ハリーポッターと願いの本   作:aly

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投稿済みの四話『探る少女たち』が尻切れトンボだったので加筆したものです。
加筆分を同時に投稿するために分けていますが、しばらくしたら加筆前のものを削除します。

追記
加筆前を削除しました。


探る少女たち

 『ホグワーツの歴史』という本が瞬く間に図書室から消失したことに、ハーマイオニーはご立腹だった。おかげで課題の丸写しを目論んでいたロンは取りつくすべもない。おかげで1メートルにも及ぶ作文の長さが足りているかを図って消沈する羽目になっている。

 この作文はホグワーツでは羊皮紙で提出することに、実際に課題を与えられるようになってかこは驚いた。図書室で目にするのはほとんどが植物紙の本なのに、提出する課題や掲示される紙は羊皮紙なのだ。寮監のフリットウィックが羊皮紙のスクロールを開いて連絡事項を通達するところを見たこともある。変なところでファンタジーだ。ここが現実のような物語であることをあらためて実感したエピソードだった。

 本来の物語では、このあと魔法史の授業でハーマイオニーが秘密の部屋について質問をすることで歴史的事実と伝説がビンズ教授の口から語られる。ところがここでは違った。

 

「グレンジャーさん。もしかしたら……この本を探してますか?」

 

 少し離れたところでレイブンクローの一団の中で別の課題をやっつけていたかこが床に置いていた鞄から分厚い本を取り出して表紙を覗かせた。『ホグワーツの歴史』と書かれたそれを目にすると、ハーマイオニーは飛び上がらんばかりに喜んでかこに駆け寄った。

 

「あなたって本当に素敵! やっぱり図書室のことはあなたが一番よ!」

「あなたとそう変わりませんよ。ただ少し……運がよかったんです」

 

 もちろん、かこは彼女のために本を早急に借りていた。いたずらに秘密の部屋のことを生徒たちの耳に入れるよりはずっといいと思ったからだ。後々のハリーのストレスを考えれば、秘密の部屋とサラザール・スリザリンの関係を知る人間は少しでも少ないほうがいいだろうとマミと相談していたのだ。ホグワーツでは秘密なんてあったものじゃないのはご愛嬌。問題はトライするかどうかなのだ。

 

「ホグワーツは一千年以上前に四人の偉大な魔法使いと魔女によって創設された。ゴドリック・グリフィンドールとヘルガ・ハッフルパフ……このあたりは当然知っていることだから省略するわ。ええと……あったわ。サラザール・スリザリンは他の創設者たちと純血ではないものの考えで対立し、ホグワーツを去った。そのとき、スリザリンは部屋を一つ作った。スリザリンの真の継承者だけが開くことができ、魔法を学ぶに相応しくないものを追放するために。この秘密の部屋は何度も探索されたが見つかっていない。おそらく秘密の部屋には何かの怪物が隠されていると考えられている――」

 

 ハーマイオニーはハリーたちに伝わるように読み聞かせた。マダム・ピンスに聞こえないように声を抑えてではあるが、美しい発音でちょっと気取った読み方をするので、内容を既に知っているかこはハーマイオニーはあまり朗読には向いていないな、なんて考えていた。

 

「スリザリン! 生徒も生徒だけど、創設者までクソッタレさ! きっとマルフォイの父親みたいに嫌なやつだったに違いないよ。純血とか言い出したやつだなんて知らなかった。組み分け帽子がそんな寮にボクを入れてたらと思うとゾッとするよ」

「私もグリフィンドールでよかったわ。もちろんレイブンクローも素敵よ。実のところ、組み分け帽子は私をこの二つの寮のどちらに入れるかで悩んでたの」

「ありがとう。グレンジャーさん。私はあなたにはグリフィンドールらしさがあると思いますよ」

「そうかしら。でも嬉しいわ」

 

 ひそかに気になっていた同級生に褒められえて、ハーマイオニーは頬を染めた。その向かいでロンが天を仰いだ。彼女の様子はロックハートに恋する少女の次におかしなやり取りに見えて仕方がなかった。ロンの横では課題を進めていた手を止めて、ハリーが深刻は表情で羊皮紙を眺めている。昨年の組み分けのときのことを思い出しているのだ。「君はスリザリンでは偉大な魔法使いになれる」そういう帽子の声が今になって気になって仕方がない。例のあの人もスリザリンだった。そしてサラザール・スリザリンその人は……。

