モブせか/短編 色々   作:julas

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小説版3巻7話、コミカライズ版だと11巻53話に繋がるエピソードをカイルとカーラの視点から描いた物語


 私の聖女様

「さて、どうしますかね」

 そう呟いたのは長い耳と端正な顔立ちが特徴的なハーフエルフの少年――カイル。

 だが呟いた内容とは裏腹にその顔に迷いは見えない。

 

「全く、困ったご主人様ですよ」

 言いながら思い返すのはカイルの主人――マリエの問題含みの言動の数々。

 あまりにも恐ろしい敵を前に恐怖のあまり自分が偽聖女だと暴露。

 その発言に周囲の多くは手の平を返し一斉にマリエをなじって責めた。

 

 一方でそんな発言をしても庇ったものもいる。

 マリエの恋人の王子達五人。取り巻きでただ一人離れなかった少女カーラ。そして付き人のカイル。

 だがそんな庇ってくれたものに対しマリエが放ったのは八つ当たりの言葉だった。

 罵倒の言葉をまくし立てた後、失神するように眠ってしまった。

 

 そんな眠りについたマリエを起きたら話すことがあると二人きりになるのを求めたのがバルトファルト子爵――リオンである。

 未だ学生ながら優秀で武功多き男だがマリエとは何かと反目しあってる人物。

 どう考えても慰めてるとは考えられず、むしろより追い詰めてるかもしれない。

 実際それは当たらずとも遠からずだったようで目を覚ましたマリエが部屋から泣きながら飛び出して行ってしまった。

 

 カイルはそんなマリエを放っておけなかった。

 だが直ぐには追いかけない。

 自分ひとりでは慰めるには不足かもしれないと、一緒に向かう人を探す。

 

「彼らは……未だ駄目そうですね」

 そう呟くカイルの視線の先に映るのはマリエの恋人の王子達五人。

 マリエに罵倒されたのがよっぽど堪えたのが放心状態の抜け殻で未だしばらくは使い物にならない状態。

 

「となると……」

 カイルの視線が次に捕らえたのは部屋の隅で蹲りすすり泣く一人の少女。

 取り巻き達の中で唯一マリエの側を離れなかった少女――カーラ。

 思えば彼女は他の取り巻きとは違っていた。

 殆どの取り巻きが聖女の肩書きに引かれ、歯の浮くような台詞を並べそのおこぼれにありつこうと擦り寄ってきた信を置けない者達。

 だがカーラはとある事情から周囲から見せしめとして蔑まれ虐められたのをマリエが救って自分の取り巻きに迎えたのだ。

 もっともマリエには下心打算もあったのだが。

 それを知らぬカーラは恩義を重く受け止めてか、他の取り巻きと違い本当に慕ってるかのように見えた。

 実際人一倍慕ってたのだろう。

 他の取り巻きが手の平を返す中唯一側に残り、そしてマリエをかばった為カーラ自身もマリエとともに責めたてられてた。

 マリエ同様ボロボロの格好だったのはその為だ。

 

 だがマリエ自身に罵倒され拒絶され、しかも下心打算ありきの本心までつき付けられた今も彼女を慕う気持ちは残ってるだろうか。

 そう思いながらカイルはそっと隣に腰を下ろす。

 

「ぐすっぐすっ……マリエ様、私のこと友達だって言って下さったのに……」

 すすり泣きながら零すカーラの言葉はやはりと言うかマリエに拒絶されたことへの悲しみ。

 だが悲しんではいても怒りや恨みは感じられない。未だにマリエ"様"と敬称付きで呼んでるのからもそれが伺える。

 それを確認するようにカイルはカーラに向かって口を開く。

 

「ご主人様のこと嫌いになっちゃいましたか? 他の取り巻きたちみたいにご主人様を見限って逃げます?」

 カイルの言葉にカーラは振り向き涙を振りまきながらまくし立てる。

「そんな……! 嫌いになんてならない、なれない! マリエ様から離れたくない!

私が一番辛かったとき……マリエ様だけが助けてくれた。あの時本当に嬉しくて救われて……」

 カーラの言葉にカイルは一瞬気圧され、そして安堵する。

 

「だったら、こんなとこでうずくまってないで、ご主人様を探しましょう」

 そう言ってカイルは立ち上がりカーラに手を差し出す。

「え……? でも私マリエ様に嫌われて……。そんな私がマリエ様の所へ……」

「さっきの言葉気にしてるんですか? あんなの癇癪起こしてのただの八つ当たりで本心じゃないですよ」

 カイルがそう語りかけるとカーラはおずおずと手を差し出す。

 

「これでもご主人様との付き合い長いですからね」

 カイルはカ-ラの手を握り引き立たせると、笑顔を向ける。

 

「ありがとう。 カイル君……」

 カーラはカイルの言葉に安堵を胸に微笑みで返す。

 

「さ、行きましょうカーラさん。ご主人様のことだから、今頃自己嫌悪で落ち込んでるんじゃないですかね」

 そう言ってカイルは駆けだす。そしてカ-ラもその後を付いて駆けだす。

 

 カイルの背中に付いていきながらカーラの脳裏にマリエと始めて出合ったときが思い出される。

 

 

 ――マリエ様。

 

 あの時、全てに絶望し生きる気力も失いかけた私に手を差し伸べてくれた

 

 あの時マリエ様は正に女神様で聖女様でした

 

 ううん、あの時も今も

 

 たとえマリエ様御自身が否定なさっても

 

 

 それでもマリエ様は私の聖女様なんです

 

 

 Fin




モブせかの中で一番好きなエピソ-ド。それを膨らませたというかその前振り的なお話。
この話で始めましての方、いらっしゃいましたら私のもう一つの作品カーラifルートもお読みいただければ幸いです。
既にご存知の方、執筆中なので続きもうしばらくお待ちください。
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