ハリーポッターと願いの本   作:aly

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図書館攻防戦

 クリスマス休暇は主に医務室にいるハーマイオニーとの面会で終わった。彼女ときたら猫の姿になっても欠かさず勉強をしようとするので、ハリーたちは辟易としているようだった。おかげで一番話が合うのはかこだ。

 しかし休暇が明けると授業がある。グリフィンドールとレイブンクローはほとんど授業の日程が異なるので、グリフィンドールの3人と会うのは朝食と授業終わりくらいものだ。しかし朝食はだいたい皆急いでいるし(特にハリーはクィディッチの練習がある)、授業終わりもそれぞれの課題に忙しい。

 かこは魔法史や天文学のような筆記の授業は得意だったが、変身術や呪文学のような実技科目はそうではない。かこの知らない昨年の彼女はこれらの授業も得意だったらしく、先生方はうまく呪文を成功させられないかこに首をかしげていた。マミが丁寧に昨年の復習につきあってくれなかったら、今でもかこはエンゴージオの呪文でつまづいていただろう。

 

「どうやらハリーが日記を見つけたみたい」

「一緒にいなかったんですか?」

「私だって普段は女の子の友達と一緒よ。パーバティーとはよくお茶をするの」

 

 パーバティーはかこのルームメイトのパドマの双子の姉妹だ。やはりアジア系同士で一緒にいるのが楽なのだろう。

 

「そろそろハーマイオニーが退院するから、日記に色々試すと思う」

「まぁ、本当の使い方はバレンタインまでお預けなんですけどね。ところでバレンタインといえばイギリスにも友チョコの文化はあるんでしょうか? 私、空いている時間に何か作れたらと思っていて」

「どこで作るの?」

「キッチンがあるんですよ」

 

 そういえば、とマミは大広間に並ぶ毎食や歓迎会などの豪勢な食事がどこで用意されているのかを気にしたことがなかった。きっと魔法でどうにかしているのだろうと思い込んでいたのだ。

 レイブンクローには代々の生徒たちが収集してきた地図がある。決して寮の外に漏れることがないのは、生徒たちが暗記してしまっているからだ。

 

「よければ私にも場所を教えてくれる?」

「いいですよ。それでは夕食後に行きましょう」

 

 その日の夜、外出制限の時間までの間に二人はキッチンに行くことになった。ハーマイオニーはまだ入院中なので、夕食を終えたマミがレイブンクローのテーブルを訪れると、彼女は同室のリサ・ターピンとゆっくりお茶をしているところだった。

 

「かこ。お客さんよ」

「巴さん。もうお食事は終えたんですか?」

「ええ」

 

 少し早かったか、と思いながらかこの隣に腰かける。とん、とテーブルを杖で叩くと紅茶が現れた。

 

「慣れって怖いわね。どうやって今の紅茶は現れたのかしら」

「ふふ。すぐに分かりますよ」

 

 三人で軽く談笑をしてから、マミとかこは大広間のそばにある階段を目指した。そしてそれを降りたすぐ脇にある小道に入る。奥には何かの樽が積み上げられている。かこはちらとそれを見てから、すぐ近くにある絵画に向かい合った。

 

「ここです。この絵の梨をくすぐってください」

「絵を?」

 

 言われるがままにマミが絵をくすぐると、今までただの壁だったところに扉が浮かび上がった。ちょうど絵画の下にドアノブがある。

 かこがそれを回すと、扉が奥に開く。マミの鼻をさきほどまで食べていた食後のデザートの甘い香りがくすぐった。

 そこはまさしくキッチンだった。ただ、思ったよりもずっと狭い。何十人ものスタッフが働けるような場所ではないようだ。

 

「お嬢様方! 何かお用事がおありですか?」

 

 マミが部屋に目を白黒させていると、急に足元からきんきん声が響いた。みすぼらしい布を身体に巻いただけの不思議な生き物だった。魔法生物学でも習っていない。

 

「はい。今度自分たちでチョコを作りたいので、彼女にキッチンを案内しにきました。よければ設備の説明をしてくれますか?」

「もちろんでございます! ファーゴはお嬢様方をよろこんでご案内します!」

 

 意気揚々と先導するそれを見て、マミはこっそりとかこに耳打ちした。

 

「あの……彼は?」

「屋敷しもべ妖精ですよ。彼以外にもたくさんいます。ここにいないということは校内の掃除をしているんでしょう。ほら、あのドビーと同じです」

「なるほど……」

 

 たしかに彼のような声であれば、ダーズリー家ではよく響いただろう。ハリーが隠し通せなかったのも無理はない。マミはホグワーツでいくらか魔法生物について習ったとはいえ、妖精といえば手のひらサイズで羽の生えた可愛らしいものを想像していた。だからそのなんともいえない容貌にがっくりきた。

 

「こちらがお鍋に窯です。ビスケットもプディングもファッジもここでお作りになられます」

「まぁ。オーブンがないのは大変ね」

「火加減はお任せください!」

「彼らに甘えましょう。現代で作業している部分以外は魔法が頼りです。下手な魔法を使うより屋敷しもべ妖精のほうがずっと確実ですよ」

 

