30日後にデビューするTS猫耳Vtuber   作:黒寝 こはく

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九話

「よし、こんなもんかな」

 

襟を正して皺を伸ばす。身だしなみを整えると、自然と背筋が真っ直ぐになった。

 

「何かあったら、すぐ帰ってきてね?」

 

「心配しすぎだって。ちょーっと行って、ぱぱっと帰ってくるから」

 

「知らない人に声を掛けられても、構っちゃ駄目だからね?道路を渡るときは、車に気を付けて」

 

「だーー!そんな事わかってるってば!」

 

見た目こそ小っちゃい女の子だけど、中身は男だし!遥は過保護すぎる!

 

「それじゃ・・・いってきまーす」

 

「いってらっしゃい。本当に気を付けてね」

 

わざわざ見送りに来た遥に背を向け、自分の手で玄関の扉を開けて外に出る。

秋の空の下、たった一人。

 

こうなった理由は、つい一時間前のこと・・・

 

 

 

 

―――一時間前―――

 

 

 

 

「ふぇ・・・っくしーん!」

 

「こはく大丈夫?」

 

「うええーー・・・ティッシュ、ティッシュ」

 

遥と一緒にリビングでくつろいでいると、不意に鼻がむず痒くなって、クシャミが一つ飛び出した。

 

季節も変わり、体調を崩しやすい時期。

VTuberデビューを間近に控えているから、風邪を引くわけにはいかないな、なんて思いながらティッシュ箱に手を伸ばし、一枚引き抜く。

 

「ずばびーーん!・・・ってあれ?」

 

ティッシュを鼻に当てて、思い切り鼻をかんだ所まではよかった。

問題なのはそこからで、今使ったティッシュが最後の一枚だったらしく、目の前には空箱が転がっていた。

 

「新しいの出しとかなきゃ・・・」

 

面倒くさいと思いつつ、替えのティッシュ箱を仕舞っている棚を開く。

しかし、そこに常備されているはずの物はなかった。

 

「って、買い置きないし」

 

「うーん。今からこはくのお母さんに連絡して、間に合うかな?」

 

「ん?どゆこと?」

 

「今日、こはくのお母さんが持って行ってた買い物メモに、ティッシュなんて書いてなかったなーって」

 

なんで遥がウチの親の買い物メモの内容把握してるんだよ。

それは一旦置いといて、ティッシュどうしよう。ないと微妙に困るしなぁ。

 

ん?そういえば・・・今丁度、アレがあったな。

 

「よし!俺が買いに行ってくる!」

 

「え、えええ!?こはくが外に行くってこと!?」

 

他に何があるのさ。と言うか、驚きすぎじゃない?最近ちょいちょい買い物のために外に連れ出されてるんだし、そんなに驚く事じゃないと思うけど。

 

「だ、だって、こはく根っからの引きこもりじゃん。そのこはくが、自分から外に行くって言い出すなんて・・・」

 

「大袈裟だよ。俺だって、たまには外に行くことだってあるし」

 

「こ、こはく大丈夫?頭打った?それとも何か悪い物食べた?」

 

シンプルにキレそう^^

 

「とにかく!ぱっと行って、サクッと買ってくるから、遥は家で待機!」

 

「え?こはく一人で行くつもりなの?」

 

「ティッシュくらい、別に一人で買えるでしょ」

 

「それは・・・そうだけど」

 

ティッシュなんてコンビニで買えるし、遠くまで買いに行くわけでもない。それに遥が付いてくると色々とやりづらいし・・・

 

「えーーっと・・・そう!これは練習なんだよ!」

 

「練習?・・・なんの?」

 

「人と話す練習!配信する時に視聴者と話せるように、一人でおつかいに行って他の人と話す練習するの!」

 

「こはく・・・!そういうことなら、わかったよ。私は家に居るね」

 

よしよし。何とか言いくるめる事ができたね。

それじゃ、買い物に行くとしますか。

 

「財布とスマホ・・・だけでいっか」

 

「まさかこはく、その恰好のまま行くつもりなの?」

 

「え?何か問題ある?」

 

ショートパンツにTシャツ。

近くのコンビニに行くつもりだし、これで十分じゃない?

