本編準拠のある日の日常を妄想した短編になります
ある日の昼下がり。
留学先である共和国での暮らしも馴染んできたリオンが居間に下りて来ると、目に留まったのはテーブルの花瓶に活けられた花々。
何の気無しに花を眺めてると居間にまた一人下りてくる。
下りてきたのは紺色の長い髪のスレンダーな体系の少女。
この家の同居人の一人であるカーラだった。
カーラに気が付いたリオンはテーブルの上の花と交互に見つめながら口を開く。
「この花、カーラが?」
共和国に留学中住むことになったこの屋敷でリオンは10人近い人間とともに生活してる。
その中で女性はマリエとカーラの二人。因みに彼女達も含めほぼ全員が同学年同い年。
こういう所に気が利くのは普通男子より女子。
そうなると必然的に女子二人のどちらかとなるわけで。
「はい。お庭で綺麗に咲いてたので何本か摘んで活けてみました」
「ふーん、いいんじゃね。部屋も華やぐし」
リオンの言葉にカーラは顔をほころばせる。
「ありがとうございます伯爵。あ、未だ家事が残ってるので私はコレで」
カーラの実家の爵位は準男爵。リオンは学生の身ながら伯爵位を賜っている。身分の開きや貴族の慣例としてカーラのリオンに対する呼び方は名ではなく爵位で呼んでた。
カーラは一礼すると部屋をあとにしようとする。
「ごくろうさん。あ、ちょっと待って」
リオンに呼び止められカーラは足を止め振り返る。
「マリエはどうした? あとカイルも。それと五馬鹿も」
マリエはリオンとは前世で兄妹の転生者同士で現世でも腐れ縁の仲。カイルはそんな彼女の付き人で同居人たちの中では唯一の年下。五馬鹿は本来は将来を有望視された王子や貴族の令息達だったが色々やらかした結果リオンからはこの様に一緒くたに呼ばれてる。
「マリエ様なら御用があるらしくお出かけになってます。カイル君もお使いで出かけてます。殿下達もそれぞれ用事があるとかで出かけていらっしゃいますね」
カーラとマリエは同い年ではあるが実家の爵位の違い、何より過去に救ってもらった恩義から様づけで呼び慕っていた。
カーラの答えにリオンは一瞬顔をしかめる。
「あ、大丈夫です。その分私が家事など頑張りますから」
リオンはマリエがカーラに家事仕事押し付けてるのかとも思ったが、違うのだろう。
実際にはカーラがマリエに自由な時間を使って欲しくてその分家事を受け持った感じだろうか。
そんないじらしい心意気に水を差すものでもないと思い「そうか」とだけ呟く。
「ま、頑張ってね。無理し過ぎない程度に」
「お気遣いありがとうございます」
そして再びカーラは一礼し部屋を後にした。
パタパタと軽快な足音が遠ざかっていくのを聞きながらリオンは椅子を引き腰掛ける。
居れば何かと騒がしい五馬鹿も居ないお陰もあり至って静か。耳をすませば遠くの鳥の囀りまで聞こえそうなほど。
窓からは暖かな日差しが差し込み部屋を満たすのはゆったりとした午後の空気。
そんな穏やかさに花瓶に活けられた花を眺めたり先日買った本のページをめくりながら、のんびりとした時間に身を委ねる。
そうやって暫しくつろいだ後、リオンは時計に視線を送ると椅子から腰を上げる。
キッチンで湯を沸かし、その間に茶器や菓子を準備し並べていく。
リオンの趣味であり毎日の日課で楽しみでもある茶の時間。
故国である王国の学園に通ってた頃はリオンは婚約者のアンジェやリビアと共に茶を楽しむのが常であった。だが生憎と彼女たちはここ共和国には居らず今も王国でリオンを待ってる。
結果折角のティータイムも一人で嗜むのが共和国でのいつものことと言った感じ。
この屋敷にはリオン以外の住人、主にマリエと彼女を慕う王子や貴族の令息、いや廃嫡や勘当され頭に元と着けるべきか。
最近ではリオンに五馬鹿と一緒くたにされてるだけでなくマリエにまで穀潰しの厄介者扱いされる始末。
リオンとしては過去に色々あったのもあり、あまり良い感情は持っておらず茶を振舞う相手としては論外。それぐらいなら一人で飲む方がマシと言ったところか。
ティーポットに注がれた湯により茶葉も開き芳しい香りも漂い始める。
「いい香りですね」
「おう。折角だからカーラも付き合え。さっきからずっと働きづめだろ。そろそろ一息入れろ。俺もたまには一緒に飲む相手が欲しい時もあるし」
「で、ではご相伴に……」
返事をしながらエプロンを外し、遠慮勝ちに向かいの席にカーラは腰掛ける。
「冷めないうちにどうぞ」
「い、いただきます」
リオンに勧められ、未だどこか遠慮が垣間見れるもカップに口をつける。
「おいしい……です」
口の中に広がる紅茶の味と芳醇な香りにカーラの表情が綻ぶ。