 深くネガティブな思考にはまりかけて行くところをロンの鋭い声が引き戻した。

 

「マルフォイだ!」

 

 マダム・ピンスの鋭い眉がぴくりと動いた。

 

「なんだって?」

「マルフォイだよ! あいつの父親のルシウス・マルフォイもスリザリンだし、その爺さんも曾爺さんも曾々爺さんもスリザリン。生まれつきのスリザリンなんだ。それにスクイブやマグル生まれを心底ホグワーツから追い出したいと思ってる」

 

 誰も否定するところはないと思ったのが、無言で続きを促す。

 

「あいつが廊下で言ったこと聞いただろう? 継ぎはおまえたちだぞ、『穢れた血』め!って。……ああ、ハーマイオニー。これはマルフォイが言ったことだからボクはもちろんそんなこと思ってないよ。ウン」

「ロン、わかってるわ。マルフォイがスリザリンの継承者だっていう可能性は否定できないけど。どうやって証明……あっ! そうだわ! そうよ、あれならきっとできるわ。でも――」

 

 ハーマイオニーが声を落とした。彼女の賢さに疑念のないハリーとロンはなにを躊躇っているのか不思議なようだ。ハーマイオニーは少し思案しながらかこに視線をやった。もちろん、かこはこくりと首を縦に振った。同じ答えに辿り着いていて、実行することに同意しているというジェスチャーだ。辿り着いたのは活字での話だが。

 それでハーマイオニーは覚悟を決めた。ハリーとロンを手招きして、囁くような声で告げた。

 

「とても難しい魔法薬なの。そして危険だわ。学校の規則をざっと五十は破ることになる」

 

 ハリーとロンは顔を見合わせた。

 

「今とても信じられないことを聞いたな」

「うん。ところでキミにそのつもりがあるなら続きをお聞きしても?」

「許可しましょう」

 

 彼らは実に上手に皮肉やジョークを使いこなす。子どもにも根付く英国文化が、かこには面白くてたまらなかった。真面目な話の途中なので努めて無表情を装いながら。

 

「スリザリンの談話室に入り込んで、マルフォイから直接聞きだすのよ」

「無理に決まってるよ!」

 

  ハリーが真剣に抗議した。

 

「そのための魔法薬よ。ポリジュース薬は他人に変身できる薬で、それを使ってスリザリンの誰かに変身するの。そうすれば私たちは正体がバレずに事を運べる」

「ああ、それならあいつもポロっと口を滑らせるだろうね。で、どう危険なの?」

「魔法薬の作り方が載っている本はきっと禁書棚にあるから、それくらい調合が難しいの。それに材料の調達も。まずは禁書棚の本だけど……先生のサイン入り許可証をもらう必要があるわね」

 

 再びハーマイオニーが手立てを考え始めて、ハリーとロンも何か方法はないかと思案する。おや、とかこは不思議に思った。ロンが妙案を思い浮かばない。プロセスが違ったからだろうかと考えながら、かこは少し背中を押すことにした。

 

「でもポリジュース薬を二年生が作る許可は下りないと思います。ですから、学術的好奇心から読んでみたいという方向でどうでしょう? つまり、そう。それで納得してくれる先生がいればですけど」

 

 ロンの目が見開かれる。そしてにやにやと悪戯を思いついた悪がきの笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「夏目さん! 無事に許可証をもらってきたよ」

「ああ、まったくチョロいもんだったさ。あいつは動かないものになら何にだってサインするからね」

 

 かこが図書室そばの廊下で待っていると、ハリーがひらひらと羊皮紙を掲げて現れた。申請書には几帳面な字で『最も難しい魔法薬』と記載されていて、その下には気取った文字でギルデロイ・ロックハートのサインが記入されている。ハリーとロンから少し遅れてやってきたハーマイオニーは仏頂面で、きっとここに来るまでに敬愛するロックハート教授の悪口を聞かされていたに違いない。

 

「マミさんはいないんですか?」

「彼女なら先に魔法薬を調合する予定の場所に行ってもらっているの。生徒は誰も立ち寄らないと思うけど、念のために」

 

