「やっほ~小エビちゃぁん」
背中から掛けられた声に振り返った監督生は首を傾げた。
そこにいたのはつい昨日から働き始めたモストロ・ラウンジでも学生としても先輩のフロイド・リーチ。
昨日まではほとんど接点はなかったけれど、以前から何かと物騒な噂だけはよく耳にする人だった。ついでに、ものすごい気分屋であるということも。
とはいえこの監督生は噂は噂としても自分で確かめたことしか信じないタイプなので、現状ただの先輩であるフロイドに几帳面に足を止めて軽く頭を下げて挨拶を返した。表情はといえば、相変わらずの不愛想な無表情のままだけれど。
「おはようございます、フロイド先輩」
「おはよぉ。小エビちゃん今から魔法薬学っしょ? 合同でオレもなんだよね~」
だから一緒行こぉ、と。
一見裏のなさそうな笑顔でひらひらと手を振るフロイドは、どうもご機嫌そうである。彼の場合は機嫌は常に一過性なのであまり信用ならないが、あまり穿った見方をしすぎてわざわざ機嫌を損ねるのも得策ではない。
どうせ目的地は同じなのだからまぁいいか、と自分に納得させ、監督生はフロイドと並んで歩き始めた。
ちなみに、監督生の足元を歩いていたグリムは、声の主がフロイドだと気付いた瞬間に消えていた。猫のくせに魚が怖いとは何事か、と今度しっかり話し合おうと監督生はひっそり心に決めた。
道中フロイドは一方的に、他愛ない話をした。やれ昨日の仕事は大変だっただの、朝ご飯のゆで卵が半熟で危うく黄身を零すところだっただの、本当になんてことない日常の話だ。
聞き役の監督生は邪魔にならない程度に相槌を打ち、時にはフロイドが求めていそうな返答をする。これが実はなかなかに難しいのだけれど、監督生はそういった無難な会話というのが得意だった。一体何故自分相手にこんな話をするのかはいまいちわからないが、単にそういう気分だったのだろうと自分を納得させる。
それに彼は気分屋で飽き性だと聞いていたし、昨日少し話しただけでもその通りなのだろうとわかっていたので、すぐに飽きてどこかに行ってくれるだろうと少しばかり期待していたのは彼には内緒である。
が、監督生の目論見とは裏腹に、まったく飽きる様子なくフロイドは自身の隣をピッタリと歩き、ついに揃って魔法薬学室にまでたどり着いてしまったとき、堪りかねて訊いてしまった。
「……どういう風の吹き回しでしょう」
「え、何がぁ?」
上機嫌にへらへらと笑うフロイドには何を云っても無駄そうだ、と監督生は早々に諦め、大人しく並んで教室に入った。
「どういう風の吹き回しだ?」
「なーんでイシダイせんせぇも小エビちゃんと同じこと云うわけぇ?」
「お前が一限の移動教室に遅刻せず来ているから驚いただけだ。仔犬、何かあったらすぐに報告するように」
監督生は内心拍手喝采した。
担任としても頼れるし、同じ理系としてもその授業内容やら話し方は親近感を持っていたクルーウェルに対し、ここで更なる信頼を確信した。
やはり頼れるのははっきりものを云う大人である。
気まぐれフロイドが監督生とペアを組むと宣言した途端、先に教室で待っていたグリムがエースデュースの間に隠れたのを横目に見た監督生は、今日のご飯は絶対に自分で用意させようと決め、クルーウェルの言葉にしっかりと頷いた。
そして授業が開始され、少しして。
「……フロイド先輩」
「ん~?」
「手伝ってくださる気はありますか?」
現在、絶賛魔法薬の生成実験中である。
合同授業とはいえメインは1年生の授業向けの簡単で初歩的な『髪の毛の色がカラフルになる薬』だが、少々手間はかかるのが今回の課題薬だった。
しかしフロイドは監督生が準備をしている様子をじっと眺めているだけだったのである。途中多少アドバイスのようなものはもらったけれど、基本的には監督生の動きを見ているだけで手は出さない。
これでは一人でやっているのと変わらないではないか、と監督生が思うのも当然だった。一体何のための2年生との合同授業なのか。
必死の努力である程度成績は追いついたとはいえ、まだまだ監督生自身自分の成績に不安はある。
いつもならばグリムとああでもないこうでもないと試行錯誤しながら進める実験も、今日はフロイドという先輩が傍にいるのだから、せっかくだから先輩なりのアドバイスをもらいながら勉強したいと思っていたのに。
しかしフロイドは、きょとんと眼を見張ってから楽しそうに笑った。
「小エビちゃん、ぜ~んぶ出来てんじゃん」
「はい?」
「だってさぁ、必要な薬草も薬品も器具もわかってるみてーだしぃ。まぁ薬草でちょっと悩んでたっぽいけど、ちょっとヒントあげただけで理解したじゃん? 下準備も手順も正しいし、オレ手伝うことなくね?」
ボーっとしているだけかと思いきや、一応そのあたりはちゃんと見てくれていたらしい。
しかも、割と高評価。
フロイドは適当で気まぐれだけれど、こういう時に適当なことを云う人ではない。
つまり監督生はフロイドに、この程度の実験ならば一人に任せられる、と判断されたわけだ。
