空を舞う赤色の弓兵【アーマードコアfa×fate】   作:迷走人間

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お久しぶりです。一ヶ月ぶりですね。
今回はかなり難産でした。書いていて、急遽chapter1-1の大幅な改敲が必要になって大変でした。プロットをきちんと作ってから書き始めなかったことが、今更ながら悔やまれます。
ところで本編ですが、セレンさんの立ち位置がちょっと特殊な感じです。セレンはカッコいい人、凛々しい人、って思っていらっしゃる方は注意してください。拙作のセレンさんは割りと泥臭い人です。




1-2

昔から、達観している子供だ、と言われていた。実際はそんな耳障りの良いものではなく、全てを諦めていただけだった。

食べ物が少なくとも、駄々を捏ねることはない。自分の物を取られても怒らない。ただ、仕方ない、とそう思うだけだった。ごねても食べ物は増えないし、おもちゃなど取り返すこと自体が馬鹿らしかった。

そして、そういう現実に慣れていった。この時、諦感というのは慣れることなのだと気付いた。

何時からそうだったのかははっきりしない。でも多分、考えられるとすれば、あの炎くすぶる灼熱の世界だろう。

燃える街で巨人に出会ったのだ。

正体はネクストだったが、幼い自分には分からなかった。唯、怖くて怖くて、震えは無かった。きっとあの時、自分は本能で諦めたのだろう。生きることを。

それが楽だったから。楽になれる方法だったから。

そして、次に目を覚ました場所は小さな孤児院だった。

それが、アザリラ・ランドがはっきりと思い出せる最も古い記憶だった。

 

 

爆発。轟音。

猛る熱波の奔流を機体各部のセンサーが捉えた。くすぶる炎と、黒煙の隙間からは破砕された重機の残骸が覗く。

ああ、人が死んだのかな、とランドは思う。

『目標、残り三つ。今しがた通信が入った。ホワイト・グリントの足止め役が撤退したらしい。目標を速やかに撃破後、離脱する』

「了解」

必要な情報だけを伝えてくるセレンからの通信。こちらも、短く返事だけを返す。ぶっきらぼうだが、無駄が無いのは嫌いじゃない。

直後、操縦者の意を受け宙空を舞う黒が速度を上げた。巨体が風を切る。

意識内に直接投影される、球形の3Dレーダーに三つの光点が煌めく。

――接近する熱源三。距離1200。接敵まで三秒。

声なき声。音は無い。しかし、それは確かに聞こえた。まるで幻聴のように、気付けばするりと意識の中に在った。

その正体は神経細胞に直接叩きつけられた無数の信号の羅列。FCSが弾き出した演算結果を脳裡で直接知覚する。

分かっていても慣れない。自分は知らないのに、あたかも自分がそれを知っているように感じるのだ。まるで、知らない内に自分が内から造りかえられていくような。自分と機械の境界の曖昧さが少し恐ろしい。

――2

声なき声の秒読みを聞いて、コマンドを飛ばす。

前進する巨体の左腕がゆらりと上がる。それは、獲物を狙い鎌首をもたげる蛇のようでもある。外しはしない。そういう風に訓練してきた。殺すための訓練だ。

――1

『おい、来るぞ...』

『くそっ!俺達をゴミみたいに殺しやがって...!』

ぞっとするような怨嗟の声が通信を介して届くが、それに何の感慨も抱かない自分に、分かっていたことなのに少し驚く。

――傭兵としてやっていくのなら、好都合...なのかな。

敵機との交錯を目前に、無骨な鋼の掌で銃把をきつく握りこむ。

――0

会敵。

同時に、発射。

接近するノーマル、その中の最も手前の一機に照準を合わせ、引っかけるように引き金を引いていた。明滅するマズルフラッシュ。

それは秒間十六発の小銃弾を吐き出す大型のマシンガンだ。ヴヴという独特の振動音は、銃声というよりもモーター音のそれに近い。

きっかり半秒、引いていた引き金を離す。僅か半秒。しかし、半秒あればノーマル相手には充分。

『ちくしょう!!企業のリンクスめ...!怯むな、撃――』

会敵早々、八発もの銃弾を浴びせかけられ、穴だらけのノーマルが沈黙。直後、大気を震わす轟音を伴って爆散した。

引き金を引く隙を与えない、否、照準する隙さえ与えない早撃ち。慈悲は要らない。これが仕事なのだ、と思う。

――あと、二機。

ランドは確認するように独白した。視線をつうとスライドさせる。後続のノーマルがライフルを振るうのが見えた。

しかしそれは、黒を捉えるには遅すぎる。黒い巨体の背部、高出力のブースタが爆炎を吐く。

メインブースタのクイック。

急加速した機体は一っ飛びで残った二機の頭上を通過し、着地と同時に旋転。振り上げた銃口は既に奥のノーマルを照準している。

引き金を短く引き絞る。再び、半秒間の短連射。

――仕上げだっ......!

