あっという間にかけました
レーザーライフルから放たれるエネルギー弾を、首を横にずらすだけでよける。顔のすぐ真横を突き抜けたエネルギー弾はアリーナの地面をえぐる。
さっきまで震えていたとは思えないほど正確に狙って来た。
「初撃をよけましたか。でも想定済みですわ」
「まぁ、視えたからな」
口調こそ平然としているが、その表情には焦りが浮かんでいる。
事前データからオルコットのISは中距離以上での射撃戦に特化した機体。それを扱うと言うことはかなり射撃の腕があると言うことだろう。
「でも、これで終わりじゃありませんわ!」
次々と降り注ぐエネルギーの嵐。
一旦回避に専念する。
狙撃手はいつでも厄介な存在だ。どこに潜んでいるのかも分からず一的に狙撃されるのは不利でしか無い。
だが、それはあくまで相手の位置が分からない場合だ。
最低限場所さえわかれば対処法などいくらでもある。この試合のように1on1で、お互いの位置を遮るものが無いとなれば形勢などいくらでもひっくり返せる。銃口が一つで、中距離から射撃を確認してからよけれるほどなら尚更に。
「....くっ!」
あくまで回避運動を続け、オルコットの焦りを煽っていく。いくらよけれるとはいえ、連射間隔から見てこの距離を詰める間に確実数発は撃たれるだろう。
自ら距離を縮める分、相対的な回避難度は自身の速度に比例するようにして増大する。被弾を許すと言うことが俺の敗北につながるために慎重にならざるを得ない。
最初から大技を出すことも出すことも考えたが、オルコットの手の内が殆ど見えてない今、使うのは勿体無いしむしろ体が持たない。
「こうなったら....行きなさい、ブルーティアーズ!」
「おっと」
瞬間、弾幕密度が上がり四方からエネルギー弾を打ち込まれる。
回避しかしてないためにそれら全てをよけるのには苦労はしない。
「これからがブルーティアーズの本領発揮ですわ。先ほどまでのようにうまくはいかせませんわ」
「....そうか」
オルコットの周囲に浮かぶ4つの、フィン状の砲台。あれがあのISの本当の武装と言うことだろう。威力自体はレーザーライフルよりは無いだろうけども、それでも銃口の数は純粋に5倍。オルコットの射撃技術も考えると、確かに今までのようにはいかず、かなりキツイ戦闘になるなのは考えるまでも無く。
もう少し力を出せるなら話は違うが、身体能力強化段階だけですら体が微かに悲鳴をあげ始めている今の俺に能力の反動に耐えられるかと言われれば否としか答えられない。
それでもやるしかない。
それしか選択は無いのだから。
管制室にいる千冬と麻耶が黙ってモニターを見続ける。そこにはブルーティアーズの波状攻撃をするセシリアと、頑なに回避運動をしている一夏の姿が映っていた。
「織斑君さっきからずっと回避ばかりしかしてませんね。いくら当たらなくてもこれじゃあジリ貧ですよ」
「まぁ機から見ればそうかもしれんが、こう言ったものに関しては数手先を読むようなやつだからな。距離を詰めるタイミングを測ってるか、オルコットの癖を見抜こうとしているのかもしれないぞ」
「....そんな風には見えませんけど....」
モニターには以前として同じような構図が映し出されている。あえて違うところを上げるとすれば一夏の表情に余裕がなくなっていることだろう。
「それがあいつの戦い方だ。相手の慢心や焦り、そういったものを誘い生まれた隙を突いていくんだ。顔だけだろうな余裕がないのは。心の中では隙を伺っているだろうさ」
とはいえ千冬自身は内心では少しばかり心配していた。
クリスタルに浸食されすぎたせいで力を使うたびに生命を削られるようになり、長期の能力発動が体に莫大な負担をかけると言うことは本人から聞かされていた。
1時間がどれだけ弱く抑えても負担に耐えれる限界だとも知っている。
試合開始からは既に30分近くが経過しようとしていて、すなわち限界の半分に達している。
あくまで耐えれるのだけであって30分ですら、負担が重くのしかかっているのは送られてくる身体数値データからもわかる。本当なら能力など使って欲しく無いのだが、幾ら弟だとはいえ強要など到底することはできず見守ることしかできない。
それは途方もないほど歯がゆいのだが、ISに乗れない自分が出る幕などなく。
消えることのない傷跡を撫でることしかできなかった。
「圧倒的な力で強引にねじ伏せたりするような試合を想像してましたけど全然ちがいますね。なんだか能力を使っているようには見えないですね」
「....一夏は自分の体をボロボロだと言っていた。もう能力に耐えれるような状態なんだろう。あれでも能力は使っているだろうが、それですら限界に近いんだろう」
「そんな....それなら一刻もはやくとめないと!」
試合を辞めるのよう通信を入れようとした麻耶を、千冬はやめるよう促す。
「一夏が決めたことだ。私たちに口出しする権利はどこにもないんだ」
30分が経過したとインカムから音声が聞こえる。
もうそろそろケリをつけないと体が持たなそうだ。手先からは毛細血管が切れたのか出血し、全身が激痛に襲われる。
だが、粘ったおかげてオルコットに付け入る隙を見つけることができた。ここは無理してまでも終わらせないと。
「オルコット、そろそろ終わりにしよう」
「負けませんわ!」
威勢がいいな。
今まで以上に意識を神経質なまでに落ち着かせ、一切の回避運動をやめる。それとともに刀を持ち直す。
「わたくしの前て止まるなんて、わらえますわ!」