「……何か間違いがあったら教えてください」
「おっけぇ」
これは、正直嬉しい。
今まで必死で勉強してきたことを認められたようで、嬉しかった。
ならば、応えようと監督生は思う。
単純かもしれないけれど、監督生は誰からであろうとかけられた期待には応えたいタイプだった。
にへらと笑って指で丸を作ったフロイドに、絶対成功させてみせようと監督生は意気込んだ。まぁ、その意気込みが表情に出ることはなかったけれど。
しばらくの間、監督生は実験に集中した。
実験にはある程度遊びの利くものと利かないものが結構極端に分かれていて、これは慎重に進めなければならないと教科書にも書いてあったから、監督生は予め手順をすべて頭に叩き込んでいた。いちいち教科書を確認しながらでは効率が悪いと思っていたし、監督生はこういう暗記は得意だった。
指定された薬品を大釜に入れ、指定された時間と速度でかき混ぜ、更に薬草を投入し、温度調節も怠らない。
順調だった。
教科書にあった通りの色と反応だったし、材料も順番に投入で来ている。
これは成功する、と監督生は半ば確信していた。
そうしてあとは最後の仕上げの薬品を投入して時計回りに5回混ぜれば完成だ。
ここまでフロイドはただ見ているだけだったということは、ずっと正しかったということ。
初めて作る魔法薬で失敗しなかったことが嬉しくて、フロイドの期待に応えられたことが嬉しくて、早く完成させた魔法薬をフロイドに見せたくて、――だから監督生は少しだけ、気が急いた。
それが、失敗だった。
「小エビちゃんストップ、それ入れてからは速く混ぜすぎると――……」
「え?」
「あ、ヤベッ」
フロイドの言葉と同時、腕を強く引かれる。それと同時に、カッと目の前が明るくなって思わずぎゅっと目をつむった。
教科書の注意事項として記載されていた失敗例の爆発だと遅れて気付き、その瞬間背中が凍るように冷たくなった。
そして数瞬遅れて聞こえた、ドンッ、という衝撃音。
が、痛みはない。
監督生は浅く息を飲み、自身を包む温かさにゆっくりと目を開ける。
「小エビちゃん、平気ぃ?」
「――……」
「びっくりした? まーでもこの程度の爆発自体は実験やってると割とあるからだいじょーぶ。怪我してない?」
ぱたぱたと手を振りながら云うフロイドの優しい声を聞きながら、監督生はバクバクと拍動し今にも口から飛び出してしまいそうな自分の心臓を抑える。
今日のような製薬実験は初めてではない。元の世界にいた時にも理科や化学で似たような実験は何度もしていたし、こちらにやってきていてからだって普通にやっていた。
ただ、今まではあんなふうに爆発したことはなかった。
元の世界で読んだ漫画なんかでは実験中の爆発はよく見る表現だったけれど、てっきり誇張されたもので、実際にはそういったものを作る実験でない限りは爆発なんてしないと思っていたのだ。
だから純粋にびっくりした。
小規模とはいえ、自分の目の前で、自分のせいで、自分の手の中で爆発したということが、恐ろしかった。
フロイドはよくある話だと云っていたが、もしや今後も一つ失敗すると爆発するような魔法薬を作ることもあるのだろうか。
そう考えると、やはりこの世界はやっぱり異世界なのだと思い知る。
ここは魔法が存在する世界。
パッと見が同じようであっても非人間が大勢いて、自分の常識は通じないものが大多数。
そんな世界なのだから、実験で爆発もするだろう。
だから受け入れろ、怯えるな。
――ここは、そういう世界だ。
そう自分に云い聞かせながら何度か深く息を吸い込んだところで、監督生は漸く今の自分の状況に気付き、ハッとした。
爆発したのに、何故自分は無傷なのか。
ゴーグルはしているけれど、魔法が使えない監督生は当然防衛魔法などかけていない。
答えは、フロイドが監督生を庇ったからだ。
あの腕を引かれる感覚はフロイドが監督生を庇うための行為で、フロイドは大釜に背を向ける形で監督生との直線上に立っている。つまり簡単にいうと、抱きしめられている形だ。
「あり、がとう、ございました」
慌てて腕を突っぱね、フロイドから身体を離す。
いくら『周囲が男と認識する魔法』をかけられているとはいえ、ここまで密着してはもしかしたら自分が本当は女だとバレてしまうかもしれない。
そもそも監督生は、どういう条件で魔法が発動しているのか知らないのだ。そのあたりの説明は、この魔法を施したのであろう学園長から何もされていなかった。
もしものことを考えて、バレる可能性があるようなことはなるべく避けねばならない。
なぜならここは男子校だ。そこに、いくら特例とはいえ女子が一人いるとなればあらゆる面で問題が発生する。
おそらく学園長はそれを見越してこの魔法をかけたのだろうし、監督生自身性別がバレてメリットは何もないのだから、隠し通すに越したことはない。
どうかバレていませんようにと願いつつ、二つの意味で早鐘を打つ心臓に収まれと念じる。