二つ目の爆炎が上がるより先、未だ振り返ることすらできていない手前側の機体に肉薄、右腕のブレードを振るった。莫大なエネルギーが紫の刀身を形取り、ネクストのそれと比べると遥かに脆弱なノーマルの装甲をバターのように切り裂く。接断面は溶解し、熱を持って赤く発光していた。

――そのまま。

速度を殺すことなく黒の巨体が駆け抜ける。一足遅れて、背後で爆炎が吹き上がった。

『目標の撃破を確認。長居は無用だ。離脱するぞ』

通信を聞いて、ランドはやっと肩の荷が降りた気がした。今度は返事をする代わりに、オーバードブースタを起動して答える。

――これが、戦場。実戦の空気。

思い出すのは幼い過去。ただ、これにもすぐ慣れるのだろう、と思って嫌になる。良心の呵責とでも言うのだろうか。

ただ残念なことに、ランドは自分への嫌悪にも慣れている。

――ああ、疲れた。

漂う緊張感に。殺したことに感慨を抱かない自分に。

ただ、早くシャワーが浴びたくなった。

 

 

それは戦闘と呼ぶに値しない。あっという間の出来事。

微かに青みがかかった光の軌跡。残光は彼方へと伸びて、黒いネクストは去っていく。初の実戦とは思えないような、鮮やかな手際だった。

 

 

―――――――

 

 

赤い。

血のような、と形容するには少しくすんだ赤だ。

アザリラ・ランドの眼前に在るのは赤銅色のネクスト。周囲では整備士達がひっきりなしに作業をしている。

いくつもの弾痕が痛々しい。装甲を横断する亀裂からは露出した内部機関が覗く。自身の《ストレイド》とは対照的に惨憺たる有り様だ。

「白い剣と、弓。それと...宝石?」

しかし、赤いネクストを値踏みするように見回したランドが注目したのは左肩のエンブレムだった。

白銀の直剣と漆黒の洋弓。そして、目が覚めるほど鮮やかな紅い宝石。

特筆するほどの華美さはなく、目を引くようなデザインではない。しかし、そのちぐはぐな組合せはどこか異質だった。

 

剣を『つがえた』弓。

 

ランドは既にネクストの格納を終えている。ガレージの隅に併設された更衣室で着替える最中に受け取ったセレンからのメールには、先に帰ってよいとの旨が記されていた。何か調べものができたのだという。

カラードに居てもすることは特に無かったし、初めての実戦に幾莫かの疲れも重なって、一直線にアパートに戻るつもりだった。ランドが、そのネクストに気付いたのは殆ど偶然だった。

 

「おい、そこの若造、こいつがそんなに気になんのか?」

「あっ、えっ、すいません」

不意に横合いから掛けられた声に、ランドは反射的に謝る。少し不躾に凝視し過ぎていたことに気付き、気まずさを感じたからだ。

「気にすんな。別に俺のじゃねえからな」

見ると、所々油で黒くなった作業服を着て、右手にはレンチを持った、いかにも整備士然とした壮年の男性だった。ひらひらと左手を振り、それこそ古くからの友人に話しかけるような気さくさで話している。不思議と、嫌な感じは無かった。

「あなたは?」

「おう、ジニエ・アーニーってんだ。一応、あのネクストの整備主任なんてのをしてる。あんたは?リンクスだよな?」

「アザリラ・ランド。リンクスNo.131。しがない新人ですよ」

――そういや、セレンってオリジナルだったっけ。自分って唯の新人とはちょっと違うのかなぁ。

アーニーの問いに答えてから、はたと気付く。まあ、些末なことだ、とランドは思う。

「それで、結局、こんなとこで突っ立ってどうしたんだ」

「えーと、僕、カラードのリンクスのエンブレムは全部知ってるんですけど、初めて見るエンブレムだったから、少し気になってしまって」

「ああ、それか。まあ、知らなくても当然だ。こいつはまだ登録していないリンクスの物だからな。っというか、珍しいな。エンブレム全部知ってるなんて。趣味か何かか?」

「職業柄、というやつですかね」

ランドはカラードに登録されているリンクス、それぞれの搭乗機体全てのエンブレムを知っている。同様に、機体構成も、その戦術コンセプトさえも。

何故かと問われればセレンに叩き込まれたとしか、何のためと問われればリンクスだから、としか答えられまい。

全ては戦場で生き残るためだ。自分がリンクスという名の傭兵である限り、同業者といずれかち合うは運命。なら、敗けないために、死なないために敵を知ることは必要なことだ、と。それがセレンから教わった『生存の秘訣』であった。