「ん、菓子も食べな」
茶の味を褒められ気を良くしたリオンはそのまま茶菓子もすすめる。
パティシエによって丹精込め作られたであろう菓子の数々はケーキスタンドに盛り付けられより一層華やいで見えた。
菓子の立派さにカーラが気後れしてるとリオンが口を開く。
「最近知った評判の店らしくてな。いつかアンジェやリビアが来た時に備え感想とかも欲しいし」
マリエ共々世話になってる自覚のあるカーラが気後れしてるのを気遣うようにリオンは言葉を補足する。
「で、ではいただきます」
促されるまま茶菓子にも手を伸ばすカーラ。
「合いますね。しっかりした甘みで、でも上品な甘さで紅茶といただくととてもおいしいです」
美味しそうに菓子を堪能するカーラにリオンは満足そうに頷く。
「未だあるしもっと食ってもいいぞ」
「ではいただきま……」
次の菓子に伸ばしかけたカーラの手が止まる
「ん? どうした遠慮しないでもっと食え」
「えっと、その私はもう十分ですから……」
「十分って、未だ一個しか食ってないだろ。一口サイズだから全然足りないだろ」
「いえ、その、代わりにこのお菓子マリエ様とカイル君に……って伯爵?!」
カーラが驚きの声を上げたのはリオンが突然顔の上半分――目元を手の平で覆ったからだった。
「……るから」
「え……?」
「マリエ達の分は同じ箱の別にやるから! だから遠慮なんかせずに食っていいから!」
そう言ってリオンは包装紙に包まれたままの菓子のアソートセットを取り出すと半ば押し付けるようにカーラに渡す。
マリエ達は普段から金遣いの荒い五馬鹿に振り回され倹約を余儀なくされてるのはリオンも知るところである。
だが菓子もろくに楽しむ余裕もないのかと思わず泣けて来たのであった。
「あ、ありがとうございます……」
面食らいながらも菓子を受け取るカーラ。
そしてあらためて手渡された箱詰めの菓子を見つめると微笑を浮かべながらそっと抱き絞めあらためて礼の言葉を述べる。
「ありがとうございます。きっとマリエ様とカイル君も喜んでくれます」
「ま、まぁそう言うわけだから。だからテーブルに出てる分は遠慮なく食っていいからな?」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えさせていただきますね」
テーブルに出された菓子に舌鼓をうつカーラは時折「あ、これマリエ様好きそう」と言葉を漏らす。
そんなときその顔に浮かぶ笑みはより輝かせるのだった。
そんな笑顔を眺めながらリオンが口を開く。
「本当にマリエの事が好きなんだな」
「はい! 私にとっての聖女様ですから! 今の私があるのも全てマリエ様のお陰ですから。あ、勿論マリエ様を支援してくださってる伯爵にも感謝してます」
「気を遣わなくていいから。細かいこと考えず今は茶と菓子を堪能してくれ」
そうして二人ゆったりとしたお茶の時間を楽しむ。
「……ありがとうな」
「え? いえ、お礼を言うのは私の方で。とても美味しいお茶とお菓子と御馳走になって」
「いや、そうじゃなくて……うん、まぁいいか」
リオンの口を思わずついて出た礼。それは普段からマリエを支えてくれたことに対する感謝。
前世の妹で今世でも自分を振り回してくれてるマリエ。愛想が付きかけ憎しみや嫌悪に近い感情を抱いたこともあった。
その反面放って置けず気に掛けずにいられない不出来な妹。
かっては色々やらかしてくれたが最近ではそうした過去のやらかしに対する反省も垣間見える。
そうした反省や更生の一端に、彼女を慕い支えるカーラの存在のお陰もあるのかなと思う。
リオンとは決して良い出会い方とは言えなかったカーラだが、共に過ごしてみると真面目で健気で優しい性格なのは十分伺い知れた。
何よりマリエに対し一途で真っ直ぐ。
そんなカーラがマリエを――自分の前世の妹を支えてくれてることに自然と湧き上がる感謝に思わず口から出た礼の言葉だった。
そうして共和国でのある日の穏やかな昼下がりは過ぎて行ったのであった。
Fin
実は大分前に書いたものですが投稿のタイミングがつかめずずっと寝かせてました。
共和国編コミカライズスタートで良い機会かなと投稿させていただきました。
カーラの出番が本格的に増える共和国編と言う事で実は王国編の時からずっと楽しみにしてました。
あくまでも本編準拠で、こんな日常もあったのでは、そういう前提で書いてみました。
私の二次創作では非常に近い距離間になってる二人ですが、本編準拠ならこんなものかな、これぐらいの距離感近さならあってもおかしくないかな、って感じで書きました。