 

「確かに大したお買い物じゃないけど、せめて髪を解かして服も着替えて」

 

「ええーー・・・めんどくさ・・・」

 

「髪解かすの手伝ってあげるから、そこに座って」

 

「はーい・・・」

 

髪を解かすのは面倒くさいけど、遥がやってくれるならまあいいか。髪を解かされるのは嫌いじゃないし。

 

「そのまま、じっとしててねー」

 

「ふみゅぅーー・・・」

 

んーー、いいかんじー。

 

「・・・こはく、髪の毛のお手入れ、サボってるでしょ」

 

「そんなのしらないもーん」

 

「ちゃんとお手入れしないと駄目だよ。せっかく綺麗な黒髪なのに・・・」

 

そんなに言うんだったら、遥が全部やってよ。

俺は男だしー、髪の手入れとかやんないしー。

 

「これくらい解かせばいいかな?」

 

「あっ・・・」

 

「次は服だね。持ってくるから、ちょっと待ってて」

 

着替える必要はないと抗議する間もなく、遥は部屋を出て行ってしまう。

 

はぁーーあ、俺は別にこのまま買い物行ってもいいと思うんだけど。

なんでこう、女子はオシャレしたがるんだろうね?

 

「はい、私からこはくにプレゼントだよ」

 

服を選んで持ってくるのに数分はかかると思っていたのだが、一分と経たずに遥は戻ってきた。

 

「早かったね・・・というかプレゼント?俺の服を選びに行ったんじゃないの?」

 

「見てみればわかるよ」

 

俺が外出する用の服を取りに行ったんじゃないの?見ればわかるって・・・どういうことだ?

 

「これって・・・!」

 

「どう?これだったら、こはくも着てくれるよね」

 

遥のプレゼントは、白のブラウスとベージュのスカート。猫の顔がプリントされた淡いピンク色の靴下。

その三着の衣服は見覚えがある。

 

「これって、俺の作ったLIVE2Dモデルの服じゃん!」

 

間違いない。画面越しに散々見てきた、俺がTSする原因になった猫耳少女が着ていた服だ。

 

「多分サイズもあってるはずだよ。せっかくだから着てみよっか」

 

「うん!」

 

 

 

 

―――TS猫耳少女着替え中―――

 

 

 

 

『うん!』なんて元気に答えるんじゃなかった。

 

「こはく可愛いー!」

 

このスカート、めっちゃ短いんだけど!?ガッツリ太もも露出してるし、防御力クソザコなんだけど!?

誰だ、こんなスカート丈にしたヤツは!頭おかしいんじゃないの???

 

「スカート短すぎない?ハレンチじゃない?」

 

「確かにちょっと短めだけど、可愛いから大丈夫」

 

「そういう問題じゃなくない?」

 

こんな短いスカート履いて外行くの?バカなの?(社会的に)死ぬの?

 

「私ずっと思ってたんだよね。こはくの歩き方が男っぽいなーって。スカート履いたら女の子らしい歩き方が身につくよ」

 

「俺は男だし!だから別にいいもん!」

 

「駄目。今のこはくは女の子なんだから、ちゃんと女の子の歩き方にしないと」

 

だから短いスカートを履いて、女の子の歩き方を身に付けろと?

言いたい事はわかるけどさぁ・・・こんな股がスースーしてたら歩けないって。

 

「人に慣れる練習なんでしょ?これくらいは我慢しないと」

 

「うぐぐ・・・そうだけど」

 

「それに、激しく動かなければ案外大丈夫だよ」

 

あ、圧が強い・・・これはスカート履くしか選択肢がないヤツだ。

 

「ホントに大丈夫なんだよね・・・?パンチラしないよね?」

 

「大丈夫。今日は風も強くないしね」

 

そこまで言うなら信じるよ?これでパンチラしたら、遥のせいだからね?

