束さんに対して誰こいつ?となったとしても
スルーでお願いします。
「「「「かんぱーいっ!」」」」
俺のクラス代表就任記念パーティと名打たれたこの集まりは、食堂を貸し切りと言う名の占領をしながらも、なかなかの盛り上がりだった。
とはいえ、どちらかといえば女子たちが各々自由に騒いでいるようなものなのだけれど、祝ってくれているのには間違いないから素直に嬉しい。
「織斑くんおめでとー!」
「ありがとう」
「人気者だな一夏」
「箒か。なんていうか自分ではイマイチ分からないんだけどさ」
「お前らしいな」
こうしてみると騒がしいのも案外悪くないかもしれない。
前までは騒がしいどころか人の集まるところでさえ苦手だったというのに、俺も随分と変わったなぁと思う。単に慣れただけなんだろうけど。
「おりむー楽しんでるか〜い!?」
「あぁ、楽しんでるよ。そういうお前はどうだ?」
「私?もちろん楽しんでるよ〜!今は楽しまないと損だからね〜」
....ピースをしているのだろうけど、袖が長すぎるせいで肝心の手が見えないのは内緒。
「そのとーり!今を楽しまないならいつ楽しむの!?」
「今でしょ!」
「分かってるねー!」
「「いぇーい!」」
随分とテンションが高いようだ。なんでそこまで元気があるのかなと探してみると、女子が掲げる手が掴んでいるものが。
「.....それって缶チューハイじゃないか?なんであるんだ」
一応ここ未成年の学生がいるというのに
「あぁこれ?ダイジョーブ、ノンアルコールだから。もーまんたい、のーぷろぷれむだよ」
.....それでいいのかIS学園。なんでそんなものがここで調達できるんだ。
「はいはーい、新聞部でーす!今話題の織斑一夏くんがクラス代表に就任したと聞いてさっそくインタビューに来ました!」
「「「いぇーい!」」」
「待ってましたよー!」
しばらく談笑していると、やけに騒がしい集団が近づいてきた。目を向けてみれば、メガネをかけている箒と同じ髪型の二年生が。
「私は2年の黛薫子だよ。整備科の新聞部で副部長をやってます。よろしくね。あと、これ名刺」
「あ、どうも」
名刺には書きずらそうな漢字が。テストとか大変そうだ。
「というわけで本題行ってみよー!まずはクラス代表になった感想をちょーだい!」
「か、感想って言われても......」
なりたくてなったわけじゃないから、感想を求められてもイマイチ返答に困る。
いつの間にかクラス代表になっていたようなものだし。
「やれるだけやるとしか言えないんだけど」
「そんなの面白くないよー。それじゃ誰も読まない!見向きもしない!と言うわけで誰もが痺れるかっこいいセリフをプリーズ!」
「それってインタビューの意味なくね?」
「いいのいいの。そんなこと気にしちゃいけないって」
気にするなとかそういう以前のことだと思うのだけど。
.......言ってもムダのような気がしなくもない。
「仕方ない、勝手に捏造しとくか。.....えーと、織斑一夏氏は俺の邪魔をするなら容赦はしない、多くのことを語ろうとはしなかったがその姿はただならぬ覇気を纏っていたと。これならどう?」
「待てぃ。何勝手に捏造しているんだ。しかもなにその恥ずかしくなるようなセリフは?」
「えー?だって織斑くんがかっこいいセリフを言ってくれないからだよ。つまんないことは書きたくないし」
そんなんでいいのか.....