 かこはそれでピンと来たが、ロンたちは特に怪しんでいる様子はない。早速四人でマダム・ピンスに申請書を提出したが、そのときの彼女ときたらそれが偽物でないか細工を見破ろうと灯りに透かしたりしていた。きっと生徒の安全より禁書の棚にある本を心配しているのだ。

 彼女の案内で本は無事に入手できた。

 

「それで? マミはどこにいるの?」

 

 ハリーは本を入れたバッグを大事そうに抱えてそわそわしているハーマイオニーに尋ねた。

 

「え? ああ……付いてきて」

 

 四人は歩き出した。途中でフィルチによって血文字が執拗に消された廊下を通り、さらに先を行く。するとそこにはトイレがあった。

 

「女子トイレじゃないか」

「ええ。でもさっきも言ったとおり、ここに生徒はほとんど来ないの。だからあなたたちが入っても平気よ。その理由は入ればわかるわ」 

 

 トイレに入るとすぐに洗面台があった。石造りの巨大なものに鏡がはめ込まれてる。全体には丁寧な装飾がなされていて歴史を感じられる。その一つにマミは腰かけていた。どうも疲れているのか元気のない様子だ。

 

「お待たせ、マミ」

「ええ、本当に。それはともかく何とか交渉は済ませたわ。ここでしていることの邪魔をしない。私たちも余計な干渉はしない。ここでしていることを誰かに話さない。私たちは彼女に決して悪戯をしない。そんなところかしら」

「彼女だって?」

 

 慌ててロンは周囲を見渡したが、他に誰かいる様子はない。個室はすべての扉が開いているし、悪戯な誰かがマミと組んで隠れているということもないだろう。マミはグリフィンドールの中ではロンの兄のパーシーに次ぐ優等生なので、彼は疑いもしなかった。

 再び個室を背にしてマミたちに向き直ったロンの背後で、おかしなことが起こるのをかこは気づいた。まず個室の一つから水が飛び出した。そしてロンに一番近い個室の壁から透明な何かが生えて――。

 

「わたしよ!」

 

 それはロンの体をすり抜けて、くるりと反転して彼に向かって絶叫した。

 

「うわああああ!!」

 

 ロンは悲鳴を上げながら数歩後ずさる。ハリーとかこも半歩引いて、顔をひきつらせていた。

 

「アー、紹介するわ。彼女はマートル。見てのとおりゴーストでここに住んでるの」

「ハァイ、ハリー。わたし、あなたを知ってるわ。絶命日パーティーで見かけたもの。どうしてか会いに来てくれなかったけど」

 

 マートルはホグワーツの制服を着ていた。ネクタイやマントの意匠からレイブンクロー生だったことがわかる。

 

「大丈夫なのか? このゴーストが喋ったりしない?」「ええ。マートルはときどきトイレを水浸しにするから生徒はあまり近寄らないの」

 

 ハーマイオニーは率直に答えた。しかしそれがいけなかったのだろう。癇癪を起こして一通りハーマイオニーを罵倒したマートルは便器に引きこもってしまった。

 

「ダメよ、ハーマイオニー。彼女との約束があるからそういうのは一切なし。嘘でも噂でも事実かもしれなくてもね。ナイーヴな女性なのよ」

「ええ、わかったわ。すごく」

「さて、それが例の本ね? 早速見てみましょう」

 

 どうやらこの五人が集まるとリーダーシップを発揮するのはマミのようだ。男の子たちは勉強が嫌いだし、かこは大人しい。同年齢の中でもっとも落ち着いて分別のある寮生だからか、ハーマイオニーは彼女に頭が上がらなかった。

 

「材料はいろいろね。クサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギは生徒用の材料棚にある。でも二角獣の角の粉末や毒ツルヘビの千切りはどうやったら手に入るかしら」

「スネイプ教授が個人的に所有してる倉庫はどうでしょう?」

 

 ハーマイオニーがポリジュースの説明に目を通している最中、ハリーとロンはほとんど挿し絵に目をしかめていた。結論を先に促したかこに、彼らは信じられない気持ちで目をやった。

 

「おったまげー。夏目さんって意外に大胆なんだな」

「夏目さん? 一応そこから材料を得るには規則を破って盗むしかないってこと、分かってる?」

「もちろんです。でも私たちがそれらの材料を入手するにはノクターン横丁に行くか外への抜け道を見つけ出してその手のところで注文するくらいしかありません。一番可能性が高いのは教授の倉庫から頂くことです」

