ハリーポッターと願いの本   作:aly

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秘密の部屋

 スリザリンの怪物がバジリスクであるということを、ハーマイオニーはマクゴナガルに告げたようだった。ダンブルドアは生徒のほうから捕まえることが難しい人物だし、寮監督ということから話しやすかったのかもしれない。

 とにかく、彼女の理論は完璧だった。なぜハリーがいつも犯行現場に出くわすのか。そして石化呪文ではなし得ない高度かつ複雑な石化がなぜ発生したのかを現場の状況から説明できた。さらにマミとかこという実際に怪物に対峙した生徒がいることは大きかった。

 しかし二人はかなり危険な行為を咎められて三十点ずつが減点され、生徒を二人守ったことで五十点ずつ加算された。

 教員たちの会議の結果、翌朝の大広間で生徒たちへの説明が行われた。

 

「全校生徒は夕方六時までに各寮の談話室にもどるようにしなさい。授業に行くときは寮から教室まで、教室から教室まで全て先生が一人引率します。トイレに行く際もです。図書館に行くことを希望する生徒はあらかじめ申請しておくこと。決まった時間に引率して往復します。そして誠に残念ながら今年度のクィディッチやクラブ活動は延期します。これは秘密の怪物が実際に目撃されたためです。我々教師はその正体を明らかにしたので、この問題を解決するまでの措置です」

 

 大広間でどよめきが波打った。かこの周りでも主に男の子がスリザリンの怪物の正体を口々に予測している。ピュトンやエキドナ、バジリスクなどの蛇の怪物が多く挙げられたが、最も有力なのはゴルゴーンとメデューサだ。しかし神話の怪物が魔法生物として存在しているのかはかこには分からなかった。彼女が知っているのはバジリスクこそがスリザリンの怪物だということだ。

 マミとの魔法の練習もできなくなった。二人の連絡は朝と晩の食事時にメモを魔法で飛ばしあっている。ハリーによると、この事態の解決にあたって夜間に教師が学校内の捜索を行っているらしい。もっとも、ロックハートだけは一人で行動することを許されている。これは彼が自ら言い出したことなのだが、実際に活動しているかはあやしい。

 しかしこの情報は透明マントを被ってロンと職員室に探りにいって得た情報だというので、ハーマイオニーとマミからこっぴどく怒られたそうだ。

 水辺のほとんどは凍結呪文で封鎖された。湖は水中人のような知的生物からグリンデローや巨大イカなどが存在するので手を出すことはできなかった。湖と校舎を隔てるように土の壁をフリットウィックが作って校舎から遠ざけるだけにとどまった。

 このまま何事もなく今学期を終えるのだろうかという空気がホグワーツに蔓延し始める。自由な時間は減ったものの授業は滞りなく進み、学期末テストの予定が寮内の掲示板に張り出された。

 しかし、そんな希望は前触れもなく打ち砕かれることになる。

 

 

 授業のために談話室で授業ごとにグループになった生徒たちの前にフリットウィックが現れた。彼は引率という面倒な仕事にも文句一つ言わず快く引き受けてくれていたが、今は気が立っているらしく一年生が怯えている。

 

「授業は中止です! 明朝グリフィンドールの生徒が二人連れ去られました。もしかしたらホグワーツの閉鎖もありえます。とにかく、我々は生徒の救出に向かわなければなりません! 絶対に寮から出てはいけません! いいですね?」

 

 扉の向こうに消えたフリットウィックの背を眺めながら、かこは消えた二人について考えた。

 一人はジニー・ウィーズリーで間違いない。そしてもう一人は彼女の手で連れ去られたのだ。言葉巧みに誘導したのか、力づくかは分からない。

 一番に思い浮かんだのはハーマイオニーだ。もしかしたらハリーを直接連れ出した可能性もある。

 かこは急いで部屋に戻った。幸いパドマもリサもいない。彼女は魔法少女に変身すると、向上した身体能力を使って窓の外へと踊り出た。

 尖塔から近くの屋根の上に飛び移る。グリフィンドール寮が別の塔にあることは知っていたので、頭の中で太ったレディがいる塔を思い出して一直線に駆けた。

 そしてかこは誰かの部屋らしき窓を見つけると、槍で思い切り突いた。穂先から光線が出て、ホグワーツの守りを貫通してガラスを破る。そこに飛び込む際に変身を解いて、かこはごろごろと室内を転がった。

