「カイル、あんたカーラとケンカでもしたの?」
マリエは屋敷の一室にカイルを呼び出し二人きり向かい合い話をしてた。
「カーラが、ここ最近アンタに避けられてるみたいだって落ち込んでたわよ?」
マリエにとってカーラが大切な友人であるのは勿論だが、使用人であるカイルもまた家族友人同然の大切な存在。
そんな二人が若し仲違いしてるのなら放っておける訳がない。
「…………」
マリエの問いかけにカイルは押し黙ってた。
「まぁ家族だって友達だってケンカぐらいするわよ。とは言えねカーラ泣いてたわよ。
アンタのこと気付かない内に傷つけて嫌われちゃったんじゃないかって。自分に落ち度があるなら謝りたい、って」
その言葉にカイルの表情が揺らぐ。
「カーラさんは、悪くないです。悪いのは僕だから……。僕がハーフエルフ……エルフだから」
カーラが泣いてたと聞かされたからか、ポツリと話し始める。
だが要点を得ない。
「……順序だてて話しなさい」
マリエが促す。だが急かせはしない。
「この前、カーラさん言ってたんです。出会いが欲しいって」
「まぁ、あのコも年頃の娘だからね。そりゃぁ」
「最近学園の男女事情変わりましたよね」
「? そりゃまぁ確かに。今は前と違って女子が偉ぶったり出来なくなったし。反動でいきがり始めた男子も増えたけど」
突然話の方向性が変わったようにも感じたが話す上で必要なんだろうとマリエは相槌を打つ。
「女子で使用人や奴隷を連れだってるの見なくなりましたよね。少なくとも学園内では」
「そうね」
「獣人とか亜人、エルフとか……」
「あっ……!」
言われてマリエは気付いた。
一昔前ならいざ知らず今学園で獣人やエルフと連れ立ってる姿は見なくなった。
だが学園外ではゼロではない。
学園外とは言え、エルフと連れ立ってる姿が見られれば未だにかっての因習を引き摺ってる嫌な女と誤解されかねない。
いや以前でさえ忌避されるものとして見られてたが、それでも女尊の風潮が蔓延ってた為黙認されてた。
だが今やハッキリと非難の対象である。
カイルはハーフエルフで、人に順じた成長速度や寿命など厳密には長命種エルフとは違うが他人の目からはエルフと変わらない。
そんな彼と一緒に居る姿は学園の外であっても目撃されれば、学園の男子にはどう映るだろうか。
「そういうことかぁ……」
事情を察したマリエは片手で顔の上半分を覆う。
「ボクが側に居るとカーラさんにとって悪い評判が立っちゃう。そんなの……」
カイルの眼には涙が滲み始めてた。
「あぁぁっ! ちょっ、カイルも泣かないでよ! アンタも悪くないんだからさ……ってどうすれば」
『よーするにカイル君の姿をどうにかすればいいのよね』
「ク、クレアーレ!? い、何時からそこに!?」
マリエが突然の声に驚き振り返るとそこには白色に中央に青いレンズを備えた機械の球体――クレアーレが浮かんでいた。
『まぁまぁ細かいコトはいいじゃない。カイルくんの姿、って言うかこの場合耳さえ何とかすればいいわよね』
「ちょ、ちょっと待って何するつもり!? 危ないこととか手術とか改造とかダメだからね!?」
『やぁね~マリエちゃんったら。他の新人類の生徒なら兎も角、マリエちゃんの大事なカイル君に変なことしないわよ~』
「そ、そう? ならいいけど……って他の生徒にもやっちゃダメに決まってるでしょ!」
自由奔放すぎる人工知能にマリエが突っ込みを入れる。
『まあまあ。兎に角カイル君に危害を加えるようなことしないから安心して』
言うや否やクレアーレの青いレンズからカイルの顔、主に耳に向かって光が照射される。
カイルの耳回りに当たった光はグリッド状に浮き上がる。
「ちょ、ちょっと! カイル! 大丈夫!? 痛くない!? 変な感じしない!?」
「あ、ハイ。ビックリしましたけど大丈夫です」
カイルの返事に、何の異常も無いことを確認しマリエは安堵する。
『これで良し。じゃぁ、そうね2時間ほど待っててくれる? ちょっと準備、用意してくるから』
「あ、ちょっと! ちゃんと説明しなさいよ~!」
『それは出来てのお楽しみ』
そして二時間後
「何これ……? イヤーカフス?」
クレアーレが準備して来た物を目にしたマリエが呟く。
『そ。勿論ただのアクセサリーなんかじゃないわよ。とりあえず付けてみて』
言われてカイルはクレアーレが用意したイヤーカフスを耳に装着し始める。
「だ、大丈夫? 変な感じしない?」
『心配しすぎよ~マリエちゃんったら』
「アンタには前科があるから言ってるのよ!」
「着けましたけど……」
マリエがクレアーレに突っ込み入れてる間に付け終わったカイルが口を開く。
『うん。採寸通りぴったりね。それじゃ次はカフスの宝石、を模したボタンを押して。カチッと音がするまでしっかりね』
言われてカイルはボタンを押す。カイル自身は何も変化は感じない。
だがそれを見てたマリエの顔に驚きの表情が浮かぶ。
そして黙ってカイルの手を引き鏡台の前まで連れてくる。
鏡を見たカイルの表情にも驚きの色が浮かぶ。
「クレアーレ。アンタやるじゃない」
『ふふ~ん。もっと褒めてもいいのよ?』