 

 ぴしゃりと言われてハーマイオニーは閉口した。どのみち賛成だったので、荒事はハリーたちに任せてあらかじめ煎じておかなければならない材料は女の子三人で交代で作業することになった。

 

 

 

 まもなくクィデッチシーズンが到来した。グリフィンドールの初戦はスリザリンが相手なので余計に気合いが入っていた。練習初日に揉め事があってから二組は例年以上に緊迫した関係にある。

 試合は激しい攻防が続いたが、不思議な軌道を描くブラッジャーという事件のせいでハリーは右腕をふにゃふにゃにされた。

 しかしその日の事件は終わらない。ハリーが医務室で横になっていると、屋敷しもべ妖精のドビーが現れ、さらにグリフィンドールの一年生のコリンが担架に乗せられて現れた。カメラを顔に当てて石のように固まっている。初めての人間の被害者だった。

 十二月の四週目、マミが颯爽とスネイプの保管庫から材料を盗み出した次の週、玄関ホールの掲示板に新しい知らせが張り出されていた。生徒たちがそれを見ようと集まっている。

 

「なんだろう?」

「決闘クラブね。夏目さんがフリットウィック先生から聞いたって教えてくれたわ」

「へえ。それなら何か役に立つかもね。スリザリンの継承者相手なら。もちろん、怪物にはお手上げさ」

 

 その日、会場には多くの生徒が集まった。長い寮生活を送っている生徒たちは娯楽に飢えている。さらに目の前に迫った危険があるとなれば関心が高まるのも当然だった。

 

「今夜が第一回目ですって」

 

 ちなみに本の描写はその一回しかなかったらしいので、マミは二回目以降は行われなかったのだろうと思っている。魔法界の決闘を体験するのは今のところ今夜しかチャンスはない。彼女もかこもこの決闘クラブに参加する予定だ。

 ロンは話を聞いてすぐに興味を示し、ハーマイオニーとハリーもロンの熱意に促されて参加を決めた。

 その夜の大広間はいつもの長いテーブルが取り除かれて、金色の舞台が一つ佇んでいる。宙にはたくさんの蝋燭が浮かんでいた。

 

「夏目さんもいるわ」

 

 集まった生徒は特にグリフィンドールとハッフルパフが多い。スリザリンの継承者による被害が出ているからだろうか。次に多いのはスリザリンで、決闘というものに興味が強いのだろう。対してレイブンクローの生徒は他と比べると少し少なかった。

 大広間の一角に集まっていたレイブンクロー生たちの中に、かこの姿もあった。男子生徒の熱弁に相づちをうっていた彼女は、マミたちの姿を見つけると彼に断りを入れて小走りでやってきた。

 

「こんばんは。マローンさんがどうにもフリットウィック先生の決闘に強い関心があるようでして、その活躍ぶりを延々と聞かされて困っていたんです。一緒にいてもいいですか?」

「もちろんさ。それにしてもフリットウィック先生がなんだって?」

「若い時に決闘チャンピオンだったことがあるそうです」

 

 とはいえ彼が講師でないことは既に知っている。

 

「みなさん、集まって――!」

 

 スネイプを従えて登場したロックハートの姿にロンがうげぇと声をあげる。一方ハーマイオニーは少し頬が上気していた。うんざりしているやつが相手でも実際に決闘のデモンストレーションが始まれば話が変わる。二人が舞台の両端に移動して杖を構える頃にはみんなその様子に夢中になっていた。

 かこはマミの手を引いてこっそり3人から離れた。

 

「夏目さん、どうしたの?」

「いえ、あそこにいるとスネイプ教授に目を付けられて誰とペアにされるか分からないので」

 

 かこは会場の隅の方へと移動した。

 ロックハートとスネイプがよく見えるところにいたハリーたちはバラバラにされ、ロンはシェーマスと、ハリーとハーマイオニーはスリザリンのマルフォイとブルストロードとペアにされた。かこたちは異なる寮の生徒だったからか、スネイプたちも特に気にした様子はなくそのままペアになれた。

 

「助かったわ」

「いえ。では、武装解除の呪文の練習をしましょう。他所から呪文が飛んでくるかもしれないので注意してくださいね」

 

