転生の特典に「あなたが欲しい」と選んだ女神様が激かわ過ぎる件 作:うどんそば
謎の少女
「ここ……ですかね?」
森に入って少しところに、開けた場所があった。そこには様々な花が群れるように咲いていた。
薬草とは言うが、人間にとって薬になるだけで、その本質は花に変わりない。というわけで、この花畑にも見える美しい場所に沢山の薬草が潜んでいる。
「そういえば女神様。薬草はこういう見た目の花らしいけど」
「ふむふむ……なんというか、特徴がないですね。これは苦労しそうです」
本来なら、子供の頃から使っていた影響で、大体どれが薬草かは簡単に見分けがつくらしいのだが、俺たちは今世界の住民ではなかったこともあり、未だ一度も使ったことがない。
どうしよう……全くわからない。受付さんからもらった紙もあるにはあるが、ここから一つ一つ確認するのは骨が折れる。
だけどしょうがない。確認していくしか無いか。冒険者のおじさんも言っていたしな。これから冒険者としてやっていくなら、採集などの技術も磨いていかないといけないって。
「女神様ー! 俺はこっちから探していくから!」
「わかりました! じゃあ私はこちらから見てみます!」
俺たちは自然と方向を別にして、手分けするように探すことにした。
ただ、やっぱり思ったようにいかない。時間はどんどん経っていくし、汗も少しずつ滲んでくる。花を少しどかして別の花を見て、それを薬草と比較する。それが一致したらいいのだが、なかなか一致しない。
この花の群生地の何処かに群れて生えていそうなのだが、それがどこかわからないことにはどうしようもない。女神様の方もあまり進んでいないみたいだ。
「どうだ? 女神様」
「うーん……さっきと同じ感じですね。リョウ君に何度も薬草の絵を見せてもらっておかげで、もう薬草の見た目は完全にわかるんですけどね……」
「もう日もだいぶ落ちてきたな。帰ったほうがいいのかもしれない」
空はオレンジ色になりかけている。足も痛くなってきて、これから帰るということも考えると、とてつもないほど憂鬱な気分になってくる。帰りたくねえんだけど……
「でも、依頼を達成しないことには寮代が払えませんよ?」
「そうなんだよなあ……」
ギルドの初心者向けの寮が格安でずっと空いているのは、初心者向けの優遇措置でしか無いこともあるし、金が払えなかったら容赦なく他の人と入れ替えさせられるからだと聞いた。流石に腹も減っているし、あそこから叩き出されるのは勘弁してもらいたい。
「じゃあ、あと少し頑張るか……」
そうして、後ろを向いた時、俺は驚きのあまり声を失った。
「……」
「リョウ君? どうしたんですか……って」
なにも言わず立ち尽くした女神様は俺の芳を向いて、俺と同じようにピタリと動きを止めてしまった。
そこにいたのは、俺たちの五倍くらいはありそうな大きさの化け物だった。
その化け物は赤い目を光らせると、俺たちの方をただじっと見ている。駄目だ。逃げないとと思っても、何故か体が動かない。なんでだ? なんでなんだ? 今すぐ女神様を連れて逃げないと。じゃないと……
大男……オーガは、ゆっくりと、一歩一歩、着実に俺たちに近づいている。女神様は小さく口を開けたまま動け無いままいる。
「う、うわああああああああああ! うがあああああああああ!」
無理やり体を動かすために気合を入れる。それだけではなく、少しでもオーガが怯んでくれたらと思って絞り出した声は、今迄出した声の中で確実に一番大きかった。
ただ、そのおかげでオーガは一瞬虚を突かれたように一歩後ずさった。よし! これなら!