「ほお、殊勝なもんじゃないか。ネクストの性能に頼って研鑽を怠る腑抜けばかりだからな、最近の若造どもは。お前みたいな奴、俺は好きだな」

「そりゃどうも。男に口説かれても嬉しくありませんよ」

「おおう、つれないねえ」

アーニーは楽しそうにくつくつと笑った。

「ところで、まだカラードに登録していないんですよね?なら、これは」

「ああ、訓練の最終課題だとか何とか言ってたな。任務の内容は機密情報扱いってことで俺も詳しくは聞いてないんだが...まあ確かに、こいつを見ると、ちいとばかしやり過ぎな感はあるな」

呆れたような表情で満身創痍の赤を見上げるランドに、アーニーは困ったように頬を掻いた。

リンクスの訓練には、オーダーマッチ等でも使用されるVR(ヴァーチャル・リアリティイ)シミュレータを用いるのが一般的だが、時たま、より実戦的な経験を積むためにカラード仲介の任務を実際に受注することもある。

しかし、それはあくまで訓練の域で留めおかれるもので、実戦訓練といっても、むしろ通常のシミュレータミッションの方が難度が高いのはよくあることだ。

つまるところ、機体に刻まれた無数の弾痕は、搭乗者の技量に比して課題難度が高すぎた結果か。にわかには考え難い。指導教官の能力が疑われよう。

「ちょっとどころじゃないと思いますけどね」

「なあに、多少の無茶はいつものことさ。むしろアイツがこの程度で死ぬなんてそれこそ有り得んよ。もしアイツがその程度なら、そもそも俺は今ここに居ねえさ」

アーニーの言う『アイツ』というのは、この赤の機体に乗るリンクスのことだろうか。呆れのようなニュアンスを含みながら、その言葉には確かな信頼も覗く。唯の整備員かと思えば、赤のネクストのリンクスとはそこそこ長い付き合いらしい。

「でも、相手は多分ネクストですよね?」

ランドが問い掛ける。

装甲にある弾痕はどちらかというと、孔というより抉られた感じになっている。ノーマルやMTのような尋常の兵器の火器では、超極大重量の狙撃砲のような例外を除き、このようにはならない。

「ああ、BFF系列の対ネクスト撤甲弾が装甲に食い込んでた。確かに相手はネクスト、弾丸の型式からいくと、より詳しく言うなら051ANNR、063ANARのダブルトリガーの機体だ」

そこでアーニーは言葉を切り、奇妙に神妙な面持ちで黙りこんだ。

ランドは、そこではたと気付く。

――いや、しかし、まさか...!

アーニーの言うようなアセンブルの機体は、ランドの知りうる限り一つしか無い。

二挺ライフルと分裂ミサイル。

徹底的に特化的な要素を廃することで、ありとあらゆる状況において一定の対応力を持つが、逆に、どこまでも使い手の技量に依存する武装構成。

「まさか......!」

「そうだ。白――」

「そこまでだ。アーニー整備主任」

驚愕するランドに自身の推論を告げようとするアーニーを遮って、見上げるほどの長身がぬっと視界に入り込んだ。アーニーはそれを見て、げぇっ、と短く声を上げた。

「げぇっ、じゃないだろう、アーニー整備主任。それ以上は機密に抵触するぞ」

「ふん、その言い方じゃあ俺の推測が事実だと言ってるようなもんじゃないか。それに、むしろ各企業上層部に情報が流れるよう工作したのはお前だろう」

「確かにそうだが、それは情報を受け取る者を選別するためのものだ。無闇に話していいものじゃない。加えて言えば、やったのは私だが画策したのは」

「王の妖怪爺だろう。わーってるって。相変わらずお堅い奴だなあ」

アーニーは終始冷静な口調を崩さない長身の男に、鬱陶しそうにしかめっ面を向けた。あっち行け、と蚊でも追い払うように手を振る。

――っていうか、何でここにいる。

――居たら悪いのか?コクピットに忘れ物をしたのを取りに来ただけさ。

それにしても、とランドは考える。

この闖入者、かなり背が高い。身長160㎝しかない自分と比べると、アーニーも頭一つ分くらいデカイが、男は更に大きく、180近くありそうだ。体格もよく、ひょろっとしている自分とは違う。