 ロックハートの合図で始まった最初の決闘はひどいものだった。二人はマミが鮮やかな早打ちでかこの杖を奪うことに成功したが、横から強風の呪文が飛んできたので危うく取り落とすところだったし、かこの方には魔法で生み出された鳥が飛来した。とはいえ周囲の金縛りにあっている生徒や声が出せなくなっている生徒よりはずいぶんとマシだろう。

 一番ひどいのはハリーとマルフォイの組み合わせで、ロックハートが惨事に声を荒げていた。

 

「ここからですよ」

 

 ロックハートが方針転換をして代表二人を選ぼうとするのを見て、マミから杖を受け取ったかこは壇上に注目した。

 スネイプによって選ばれたハリーとマルフォイが向かい合っている。何の役にも立たない助言をしたロックハートが退散すると、マルフォイが蛇を呼び出した。

 彼が呼び出したのは大蛇で、勢いよく飛び出した蛇は二人の中間に放り出された。この魔法は無から蛇を生み出すのではなく、どこかの蛇を呼び寄せるものだ。呼び出した術者に友好的なわけではなく、どんな状況で呼び出されたのか非常に気が立っている。

 偶然にも近くにいた生徒はさぞ恐怖したことだろう。事前にかこからマルフォイが蛇を呼び出すとは聞いていたが、周囲を威嚇する大蛇の姿にマミはぶるりと震え上がった。おまけにロックハートがしゃしゃり出て大蛇を吹き飛ばしたものだから、その怒りは蛇語が分からなくとも伝わるほどだった。目の前にいた気の毒なハッフルパフのジャスティン・フィンチ-フレッチリーは震え上がった。

 マミもハリーの蛇語を聞こうと近寄っている途中だったので、大蛇が間近で警戒心を露わにするところを目にしてぶるりとした。

 

『やめろ。生徒には手を出すな』

 

 大慌てで壇上から大蛇に声をかけた人がいる。ハリーだ。マミにはそれがパンクしたタイヤから空気が漏れ出す音のようにしか聞こえなかった。しかしハリーはそれを何度も区切ったり抑揚をつけて言語らしいものになっている。なるほど、これでは多くの生徒は恐怖しか抱かないだろうと真実を知っているマミでさえ思った。

 ロンやハーマイオニーと一緒になって状況を掴めていないハリーを大広間から引きずりだすとき、そういえばかこはどうしているのだろうかと室内を見渡す。彼女は先ほどまでマミがいたところで神妙な顔つきで大蛇の消えた空間を眺めていた。

 決闘クラブのその後のことはかこの知るところではなかった。ハリーたち4人はすぐにグリフィンドール寮に戻ってしまったので、おそらく小説にあったようにハリーが昔から蛇と話せたこととスリザリンがその能力を持っていたことをロンから説明を受けたことだろう。

 ハリーたちと一緒に大広間に出てしまったかこは、そのままレイブンクローの寮に戻ることにした。

 

「あれ? あんた一人なンだ?」

「あなたは……ラブグラッドさんですね。ええ、私は中座して戻ってきたんです」

「ふーン。やっぱり上手くいかなかったんだね。ロックハートの本は嘘だらけだもン」

 

 かこは驚いた。そりゃロックハートの著書は荒唐無稽な内容なので全てを信じているのは熱狂的なファンくらいのものだろう。ところがルーナといえばばっさりと著書を切り捨てている。

 

「フリットウィック先生が主催しないって聞いたから私は行くのを止めたンだ」

「とても賢い子なんですね」

「そう? でも皆私のことをルーニー(変わり者)って呼ぶよ?」

「ひどい――。いえ、あなたはあまり気にしていないみたいですね。やっぱり凄い子です」

 

 もしかしたら、ルーナという少女は今後物語の主要な部分に関わってくるのかもしれない。今はまだグリフィンドールとスリザリンの確執ばかりがフューチャーされているが、4寮あるホグワーツが舞台である以上、きっとレイブンクローが脚光を浴びる機会もあるはずだ。

 事実、今回は闇の魔法使いを恐れる存在として八プルパフの生徒が取り上げられている。

 

「あンた、名前はなんて言うの?」

「私は夏目かこと言います」

「じゃあかこって呼ぶね。私のことはルーナって呼んでもいいよ」

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