 実際の魔法使いは料理の大部分を魔法で行ってしまうのだが、二人は知らない。結局調理する日にちを決めて、材料を屋敷しもべ妖精のファーゴに任せることにした。基本的にここには様々な材料が保管してあるのだ。それも全生徒と教員の毎日の食事に対応できる量をだ。

 どんなチョコを作るのかは当日のお楽しみということにして、二人はキッチンを後にした。

 

 

 バレンタイン当日。かこは早速ルームメイトにチョコを振舞った。

 

「ハッピーバレンタイン。どうぞ」

「おはよう、かこ。これは……チョコチップスコーン?」

「はい。日本ではバレンタインデーに親しい人にチョコ菓子を贈る風習があるんです」

 

 パドマとリサにスコーンを渡すと、かこは談話室に足を運んだ。マイケルやマンディたち同級生にスコーンを配り終えると、女子寮からぼさぼさ頭の女の子が眠たげに出てくるのが見えた。ルーナだ。

 

「ルーナさん。ハッピーバレンタイン」

「これ、アタシに? あんたやっぱり親切だね。それにラックスパートみたいなお菓子で気が利いてる」

「ラックス……?」

 

 彼女の言ったそれはさっぱり分からなかったが、さっそくスコーンを美味しそうに頬張る姿を見てかこはすぐに気にならなくなった。それから親しい上級生と下級生にもそれを配り終えると、今度は朝食で大賑わいの大広間に向かった。

 大広間では不思議なことが起こっていた。壇上ではロックハートが演説し、小人が歌いながら練り歩いている。幸いにもかこの周辺には現れなかったので、ゆっくりと朝食をとることができた。

 お腹をみたしたところでグリフィンドールのテーブルに行くと、小人が騒がしい。どうやらハリーの足元で歌ってるようだった。

 

「大変そうですね」

「あら、夏目さん。もしかしてあなたもお菓子を持ってきたの?」

「はい。ということは既に巴さんから渡されているようですね。こちらが私のお菓子です」

 

 かこはスコーンをハーマイオニーの手の上に一つ。ロンの手の上に2つ渡した。

 

「ハリーの用事が済んだら渡してあげてください」

「ウン、まぁそうだね。君はあそこに入らないほうがいいよ」

 

 それから、最後の1つをマミに渡す。

 

「ありがとう。こっちは私からよ。ハッピーバレンタイン」

「わぁ、これすごいですね」

 

 マミが用意していたのは玄米を使ったチョコレートビスケットだった。口に運ぶの柚の酸味と生姜のスパイスが効いている。寒いイギリスの冬にぴったりなお菓子だった。

 

「巴さんはお菓子作りが得意なんですね」

「ええ。いっぱい食べたいから昔から自分で作っていたの」

 

 かこはイギリス人に馴染みのあるお菓子で簡単なものを選んだだけだったので、マミのこういう繊細な配慮には関心しきりだった。

 二人がチョコを交換し合っているところで、ハリーがエクスペリア―ムズの呪文でマルフォイから日記を取り換えすのが見えた。今日にでもハリーは日記の中のトム・リドルと接触するだろう。いよいよ物語が一段階進んだことをマミとかこは認識した。

 基本的にしばらくの間は何も起こらない。日記の記憶から50年前に秘密の部屋を開いたのがハグリッドだったことが分かり、彼とダンブルドアが一時的にホグワーツを去ることになる。しかし生徒たちには大きな変化はないのだ。

 イースター休暇まで、二人は何度も魔法の勉強をした。それは期末試験対策も行ったが、物語の最終段階で戦う術を身に着けるためだ。しかしかこが覚えられたのはインセンディオとボンバーダ、そしてアグアメンティくらいだった。今は念のためにオブスキューロの呪文を覚えようとしている。バジリスクに呪文が効くか分からないので、視界を遮るような呪文がほとんどだ。

 どう考えても主席だったトム・リドルとバジリスクには敵わないだろう。かこはそっとブラウスの中にチェーンで吊るした指輪を握った。

 

 ついにイースター休暇の季節がやってきた。レイブンクローの生徒は変わり者が多いので、選択科目はそれぞれの関心に従って選んでいる。かこが最も心惹かれたのは占い学と古代ルーン文字学だ。数占い学も捨てがたい。一方マグル学と魔法生物学については必要ないと考えていた。巨大蜘蛛が出てきたらどうするんだ。

 ところが、ハーマイオニーが全ての選択科目をチェックしたと聞いて、一番のお友達と同じ授業を選んだマミによってかこは泣きつかれてしまった。

 

「ハーマイオニーならきっとうまく出来るでしょうけど、私には自信がないの。お願い夏目さん、二人がかりならきっと負担を分散できるわ。それにあとマグル学と魔法生物学をチェックするだけじゃない!」

 

 目ざとくかこの提出用紙に目をつけたマミがかこの両手を握りしめる。さすがにたった一人の同胞を無下にすることはかこにはできない。彼女は仕方なくすべての科目にチェックを入れた。