オルコットがレーザーライフルを構え照準を俺に向ける。動かない俺は格好の的のはずだが、ブルーティアーズ4機の射撃は来ない。
やっぱりな、それがいけないんだよオルコット。
無慈悲に放たれたエネルギー弾はまっすぐに俺にむかってくる。
極限までに集中した今ひどくゆっくりに視えていたそれを袈裟斬りの要領で切り裂いた。
「なっ!?」
驚愕に固まるオルコット。盛大に見せた隙を見逃すと言う間違いは絶対に起こさない。
今まで以上に体中を駆け巡る激痛を歯を食いしばって我慢する。ここで根を上げたら今までが全て無駄になる。
4機のブルーティアーズの空間座標を確認。握る刀を構える。
「堕ちろッ」
刀を勢い良く振り下ろす。その刀身は宙を裂いただけに終わる。
機から見れば無意味でしか無いこの行動。
「何を無駄なことをーーーーッ!?」
オルコットの言葉に重ねるように4機のブルーティアーズが爆発を起こし吹き飛んだ。
観客も、オルコットも何が起きたのかなに一つとして理解していない。
いや、理解などできるはずも無い。
間合いに関係なくその空間座標を切り飛ばしたなど、誰が理解できるのか。
「隙アリだオルコット」
「なっ!?」
意識が俺に向いていない間に数百メートルの距離を跳躍し一瞬で詰める。
驚くオルコットを尻目に残った武装であるレーザーライフルを斬りつけるが、とっさによけられたおかげで切っ先をかすり”ただ水飛沫”がまった。
「そんな簡単に負けてたまりませんわ!」
落下していくこの瞬間にレーザーライフルでも撃たれれば、斬りつけるなどとしない限りほぼ被弾は確定し、俺の負けで決着が着く。
オルコットもそれを理解しているのか、素早くレーザーライフルを構える。それにまとわりつく水に気づくことなく。
銃口がチャージされていくエネルギーで光り輝く。
「爆破」
パチンと指を鳴らす。たったそれだけでレーザーライフルは木っ端微塵に爆発し、射撃用にチャージされたエネルギーも組み合わさったその威力はオルコットをISごと吹き飛ばすのには十分すぎた。
「か、はっ....!」
幾らISには強固なエネルギーシールドがあるとはいえ、その衝撃までは防ぎ切ることはできない。それを体現するかのようにアリーナの壁におもいっきり叩きつけられたオルコットの意識ははっきりとしていない。
だがこれは試合だ。だからと言って情けをかける必要性はどこにもない。
着地すると同時に地面が抉れるほど強く踏みつけかけ出す。このチャンスを逃すほどの馬鹿な真似はしない。
「い、インタセプターーー」
「お前の負けだ、オルコット。認めろ」
オルコットの手に展開された短剣を持つ手を蹴り飛ばし、遠くへと追いやる。
そして喉元に刀の切っ先を突きつけ降伏勧告。射撃にエネルギーを回し続けたのに加えて、さっきの大爆発を受け絶対防御が発動しためオルコットのISのエネルギーは2割をしたまわっていた。
これで目立った武装は全て潰した。さっきので予備もなくなったのだろう、諦めたかのように俯いた。たとえ戦闘続行の意思があってもこの体制をとったために反撃すらさせないまま倒すこともできる。
「....負けた、のですか」
「いいや、まだ一応お前は負けてない。俺が降伏勧告しただけだ。続けたければ続ければいいが、この形勢をひっくりかえせるか?」
「....いいえ。わたくしにはそこまでの実力はありませんわ。もう何も武器は残っていません....わたくしの負け、完敗ですわ」
1泊間を開けて、悔しさからであろう涙を浮かべながらそう言った。
ーーー試合終了。勝者、織斑一夏
試合終了を告げるブザーが鳴り響き、俺が勝者と言うアナウンスが流れる。
不意に視界が歪む。目の前が微かにぼやけてうまくピントが合わない。
....やばいな、早く治療しないと。
ただ歩き出す前にオルコットに言っておきたいことがあった。
「オルコットそんなに泣くな、強かったよお前は。きっと姉さんも認めてくれるだろうさ。射撃の腕すごかった。始めて見たよ、そこまですごいやつは。オルコット、お前に勝てたこと、誇りに思う」
「織斑....一夏」
背を向けてピットへと歩いていく。後ろオルコットが何か言っている気がしたが、生憎体中から発せられる激痛に耐えるのに精一杯で聞き取るほどの余裕はなかった。
一歩足を進めるだけで息が上がり、口の中に鉄の味が広がる。体中のいたるところが血に滲み、手先からポタポタと血が流れていく。
たった300メートルの距離が果てし無く遠かった。
「ちょっと!?貴方出血してますわよ!」
「....分かってる。だから早く....医務室に行かないと」
振り向くほどの余裕は一切残ってないため、背中を向けたまま答える。
口に溜まった血を吐く。赤黒く染まっているそれは、俺の体が限界を超えかけているのを物語っている。
「そんな体でたどり着けるわけがありませんわ!先生方に来てもらえばいいじゃないですか!」
「うるさいな....教師が準備するのにどれだけ、かかると思ってんだ。そんなの待ってるんだったら、俺から....」
それ以上言葉を発することができなかった。
意識が暗転し次に気がつくと、目の前には空が広がっていた。
どうして空が広がっているんのだろうか。さっきまで俺はたっていたはずなのに。
「ーーーー!?ーーーーーーー!」
誰かの声が聞こえた。
だけと何を言っているのか全く理解できない。前が歪んで何も見えず、聞こえる音がなんなんだか全く判別がつかない。
俺の意識はそこで途絶えた。