こほん、皆様はじめまして。 …はじめまして、はおかしいかもしれませんが、紲星蕾と申します。 …葵とか茜は僕のこと、あかりって呼ぶけどね。それでも、僕は紲星蕾として、これからは生きていく。 …あかりと蕾で何が違うのって言われたら名前だけだけど、それでも僕にとっては大きな変化だよ。少なくとも、心の中では。
今までは、性転換が治って紲星あかりに戻る日のために生きていた。勉強も、何もかも。だけど、もうそんなことを考えはしない。紲星蕾として幸せに生きるために、僕は毎日を生きていく。だから、言うならば… ここからが本編、ここまでも本編だけどね。僕の行動とか、何かが劇的に変わるわけじゃないけど… 蕾として生きる覚悟を決めるためにも、今までの話とこれからの話は分けていこうと思うんだ。 …紲星蕾として生きる、まだ決意は浅いけど、蕾としての思い出を積み重ねていけば… いつかは、蕾として生きる自信もついて、本当に紲星蕾になれると思うんだ。 …もちろん、今までのあかりとしての自分を保ったままに蕾になるよ、僕は。
…柄にもない話はやめにしよう。自分で言うのもなんだけど、心の中で色々考えたり、作戦を立てて将来を展望するのは僕に合わないよ。そういうのは、葵とかミコトさんの担当であって… 僕や茜はぽけーって毎日を楽しく、必死に生きれば良いんだよ。考えるに越したことはないと思うけど… 考えすぎて普段と違うことして失敗するでしょ、僕や茜だと。だから、そういうのはしない。
「晩ごはん、僕が作ってもいい?」
「ん、わかった。じゃあ暇だし私はデザートでも作ってようかな」
「何作るの? パンケーキとか?」
「あかり君は何作るの?」
「オムライスにしようかなって思ってるよ。ゆかり
「それならクッキーにしようかな。フライパン使わないし」
「…そうか、そういうのも考えてるのか」
今は晩ご飯を作る時間。ゆかり
「クッキーってどうやって作るの?」
「私は素人だし、マキさんかミコトさんに聞いたほうがいいんじゃない?」
「ん〜、今度あの2人にも聞くけど、葵の作るクッキーも聞きたいな」
「…オムライス作りながら聞けるなら、説明しながら作るよ」
「ありがと、ちゃんと聞くよ。時々見ながら聞くよ、気になるから」
「…よそ見してオムライス焦がさないでよ?」
前科… 片手分以上。マルチタスクってすごいなぁって、葵を見てると時々思うんだ。葵って、いつも僕とか茜と話しながら料理してるんだよ。それに、何か焼きながら切ったりもしてるし… 同時に2つ料理を作ったりするのってどうやるんだろうね? 味噌汁とおにぎりなら僕でもできるけど、葵は餃子と炒飯を作れるからね。 …多分。
「あぶなっ」
「ボーっとしながら包丁使わないで?」
「ごめん、気をつける」
「…本当に気をつけてよ?」
「うん、気をつけるよ」
危なかった… 本当に気をつけないとだね、指切ったら痛いし… 痛いのは嫌だもん、誰だって嫌か。それに、今切っちゃったら料理に血が混ざっちゃうかもだし… オムライスなのに切るだけやって炒めたり焼くのは葵任せ、じゃあ料理してる感じもしないですもん。
「こっちはもうできたけど… まだかかりそう?」
「後ちょっとだけ… まだ、もうちょっと焼いたほうが…」
「満足いくまで、いくらだって待ちますよ」
「…クッキー食べて待ってるね。ゆかりちゃんも食べる?」
「ん、食べます」
ん〜、まだ柔らかすぎるかなぁ? ふわっとしたタマゴで包みたいけど、柔らかすぎると ベチャつきそうだし… というか、プロじゃないし包めないよね。う〜ん、もうちょっと焼こう。もうちょっと形をしっかりさせて、それで… どうやって包むの? 確か、タマゴを広げて真ん中にチキンライスを乗せて… 気合いで包む!
「…まぁいけるか」
「本当に? こっちからは見えないけど、その反応はだめなやつだよね?」
「大丈夫、ちょっと見た目は悪いけど… うん、オムライス。ほら」
「よかった… 裂けてるのかと思ったよ」
「上手じゃないですか。蕾ちゃん、凄いですよ」
むむ… 2人の中で僕はどれだけ料理が下手だと思われてるんだ? オシャレな料理は無理ですけど、自炊してたんだからある程度は作れますよ、僕だって。というか、葵は僕が料理できること知ってるよね? もっと信頼してくれても…
「…そんなに料理できないと思われてた?」
「できるのは知ってるけど、レシピもなしに作り始めたから…」「自炊してたのは知ってましたけど、オムライスって難しいですから」
「…確かに、いつもレシピ見ながら簡単な料理しか作ってなかった気がする」
「…なんでオムライスはレシピなしで作ったの?」
…前に買ったレシピ本、どこやったっけ。あれ〜? 買って琴葉家で使って、それから… 我が家に持って帰ってきてない気がする、じゃあ葵の部屋か、今度取りに行こうっと。 …勝手に入っちゃだめかな? いや、前まであそこで寝てたんだし大丈夫だよね?
「ちなみに… 美味しい?」
「美味しいよ」「自信持っていいですよ、美味しいです」
「よかった… 僕も食べてみよ」
「少しは味見してくれないかな?」
「減っちゃうから…」
「味見で食べすぎるのは気をつけてよ…」
美味しい。柔らかくて甘いタマゴの味が口に広がるので、ケチャップの酸味は薄まって、逆に甘みが引き立てられるんです。そこにお米の甘さが加わって、口を優しく和ませてくれるんです。そこに2口目、今度はタマゴと共にケチャップライスに入ったお肉がやってきて、確かな食感と強い味で飽きがこない。全体は甘いのに、甘さの奥から旨みがくる、美味しいです。自分で作ったから美味しく感じるだけかもしれないですけど… 喫茶マキに出せないかな…
「…おかわり作ろうかな」
「…私が作ってもいい? 一味違う、私のオムライスを作りたくて」
「 葵のオムライス、食べたい!」
「楽しみですね…」
「ゆかり
「自信がないのでやめておきます。 …さっきも思ったんですけど、蕾ちゃんにゆかり
「えぇ… 言うのやめるね」
「えぇっ!? や、やめないでくださいよー!」
…ふふ、楽しい。昨日から、色んなことを考えたけど… やっぱり、こうやって皆でふざけながら楽しく話すのが好きだな。紲星あかりから、紲星蕾に変わっても… 楽しんで生きていこう。これまで通りの、幸せを。
「…あ、やば」
「あ… とりあえずティッシュです」
「ねぇ、その反応… 話しながら食べてたら服に落としたんだよね、染みるよ」
「…どうしよ」