 

 

 そしてその日がやってきた。かこが起床して談話室に行くと、いつもより寮内が騒がしい。クィディッチの日だ。忌々しいスリザリンの継承者と目されているハリーがいるグリフィンドールではなく、皆ハッフルパフを応援しているようだった。

 かこは大広間でいくつかパンとジャムを拝借すると、はしたないと思いつつもそれをつまみながら上階を目指した。ピンス司書以外には誰もいない。彼女はかこの姿を認めると、クィディッチはいいのかと尋ねた。

 

「はい。優先すべき用事があるので」

「そうですか。私ももうじきクィディッチ会場に行きますが……あなたなら問題ないでしょう。くれぐれも禁書棚には近づかないように」

「はい」

 

 彼女は一通り図書館内を巡回すると、かこに再び挨拶をして去っていった。

 さて、間もなくハーマイオニーがやってくるだろう。かこはブラウスをぎゅっと握った。

 

「あら? かこ?」

「ミス・クリアウォーター? クィディッチはいいんですか?」

「ええ。校内が手薄になっている今こそ不審なものがないか見回らないとね」

 

 かこはここに来て図書館で石にされたのがハーマイオニー一人ではなかったことを思い出した。

 

「マミったら、私は平気だからハリーの応援に行ってあげて」

「いいえ。今一人になるのはすごく危険なことだってあなただって分かっているでしょう?」

 

 角の向こうからハーマイオニーとマミの声が聞こえてきた。ハーマイオニーはほとんどスリザリンの怪物の正体を見破っている。推論を確証に変えるためにここに来たに過ぎないのだ。その証拠に、彼女の手には手鏡が握られていた。

 

「ミス・クリアウォーター。決して図書館から出ないでください。外を見るのも厳禁です。間もなくスリザリンの怪物がやってきます」

「えっ?」

 

 かこは後ろをついて来ようとするペネロピ・クリアウォーターに咄嗟に金縛りの呪文をかけた。そうして図書館の外に駆けだすと、二人に向かって叫んだ。

 

「急いで! もう5分もないです!」

「分かったわ!」

 

 何がどうなっているのか分からないハーマイオニーを引っ張って、マミが図書館に辿り着く。固まって転がっているペネロピを見てぎょっとしたが、石化ではないことにほっとしていると、廊下真っ暗になった。かこがノックスで一時的に視界を遮ったのだ。

 しかしかこが出てこない。

 

「夏目さん? ルーモ――」

「ダメよ! もし彼女の目の前にアレがいたら死んでしまうわ。ここは私に任せて!」

 

 あやうく闇を照らそうとしたハーマイオニーを止めると、マミまでも闇の中に突入してしまった。

 彼女が廊下に出ると、視界はまったくなかった。バジリスクの瞳が他の生物同様に光の反射で死を招くものならともかく、もしも瞳そのものが発光していてはこの暗闇も無力だ。マミはとっさに変身してリボンで目を覆った。

 

(残念だけど、私に視界は必要ないのよ)

 

 大量のリボンが虚空から姿を現す。縦横無尽に噴射されたそれは廊下一帯を結界と成した。

 

(夏目さんに当たらなかった。彼女はどこに?)

 

 そのとき、リボンが数本ちぎられた。明らかに人間ではない巨大さのそれが、マミに向かって一直線にやってくる。バジリスクだ、と直感した。

 マミの正面にリボンで成形したマスケット銃が五丁浮遊する。正面やや上方、おそらく目があるであろう位置に向かって一斉射撃を行う。固い皮膚に直撃したのか、甲高い音を立てて弾かれていく。マミはとっさに姿勢を低くして脇を通り抜け、柔らかいであろう腹に向かって再び銃を放った。

 

「なんて硬いの!」

 

 バジリスクはなおも図書館に向かっていく。マミはリボンをより合わせて強力な一本を作り、バジリスクの胴体を縛り付けた。

 

「フリペンド!」

 

 バジリスクが壊した校舎の破片を飛ばしてぶつけてみる。しかし強力な魔法生物であるバジリスクには全くの無意味だった。マミは歯噛みした。ここでマギアをぶつけてみるか。しかしあれを早々使うわけにはいかない。

 バジリスクが動けない数秒間に次の手を考えていると、マミの背後から聞き慣れた声がかけられた。

 

「巴さん、退いてください。――一貫の終わりとさせてください。『煌道のページ』!」

 

 豪、という音を立ててマミの目の前を光の奔流が過ぎ去った。それはマミのリボンを食い破ろうとしていたバジリスクの口内に吸い込まれていく。バジリスクは悲鳴を上げた。

 しかしマミの意識はそちらには向いていなかった。闇を切り裂いたその先には、頭に大きな花を挿した白と黒のローブの少女が巨大な槍を突き出していたからだ。その胸元には、見慣れた宝石があった。

 

「――ソウルジェム?」

 

 魔法の世界で、二人の魔法少女が出会った。

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