 

「ウワっ!?」

 

 男の子の声だった。どうやら男子寮に突入してしまったらしいと室内を見渡すと、部屋の中にはロンとハリーがいた。ハリーの手には透明マントが握られている。

 

「ああ、やっぱりあなたたちも人質を助けにいこうと思ってたんですね」

「そうさ。だって僕の妹が連れ去られたんだ。それに、マミも」

 

 巴さんが、と危うく絶叫するのをかこは両手で口を塞ぐことで防いだ。

 

「ハーマイオニーさんは無事なんですか?」

「もちろんさ。ああ、君はハーマイオニーが狙われたと思ったのか。でもマミだってマグル生まれなんだから、危ないのは同じだろう?」

 

 それを聞いて、かこは自分たちの生い立ちに関してどういう設定なのかを調べていなかったことに気がついた。

 もちろん実の両親は本の世界の住人ではないから魔法使いではない。しかしこの世界の両親がどうかなんて考えたことがなかった。

 もしマミから去年の本について詳しく聞いていたなら、魔法族の子供にはふくろう便で入学案内が来て、マグル生まれにはいずれかの先生がやってくることを知れただろう。そしてマミのもとには先生が来ていた。

 彼女はマグル生まれという設定だった。

 

「ハーマイオニーさんを呼んで来てくれますか?」

「ああ、いいよ」

 

 かこが談話室に出るわけにはいかないので、ハーマイオニーに来てもらうことにした。きっと談話室でハリーたちの用意が済むのを待っているだろう。

 ほどなくしてやってきたハーマイオニーはかこを見て仰天した。

 

「夏目さん、あなたどうやって!?」

「窓からさ。信じられないだろうけど、この散らばったガラスの破片が証拠だよ」

「ほんとどうやったんだ?」

 

 ロンの疑問は封殺して、かこは必要なことだけを伝えることにした。

 

「よく聞いてください。50年前にスリザリンの継承者は生徒を一人殺しています。そして私たちは生徒のゴーストを一人知っています」

「まさかマートルが?」

「それにあそこは水場です。パイプが必ず通っていますよ」

 

 本来はアクロマンチュラから聞く情報だが、今はそれどころではない。かこはマートルが殺された生徒でなくとも何か知っているかもしれないからと三人にトイレに行くことを了承させた。

 

「でも透明マントに四人も入るかなぁ?」

「いえ。私は外から向かいますので大丈夫です」

「何を言ってるんだ?」

 

 きょとんとする三人の前でかこはローブを脱いだ。そして助走をつけて窓枠を飛び越える。激しい風に身を任せて落下する。十メートルほど落ちたところで変身し、彼女は素早くローブを上から纏った。

 槍を塔に打ち付けて落下を止めると、かこはひょいと近くの窓から再び校舎に戻った。

 

「わーお。夏目さんって見た目と違ってすっごくクールだ」

「……さっきの棒は何かしら。変身術? それとも呼び寄せ呪文?」

 

 三人の中でかこの不思議がまた一つ増えた。

 

 

 ホグワーツ城の地下深く。湖のあたりまで降ったところにその部屋はあった。通路を除いてほとんどが水面で、蛇のオブジェが並んでいる廊下のさきに彼女たちはいた。

 マミが目を覚ますと頬が濡れていることに気が付いた。硬い石畳の上に寝かされている。目の前には巨大な人面のレリーフがあった。

 

「やあ、目が覚めたかい?」

 

 頭上からの声に、マミは急いで身を回転させて起き上がった。しかしどうにも力が入らなくて、膝立ちするに留まった。

 