 

「その前に、写真撮っていい?」

 

「ダメに決まってるじゃん」

 

「こはくのケチー」

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

なんてことがあって、俺は一人で外出している。

目的はティッシュを買うこと。まあ、ちょっとしたおつかいだね。

 

「さてと、コンビニはあっちだったよね」

 

俺の記憶が正しければ、この道をずっと行くとコンビニがあったはず。

・・・最後に行ったのが数ヶ月前だから、ちょっと自信ない。

 

スカートが短くてちょっと心配だけど、幸い周りに人はいない。

今のうちに行っちゃおう。

 

「・・・それにしても、なんだか懐かしいな」

 

ここは学校の通学路で、毎日遥と歩いたっけ。

身長が低くなってるから、余計に懐かしく感じる。

 

たしか、こっちの方に小さい空き地があって、よく遥と遊んだんだよなぁ。

 

「って、駐車場?」

 

草が生い茂り、誰かが捨てたタイヤが放置された空き地はそこになかった。

代わりにあったのは、車が数台駐まっている駐車場。

 

悲しいような、つまらないような・・・何とも言えない気持ちになる。

そっか、あの空き地はもうないのか・・・

 

「にゃーー」

 

「ん?んんっ!?」

 

ため息を一つ残して立ち去ろうとした、丁度その時。車の影から白い塊が姿を現した。

白い毛に覆われた身体に、長い尻尾。黄色の瞳の中心にある縦長の瞳孔。

 

あれは野生の野良猫!?

 

「・・・」

 

「・・・」

 

見つめ合う。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

一ミリも動かず見つめ合う。

 

「「・・・・・・」」

 

くっ、なんなんだ、あの野良猫はッ!

あのふてぶてしい感じ、俺のことを試してる気がする!

 

俺にはわかる!先に目を逸らした方が負けるとッ!

 

「「・・・・・・」」

 

はぁ、はぁ・・・ヤツめ、一体どう動くつもりだ?

 

いきなり飛び掛かってくるつもりか?なら、体格差を活かして叩き落とす!

それとも前足で殴ってくるのか?だったら、俺も抵抗するぜ。拳で!

 

「「・・・・・・」」

 

さぁ!さぁこい!どこからでもかかってこい!お前はビビってるのか?俺はビビッてないが。

 

『ふいっ』

 

勝った!俺の勝ちだ!あの野良猫、俺よりも先に目を逸らして横切っていった!つまり俺の勝ちなのだ!

 

「ふんす!しょせん野良猫!ニンゲン様の、俺の敵じゃないわ!」

 

って、こんなことしてる場合じゃないんだった。今はおつかいの途中で、道草食ってるヒマはない。

さらば野良猫。俺はコンビニに行くからね。

 

野良猫が消えて行った狭い路地を一瞥し、コンビニに向かって再び歩き出す。

 

ふんふん、たまにはこうやって外の空気を吸うのも悪くないな。

最近は強制的に遥に連れ出されてたけど、一人でのんびり歩くと中々楽しい。

 

新しい店に新しい景色。その中で変わってない物を見つけると、懐かしい気持ちになる。

今度ふらっと散歩に出てみるのもいいかも?

 

そういえば、ゲーセン行きたいな。引きこもってばっかで全然行ってないし。

パソコンで大体のゲームは遊べるけど、ゲーセン特有の混沌とした感じも割と好きなんだよね。

 

あっ、あと中古の漫画とかゲームも見たいかも。

その手の店って、何気なく見てるだけでも楽しくない?『このゲーム懐かしいー』とか、『これなんだっけ?』とかならない?俺だけ?

 

ともかく次散歩する時は、ゲーセンと、中古の漫画とゲームを漁りに行こう。

そして、散歩に行くときのは遥が家に来てない時にしよう。また色々身支度させられるの面倒くさいし。

 

「っと、着いた」

 

なんて考えながら歩いていると、いつの間にか目的地のコンビニに到着していた。

ここにはティッシュを買いに来たのだが、狙いはそれだけではない。

 

「っらっしゃっせー」

 

自動ドアをくぐり、気の抜けた店員の声を流し聞く。

店内を足早に進み、ティッシュ箱を数箱纏めた物を手に取って、次に向かったのはお菓子売り場。

 

「おおー、あるある」

 

お菓子は買うが、本当に欲しい物はそれではない。

 

俺の本命はこっち!じゃーーん!人気のソシャゲ、ピンクアーカイブとのコラボクリアファイル!

 

説明しよう!ピンクアーカイブ、略してピンアカとは!

自称澄み渡る世界感と言いつつ、多種多様なフェチを詰め込んだキャラが大人気のソーシャルゲームである!

 

もちろん、俺も何度もお世話に・・・ゲフンゲフン、俺の好きなピンアカのクリアファイルを手に入れるため、おつかいを自ら買って出たのだ!

