30日後にデビューするTS猫耳Vtuber   作:黒寝 こはく

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六話

「はぁ・・・」

 

制服の上にパーカーを着た少女が、鏡の向こう側でため息をつく。

これから買い物に行く事になり、前回同様、遥に制服を着せられて外に連れ出されるからだ。

 

「似合ってるんだから大丈夫だよ」

 

「似合ってる、似合ってないの問題じゃない。外に行くのがイヤなの」

 

「これも配信の練習だと思って、ね?」

 

「むぅーー・・・」

 

人に慣れるんだったら、これ以上ない方法だけど・・・でもさ、画面越しに喋るのと、相手の顔を見て話すのってだいぶ違くない?

 

「それに、外に行けるような服を何着か持ってないと困るよ?」

 

「そうだけど・・・でも、服買いに行ったら、絶対俺を着せ替え人形にして遊ぶじゃん」

 

「ええーー、色んな服を試してみないと、こはくに一番似合うのがわからないよ」

 

そんなんだから女子の買い物は長いんだよ。服なんて着れれば大差なんだから、ささっと選べばいいのに。

 

「とりあえず、俺を着せ替え人形にするのは禁止!服も最低限しか買わないから!」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

そして再びショッピングモールにやってきた。下着は前回買ったから、今日は服だけ買えばいい。

 

今は男だった時のシャツを部屋着にしてるんだけど、サイズが大きすぎてたまに不便に感じるんだよね。

だから、猫耳幼女の今の俺に合った服を買うのは賛成なんだけど・・・

 

「よく似合ってるよー。あっ、でもこっちのスカートの方が可愛いんじゃない?」

 

「・・・」

 

「ねぇこはく、次はこれを着てみて」

 

「・・・・・・」

 

おかしい。服を試着する度に遥が新しい服を持ってきて、永遠に試着が終わらない。

 

「このお店でこはくに似合いそうな服は大体見たから、他のお店も行ってみよっか」

 

「うがーー!もういい!もう十分試着した!」

 

「えー?まだ始まったばっかりだよ?」

 

一時間弱この店で試着してるのに!?それなのにまだ始まったばっかりとか、冗談でしょ!?

この調子で服屋巡りしてたら日が暮れるよ。もう遥に任せてられない!俺は一人で服を選ばせてもらう!

 

「あ、こはく!どこ行くの?」

 

「このままじゃ埒が明かないから、俺一人で服選んで買ってくる!」

 

別に小洒落た服屋で買う必要はない。

着れる服が欲しいのであって、変な装飾や可愛い色の服がほしいわけじゃない。無難に黒の無地一択。シンプルイズベスト。

 

追いかけてくる遥を差し置いて、老若男女幅広い世代向けの服屋に入り、買い物かごに黒のシャツとズボンを、数枚掴んで放り込む。

 

「・・・エ、もしかしてソレ買うつもりなの?」

 

「そうだけど?なんか問題ある?」

 

「問題大ありだよ!今のこはくは女の子なんだから、そんな男っぽい服は着ちゃダメ!」

 

そ、そこまで言わなくてもよくない?流石の俺もちょっと傷ついちゃうよ?

 

「ほら、買い物かご貸して!服戻してくるから!」

 

「い、いやじゃ!俺はこの服がいいんじゃ!可愛い服など着とうない!」

 

「のじゃロリこはくも案外イケる・・・じゃなくて!ワガママ言わない!」

 

「あっ!?」

 

抵抗虚しく、遥に買い物かごを奪い取られる。

 

ちくせう、遥の方が力あるからって・・・ていうか、俺の服なんだから、俺の好みで選んでよくない?

遥の選ぶ服って、ヒラヒラしてたり色が可愛すぎて俺の好みじゃないんだよ。

 

「返せっ!俺はこれくらいシンプルな服がいいの!」

 

「シンプル以前の問題なの。これじゃあ全身真っ黒になっちゃうよ」

 

「別に黒でいいじゃん!」

 

「絶対駄目。せめてもう少し色を変えてよ。例えば・・・これとか?」

 

そう言って遥は棚から白いシャツを取り出し、勝手にかごの中に入れる。

 

「これと・・・あとそれも」

 

これもそれも、と言いながら、次々に服を集めてかごに入れていく。

重なっていく服の山に軽く眩暈がしてくる。

 

「遥?こんなにいっぱい要らなくない?」

 

「そんなことないよ。シンプルなデザインの服だからこそ、ちゃんとコーディネートしないといけないの。それに、次いつこはくが服買うかわからないし」

 

「いや、でもさぁ・・・俺、オシャレとかわかんないし?」

 

「それは大丈夫。毎回私がコーディネートしてあげるから」

 

ええーー?毎回遥に服を選んでもらうのってなんかダサくない?ファッションセンス云々じゃなくて、自立出来てない所がよろしくなくない?俺はそんな子供じゃないんだけど。

 

「服くらい、自分で選べるし・・・」

 

「本当かなー?こはくの事だから、同じ組み合わせばっかり着回すんじゃない?」

 

そこは安定の組み合わせと言ってほしい。

 

「・・・それは一旦置いといて。また試着させられるわけ?」

 

奪われたかごの中には、シャツやズボンの塊が形成されている。

たまにスカートが紛れ込んでいるのが気に入らないが、フリルなどの過剰な装飾のないシンプルな服ばかり。一応妥協出来るラインだが、流石にこの量試着するのは辛い。

 

「サイズは同じだから一、二着で大丈夫だよ。こはくも、これなら着てくれるよね?」

 

「まあ、それくらいなら・・・」

 

遥から手渡された服を抱えて試着室に入る。

一時はどうなるかと思ったけど、何とか折衷案が纏まった。これで明日から、勝手に肩からずり落ちる鬱陶しいシャツとも別れられる。

 

「・・・って、ちゃっかりスカートもあるし」

 

試着するように手渡された服を一枚ずつ広げてみると、スカートが一枚出てきた。

 

俺をからかってるつもりなんだろうけど・・・甘いっ!

