてないでしょう?」
私の言葉を聞いた、ダイヤモンド先輩の顔といったらなかった。
この顔が見られたのなら多少は溜飲が下がるというもの。
私もこれ以上は云うつもりもないので、バイパー先輩から借りていた占星術の本を黙って読み始める。
ダイヤモンド先輩は、もう邪魔してこなかった。
◇◆◇◆
ケイト・ダイヤモンドという人のことは、少し観察すると面白かった。
彼は明るく朗らかで、いつも周りの人を楽しませるムードメーカー。彼の周りにはいつもたくさんの人がいて、笑いの絶えない人気者。
なるほど、それは確かにその通りなのだろう。
だけど私は気付いてしまった。
「やっほー監督生ちゃん、パーティー楽しんでる?」
参加するつもりなんて微塵もなかったのに、ケーキにつられたグリムに無理矢理同行させられた【なんでもない日のパーティー】は、私にとってまぁまぁ苦痛でしかない。
そりゃあ、紅茶もお菓子も美味しいけれど、グリムが楽しそうにしているのも嬉しいけれど、だからといって『ああ、気分が乗らなくてもやっぱり参加してよかった!』なんて考えられるほど私は楽観的にはなれないのだ。
さすがにここまで来て飲まず食わずでムスッと座っているのも空気が読めなさすぎるので、慣れ合いすぎない程度の会話を交わしながら紅茶に口をつける。
トラッポラとスペードが大はしゃぎで話しかけてくるのと適当にあしらって、ローズハート先輩とは少しだけ勉強の話をさせてもらって、ケーキを独り占めしようとしたグリムをハーツラビュル寮生が総出で止めようとしているのを少し離れたところで見ていたタイミングで、ダイヤモンド先輩に声をかけられた。
「お気遣いありがとうございます。楽しいです」
「よかった~! ってかグリムちゃん止めなくていいの?」
「逃げるのに魔法を使っていますから、私では役に立てません。戻ってきたら叱りますけど」
「あ、そっか。監督生ちゃんは魔法使えないもんね~」
あっけらかんと云われた悪気なさそうな言葉に、私は地味に傷付いた。
実際、ダイヤモンド先輩に悪気なんてなかっただろう。彼は周知の事実を口にしただけだ。私が魔法が使えない魔力もないただの人間であることなんて最初からわかっていたことで、この学園にいる誰もが知っていて、今更そんなことで傷付く私が悪い。
かといってそのまま朗らかに会話が出来るほど私は器用ではないので、役に立たないのは知りつつ一応暴れるグリムを宥めに行こうと席を立つ。
するとダイヤモンド先輩が慌てたように云った。
「違う違う、そういう意味じゃなくて! ごめん、無神経だったね」
嫌味とかじゃないから~、と手を合わせる先輩は本当に焦ったように見えた。少なくともこのときはまだ先輩とまともに話したこともなかったし、私はむしろ、気を使わせてしまったと反省すらした。
今思えば、あれも確実に演技だったのだ。学園を卒業したら役者になるか、そうでなければ詐欺師にでもなってそうだと思う。悪口ではなく、率直な感想です。
とにかくあの時は何も知らなかったので、謝ってくれたのにいじけているのも良くないと気を取り直し、私は大人しくもう一度席についた。そうしてダイヤモンド先輩はとっておきだという紅茶とスコーンを持ってきてくれて、そのまま前の席に腰を下ろした。
「賑やかでしょ、うちの寮」
「そうですね」
「毎日いろんなことが起きるから、飽きないよ~! あ、監督生ちゃん転寮とかしちゃう!?」
「しません」
「え~、つれないお返事っ」
軽口だとわかっているから小さく笑い、私はスコーンを半分に割った。クローバー先輩お手製だというリンゴのジャムは絶品で、ほのかな酸味と程よい甘みがクロテッドクリームとよく合った。
なるほど、これを毎日食べられるのならばハーツラビュルも悪くない。日々の騒動で胃が痛くて死ぬかもしれないけれど。
それから私たちはほんの短い時間だけ会話をした。
他愛ない話だ。
中身なんてほとんどなくて、今となっては『会話をした』ということしか覚えてないほどの内容。
ダイヤモンド先輩は、私がここに馴染む気がないことを察していたのだと思う。だからこそ、深追いせず、ただ表面を触れるだけの会話しかしなかった。
それはきっと、多分――ダイヤモンド先輩も、私と同じだからではないだろうか。