実験に失敗したことと、不可抗力とはいえ異性に抱き締められて目を泳がせる監督生は相も変らぬ無表情ではあるけれど、その瞳には隠し切れない動揺の色が見えた。
それを確認したフロイドは、ほんの一瞬目を細めたあと、パッといつものへらりとした笑顔を浮かべる。
「ん、いーよぉ」
両手を上げておとなしく監督生から身を引いたフロイド・リーチ。
この時点で確信を持った。
監督生は女だ。
見た目は完全に男だと思う。
抱きしめた感触も確かに男のものだった。
どこからどう見ても男で、女らしい言動をしたわけではない。
視覚的には完全に監督生のことは男だと認識している。
が、彼の勘が告げているのだ。
監督生には何らかの魔法がかかっており、自分たちは男だと錯覚させられているだけだ、と。
故に、監督生に対する態度をはっきりと決めた。
どういう理由かは知らないが、魔法で性別を偽ってまでNRCに在籍しているのだ。それなりの理由はあるはずである。
基本的に気分屋だし気まぐれだし、自分の気の赴くままにしか動きたくないフロイドだけれど、本能的に女性・雌は大切にするものだと思っている。
だから監督生が性別を偽って学園に通うならば、本当の性別を知ってしまった自分はそれをサポートしてあげるのが当然だと思う。だってそれが雄である自分の役目なのだ。まぁ、それはちょっかいをかけない、ということには繋がらないのもまたフロイドという男だった。
監督生の性別に疑いを持っていたからこそ爆発の衝撃から守ったし、疑いの核心を突けるかもしれないと思ってどさくさに紛れて監督生を抱きしめたけれど、結果的にそれが功を奏した。
もっとも、小規模とはいえ初めて目の前で爆発を起こした事実にいまだ動揺している監督生は、フロイドが自分の本当の性別を知ってしまったなんて気付いていないのだけれど。
「大丈夫か仔犬ども」
他の生徒を見ていたクルーウェルは、爆発音を聞きつけて二人のもとへやってきた。大釜と二人の様子を見て状況を察したらしい。小さくため息をつき、まだ少し呆然としている監督生に落ち着くように声をかけた。
「あ、イシダイせんせー、ちょっと最後の調整だけミスったから、もっかい材料もらうね~」
「何? 最後?」
片眉を上げて繰り返したクルーウェルに、フロイドは頷く。
「そ、最後だけぇ。そこまで小エビちゃんがぜぇんぶやったの。すごくね?」
「お前は見ていただけか、リーチ」
「うん。だって小エビちゃん一人で出来んのに横から手ぇ出すとか逆に邪魔じゃん、ただでさえ慣れてねーのに~」
これに驚いたのはクルーウェルだ。
本来ならば何のための2年生との合同授業だと叱るところだが、確かに魔法薬の取り扱いに慣れていない監督生にいちいち口を出すのは逆に野暮だ。緊張しすぎて手順や材料を間違えてしまう可能性は捨てきれない。
まさかフロイドはそれを見越して監督生に一人でやらせたというのだろうか。
あのフロイド・リーチが?
監督生の正確さを信頼して任せた?
もしそれが本当ならば青天の霹靂だ。
が、デイヴィス・クルーウェル32歳魔法薬学教師。
本日二度目のどういう風の吹き回しだという問いをなんとか飲み込んで材料を取りに行ったフロイドを見送り、漸く落ち着きを取り戻してきた監督生に向き直る。
少々顔色が悪いのは、爆発なんてさせてしまった負い目だろう。これまでの授業ではつたないながらもその成績はなかなかに良いものだったから、初めてと呼べる失敗に動揺しているのだろうとクルーウェルは思った。
「仔犬、怪我はないか」
「は、はい。大丈夫です。すみません、私がフロイド先輩の話をちゃんと聞いていなかったので」
「いや、そこは気にするな。むしろお前は事情が違うのだから、俺が見ておくべきだった。が、」
怒られる。
クルーウェルの厳しい表情を見てそう判断した監督生が、落ちるであろう雷に備えて身を固くしていると。
「Good Boy! この薬は一つ手順でも材料でも分量でも間違えるとその時点で使い物にならなくなる。手際よく一人で最後の手順まで進んだことは褒めてやろう」
ただし失敗は失敗なので後でレポートを提出すること、と云い残し、クルーウェルは満足そうな笑顔を見せた。
こんな初歩的な薬で失敗するなんてこの駄犬が、的なお説教を覚悟していたので、思いのほか優しい対応にちょっとだけ監督生は泣きそうになった。
他のペアは爆発なんてさせていないので、自分が未熟だったのだろうと落ち込んでいたのだが、実は他のペアは爆発を恐れてまだ手順の確認をしていただけだということを監督生は知らない。つまり、材料集めから手順の確認、実際の実験に至るまで、監督生が一番乗りだったのだ。自分のことで手一杯な監督生が、それに気付くことはなかったけれど。
その後改めてすべての材料を集めてきたフロイドと、今度は先にすべての手順と注意点の確認をしてから再度実験を再開。