色素が抜けて銀がかった白の髪と、褐色の肌、なんていう珍妙ななりに注意が行かない辺りが、ランドのコンプレックスの表れだった。持って生まれたもの、これは仕方ない、と諦めて口にすることはないから、セレンも気付いていない。

「あのう...あなたは?」

言い争いを続ける二人の間に割って入り、ランドはおずおずと切り出す。

「ふむ、私は...そうだな、エミヤ、と呼んでくれ」

男――エミヤはそう言って、くいと口の端を吊り上げた。

ことさら、皮肉気な笑みだった。

 

 

―――――――

 

 

「何故...!何故だ......何故、奴が居る」

セレンはまるで、怨敵に向かって咆哮するかのごとく呻いた。ぎしり、と鳴るほどに奥歯を噛み締める。

セレンが居るのは、カラード内に設置された共有スペース。カラードのデータベースにアクセスするためのLANケーブルが敷設された場所である。

度重なる戦乱と荒廃の末にまともな通信回線はことごとく断裂し、結果として一部の有線回線しか使用できない現代。調べものをするのに、ありとあらゆる情報が集積されるデータベースに容易にアクセスできるカラード本部はうってつけの場所だ。

無論、ある程度の機密情報にアクセスするには、相応の権限も必要だったが。

かつてのレオーネメカニカのオリジナルであるセレンには些細な問題だった。

インテリオル・ユニオンのウィン・D・ファンションが表舞台に現れ、消息不明となった《霧 スミカ》の名は忘れられて久しいが、それ自体がセレンの策謀の内。カラード内には依然、レオーネのオリジナル《霧 スミカ》としてのパイプが通っている。

企業幹部レベルの情報の閲覧程度は容易いことだった。

セレンが見ているのは映像だった。

赤と白の交錯。

自身がオペレートするランドのファーストミッションと同時に遂行されたホワイト・グリントの足止め作戦。その映像だ。

これを調べようと思った理由はたいしたものではない。

ホワイト・グリントの実力を鑑みれば、たかが足止め程度でも、ある程度高ランクのリンクスが動いているとセレンは踏んだ。

なら、一体誰が動いたのか。

それはちょっとした好奇心であり、将来、相対するかもしれない『敵』の情報収集のつもりでもあった。

だが、セレンはその映像を見た瞬間、まるで沸騰するような意識の昂りを感じた。それも、憎しみや怨念のような負の。

二体のネクストの戦闘の映像。白は、古今東西知らぬ者なし、ホワイト・グリント。赤は、分からない。セレンの記憶に、このようなネクストは無い。しかし、心当たりはある。

それは忌々しい記憶だった。

セレンは濃紺のスーツのポケットから長方形の小型端末を取り出すと、指を素早く動かして操作し、一枚の写真を呼び出す。端末上部から光が飛び出して、空中に映像が浮かぶ。

「間違いない...やはり、奴だ」

その写真は炎の写真だった。否、被写体はその奥、赤い光りに照らされて屹立している。ネクストほどは大きくない。しかし、それでもセレンの十倍近い体躯。

赤銅色の、ノーマルだった。

右手には精度を重視したBFF系列のライフル。右手にはレオーネのブレード。左背部には大口径のスナイパーキャノン。

驚くべきは、隣に在る残骸。おそらく、ブレードで両断されたのであろうそれは、淡い赤の――

「姉さん...シリエジオ...今度こそ、奴を......!」

――ネクストだった。

セレンが宙に浮かぶ映像に触れる。

赤銅色のノーマルの左肩に輝くエンブレム。白銀の直剣をつがえた弓と、紅い宝石。

宙に浮かぶ映像にノイズが走り、それが、僅かに、ブレた。

 




作者はセレンさんが嫌いな訳ではありません。最終的に、士凛組と本編主人公組を結びつけるための布石にするつもりです。
セレンフラグは正直決めかねてます。拙作の士郎君は結局、凛一筋ですから。

PS.もう一つのセレンフラグに踏み切れない理由。セレンはB(ドガッ(レールガン直撃)
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