私たちの視線は交錯しない。実入りのない会話を続けながら、ぼんやりとグリムたちの騒動を眺めていた。なんとなく、目を合わせて話したくなかったのだ。
スペードの出した大釜がグリムではなくローズハート先輩に直撃し、怒りの鉄槌を食らっている。申し訳ないけれど少し笑ってしまった。が、こんなところを見咎められたら間違いなく私もお説教コースになるので紅茶を飲むことで誤魔化そうとした。
そのときだった。
不意に、ダイヤモンド先輩が呟いた。
私は、その顔を見てしまった。
「ホンット、飽きないよ、ここは」
――そう、呟いたダイヤモンド先輩の横顔が、声が、視線が。
眩しいものを見るように眇めた目に、軽蔑の色が浮かんでいることに、気付いてしまった。
私は咄嗟に先輩から目を逸らし、逃げるようにグリムを探す。どうやら新しいケーキを持ってきたクローバー先輩に飛びかかったところで御用となり、ローズハート先輩にお説教を食らっている様子。
そろそろ見慣れてきたこの光景に、ホッとする。
ホッとした半面で、私はあの輪の中には入れないだろうと確信する。
何故ならば私はこの世界の人間ではない。
単純な話を更に複雑にするのは、ここが魔法学校であるということ。学園長の長い話を聞き終わった後に呟いたハリー・ポッターか、という私の言葉に同意してくれる人も笑い飛ばしてくれる人もここにはおらず、ただ不思議そうにグリムに見上げられただけだった。
そう、魔法学校。
この学園に通う生徒はもちろん、教員や事務職員に至るまで全員魔力持ちの魔法使い(この世界では魔法士と呼ぶらしい)の中、私にはもちろん魔力なんてない。
つまり、魔法が使えない。
だというのに魔法学校に通っているのだから、そりゃあ浮くに決まっている。
私を気に食わない生徒も大勢いるし、彼らはそれを隠さない。面白いくらいにテンプレートな嫌がらせを受けることもしばしばあるけれど、慣れてしまえばどうということはなかった。ただ、勉強道具にダメージがある系の嫌がらせだけはしっかり報復して二度とやるなと灸を据えることは忘れない。
しかし、放っておけばいいのに私に構ってくる奇特な人も中にはいて、その筆頭がハーツラビュルの何人かだ。
彼らはいくら私が突っぱねてもめげず、今日だってほとんど押し切られる形で【なんでもない日のパーティー】に参加することになってしまった。ケーキで釣られたグリムだけを連れていけばいいのに、連帯責任だ、なんて云われたら半人前としては何も云えない。
彼らは優しい。
魔力もなく魔法も使えず、この世界の常識を何も知らない私を気に毒に思っているのだろう。
善意なのだと思う。
少なくとも、悪意ではない。
けれど、それでも――私はあの輪の中には、入れない。
ケイト・ダイヤモンド先輩。
彼は明るく朗らかで、いつも周りの人を楽しませるムードメーカー。彼の周りにはいつもたくさんの人がいて、笑いの絶えない人気者。
それは半分正しくて、半分間違い。
多分ダイヤモンド先輩は、人に興味がない。
だから誰にでも優しくて、笑顔を絶やさない。
誰のことも信じていないから。
ツンケンするより、笑顔の方が都合がいいから。
優しい態度と言葉で分厚い壁を築き上げ、誰からも等しく距離を取る。
ダイヤモンド先輩のあの視線の意味。
そうか、と唐突に納得した。
この人も、あの輪には入れないのだ。
◇◆◇◆
「お待たせーっ!!!」
イデア先輩が教室に帰ってきたのは30分くらい経ったころだろう。植物園の実験室に呼ばれたのではなく、校内ある方の先生の執務室に呼ばれていたらしい。少ない体力で一生懸命走ってきたようで、先輩は可哀想なくらい疲れ果てていた。
げっそりとした顔で息をする先輩に、私は占星術の本を閉じながら声をかける。
「おかえりなさい、イデア先輩」
「もう秒で終わらせたかったのにクルーウェルのやつぐだぐだお説教だよ……勘弁してクレメンス。監督生氏が待ってるって云ったら解放してくれたけど、云わなかったら多分あと一時間はお説教だったね」
「先輩、何をしたんですか……」
「ん? いやいい加減実験くらい出ろって云われたからドローンに拙者のAI仕込んでそれに実験させたこと怒られた」
すごいのにすごいの方向性が斜め上すぎる。なんというか逆にイデア先輩に出来ないことってなんなのだろう。はだか祭で年男になることとか、そういうこと以外で出来ないこと、あるの?
