「……」
「葵さん、緊張してるのかな? 気楽に話してほしいな」
「特に、緊張してませんよ。ミコトさんこそ、素を出したらどうです?」
「私はこれが素だよ。機嫌が悪そうに聞こえたらすまないね」
家の中は、ゲーム中とは思えないほど暗く重い空気が漂っていた。トランプで、大富豪をやっている。頭を使うゲーム中なら、ボロを出すかもしれない。そう思った。
「八切り、7で革命、スペードの3、最後にハートの4を出してあがり」
「強いんですね、ミコトさん」
「頭を使うのが好きなだけだよ。それに、葵さんも強いじゃないか」
「私も、頭を使うのが好きなんですよ。はい、クラブの10であがりです」
「じゅ、10連敗…」
「…別の遊びにしよう。茜が少し可哀想だ」
「…そうですね」
ミコトさんは随分と頭が切れるようで。これだけ先を見て考えられる人なら、お姉ちゃんは安心できるかもしれない。だけど、言葉巧みにお姉ちゃんを騙している可能性もある。
「神経衰弱とか、どうですか?」
「いいね、記憶勝負なら負けないよ」
「今度こそ、勝つで〜!」
「これと、それが7。それでこれとあっちがJ。この2枚がAで、そこがQかな。4…これかな? 違うか」
「4はここですね。8は、あれかな。3は確かこれですね。9は、出てないはずなので適当にめくって、あたり。又3…これですかね? まぁ、あたりませんよね」
「全くわから〜ん!」
ミコトさんは、覚えるのも得意みたいだね。1度捲られたカードは、全部場所を覚えてそう。ただ、集中すると視野が狭くなりそうだね。4は、私が最初に捲ったときに別の場所に戻したからね。隣り合った4と3を捲って、スッと配置を逆にしたんです。
「いやぁ、完敗だよ。自信あったんだけど、葵さんには勝てないな」
「日頃から、色んなことを記憶してますから。蕾ちゃん以外には、負けませんよ」
「あの子、そんなに強いんだ?」
「蕾ちゃんは、運がいいんですよ。いつも『Kってどっちだろ? こっちかな?』って言いながら、当てるんです」
「それは、覚えてたんじゃない?」
「実際は、その2枚とも捲られたことないカードなんですよ。私は他の場所にKがあることを覚えてたので、びっくりでしたよ。それを、何度もするんです」
「凄い、ツキがあるんだね」
「べ、別のゲームにせん? うち、0枚なんやけど」
あぁ、お姉ちゃんに対して手加減するのを忘れてた。ミコトさんは、手を抜いて勝てるような相手じゃなかったから。次は… 人の醜さが出るゲームが良いな。
「ダクトをしませんか?」
「いいね、好きだよ。妹以外に、見破られたことはない」
「1度でええから、見破りたいでぇ…」
ダウト、英語で嘘を指摘する言葉。いわば、人を騙すゲーム。嘘をつかないと、基本勝てない。前に、あかり君が最初の手札でA~Kまで全部持っていたことがあったけど、そうでもなければ嘘をつく必要がある。
「1 2 3 4 5」
「ダウト!」
「それじゃあお姉ちゃん、捲ってみて」
「…ほんまに5やん! しかもAも2も違うやん!?」
「最初は指摘されてもノーダメージだからね」
「顔色変えずに嘘をつく、ミコトさんもやり手ですね」
「葵さんこそ。全くわからなかったよ」
それから試合は進んで行き、手札はお姉ちゃん以外減ってきた。定期的にお姉ちゃんがしかけ、毎回外す。私とミコトさんは嘘を付きながらも、殆ど仕掛けることもなかった。当てられたことは、お互いに1度もない。
「13 1 2 3」
「ダウト。3じゃない、ですよね?」
「捲ってみなよ、3かどうか」
「…3ですね」
手札は少し増えたけど、それは問題ない。問題があるとしたら、ミコトさんの手札は残り1枚。そして、6を持っていること。私が6を出した時に、ミコトさんがダウトと言って、失敗している。だから、負けだ。
「6、あがりだよ」
「ダウト! 捲るで!」
「はい、6」
「なぁ〜!?」
「あ〜、負けた。6を持ってるのは知ってたんだけど、3もあったんだね」
「うん、持ってたよ。そういう葵さんも、あがる準備はできてたんだろう?」
「はい。あの時点で、手札は4と7だけでしたから」
「勝てたけど、葵さんの嘘を見破れなかったのは悔しいな」
「私も、ミコトさんの嘘を見破れなかったのは悔しいです」
「うち、手札40枚ぐらいあるんやけと」
ミコトさんは嘘を付いても顔色一つ変えない。それに、後の事を考えてわざと失敗してくるほどには策士だった。お姉ちゃんの側に頭を使って行動できる人は必要… そう考えると、ミコトさんとお姉ちゃんは相性がいい、のかな。
家のピンポンがなった。お姉ちゃんが対応に向かう。多分ゆかりちゃんだろう。ミコトさんを見定める前に来ちゃったか。
「少し休憩にしない? さっき、ヒメから写真が送られてきてさ。蕾ちゃんと、2人でケーキを食べたみたいなんだ。私が作って持ってきた、梅ケーキを
「梅は遠慮します」
「じゃあ、チョコミントのケーキとかどう?」
「ミコトさん、我が家に来てください」
「えっ」
「チョコミント好きに悪い人はいません。それに、ミコトさんはチョコミントのデザートを自作できる程の才を持っている。ぜひ、我が家に」
「か、考えておくよ」
チョコミント好きなら、初めから言ってくれればよかったのに。間違いなくいい人じゃないか。
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