「いいのいいの。マスコミなんてそんなもんだし。視聴率を稼ぐためにはなんだってするものだから」
俺の心境を読み取ったのか、どこか悟ったように言う新聞部副部長。
「聞きたくなかったよ.......」
マスコミはハイエナだなんで姉さんが言っていたけど、まさかそこまでするとは。これじゃあニュースもおちおち見ていられないじゃないか。
「まぁそれは置いておいて!」
「....捏造は絶対にするなよ?」
「....えー、あー、うん。ね、捏造はしないよ?うん」
する気だっなこいつめ。釘を刺しておいて正解だった。
それでも捏造したらリアル釘をゴッスンだけど。
「....はぁ。で、次はなに?まさか一つで終わりとかそんなんじゃないんだろ?」
「モチのロンさ!んじゃ次行ってみよー!」
切り替えはえー。
「んーとね、まぁ織斑くんはいろんなことがあってIS学園に入学したわけだけどさ?」
ニヤニヤと何か良からぬことを考えてそうな顔の副部長。
うわぁ......絶対にまともなのがこなさそうだ。
「正直どうよ?色々と苦労もあるだろうけど、ここの娘たちって結構レベル高いじゃん?恋愛とかしないの〜?言い方悪いけどより取り見取りじゃない」
「はぁ!?」
何を言いだすと思えばいきなりなんなんだコイツは。
「くだらなすぎる......」
「そこ!くだらないといわないっ!これはかなり重要なことなのよ!」
「........何処がだよ」
「だって織斑くんって当たり前だけどIS学園でたった一人の男の子じゃん?.....大きな声で言えないんだけどぶっちゃけここの娘たちって殆どが年齢=彼氏いない歴なのよ」
「え、本当なのか?」
ちょっと信じられないことだ。
女尊男卑と一時期騒がれていたけど、それももう前のこと。女は偉い男は奴隷なーんて考えてる人はもういないしいたとしても一握り。性別での極端な差別は今の世の中にはないおかげで割と平和ではある。大戦があったのも理由の一つというのは皮肉だけど。
だからここの生徒全員とは言わないものの、彼氏の一人や二人いるものだと思っていたから。
いや、偏見なのは分かってるんだけどさ。
「まじまじ。こんなところで嘘はつかないよ?捏造はするけど」
それ言っちゃダメだってば。
「で?どうなの?IS学園に入学してみてさ」
「どう、か。んーどうだろうな」
ワイワイ楽しくやっているクラスメイトたちを眺めながら呟く。
ちょっと難しいことを聞かれたような気がする。
「.....まぁなんていうんだか、みんなが優しかったのは嬉しかったな」
「と、言いますと?」
「女子ばっかのところに男一人ってものだろ?正直うまくやっていく自身がなかったからな。だから安心したよ」
本音を言えばもっと別な理由があるけど、ここで言うべきじゃないだろう。流石に空気をぶち壊したくはないし。
「ふむふむ。今回ばかりはいいこと聞けたわね。で?肝心の本音はどうなの?」
「..........バレてたか」
お互いにか聞こえないくらいの声で聞いてくるから、おいおいと言えないことだと理解してくれているらしい。素直にこれは嬉しかった。
「まぁね。伊達に新聞部やってないし?それに織斑くんて顔見れば大体何考えてるか分かるよ」
「........................」
昔から隠し事が下手だなとか言われてきてたけど、まさかこんなところで理由がわかるなんて思いもしなかったんだが。
.......顔に出てたのかよ、そりゃあ誰でも分かるわ。
「降参だ。手短に言う、俺がルシだからだ」
一応賑やかだとは言え、普通に喋れば絶対に誰かは聞こえる。となれば、それが広まるのも確かなことで。
「あーね。ま、これは黙っておくわ。これだけは約束する」
「頼むよ」
副部長さんですら聞こえるか怪しいくらいの小ささで言うし、そういうところは理解してくれているらしいし。
「そういえば人伝いに聞いた話なんだけどね?」
「あ、あぁ」
「一年の布仏本音って子が織斑くんはルシだけど責めるのはよくないって言って回っていたらしいのよね」
「.......はい?」
この副部長さんの言っていることがちょっとどころの話じゃないけど信じられない。
布仏本音といえば、のほほんさんとか言われているあの妖怪着ぐるみ少女な訳で。
いつでもどこでもまったりマイペースなあの姿からは想像ができないんだが。
「私も噂を聞いただけだから詳しくは分からないんだど、私の友達はそう言われたらしくて」
「そうか........」
そういえばそうかもしれない、となんとなく思う。
入学した当初は敵意を向けて来る奴は少なからずいたが、日が経つにつれて少なくなっていた気もするし、どこか余所余所しかったクラスメイトたちもいつの間にか受け入れてくれていた。そうじゃなければ、こんなパーティを開いてはくれなかったはず。
あまり深く取ろうとはしなかったけど、まさかそんなことがあったなんて思いもすらしなかった。
「....支えられているんだな。俺の知らないところで沢山」
「あら?結構いいこというねー?これは書かないと損ね。あ、でもこのことを素直に書くわけにはいかないし捏造しよっと」
だから捏造するな。
そう言おうとして止める。どうせ副部長さまには何言ってもムダだろう。やる気の入ったその目は輝いている。