「あまり激しく動かないほうがいい。君の魔法力を少し多めに頂いたからね。また気を失われても面倒だ。次のお客さんが来るんだ」

「ハリーのことね」

「そうだ。君はこの小娘の言うとおり中々賢いようだ。穢れた血生まれに優秀な魔女が二人もいるというのは腹立たしいものだが、君が本当に穢れた血なのかは少し疑問なのだよ」

 

 目の前の人物は高学年の男子生徒だった。毛先がカールした黒い髪を撫でつけている。清潔感があり、いかにも優等生という感じにマミには見えた。この男がトム・リドル。昨年見た闇の帝王の滓とは全く違う様相に驚いた。

 

「サーペンソーティア」

 

 トムはマミの前に蛇を呼び出すと、シューシューと何事かを蛇語で呼びかけた。すると蛇はその場でとぐろを巻き、鎌首をもたげた。しかし口は閉じたままで通常の攻撃態勢ではない。

 

「安心するといい。君を攻撃しないように命じた。この蛇を呼び出したのは少し説明に必要だったからだ」

 

 そう言うとトムは蛇のそばで屈みこんで首に手を這わせた。

 

「通常蛇は様々な感覚で獲物を見つける。ここが目で、鼻、耳は中にある。そして熱を感じるピット器官。そしてもちろん触感もある。これは耳が退化した代わりにとても優れている。さて、君はもう何を聞かれるのか分かってきたと思うんだが……バジリスクも同様に皮膚感覚が優れている。君が何かを巻き付けて動きを封じたのも理解している。しかしバジリスクの膂力を上回る幅10センチほどの何かが存在するだろうか? 変身術で作った金属線で編んだ紐か? いや、もっと柔らかいものだった。この僕が知らない魔法? いや、それはない。なぜなら僕はヴォルデモート卿だからだ」

 

 トムの口角がぐにゃりと歪み、残忍な笑みを浮かべた。

 マミはこれまで多くの残酷な殺人を行う魔女や使い魔と戦ってきた。見滝原市を奪おうとする魔法少女と戦ったこともある。しかしこれほど残忍な顔をする人間というものを見たのはこれが初めてだった。

 

「たとえ闇の魔法使いだからといって全ての魔法を知っているわけじゃないでしょう?」

「ふむ。それはまともな意見だ。しかし蛇というのは舌を使って周囲の空気を探ることができる。しっかりと張り巡らされた同じものを感知していた。そして君は知らないだろうがね、魔法生物であるバジリスクは魔法力も感知できる。君が生み出した物質からは魔法族の魔法力とは異なるものが感知された」

 

 昨年もトロールを相手に立ちまわったが、今年は記憶とはいえ闇の帝王本人が相手だということをマミたちは軽く見ていたのだろう。たった一度の交戦で、しかも本人ではなくバジリスク相手だったにも関わらず、マミがこの世界のものではない魔法を使ったことを察知されてしまった。

 彼女が生かされているのは、未知のものを知っておきたいというトムの慎重さによるものだ。

 

「魔法史はしっかりと聞いているか? この世には魔法族の使う魔法以外にもゴブリンや妖精だけが扱う魔法がある。ときには優れているものがあるが、奴らは生物として人間には及ばないから気にするほどではない。恐怖と数でコントロール可能だ。しかしお前の使う魔法がそれらと同じならば……人間が扱える以上は知らなければならない。場合によっては根絶させなければいずれ復活する未来の僕の邪魔になるかもしれない。分かるだろう?」

 

 トムはさっと杖を一振りして蛇を消した。そしてレリーフに向かって再び蛇語を話し始める。マミにはその相手がすぐに分かった。バジリスクだ。

 

「さて、今度は僕に見せてくれ。それが脅威になるかどうかを。僕のためになるのなら生かしてやってもいい。服従の呪文は使うけどね」

 

 レリーフの脇にある大きな洞窟から水が激しく波打つ音が聞こえてきた。マミはとっさにネクタイを外して目を隠し、直観に頼って後ろに走り出した。

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