今度は見事に『髪の毛の色がカラフルになる薬』を作り上げ、何故か終始妙に上機嫌だったフロイドに無理矢理ハイタッチをさせられた監督生は、クルーウェルから文句なしの『Good Boy!』を獲得した。
「フロイド先輩、ありがとうございました」
授業後、律儀な監督生がもう一度フロイドに頭を下げると、やっぱり楽し気なフロイドは思い切り監督生の頭を撫でまわした。
「すごかったねぇ小エビちゃん、いい子いい子、偉い子~」
「……リーチ。いくら年下でも同性にそれはないだろう」
「え? あー、う~ぅん。まぁいいじゃん、小エビちゃんってほら、可愛いし」
「まぁ……褒め言葉ではあるんだろうな、お前にしては。仔犬、嫌なら嫌だとはっきり云うんだぞ」
「なにそれ~、ヤじゃないよね小エビちゃん?」
ぐりぐり、なでなで。
まるで愛玩動物にでもするようにわしゃわしゃと監督生の頭を撫でる様子に、片付けをしていたクルーウェルは呆れた様子で声をかけるが、フロイドは全く意に介さずその手を止めずに首を傾げた。
なんだか妙に気に入られているのではないかとちょっと複雑な気分の監督生は、鳥の巣みたいになってしまった髪を気にしながら慎重に云う。
「嫌ではないですが、髪が乱れるのでそろそろ勘弁してください」
「あ、ほんとだぐっちゃぐちゃ。あっはは、小エビちゃんの頭、もずくみてぇ」
「……フロイド先輩がやったんですよ」
「ごめんごめん、あっはっは」
「じゃれるのはそれくらいにして、もう予鈴がなるぞ」
そうクルーウェルが云った途端本当に予鈴が鳴ってしまい、慌てて監督生は教室を飛び出した。
当然予鈴程度で慌てるはずのないフロイドがついてくることはない。そもそも次は1年の基礎魔法史だからフロイドとは別授業なのだが。
「お先に失礼します、フロイド先輩」
「うん、またね~小エビちゃん」
ゆったりと手を振るフロイドに頭を下げ、今度こそ監督生は走り出す。
昨日話した感じと今日で、フロイドは少し自分に対する態度が違った気がするのは気のせいだろうか。
不思議だったけれど、今は確かめている暇はない。あと5分で本鈴が鳴る前に、今は教室に急がねば。
◇◆◇◆
昼休み、大食堂に向かっていた監督生を呼び止める者がいた。
「こんにちは、監督生さん」
「……こんにちは、ジェイド先輩」
「おやおや、そんな嫌そうな顔をされると悲しいですね」
嘘をつけ。
わかりやすいほどの嘘泣きをしてみせるジェイドに、出来うる限りの精神力を以て監督生はため息を飲み込んだ。代わりに苦虫を嚙み潰したような顔だけは隠せない。
監督生がこちらにやってきて以降、こうして声をかけてくる人なんて数えるほどしかいなかった。それは入学式の時のトラブル以降なんだかんだ関わりのあるハーツラビュルのメンバーであったり、寮対抗マジフト大会の件で不本意ながら顔見知りになってしまったサバナクローの面々であったり。
しかもそれだって頻繁にではないし、監督生が必要以上の馴れあいを拒んでいると察しているので基本的には放っておいてくれている。
だというのに、今日はなんだ。
つい昨日まともに顔を合わせたばかりの人たちが、揃いも揃って馴れ馴れしく声をかけてくる。
フロイドは授業が同じだったからと思えば理解できるが、ジェイドは絶対に狙ってきたのだろう。だってそうでなければ今までほとんど関わりがなかったのに、急に同じ日に二人から声をかけられるなんてありえない。
これでアズールまで現れたら役満だな、と考えながらジェイドの出方を窺っていると、噓泣きを引っ込めたジェイドは云った。
「僕、今から昼食なんです。よろしければご一緒しませんか?」
「いえ、結構です」
「結構ですか、それはよかった。ささ、席が埋まる前に行きましょう!」
「い、いや、あの!?」
ぱぁっと嬉しそうな笑顔を浮かべたジェイドは、がっしりと監督生の肩を掴んで進めや進めと背中を押す。それから運良く二人分の席を見つけると、場所取りのために一旦席につかせた。もちろん肩は掴まれたままだったので、監督生が逃げ出すことは出来なかった。
「お断りするという意味だったのですが」
「おや、そうだったんですか? 言葉って難しいですねぇ」
困ったように眉を下げ、白々しい溜息を吐くジェイドに、監督生はなんとか舌打ちを我慢した。
今から他の席を探すのは億劫だし、仕方ない。さっさと食べてさっさと退散しようと心に決め、監督生はジェイドとの昼食を覚悟した。
「監督生さん、何を食べますか? キノコのリゾットなんてどうです? あ、キノコのクリームパスタもいいですね」
「いえ、私はキノコはそんなに」
「はい?」
「……キノコのリゾットにします」
「いいですね! それでは僕が買ってきますので、監督生さんは席を守っておいてください。僕、絶対監督生さんのもとに帰ってきますから」
どんな口説き文句だ。
上機嫌に受付に向かってしまったジェイドの背中をやや呆然と見送りながら、本日何度目になるかわからないため息を吐き出した。