多分クルーウェル先生も、教育者として怒らなければならない気持ちと、純粋にドローンにそんなAIを積み込む先輩の技術を褒めたい気持ちで揺れていたんじゃないだろうか。
この表情からするに先輩はこれっぽっちも反省していないようだし、今後薬学実験で一緒になったら是非ドローンを観察したい。イデア先輩って、普段の生活はともかく自分の得意分野に関することは絶対の自信を持っているからものすごく強気になるから、見ていて新鮮だしほっこりする。
大きなため息の後顔を上げたイデア先輩は、教室の中にダイヤモンド先輩の姿を見つけて驚いたように目を見開いた。
「って、あれ、ケイト氏も一緒だったの?」
「うん、監督生ちゃんとお話ししてたんだ~!」
笑顔で云うダイヤモンド先輩は、つくづく役者だなぁと感心する。
ついさっきまで無言だった癖に。
この組み合わせは意外だったらしいイデア先輩はぱちぱちと瞬きをし、ややあって嬉しそうに笑った。
え、嬉しそう?
イデア先輩が笑顔になるのはいいことだけれど、あまりにも脈絡がなさすぎて私は呆気に取られてしまった。だって今の会話の中で、先輩が嬉しがるような内容はなかったと思う。
もしかして矢羽? 矢羽で特殊な会話していますか? この世界、忍者がいるんですか?
などとくだらないことを考えていると、ポンとイデア先輩に頭を撫でられる。
もちろん嫌ではないけれど、今の先輩はいつもと違いすぎて純粋に戸惑うしかない。
本当にどうしたんですか、イデア先輩。
心配になってオルトを呼ぼうかと考えていると。
「ケイト氏、監督生氏と一緒にいてくれてありがとね」
息を、飲む。
途端、何故だか私はたまらないような気持ちになって、お兄ちゃんの顔をしてニコニコと云うイデア先輩の腕にしがみつき、引っ張るように歩き出す。
「行きましょう、イデア先輩」
「あ、うん、行こ行こ。遅くなるとアズール氏うるさいし」
じゃあねケイト氏、と言葉を残すイデア先輩と歩きながら、私はどうかこの顔をイデア先輩には見られませんようにと願った。
そうして、振り返り。
「さよなら、ダイヤモンド先輩」
「さよなら、監督生ちゃん」
にこっと笑顔を浮かべる。
お互いに、薄っぺらい笑顔だと今ならわかる。
だけどきっとそれを私たちは指摘しない。
私はイデア先輩に心配をかけたくなくて、ダイヤモンド先輩はイデア先輩に妙な親近感を抱いているから現状維持したいのだ。
なんて浅はかな打算だろう。
でも、私にはダイヤモンド先輩を嗤う資格はないのだ。
だから、お互い、知らないふりをして笑う。
これは一種の同族嫌悪だと、私たちは知っていた。
ボードゲーム部の部室に向かいながらの会話
「ケイト氏ってさ、基本パリピの陽キャ側だけど、たまにじめっとした感じ出てるよね」
「……気付いてたんですか?」
「ん? いや、まぁ気付くよ。多分親近感とか持たれてるっぽいし」
「イデア先輩って……」
「え、な、何?」
「いえ。あなたにないものってなんなのかなって」
「何云ってんのいっぱいあるじゃん」
「顔がよくて優しくて頭が良くて強くてかっこよくて人のことちゃんと見てるなんてパーフェクトじゃないですか」
「うっそ監督生氏眼科行こ? いいとこ紹介するから」
「そんなこと云うなんて酷い。アズール先輩に云いつけてやります」
「やめてぇ!! 蛸壺に押し込められて海に流されるぅ!!」