「………起きて、ねぇ。起きてー、ご飯できてるよー!」
「ん… おはよう、ちょっと寝ちゃってた」
「最初から寝る気だったでしょ、布団までかけて」
「昔もよくここで寝てたなぁ、そのためにこの布団があるんだけどさ」
「…寝る為の布団をかけてたなら、寝るつもりだったってことでしょ?」
「…あ」
体を横に揺られながら、耳元で何度も話しかけられて、スッキリとはいきませんがいい目覚めです。寝起きの眠い感じもないですし、ちゃんと考えて喋れます。まぁ、少し嘘は失敗しましたけど、元から下手なので。
「はい、餃子。寝起きだけど、焼きたてだから食べてほしいな」
「お昼は餃子にしたんだ、いただきまーす」
「自分で言っといてなんだけど、よく食べれるね。それと、餃子の皮が机に置かれてたし、作ってってことでしょ?」
「うん、食べたかったんだ」
寝起きですけど、お腹は空いてますから。箸が止まらないですよ、美味しいなぁ。葵も疲れてたと思ったんですけど、わざわざ餃子を皮に包んで作ってくれたんだね。優しいなぁ、嬉しくなっちゃうよ。
でも、食べすぎないようにしないとですね。お昼ですけど、寝起きですから。急に沢山食べたら、胃がびっくりして傷んじゃいそうですし。でも食べすぎないっていうのも無茶ですよね。だって葵が作ってくれた美味しい餃子が並んでるんですよ? 食べちゃいますよね、普通。
「美味しいかな?」
「もちろん!」
「…どっち?」
「美味しい!」
「そりゃよかった、私も食べるから残しといてよ?」
「今は食べないの?」
「今食べるけど、先に全部は食べないでってこと」
そんなに食べないよ、僕だってさ。親にもよく言われたなぁ、あの時の僕は大食いじゃなかったから笑い半分に話してたけど、今は葵に本気で食べると思われてそう。心外だなぁ、人の分くらいは残すよ。食べようと思えば全部食べれると思いますけど、無理に食べる必要はないわけですから。
…こうやって、自宅の食卓に並んだ料理を、他の誰かと話しながら食べる。普通のことなんですけど、凄く久しぶりで、凄く楽しいです。やっぱり家って違いますね、今では琴葉家も第二の家みたいなものですけど、この家とは何年も一緒ですからね。ここが僕の家なんだなって、懐かしいとも違いますけど、なんか嬉しい、って感じです。
「箸、止まってるよ?」
「んあぁ、ごめん。食べるよ」
「ん、よかった」
「ほんと、美味しいね。毎日食べたいくらいだよ」
「毎日だと飽きるでしょ、たまにね」
「は〜い」
やっぱり餃子は美味しいなぁ、葵の餃子って感じの味です。よくお味噌汁のことを家庭の味って言いますけど、餃子も人によって違いますよ。お母さんはお肉が多いジューシーな感じの餃子だったんですけど、葵の餃子は野菜が多めで甘いなぁって感じます。好きです。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした、片付けやっちゃうから皿持ってきて」
「ほい、持っていきまーす」
「この後って何か用事ある?」
「ないよー」
美味しかった~、お皿も届け終わったし、ゲームでもやろうかな? …我が家の据え置き型ゲーム機はどこだ…? 琴葉家に持ってってないはずだからどこかにあるんだけど、どこに置いてたっけなぁ。ちょっと探すか。
「そう言えば、冬休みの課題って全部終わってるの?」
「…まだ」
「じゃ、これからやろ。もう片付けないと間に合わないよ」
「…はーい、やりまーす」
「…ゲーム、したかった?」
「うん、早く課題終わらせてやることにするよ」
「多少は手伝うから、ささっと終わらせよっか」
