色の変わった星とパステルカラーの姉妹   作:緑雨

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葵Side20 オープニング

 

 …おはよう。今は朝6時、リビングでカップラーメンを待ってる途中。紲星家での暮らしにも慣れて、目を閉じていてもカップラーメンくらいなら… 流石に無理かな、お湯が沸かせないや。

 

 そういえば、昨日あかり君宛てに封筒が届いたんだけど… あれから、あかり君と話してないな。すぐに寝たから仕方ないんだけど、大丈夫だったかな? 茶色い封筒が届くって中々ないことだし、結構大切な何かだと思ってるんだけど… 私はこの家の人間じゃないから見なかったけど、見たいとは思うよね。見てもいい物だったら、見せてもらおうかな?

 

 それにしても、今日は清々しいほどの晴れの日だね。まだ日が昇りきってはないけど、綺麗な朝焼けがよく見える。未来のことはわからないけどさ、今日はいい日になるんじゃないかって、思えてくるよね。いつもいい日で、いつも幸せだから、いつも通りでいいんだけどさ。カップラーメン、ご馳走様でした。

 

()よう、葵」

おはよう。眠そうだけど大丈夫?」

うん… ゆかり(ねぇ)に電話してもらえる? 呼び出してほしくて…」

わかったから、顔洗ってきな。でも、学校前の今呼ぶの?」

…やっぱり放課後にする…」

オーケー、それなら学校で伝えとくよ。蕾ちゃんが話したがってるから放課後に紲星家に来てーって」

…あかりが話したがってた、って伝えて… ふぁ〜あ」

 

 寝ぼけてるなぁ… ゆかりちゃんは、あかり君が性転換したって知らないんだから、あかり君がーって言うと久し振りにあかりと会えるんですね!』ってなっちゃうよ…

 

 

おかえり、目は覚めた?」

うん、ばっちりだよ。顔を洗って、覚醒モードのあかりちゃんだよ」

…テンション、変じゃない? 頭でも打った?」

そういうわけじゃないよ… ただ、吹っ切れたって感じかな」

変なの… 昨日の封筒チェックしたから?」

うん。あれは… 大切な物だよ」

…中身、聞かないほうがいい?」

口止めされてたから詳しいことは言えないよ」

 

 …あの封筒、少し気になってたけど、凄く気になってきた。それに、あかり君の反応からして、〝良い物〟だったんだと思う。何を良い物とするかは人によると思うけど、少なくともあかり君にとって、あの封筒は〝特別な物〟だったから…

 

 でも、見ちゃいけないっていうのはむず痒いよね。もしもあかり君じゃなくてお姉ちゃんだったら部屋に忍び込んで見に行くよ? でも、あかり君に嫌われたくはないから。〝口〟止めだから見るのは良い! なんて考えたりしないから、私。ちゃんと我慢するよ、気になるけど。気になって気になって夜しか眠れないかもね。元々昼に寝ないけど。

 

ご飯、美味しい?」

美味しいよ〜、流石葵って感じ。葵は食べないの?」

そこのゴミ箱にカップラーメンが入ってるでしょ、あれ食べたから。たまに食べたくなるの、わかる?」

わかるよー、急に食べたい時ってあるよね。ぼ… 私も、そうなるもん」

…なんで僕じゃなくて私に訂正したの? 一人称にとやかく言う気はないけどさ」

…これからは私で行こうと思ったんだけど、思わず僕って出ちゃうね。私口調は僕に合わないや、僕のままにしよっと」

その方がいいよ、あかり君に私は合わない。私が僕って言ったら変なのと同じだよ」

だねー」

 

 …不安だなぁ。口調を変えようとしたのもそうだけど、少し元気過ぎる気がする。元気なのは悪いことじゃないし、元気を無くせなんて酷いことは言わないよ? でもさ、その人に合ったテンションってあるじゃん。今のあかり君はちょっと… ハイになってるって、感じるんだよね。それも、嬉しいことがあったとかじゃなくて、何か悪いことがあっておかしくなったような、そんなハイテンション。 …不安だし、心配だよ。

 

そろそろ行かない? 学校、今日から部活動だよね?」

そうだけど、朝練とかないしゆっくりでいいんじゃない? 料理部だし」

入部してから初めてだし、早めに行って先輩と話そうかと思ったんだけど… いないか、茜もいつも朝遅かったもんね」

…先輩って、マキさんとミコトさんしかいないよ」

…そういえばそうだったね」

 

 …早めに行ってもすることないけどさ、今もすることないんだよね。ニュースを見てもいいんだけど、ちょっとあかり君が気になっちゃってさ… 他に何も考えたくない、って感じ。 …気にしすぎなのかな、でも… 心配するのは、悪いことじゃないよね?