NRCでもトップレベルにヤバいやつ認定されているジェイド・リーチに捕まった監督生に周囲からは憐れみの視線が向いていたが、残念ながら助け船を出す者はいない。誰だって自分のことが一番かわいいのだ。
数分後、お盆に山盛りの料理を乗せて戻ってきたジェイドに、監督生は呆気にとられた。
キノコのクリームスパゲティ、オムレツ、ハンバーグ、牛肉の香草焼き、温野菜サラダ、マッシュポテトにコンソメスープと、監督生用のキノコのリゾット。いくら食べ盛りの男子高校生とはいえ、とてもじゃないが正気の量じゃない。今からフードファイトでもするのだろうか。
そんな監督生の疑問は顔に出ていたらしく、ジェイドは少しだけ照れたように『僕、ちょっと大食いなんです』と云った。ちょっと。これはちょっとと云っていい量ではない。
が、いつもの嘘くさい笑顔ではないにこにこと心から嬉しそうな笑顔を浮かべて食べ始めたジェイドに物申す気にはなれず、監督生はいろんな言葉を飲み込んだ。
キノコのリゾット分のお金をジェイドに支払い、いざ食べようとスプーンをリゾットに差し込んだところでハッとする。
今日はグリムは基礎魔法史で通算10回目の居眠りをしたせいでトレインの手伝いを命じられており、昼食には少し遅れてくる予定だ。しかも、ジェイドと一緒にいる監督生には近寄ろうとはしないだろう。
となると、困る。
一瞬考えた監督生は、笑顔のまま掃除機のように料理を片付けていくジェイドに控えめに声をかけた。
「ジェイド先輩、よかったらこれ、半分食べませんか?」
ほこほことおいしそうな湯気を立てているキノコリゾットを差し出すと、ぴたりと手を止めたジェイドは大きく目を見開いた。口に入っているものをしっかり飲み込んでから、首を傾げる。
「……体調が悪いのですか?」
「そうではないです。私、もともとそんなにたくさん食べないので、普段は半分グリムに食べてもらってるんです」
「なるほど」
大食堂の料理は、男子校の食堂らしく最初から多めに盛られている。もちろん頼めば少なめにもしてくれるし、ビュッフェを選べば自分の好きな量を持ってこられるけれど、基本的にグリムとニコイチな監督生は同じ値段でたくさん量があるメニューを選んで二人で分けることが多かった。そのほうが経済的だからだ。
なので、グリムがいない今このキノコリゾットをひとりで完食するのは難しい。かといって残すのももったいない。
すでにジェイドは山盛りのご飯を抱え込んでいるが、リゾット半分くらいだったら追加でいけるんじゃないかと思い提案してみると、納得したように引き受けてくれた。
これでやっと一安心し、監督生もキノコのリゾットを口に運んだ。
どうやらジェイドは大食いの上に早食いらしく、監督生がゆっくりとキノコのリゾットを完食するのとほぼ同時にすべての料理を完食してしまった。ちょっとしたエンターテイメントを見ていた感覚になり、内心拍手を送る。自分では到底食べきれない量をあっという間に食べてしまう様子はいっそ清々しい。
満足気に食後の紅茶を楽しむジェイドに、同じように紅茶を手にしていた監督生がそういえばと口を開いた。
「今日、魔法薬学の授業でフロイド先輩と一緒だったんです」
「そうだったんですか。確か一限でしたよね? よくフロイドが間に合いましたねぇ」
「ジェイド先輩はご存知なかったんですか?」
「ええ、クラスが違うので。さすがにすべての日程を把握しているわけではありませんよ」
双子といえどクラスが違えば常に一緒というわけにはいかない。
苦笑しながら零した双子の片割れに、それもそうかと監督生は納得する。
関わり合いになる前からリーチ兄弟とアズールのことは遠目から見たことがあったけれど、だいたいいつも三人一緒だったのでてっきりいつでもどこでも一緒なのかと思っていた。
そういえば今もジェイドは一人だ。授業が別々でも昼は合流するのかと思ったのに、そうでもないということだろうか。
否、それとも、理由があって一人なのか。
監督生は賢い。
この世界の勉強は初歩の初歩から詰めているがすでに地頭の良さは教師陣の知るところであるし、勉強面以外でもあらゆることを器用にこなせるポテンシャルがあった。また、いきなり異世界に飛ばされても発狂せずなんとか順応できる柔軟な精神力を持っており、事情があって人を観察する目に長けている。
そして、フロイドの勘のような不確かな要素ではなく、今日自分を訪れたウツボの兄弟を観察した結果一つの確信を得ていた。
すっかり飲み干した紅茶のカップをかちゃり、とソーサーに置いた監督生は、顔を上げジェイドをまっすぐに見つめ、ずばりと云った。まだるっこしいのは好まないのだ。
「何を企んでるんですか?」
「企むだなんて、人聞きの悪い」
対するジェイドが動じた様子はなく、昨日からいくらか見慣れたニッコリ笑顔で返される。これは笑顔で押し切ろうとしている顔だとわかる。が、おとなしく引き下がるつもりもない。
しばらく二人はそのまま見つめ合った。
片や真顔、片や笑顔。