「あまり大げさに書くなよ?そうなっていたら、釘....じゃなくて杭を打ち込むからな?」
「あいあいさー!流石に死にたくないから気をつけまーす!」
「ふぅ......」
いくら慣れているとはいえ、長い間あそこにいると気が滅入る。だから途中で抜け出して屋上に来ていた。
春になりいくら暖かくなってきたと言っても夜はまだまだ冷える。少しばかり肌寒いけども、火照った体を冷やすのにはちょうど良かった。
「..............................」
何をするまででもなくフェンスにもたれながら夜空を見上げる。
胸いっぱいに吸い込むと、ひんやりと冷えた空気が肺を満たして不思議と落ち着いてくる。
昔から夜空を眺めるのが好きだった。どうしてこんなことを好きになったのかなんて分からないけど、本当に小さい頃から好きだったのは覚えている。
随分とつまらない趣味だなと弾に笑われたことがあったけど、これだけは譲れなかった。数馬は理解してくれたが。
しばらくそうしていると普段全くと言っていいほど使わないケータイが鳴った。
「....久しぶり、いっくん」
「うん、久しぶり束姉さん」
電話越しに聞こえる数週間ぶりに聞いた懐かしい、間違えるはずもない束姉さんの声。
ただ、いつものような元気さは微塵も感じられない。
「元気、ないみたいだけど」
「まぁね。私も分かってるんだけどね、やっぱり考えちゃうんだ」
ーーーいっくんが私をほんとは恨んでいるんじゃないかって。
「...............」
「そう思うと笑ってなんかいられなくて。私がISを作らなければいっくんがルシになることも、辛い目にあうこともなかったのかなってありえないifを考えちゃうんだ。きっとちーゃんが聞いたら怒るだろうね」
「また、か」
「そうなんだよね、またなんだ。やっぱさ、一人だと悪い方に考えがいっちゃって。ホント嫌になっちゃうよねー」
あははと力なく笑う声が聞こえる。顔を合わせなくても、泣きそうになっているのがわかる。
今みたいに束姉さんは時々元気がなくなる。決まってその理由が自分がISを作ったからじゃないかということ。どれだけ諭してもまた同じようになる。それほど心の奥底に罪の意識が根付いているということだろう。
「前も言ったと思うけどさ、恨んだりなんかしていないから。束姉さんが気に病む必要は全くない」
いつもそんな束姉さんを慰めるのは俺だ。だれが決めたわけじゃないけど、俺がそうしたかったから。
「そうだね。そう言ってもらえて安心したよ」
「気にしなくていいよ。らしくないからさ、元気ない束姉さんは」
「うん、心配かけてごめんね。もうダイジョーブ!いつもの束さんに元通りだー!ぶいぶい!」
その切り替えの早さに思わず苦笑が漏れる。やっぱり束姉さんはこうでないと。いつでも笑っていてトラブルメーカーなくらいが丁度いいんだから。
「束姉さん。そっちから電話してきたってかなとはさ、他にも用件があるってことだろ?」
「いやーさっすがいっくん鋭いぃー。全くもってその通りだよ。えっと、いっくんに電話したのは専用機の事の話しをしようと思ったからね」
「あぁ、そういうことか」
「そそ。前に説明したと思うけど適正の精密検査結果が出たからね」
「神経接続システムだっけ?」
「それそれ。んと、結果から言うと搭乗には不足ない数値、Level-Bだった」
「ということは.....」
「それなりの負荷は避けられないかな」
束姉さんが言っているのはあくまで搭乗する場合でしかない。戦闘行動をすることまで視野に入れると厳しいものがある。一度試乗したことがあるから、その負荷のでかさは理解している。
「予想はしていたけど、使うたびにあの負荷がかかるのかぁ」
「大丈夫だよ?そこらへんは手を加える予定だから。できるだけ負担が少なくするように調整するから」
「ま、そうしてくれるとありがたいよ」
「いいのいいの。“本当のIS”を完成させるために手伝ってくれるんだから、これくらいはするよ。多分あと一ヶ月近くはかかると思うから」
「うん。ただ、無理のしすぎは禁物だよ?束姉さんは昔から夢中になると他のことが疎かになるからさ。徹夜とかはしちゃダメだからな?」
「てひひひ、バレちゃった。わかったよー、いっくんにそこまで言われたらしかたないなぁ。無理しない程度に頑張るよ。バイバイいっくん」
いたずらが見つかった子供のような声。らしいといえばらしい。
「バイバイ束姉さん」
プツリと電話が切れる。短いようで長い束姉さんとの会話が終わった。
「本当のISか.......」
昔、一度だけ話してくれたこと。幸せそうにISを語ってくれた束姉さんのあの笑顔は10年以上たった今でもはっきりと思い出せた。
鳥のように空を飛んでどこまでも行ける。宇宙にだって行くことができる。
その事実は子供心が激しく刺激されたものだ。大好きな夜空の向こうに行けるなんてどれだけいいことなのだろうかと。
「...............」
いつか、本当のISが完成できるというのなら。
「行きたいな.....宇宙」
小さい時に抱いた、この目で地球を見てみたいという思いはいつまでも色褪せることなく、この胸にあった。