 

 

 

 

おはよう、茜」

おはようさん。一緒に登校しよう思ったんに、早かったんやな」

気分だよ、早く登校したい気分だったから」

なら教えてーや、わざわざ紲星家まで行ったんやで〜?」

メールすればよかったね、ごめん」

別に気にしてへんよ、言っただけやから」

 

 結局、早めに登校した。部室にも寄ったけど、予想どおり誰もいなかったよ。だから、適当に空でも見ながらホームルームを待ってた。お姉ちゃんに連絡しなかったのは… ただのミスだよ、わざとじゃないからね。普通に忘れてた、一緒に登校する理由もないんだけどさ。

 

今日も真面目に授業、受けるんやでー?」

それは茜が、でしょ。私はちゃんとしてるから」

…どっちもだよ、見張ってるからね?」

ひえ~」気をつけます…」

 

 …普段通り、授業を受けるだけ。でも、少しだけ… あかり君のことを見ていよう、朝から様子がおかしいから。お姉ちゃんよりはしっかり者だし、変なことはたまにしかしないんだけど、なんだか… 変なことをしそうな空気なんだよ、今日。

 

 

 

 

 

葵ちゃん、どうしたんですか? 変な顔してますけど」

…予想外なことが起きてさ。何も起こらなかったんだよ」

起きて起こらないって、不思議な日本語だね」

そんなもんやろ、葵はいつも難しいことばっかやもん」

…そんなに難しい言葉ですか?」

 

 説明なんていいか、難しい言葉じゃないし。でも、本当に何も起こらなかったんだよ。部活も普通にあいさつして、普通に料理食べて、終わっちゃったし。あかり君の様子は明らかにおかしかったし、今は朝に言われたとおりにゆかりちゃんを連れて家に帰ってるんだけど… ここから何かしでかすつもりなのかな、多分。何もしない、とは思えないし。絶対何かする、もう何年の付き合いだと思う? 相当だよ、覚えてないほど。だからわかる。こういう時のあかり君は、油断した時に何かを言う。

 

じゃ、うちはここで」

ばいばい、茜」

…もう、入っていいですか? 久し振りで少しワクワクしてるんです」

うん、リビングでお茶でも飲んでて、ゆかり(ねぇ)

…ありがとうございます」

お茶は私が淹れるよ」

 

 よく考えたら、何か問題を起こすとしたら今から、か。最初からゆかりちゃんと何かを話したそうにしてたし、家に入ってから… でも、あかり君はどこに行ったんだろ。リビングに私達を残して、意気揚々と階段を登ってったけど… 部屋に、何か取りに行ったのかな。

 

ゆかり(ねぇ)、これ見て」

なんですか? これは… あぁ、昔あかりと撮った写真じゃないですか」

これ、私」

はぁ!?」いやいや、騙されませんよ。あかりと蕾ちゃんの区別くらいつきますって」

…これ、私」

 

 …あかり君は、これがしたかったのか。これが、というよりは… ゆかりちゃんに、自分が〝紲星あかり〟だって伝えたかったんだよね。 …本当に、あの書類の中身が気になってきた。半年前からずっと隠してきた性転換のことを、急に話すなんてさ。もしかしたら… 催眠術か何か、だったりしない?