でなきゃ、俺が外に行くなんて言うわけないっ!

 

ふーむ・・・対象のお菓子を二個買って、クリアファイル一枚か。

お菓子はテキトーにぱぱっと選んで・・・クリアファイルをどれにするかは、もう決めてきたのだ!

 

目的のブツは確保したし、いよいよレジに向かうとするか・・・!

 

「お、お会計、おねがいしますっ・・・」

 

はあッはあッ、動悸が荒ぶるッ!

噛んでないよね?どこも変じゃないよね?

 

「コチラ温めますかー」

 

「へぇっ!?あ、はい、いいえ・・・」

 

飴とかガムをレンチンしたら、ドロドロのベタベタにならない・・・?

 

「768円になりますー」

 

「あっ、はい」

 

768円だから・・・1000円札と、50円玉が一枚、10円玉が二枚あって・・・えっと、768円だから、あと1円玉を二枚出したらいいのか?

 

「お釣り、304円になりますー」

 

レシートの上に小銭を置いて差し出してくる。

 

それやられると財布に入れにくいから・・・って、うん?100円玉が三枚あるのはいいとして、1円玉が四枚???

俺、お釣り、ぴったりになるように?あれ?そんなバカな・・・

 

「ッ~~~~!」

 

あ、ぐっ、ああああ!やらかしたっ!財布の中に1円玉ある!これも出しておけば、5円玉一枚になってぴったりだったのに!

 

「あらっござっしたー」

 

くそぅ!もうこのコンビニに来れないよぅ!

目的の品も、おつかいの物も手に入れた!もうやだ、お家帰るぅ・・・

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「ただいまぁ!はぁ、はぁ・・・」

 

「こはく、おかえりー!どうしたの?そんなに息切らして」

 

「いや、別に・・・」

 

つい速足で帰ってきてしまった。おかげで少し息が乱れている。

 

「とりあえず、はい」

 

乱れた呼吸を誤魔化そうと、遥にティッシュ箱を押し付ける。

 

「本当にこはく一人で買ってくるなんてねー」

 

「俺、着替えてくるから」

 

「ええーー、せっかくだからもう少し着ててよー」

 

一旦スカートを脱ぐため自分の部屋で着替えてこようとすると、遥に頭を撫でまわされて足止めされる。

鬱陶しいことこの上ないが、俺は今、一人になりたい気分なのだ。

 

「ええい!わかったから!ベタベタ触るなって!」

 

「うんうん。こはくちゃんはかわいいねー」

 

「うっさい。どのみち、財布とか置きに行ってくるから」

 

適当に理由をつけて、遥の手から逃れて部屋に籠る。

俺の他に誰もいないことを確認して、ベッドの上に跳び込む。

 

「びゃああああああ・・・」

 

布団をバタバタと足で叩いて、持て余している感情を発散する。

 

ああああもうマジ!マジでコンビニで失敗した!

あんまり引きずるのもよくないのはわかってるけど!それでも考えちゃうんだって!

 

ていうか、なんだよ!小銭の計算できないって!子どもかよ!中身は男なんだが!?ギャップ萌えとか、いらないんだよちくしょう!

 

「・・・えっと、こはく大丈夫ー?」

 

「は、遥ぁ!?い、いつからそこに!?」

 

いつの間に部屋に入ってきたんだよ!?っていうか、俺が着替えてるかもしれないのに勝手に入るな!

 

「今来たところだけど、何かあったの?」

 

「別に?なーんにもないですけど?」

 

と、とにかく俺が黙っていれば、何があったか遥に知られることはない!

別に、コンビニで何もなかった。いいね?

 

「もしかして・・・スカートめくれて、パンツ見られちゃったとか?」

 

「そんなことしてない!」

 

「それじゃあ・・・補導されかけたとか?」

 

「だから、そんなんじゃないってば!」

 

「降参。正解は?」

 

「正解とかないから!聞き出そうとしてもムダだから!」

 

遥には絶対に教えないからな!知られたら最後、子ども扱いからの小学生のさんすうドリル用意しそうだし!

 

「えーー?本当に何があったの?」

 

「だからなんでもないっ!」

 

 

 

 デビューするまで、あと7日

 

 

 

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