その様子は周囲には異様に映っていたけれど、もとより他人の目を気にするような二人ではない。
見つめ合っていた時間は果たして一分だったのか五分だったのか、はたまた数秒だったのか。
「……証拠がないと、これ以上は問い詰めることは出来ませんね」
埒が明かないと悟った監督生が諦めてため息を零したのが合図だった。
「ごちそうさまでした。私はお先に失礼します」
「ええ、お付き合いいただきありがとうございました。楽しかったですよ」
本心から云ったジェイドの言葉を、しかし監督生は胡乱気に細めた目で返す。
それからすぐに踵を返し、午後の授業に向かって行ってしまった。
ジェイドはその背中を見送りつつ、ぽつりと誰にも聞こえないような声の大きさで零した。
「なかなかどうして、勘のいい人ですねぇ」
監督生は知らなかった。
証拠がない、とそういう彼女こそ、こちらに証拠集めをされていることを。
席を立ったジェイドは、スマホを確認した。
そこには集合時間と場所の連絡が来ており、もうすぐ待ち合わせの時間が迫っていた。
もちろん、片割れと幼馴染との情報共有のミーティングの予定である。
◇◆◇◆
「今度はアーシェングロット先輩ですか」
「人の顔を見るなりその反応とは、傷付きますねぇ」
「私に付きまとったところで、面白い情報は何もありませんよ」
「おや、フロイドがあなたと合同授業だったのも、ジェイドがランチタイムにあなたを見かけて声をかけたのも、今僕が図書館にいるのもすべて偶然だというのに、まるで僕たちが示し合わせてあなたに会いに来ているような言い草じゃないですか」
「違いますか?」
「ノーコメントです」
もはや監督生はため息を隠そうとはしない。
あまり人の来なさそうな一角を陣取って本を広げていた監督生の隣に陣取ったアズールは、うんざりした様子の監督生を咎めることなく笑顔で対応した。
完全にジェイドとデジャヴである。
もうこれでとどめの三人目。よくもまぁ偶然だなどと云えたものだと逆に感心しつつ、一応はひとつ確認しておかねばと監督生は云った。
「昨日の仕事で何かあったのなら云ってください。改善出来るところは改善します」
「あなたの仕事ぶりは完璧でしたよ。今後もあの調子で是非よろしくお願いしたいところです」
どうやら不興を買ったわけではないらしい。
昨日の時点では仕事は続けていけそうだと手ごたえを感じていたし、三人の反応も上々だと思ったけれど、もしや自分が帰った後にとんでもない失敗が発覚したのかという心配は杞憂だった。
ならば、何故こうもオクタヴィネル3トップがこうも自分に構ってくるのか監督生には全く心当たりがなかった。まさか性別を疑われてその証拠集めをされているなどとは夢にも思っていないのだ。
フロイドは単に授業が一緒なだけだったけれど、ジェイドは会話こそ普通だったが何かを探るような視線は隠せていなかったし、目立たない場所で静かに勉強していた監督生を見つけ出してわざわざ隣に座ったアズールが何の目的もないわけがない。
一体何なのかとうんざりしながら、もう無視して勉強を続けようと本を開くと、ふと影が出来て顔を上げた。
「占星術ですか?」
横から本を覗き込まれて、ギョッとした監督生は思わず身を引いた。ほとんど反射だった。
しかしアズールがそれに言及することはなく、軽く内容を確認するように目を走らせる。
「……ええ、今まで馴染みがなかったので、基礎から固めたくて」
「でしたらその本よりもおすすめがありますよ。少し待っていてください」
はぁ、と気の抜けた返事をすると、満足そうに笑ったアズールは席を立った。問題の本を取りに行くのだろう。
アズールの背中が本棚の間に消えたのを確認し、監督生は思い切り息を吐き出した。
心臓に悪い。
エースやデュースもそうだったけれど、まさかオクタヴィネルの三人までとは。
何がって、距離感の話である。
近い。
それはもう、近い。
純正培養日本産の監督生にとってはものすごいカルチャーショックだった。
同性に見られているから余計にそうなのかもしれないが、気軽に肩を組む、ハイタッチを求めてくる、何より一番は顔面の距離感。彼らは自分の容姿がとんでもなく整っているという自覚がないのだろうか。気軽に手元の本を覗き込んで来たり、内緒話をするように耳元でささやいて来たりと、普通に困る。これが男子にとっては普通の距離感なのだとしたら、今後が非常に不安だ。
だっていくら彼らが監督生を男だと誤認していようと、実際のところ監督生は女だ。
彼らに対して恋心など砂粒大ほども抱いていないけれど、整った容姿が自分の顔の近くに来てドギマギしないほど監督生の感情は死んでいない。何度も云うが、表情に現れないというだけで監督生にもちゃんと感情があるし、羞恥心やそれなりの乙女心だって持ち合わせているのである。
エースやデュースはまだいい。彼らは監督生の意思を尊重して、必要以上に構ってこようとはしないから。