「調子に乗らないの」
「僕、カーラさんの所に行ってきます」
部屋を出て行こうとするカイルをマリエが呼び止める。
「あ、ちょっと待ってカイル。今回のこと、確かにアンタは悪くないけど、でも女の子泣かせたんだから相応のけじめってものがあるでしょ。
だから……」
マリエはそう言ってカイルにウインクするのだった。
「マリエ様の御指示だから来たけど。カイル君会ってくれるかなぁ……」
広場の噴水の前で時計を見ながら溜息をつくカーラ。
気になるのはここ数日、カイルが急によそよそしくなり距離を置かれてること。
マリエからカイルと二人で買出しを頼まれ、今そのカイルを待ってる。
だが果たして来るのだろうか。そもそもここ数日よそよそしくなった原因も分らずじまい。
カーラにとってカイルに距離を置かれるのは想像以上に堪えていた。
共に敬愛するマリエを支えてきた仲。
浪費癖の酷い五人の廃嫡された令息達に振り回されながら互いに励ましあってきた仲。
気付けば何時も一緒に居た。そんな気心の知れた相手。
当然仲直り出来るものならしたい。
「カーラさん!」
「カイル君!」
物思いに耽っていたカーラの耳にカイルの声が届く。直ぐ声の方に振り向き応える様に待ち人の名前を呼び返す。
「待ちましたか?」
「ううん。私も少し前に来たばっかりだから……ってその耳」
カーラが驚きの声を上げた訳。それはカイルの耳がエルフ特有の長耳ではなく、普通の人間と変わらぬ耳であったから。
「ああ、これですか?」
言ってカイルは本来の長耳の辺りの空間を指で摘むと空間が一瞬陽炎のように揺らぎ何時もの長耳が現れる。
違うのはその耳に宝石をはめたイヤーカフスがはまってたこと
「クレアーレが用意してくれたんです。凄いですよねロストテクノロジーって」
言いながらカイルはイヤーカフスにはめられた宝石を押すと今度はまた陽炎のように揺らめいて先程の人間のような耳の形になる。
「コーガクメイサイ?って言うらしいです。理屈はよく分りませんが」
「そ、そうね凄いわね?」
驚き呆気に取られるカーラ。
「ごめんなさい!」
「え? え? どうしてカイル君が謝るの?」
イヤ-カフスの説明を終えたカイルが突然頭を下げたのでカーラは面食らう。
「ここ最近避け続けて寂しい思いさせちゃって。その、僕が側にいると良くないと思ったから」
「え? それって?」
「エルフの……正確には僕はハーフエルフだけど、そんな僕が側にいるとカーラさんが未だにエルフの奴隷をはべらせてるイヤな女って誤解されちゃう。
カーラさん、学園の男子生徒との出会いが欲しいって言ってたのに、それなのに僕が居たら足を引っ張っちゃう。だから……」
言われてカーラは先日の自分の発言を思い出す。
「こ、こっちこそゴメンね! 不用意な発言で変な気を使わせちゃって……」
カーラは、むしろ余計な気を使わせてしまったことに自分の方こそ申し訳ない気持ちになる。
「な、なら私のこと嫌いになったわけじゃ……」
そして気になってた事を尋ねる。
「なりませんよ! 嫌いになんか」
カイルは頭を上げ真っ直ぐにカーラの瞳を見つめながら答える。
その言葉にカーラはホッと胸を撫で下ろす。
「カイル君!」
そして感極まったカーラはカイルをその胸に抱きしめる。
「カ、カーラさん!?」
突然の抱擁にカイルは驚きの声を上げる。
「私、嫌われたかと思っちゃって……。だから、そうじゃなくて本当に良かった……!」
そして次の瞬間我に帰りカイルを抱きしめてた手を放す。
「ゴ、ゴメン! カイル君ベタベタ触られるのイヤだったよね」
思い出すのはかつてカイルから聞いた話。
マリエやカーラが一年の学園祭の時、カイルは主のマリエの命で喫茶店のウェイターを務めた。
その時客の女子達にベタベタ触られて散々だったと語ったのだった。
「嫌じゃ……ないです。そりゃ知らない人に勝手に触られるのはイヤだけど、カーラさんは違うから……。大切な仲間だから」
照れ臭そうにそう言ったカイルの頬はほんのり赤く染まっていた。
「カイル君……うん、ありがとう」
「じゃ、じゃぁ、さっさと頼まれた買い出し済ませちゃいましょうか! そんな重いものは多くないみたいだし。
で、買出しが済んだらご飯食べて帰りましょう」
カイルは照れくささを誤魔化すようにまくしたてる。
「い、いいの? お金は?」
「ご主人様からご飯代も戴いてますから大丈夫。ホラ、行きますよ」
言ってカイルはカーラの手を握り歩き出す
「うん、そうだね」
カーラも微笑んで答え、そして連れ立って歩き出す。繋いだ手からカイルの温もりを感じる。
そして思う。
(やっぱりカイル君も男の子なんだな。思ったよりも大きい手。それに……)
並びながら思いを馳せるのは始めて出合った頃、あの頃は未だ幼い少年と言う印象だった。
気付けばあの頃よりも伸びた背、大きくなった背中。
少年から大人に変わりつつあるその姿に頼もしさを感じ目を細めるのだった。
Fin
クレアーレが便利w 原作に無いオリジナルアイテムとか作らせてみましたが、普通にこう言うのあっても作ってもおかしくないよね、って。