 

…え、本当なんですか?」

うん。これ、私」

え、え? これ、あかりじゃなかったんですか? え?」

…私、あかりだったんだ。そういう… 病気なんだ」

ま、待ってください。あかりだったって、蕾ちゃんが、ですか?」

そうだよ」…うん」

少し、水貰いますね。何が何だかわからなくて、頭が… おかしくなりそうです」

 

 あかり君が性転換したばかりの、初めて会ったとき。あの時は私も自分がおかしくなったのかと思った。話の内容なんて、半分も聞いていなかったと思う。ただあかり君の言葉を肯定して、安心させようとしか考えてなかった。自分で… 何も考えたくなかったから、あかり君を安心させることしか考えないようにしてた。あの時のあかり君は子猫のように弱そうで、1人巣で待つ小鳥のようにさえずって助けを求めてたから…

 

 正直、理論で証明できることじゃないし、理屈は何もわからないことだからさ… 考えるだけ無駄なのに、思わず考え込んじゃうんだよね、人って。ただ単純に、自分が納得したくて。でもね、ゆかりちゃん。 …きっと、答えなんてないんだよ、どこにも。今でも私は、わかってないから。

 

…あ! そういうことですか!」

ゆかりちゃん?」

ゆかり(ねぇ)、わかってくれた?」

あかりのお母さんが前に言ってたんですよ! あかりは持病があるから、突然別人みたいになるかもしれないけど、支えてあげてって。それですね!」

持病? 何の話?」

お母さんが… でも、それだよ、うん! 内容は知らなかったと思うけど… 性転換しちゃったんだ」

初めて聞いた時は髪が金色になったり羽が生えるものだと思ってましたけど、性転換だったんですね!」

 

 …何の話かわからないけど、ゆかりちゃんは何か知ってたのか。病気… じゃあ、あの封筒はその病気関連の何か? 診察書か何かかな、性転換する病気の。 …病気と言われても信じられるものじゃないし、あかり君はあの封筒が来るまでは病気のことは教えられてなかったのかな、もしかしたら。知ってたら… 性転換した時にあんなに焦らないよね。

 

…でも、こんなに可愛い蕾ちゃんが、あかりだったんですね」

そうだよ、可愛い可愛いあかりちゃんだよ」

えっと… 病気のこと、少し教えてもらってもいい?」

突然性転換する病気、生まれた時からの持病なんだって。詳しいことはわかってない病気だし、僕も昨日お母さんに教えてもらうまで知らなかったんだけどさ…」

…それ、皆に言うの?」

言わないよ、ゆかり(ねぇ)と葵と… 茜と、ミコトさんまでかな。この4人にしか言わない」

……じゃあ、そっからスタートですね」

スタート?」何の話?」

 

 ゆかりちゃんのことだし、何かゲームに例えた良い言葉が浮かんだのかな。別にどうだっていいか、例える必要もないでしょ。それより、病気のことが気になるな。朝は口止めされてたからって話してくれなかったけど、性転換が病気だってことくらいは言っても大丈夫だったのかな。詳しいことは今も話せなさそうだけど… 聞く必要もないか。それに、病気のことはヒメさんやマキさんには言わないんだ。 …それがいいか、あの2人はあかり君のこともよく知らないだろうし。これから、あかり君が〝紲星蕾〟として生きるつもりなら… 〝紲星あかり〟を知ってもらう必要はないよね。

 

だって、蕾ちゃんが日常物のアニメの主人公だったら、ここまでは前日譚じゃないですか。ここまでは紲星あかりが、紲星蕾となるまでのお話… ここからが、紲星蕾の物語、なわけですから」

…そう?」

確かに… 僕が、自分は紲星蕾として生きるって決意した昨日の夜が物語の始まり…」

…あかり君が納得するならそれでいいけど、何時(いつ)がスタートかで何か変わるわけでもないでしょ」

心持ちですよ! 昨日がスタートなら… まだまだ沢山人生楽しめるんですから!」

…別に何かの主人公ってわけじゃないんだから、関係なくない?」

そう思うのが大切なんです! そう思えば、主人公として今後何が起こるのか、楽しみになってきませんか?」

ならないけど」なってきた!」

でしょ!」えぇ…」

ですから、決めちゃいましょ。昨日… 今日でも明日でもいいですけど、それが物語のスタート! 頑張りましょうね、あかり… 改め蕾! ちゃん!」

おー!」

…おー」

 

 …そんなことある? あかり君が納得してるし、楽しそうだからいいけどさ… そんなことある? これから蕾として頑張るぞ! っていうのはわかるけどさ… なんでもいいか、悪いことじゃないし。良いように捉えてるなら、何も言わないよ…

 

 

 

 

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