が、オクタヴィネルの三人は、どうもわざわざ向こうからやってきて、監督生の反応を楽しんでいる節がある。フロイドに抱き締められたのは不可抗力かもしれないが、ジェイドが肩を掴んできたのは絶対にわざとだし、先ほどのアズールも意識的だったような気もした。
……その手のアプローチだったらどうしよう。
万が一の可能性に気付いてしまい、ゾッとする。
残念ながら監督生が彼らの気持ちに応えることは出来ない。だって男と認識されているはずの監督生にアプローチしてくるということはつまりソウイウコトなわけで。本当は女なので。無理です。
まぁ、それとは関係なく、いずれ元の世界に帰る人間なのだから、この世界の人たちには深くは関わらない、と監督生は決めている。
いろんな意味でごめんなさい案件だった。
そんなことを考えながら重い気持ちでページをめくっていると、アズールがこちらに戻ってきたのが見えた。いっそそのままどこかに行ってくれたらよかったのに、と思ったのは紛れもない本心である。
「これです。それは基礎が固まってから読んだほうが理解が深まるでしょう。こちらのほうがより初心者向けです」
どうぞ、と手渡された本は初めて見る表紙だった。さっきまで読んでいた本は担当教師から勧められたもので、難しくて理解が大変だったのだが、今アズールが持ってきたものはパラパラと開いただけでもわかりやすそうなものだった。ちゃんと監督生のレベルを鑑みた本を見繕ってくれたらしい。
これなら勉強も捗りそうだ。
と一瞬気分が上がった監督生は、しかし次の瞬間には嫌な予感に襲われる。
だってこれを持ってきてくれたのはアズール・アーシェングロット。
がめつく強欲で、海の魔女の慈悲を笠に着て理不尽を振りかざす商人だ。
本から顔を上げてアズールを見ると、なんとも人好きのする笑顔を浮かべている。ああ、黙っていれば美形だな、と改めて思いながら、ぼそりと呟いた。
「……対価として私は何を要求されるんでしょうね」
「そんな、僕はただ海の魔女のような深い慈悲の心で後輩に親切にしているだけなのに!」
オクタヴィネルに入るにはワザとらしい演技ができないといけないとかいう決まりがあるのだろうか。
アズールといい先ほどのジェイドといい、絶妙に苛立つ演技を披露されて監督生はもうお腹いっぱいだった。
「まぁでも、どうしてもと云うのなら対価を頂くのもやぶさかではありませんね」
そしてこの笑顔である。
商人よりも詐欺師と名乗れと心の中で毒吐いた。
嬉しそうに監督生の隣に座り直したアズールは、笑顔もそのままに続けた。
「あなたの秘密を一つ、教えてください」
思いもよらない発言に、思わず監督生は目を瞬いた。
この男は何を云っているのか。
「……秘密をそう易々と教えると思いますか?」
「ふふふ、もちろん思いません。そもそも契約を交わしたわけでもないのに、無理矢理対価を求めたりはしませんよ。ですから、僕からあなたに質問することだけ許可を頂ければ十分です」
悪徳商人と名高いアズールにしては、随分と控えめな言葉だった。
もっととんでもない対価を求められるかもしれないと身構えていたので、監督生はちょっと拍子抜けしていた。
「答えるかどうかは置いておいて、質問は自由でしょう」
「そうですか、では」
一度言葉を切ったアズールは、ゆっくりと片肘をつき、少し首を傾げて監督生を見つめて、云った。
「どうして性別を偽って入学を?」
静かな図書室にアズールの声はとても合っていた。
綺麗な声だな、と見当違いに考えながら、監督生は小さく息を吐く。
「意味が分かりません。ここは男子校ですよね」
「ええ、そう。男子校です。開校から今まで男子だけが入学を許された由緒正しいNRCです。だから不思議なんですよ、何故あなたが入学できたのか」
頭の芯がスッと冷え、自分が冷静になったことを監督生は自覚する。
「私の入学を決めたのは学園長です。苦情でしたら彼にお願いします」
「苦情だなんてとんでもない、ただ僕は疑問を解決したいだけですよ」
にっこりと浮かべる笑顔は、商談のときのような隙のないものだった。
まだアズールとは付き合いの浅い監督生がそんなことを知る由もないのだけれど、少なくとも油断ならない表情だと判断するには十分だ。
静かに息を吐いた後、呆れたように云う。
「アーシェングロット先輩には、私は女に見えるんですか?」
「いいえ。いいえ、監督生さん。あなたはどこからどう見ても男性です」
「ご自分の発言に責任を持ってください。でしたら、何も問題はないでしょう」
嫌味ではなく、この言葉は監督生の本心だった。
女に見えると云うのならともかく、男に見えると自分ではっきり云ってるくせに、その口で女だろうと言及される意味がわからない。矛盾している。
しかし、アズールにとってはこれは気にするほどの矛盾ではないらしい。
まるで聞き分けのない子供に呆れるように肩を竦めると、困ったように息を吐く。
「認めませんか」
「認める内容ではありませんから」
「意外と強情ですね」
「あなたは意外とユーモアのある方ですね」