女神様を抱え、思い切り森の外へ逃げる。疲れなんて気にならない。ここで立ち止まったら、きっと俺も女神様も、一瞬であの大きな腹の中だろう。
「女神様! 大丈夫か?」
「は! はい! すいません。あの巨体に少し驚いてしまって下ろしてもらっても大丈夫ですから!」
「そんなことしてたら食われる! とりあえず少し隙ができたら言ってくれ! その隙に下ろすから!」
そう言うと、女神様は抱えられたまま後ろを見た。
「ああ! ダメです! 一歩が大きくて、追いつかれます!」
「どうするのが良さそうだ!」
「まず小回りを使いましょう! 私もなんとかして攻撃してみます!『イグニス・フォルティス』!」
女神様が唱えると、後ろ方向で大きな爆発の音とともに、こちら側まで伝わってくる強烈な熱気を受けた。
「熱っっっっ!」
「あ! 大丈夫ですか!? 加減を間違えました!」
ぱっと後ろを振り返ると、オーガが見えなくなる程の範囲を火が覆っていた。これなら大丈夫だろう。この規模の火災のような状態で、まさか生き残っているわけがない。俺はゆっくりと女神様を下ろした。
「はあ……はあ……これで終わった……なんだよあの化け物……」
「きっと、あれが出る時に門番さんが言っていた、変異種のオーガでしょうね。普通のオーガは目が赤くないはずですし」
そうやって話しながら、少しずつ空気が弛緩していったときだった。どし、どしという足音がまた聞こえ始めたのは。
「おいおい……これはありえねえだろ……」
「な、なんでまだ生きて……!?」
オーガは燃え盛る火の中からゆっくり出てきた。肌はところどころただれ、どす黒い体液にまみれていたが、たしかに生きていた。
そうして、俺たちにその憎悪の混じったような赤い目を確かに向けて、その手元の大きな鉈を振り上げ……振るってきた。
「女神様!」
とっさのことだ。俺はその先にいた女神様を突き飛ばし、目を閉じた。
ああ、また死ぬんだな。でもまあ良かったかもしれない。女神様が命を落とすのかは分からないが、あれだけの攻撃を受けたら怪我はするだろう。それを守って死ねたのだから、今度の人生は短い代わりに充実していた。
ただ、願うなら、もうちょっとこの新しい生活を楽しみたかったな。でもまあしょうがない。早く帰らなかった俺たちが悪いのだろう。
そう、死を覚悟した瞬間だった。ガキン、と重そうで軽そうな音がした。
「ん。女の子を守るのは偉いと思う。でも、自分が死ぬのは駄目。自分も守れてこそだよ」
目をゆっくりと開く。
小さな背中、青い髪に、まるでオーガと戦えるとは思えないほどの軽装。そうして手に持っているのは、刀。
突然現れた青髪の少女は、刀一本でオーガの大きな鉈を受け止めていた。
「精霊さん。『蒼電』」
少し何かを唱えると、オーガの周囲を青い電気がまとわりつくように流れた。
それに思わず鉈を引っ込めてしまったオーガは、その瞬間腕と首が胴体から離れた。
「……ん、まあこんなものだよね」
少女は、刀についた血をよく布で拭うと、丁寧に鞘に収めた。
「さて……大丈夫だった? 初心者なんでしょ?」
「あ、ありがとうございました……」
「だいじょうぶ。これくらい、大したことない。それに、あのオーガは死にかけだった。私がしたのは横取りみたいなもの。下手したら怒られるかもってビクビクしてる」
「そ、そんなのことしませんよ!」
少女は、少し眠そうな無表情で、女神様に目を向けた。
「そっちの子も大丈夫?」
「は! はい! だ、大丈夫です!」
「ん、なら良かった。ふたりとも何もないならそれに越したことはない。じゃあせっかくだし、送ってあげるね。この獲物も君たちのにしていいよ。私がしたのは止めだけだし」
それが当たり前のことのように、無頓着にそういう少女。しかし、この場に少女がいなければ、確実に折れは死んでいただろう。
「いえいえ! そんな事できないです! 貴方がいたから生き残れたのに!」
「……じゃあ、三等分。それなら誰も文句なし。一番平和」
「いえいえ! 私達はパーティーなので二等分で半分持って行ってください!」
俺と女神様で頑張って説得するが、あまり乗り気ではなさそう。
「……まあまあ。じゃあこの話は帰ってからで。酒場もあるし、そこで話せばおっけー」
「そう、ですね……じゃあ、先に帰りましょうか……」
「じゃあ、魔石は持ってて」
「え!? いつの間に!」
「切った時に一緒に取った」
なんでもないような表情で、少女は言う。……もしかしなくても、この少女はとてつもなくすごい人だったりするのだろうか。
「ああ、そういえば自己紹介がまだだった。私はエミーリア。気軽にエミーとでも」
「私はアストラと申します」
「俺はリョウ」
「なるほど……じゃあアストラ、リョウ。一緒に帰ろうか」
なんだろう……ちょっとうきうきしているように見えるんだが。