ゲーム機は、後で探そう。それに、リビングで課題してたら思い出すかもしれない。昔もリビングで課題してましたし、親が買い物に行った隙にゲームしてましたからね、ぱっと浮かんでくるかもしれません。場所を思い出しても今はゲームできないんですけどね…
葵は手伝うって言ってますけど、課題は自分でしないとなので。でも何だか、葵が親みたいですよね。お母さんにも、隣で宿題してるところを見てもらって、分からないところだけ教えてもらったなぁ。
…親みたい、って言われたら嬉しいのかな。僕は嬉しいですけど、葵も嬉しいかな? 言ってみよ、僕は嬉しいし葵も嬉しい、と信じて。
「葵って何だか親みたいだね」
「……そう?」
「うん。言うこともやることも、お母さんみたいだなぁって。優しいしさ」
「…それなら良かった」
あまり、嬉しくなさそう? 何か話題を変えないと、勉強しようにも葵から負のオーラみたいなものが出てる気がする。空気が悪い、とは違うけどなんか重苦しい感じになっちゃったから、ね。えーっと、何かいい話題は…
「そう言えば、今日は誰も来ないのかなぁ? 茜とか、来たがってたし初日から来るのかと思ってた」
「…来てほしいの?」
「2人で話すのも楽しいけど、最近は騒がしいことが多かったからさ、不思議だなぁって」
「私は楽しいよ、2人で話すの」
「勿論、僕だって楽しいよ?」
「ふふ、それは良かった」
楽しいけど、不思議だなってだけのことだから、特に続く話でもないんだけど… どうしよう、葵の笑顔が少し怖いよ。確かに笑ってるんだけど、目も声も笑ってないんだよ。人の笑顔を見て不気味って言うのは失礼だって分かってるけどさ、でも言わせて、凄く気味が悪い笑顔なんだよ…
何か言っちゃったんだろうな、今。気をつけないと、でも何が葵の機嫌を損ねちゃったのか見当もつかないんだよね、いつも。もうちょっと考えて話したほうがいいんだろうね、僕もさ。
勉強は思いの外、順調に進みませんでした。何が悪かったとか、誰が悪かったとかではないんですけど… 強いて言えば悪いのは僕です。分からなかったら葵に教えてもらえばいいやって思いながら進めてたんですけど、葵に『私は居ないものだと思って、基本は1人で解いてみて』って言われてしまってですね…
ずっと詰まってたら教えてくれるんですけど、僕だって一つ一つにずっと苦戦するわけじゃないので、殆ど1人で解くことになっちゃってですね。でも、一つ一つはそこまで苦戦しなくても、全部を合わせると時間はとてもかかってですね。それで、えっと…
「お疲れ、よく終わらせたね。晩御飯は作ってあるよ、それ食べたらお風呂に入っちゃいな」
「今って何時…?」
「後1時間もしたら日が変わるよ」
「11時か… 疲れたー!」
こういうことです。今日は我が家に帰ってきて、のんびり葵と遊ぼうと思ってたのに、もう眠るような時間になってしまったわけです。結局ゲームもしてませんし、昨日は2人で旅行、みたいなノリで話してたのに、何にもしてませんよ。明日は何かしよう、勉強以外で。
「ふあ〜あ、もう眠いや。あかり君はどう?」
「僕も眠い、ご飯食べてすぐだけど大丈夫かな」
「食べてすぐ寝ても問題ないよ、よく牛になるとかいうけど、なってる人いないでしょ?」
「わかってるけど… んぅ〜、起きてたくてもできないかも、寝ちゃお」
「それがいいよ。私も少ししたら寝ようっと」
日付はもう変わった、こんな時間まで起きてるなんて久しぶりかも。課題も終わったし、明日からはもっと遊ぼうっと。折角家に帰ってきてるんだから、明日からは色々やるぞ〜! 何やるか、特に思いつかないけど、何か出てくるでしょ、多分。
あ、そうだ。寝る前に言わなきゃ、ちゃんとね。
「おやすみ、葵」
「おやすみ、いい夢を」