「褒め言葉ですね、ありがとうございます」
皮肉を皮肉とわかった上でこの反応とは恐れ入る。思わず零れてしまった舌打ちに、監督生はこれっぽっちも罪悪感を抱けなかった。
アズールは、何を根拠にしているか知らないが、最初から監督生が女であることを前提に話している。
反対に、自分は周囲から男と思われていると信じている監督生は、アズールの言葉に頷けるはずがない。
完全に平行線だった。
まだ授業終わりまで時間はあるけれど、これ以上アズールと一緒にいるのは監督生の精神衛生上よろしくない。
席を移動するのは感じ悪い気もするが、そもそも向こうが余計なちょっかいをかけてきたのが悪いと開き直ってしまおうか。
そんなことを考えていると、なんとアズールの方が席を立った。
「では、僕はこれで失礼します。今日のところはね」
「え?」
「おや、もしかして寂しいですか? 時間いっぱいお話ししましょうか?」
「いいえ間に合っていますのでどうぞお引き取りください」
「それは残念。僕とお話ししたくなったらいつでもお声がけくださいね。可愛い後輩のお話なら、どんな内容でも大歓迎ですので」
やはり反応を楽しんでいる。
早口に拒否した監督生にクスクスと意地の悪い笑みを残し、アズールは立ち去ろうとした。
内心おもいっきり舌を出してやりたい気分な監督生は、しかしハッとしてアズールを呼び止める。
そうして振り返ったアズールに、本を持って頭を下げた。お礼を云いそびれていたことに気付いてしまったのである。
「本、ありがとうございました。参考にします」
これに驚いたのはアズールだ。
随分と律儀だ、と呆れもした。
「いえいえお礼なんて、本当のことを教えて頂ければそれで」
「お疲れさまでした」
アズールの言葉を渾身の営業スマイルを浮かべてぶった切ると、意味深な笑顔を浮かべたアズールは今度こそ図書室を出て行った。
ドッと疲れたけれど、のんびり休んではいられない。
その後は時間までしっかり占星術を勉強し、飛行術終わりのグリムと合流して寮に戻る。
勉強も大切だが、まだまだ寮はボロボロだ。細々と補強したり掃除できるところはしていかないと後が大変なので、グリムと手分けをしながら今日は空き部屋の掃除をして、埃まみれになったのでお風呂に入り、晩御飯を用意して一緒に食べ、今日の復習と明日の予習をし、課題もわかる限りは片付けて、漸く監督生がベッドに入ったのは0時を少し過ぎてから。
すでに健やかな寝息を立てて眠るグリムにそっと微笑みながら、今日の出来事を考えた。
厄介な人たちに目をつけられたものだと思う。
ものすごく面倒くさい。
いくら時給と賄いに目がくらんだからと云って、やはりモストロ・ラウンジで働くのはやめた方がいいのだろうか。
「ふー……」
零れたため息は、間違いなく今日一番大きなものだった。
一度、学園長と話をする必要がありそうだ。
監督生
無表情の下でものすごい百面相をしている。実は結構感情豊か
エースデュースはクラスメイトだしつかず離れずの仲。なんだかんだで優しいし気を遣ってくれているのはわかるしグリムもよく彼らと行動しているので決して嫌いではないけれど、どうせいつか元の世界に帰るのだから、と距離を取っている
ハーツラビュル寮の先輩たちはちょっと苦手。優しすぎていろいろ構われるのがしんどい。特にことあるごとにケーキを押し付けてくるトレイ先輩がなんか無理
ジャックはさっぱりした付き合いをしてくれるのでとても楽。1-Bとの合同授業の時は一緒に組んでもらっている。真面目コンビ
サバナクロー寮のレオナとは犬猿の仲。基本お互い存在を無視し合っているけど、一度言葉を交わすともう戦争。無表情でレオナを煽りまくる監督生、監督生からの煽り耐性/Zeroなレオナの舌戦(いがみ合っても手は出さない)はちょっとしたエンターテイメントになりつつある
ラギーは面白いので止めない。なんか面白い。よくわかんないけど面白い
オクタ組は怖くないし嫌いでもないけど真意が見えないので警戒している
オクタ組
監督生が女だと確信。証拠を掴むまであと少しだと息巻いている
フロイドは証拠とか置いといて女の子はだいじにしよ~と思っているので、ずっとラウンジで働いてくれたら嬉しいけど、性別を盾に脅すのは別だな、と思っている。実は一番の常識人。口にはしていない
ジェイドもフロイドとだいたい同意見。過保護にする必要はなくとも、それなりのフォローはすべきだと思っている。でも事と次第によっては脅すのも全然ありだと思っている。口にはしていない
アズールは目下監督生に自分の性別を認めさせることに心血を注いでおり、本当に女だったらどうするかとかにまで考えが至っていない。それがすべての答えであることに自分でも気付いていない
普段なら十手先まで考えて行動するアズールが珍しく考えなしだな~と双子は気付いているけれど、それを指摘してあげるほど甘やかさないので、まぁなるようになるかな、と思っている