普段家の中でパンツとシャツだけで生活してる俺が、スカート如きでビビると思ったか!

ここは敢えてスカートを履いて、逆に遥の度肝を抜いてやる!

 

「ふっひっひ・・・それじゃ早速、スカートを・・・っと」

 

そもそも俺が今着てる服は、遥の中学の制服で当然スカートだしね。確かに制服のスカートの方が丈が長いけど、言うて誤差だよ。

 

「こはくー、試着出来た?」

 

試着室のカーテンの向こうに遥が居るらしい。

よしっ、ここで勢いよくカーテンを開けて、黒寝こはく(スカートVer)のお披露目だ!

 

「じゃーん!どうだ!」

 

「おおー、元が可愛いから何着てもよく似合うねー」

 

「それだけ?もっとこう、他に言うことあるじゃん?」

 

「髪切った?」

 

「ちがーーう!」

 

コイツっ!絶対わざとだ!試着室で髪切る訳ないだろ!

 

「ほら!これ!スカート!」

 

「うんうん。こはくちゃんはスカートがよく似合うね。可愛いよ」

 

「うっ、うん・・・」

 

な、なんだよぅ、急にそんなこと言うなよ。なんというか、照れる・・・いや、照れてなんかないけどね?えっと・・・アレだよ、びっくりしたじゃん。

 

「それにしても、スカートを先に履くなんてね。こはくの事だから、ズボンを先に試着してるかと思った」

 

「そ、そう!どうだ遥!驚いたか!」

 

「うーーん、そこまで、かな」

 

「ちぇ・・・あ!それと俺に可愛いとか言うな!」

 

「なんで?可愛いと思ったから、可愛いって言っただけだよ?それにこはくだって、満更でもなさそうだったよね?」

 

「そんなことないし!」

 

「ふぅーーーん」

 

俺は男・・・元、だけど。それでも俺は、可愛いよりもカッコイイって言われたいの!

見た目は猫耳幼女だろうと、そこだけは変わらない!

 

「それじゃあ、試してみよっか」

 

「た、試すって・・・?」

 

遥の目つきが、じっとりと纏わりつくようなものに変わる。そして俺を押し隠すように試着室の中に侵入してくる。

一言も言葉を発さず遠慮なく距離を詰めてくる。やがて逃げ場を失い、俺の背中が壁にぶつかって止まった。

 

「ね、ねぇ、遥・・・?なんか言って?」

 

これ以上後ろに下がれないのに、遥の顔がどんどん迫ってくる。

浅い呼吸と心臓の鼓動が聞こえる。混ざり合った音は、どっちの音かわからない。

 

「こはく、可愛いよ」

 

「ひゃぁ!?」

 

猫耳のすぐ横で、普段よりも少し低い声で遥が呟く。

 

「こはくは可愛い。背が小っちゃいのが可愛い。左右違う色の目が可愛い」

 

遥が呟く度に、声と共に吐き出された息が猫耳をくすぐる。

 

「よく動く猫耳が可愛い。笑うと見える八重歯が可愛い」

 

猫耳に浴びせられる声は、直接脳に染み込んでいるようにさえ錯覚する。

 

「すぐ上目づかいになる所が可愛い。私にだけ見せてくれる気の抜けた姿が可愛い」

 

声で、脳が、犯される。

 

「ねえ、こはく・・・

 

「う、うにゃあああぁぁあっ!出てけぇ!」

 

理性が溶け切ってしまう寸前に、何とか遥を押し退かして試着室のカーテンを閉める。

一人になった狭い個室で肩で息をする。まだ脳の奥に、遥の声がこびりついているような感覚があった。

 

「も、もう着替えるから!入ってこないで!」

 

「ええーー・・・いい所だったのに」

 

「そんなの関係ないし!」

 

何が『いい所だったのにー』だ!ぜんぜっんよくない!これ以上はダメ!絶対にダメ!

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

買った服が入った紙袋を下げて、遥と帰路につく。

今まで引きこもって外に出ていなかった俺の体力は、もう限界が近い。

 

「ふぃーー・・・疲れたー」

 

家に帰ったら、今日はもうずっとゴロゴロして過ごそう。遥に着せ替え人形にされて疲れてるし、それくらい許されるよね。

 

「ねぇーこはく、やっぱりもうちょっとだけ可愛い服も見てみない?」

 

「やだ。絶対やだ」

 

「はぁ・・・わかったよ。こはく可愛いから、色んな服を着せてみたかったんだけどなー」

 

別に可愛くないし。まあね?LIVE2Dモデルは可愛くなるように作ったけど、中身は俺だよ?

猫耳少女になっても隠せない男気で、可愛いというよりもカッコいいじゃない?

 

「ふっ」

 

俺のカッコよさがわからないから、いつまで経っても遥に恋人が出来ないんだぞ。

 

「その顔は何?私のこと馬鹿にしてる?」

 

「いやぁー?べーつにー?」

 

馬鹿になんかするわけないじゃーん。ただ、俺の魅力に気づかないなんて、カワイソーだなーって思ってるだけだよ?

 

「・・・こはく、後で覚えておいてね」

 

 

 

 デビューするまで、あと14日

 

 

 

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