ハロー、茜ちゃんやで〜。なんか久しぶりな気がするなぁ、何が久しぶりなんかは知らんけど。 …適当なこと考えるんはやめて、真面目に勉強せな。えーっと、明日は何があるんやったかな〜? えー、えー、特に何かってことはなく普通やな。じゃあ…
でも… 家で、することも少ないんやけどね。だってうち、独りやから。葵がおったら、テレビでも見ながら話したり、一緒にゲームしたり、叱られながら勉強したり、楽しいんに。あかりでもええよ、誰かがおってくれたら、それだけで楽しい。 …1人でも、楽しくないわけやないけどね。
楽しいんやけど、今までの方がもっと楽しかった。うちも、紲星家に行こうかな。でもなぁ、妹と恋人が仲良くしとる所にお姉ちゃんが来たら邪魔やろうし… それに、妹離れせんとあかんとうちも思っとる。大人になったら誰しもこうなるんやろうけど、急なことやったから… 寂しいなぁ。
流石に、数週間経ったんやから、最初の頃よりは元気やけどね。それでも寂しいもんは変わらんし、何か… 何かないやろうか、面白いものとか。
「…それで、ここにコーヒーを飲みに来たの?」
「せやでー、ここのコーヒー飲むと心が落ち着くんや」
「自慢のコーヒーですから」
「助かってます… あ、ナポリタンください」
「はーい、お待ちくださーい」
最近は喫茶マキに行くことが増えた気がする。家でさみしくご飯食べるより、お店でマキさんと話しながら食べたほうが美味しいもん。それに、他のお客さんの声もよ―聞こえて、楽しいんや。ここはのんびりしとっても怒られんしねぇ…
「お隣失礼します、私もコーヒーを」
「はーい、持っていきまーす」
「ゆかりさん、最近はよー会うなぁ」
「お互いに、ここの常連じゃないですか。最近は遊び相手がいないので… よく来るんですよ」
「…せやな、常連どうし仲良く飲もか」
…2人寂しく、サシでコーヒー… 良く言えばドラマチック、悪く言えば悲壮感漂う、近寄りがたい空気感… ゆかりさんは何があったんやろう。遊び相手、いなくなったんやろ? 事件やろか、聞いてみよ。
「遊び相手はどうしたん?」
「葵ちゃんもあかりも、殆ど構ってくれなくて…」
「…うちと同じかぁ」
「でも、邪魔するわけにはいかないじゃないですが」
「せやな… あかりに会ったん?」
「あかりというか、まぁ… わかってますよね?」
「…あぁ、聞いたってことか」
あかり、性転換のこと話したんか。 …で、あかりと葵が仲良くしてる所に入るのに気が引けちゃったんやな。蕾と葵って考えたら、楽やろうけど… あかりって知った上で見たら、わかるもんなぁ、付き合ってるって。好きのオーラが出とるもんなぁ、主に葵から。来るなってオーラならうちらに向けてくれるで、いつでも。
「間にだけは入らないようにせんとなぁ…」「間に挟まりたいんですけどねぇ…」
「えぇ…? あ、間に入りたいん?」
「あれですよ、
「癖やん、強めの」
「この程度のことは癖とは言いませんよ。強めの癖っていったら、その……… この話題はやめましょう」
「やめよやめよ、うちも聞きたないもんそんな話」
…聞きたい人おるんか、この話題。徹夜中に通話しながらゲームやっとる時に不意に始まるような話やろ、これ。平日の学校終わりに女子高生がする話ちゃうよ、間違いあらへん。というか、喫茶店でするのもおかしいな。知らん人がおるところで癖語るのは、1週間くらい寝とらんやつの所業やろ。 …ゆかりさん、もしかして疲れてるんやろか。
「大丈夫やんなぁ、頭」
「突然どストレートな暴言きました?」
「ちゃうちゃう、すまん、そういう意味やなくて… 疲れて考える力やられとるんちゃうかなぁって」
「やっぱり本気で刺しにきてますよね? 間に挟まろうとしたから怒ってます?」
「そんなそんな、本気で刺すならもっと静かに…」
「ひえー、怖いですねぇ」
…ちょっとは思ったけどな。妹の恋路を邪魔しようとしとるんか…? それなら、少し痛い目を… って。 …冗談やないで、本当よ。すぐに訂正したから収まったけど、あのまま『2人の間に入ってかき乱してやりたい』とか言い出したらナポリタンのフォークが赤くなるところやったわ。 …元から赤いな、ナポリタンなんやから。
「あかりの保護者として、あの2人は応援してますから… 刺さないでくださいよ?」
「わかっとるって。というか… いつの間に保護者になったん?」
「私の中では子供の頃からですよ。年下の可愛い従姉弟ですから、大きく育ってほしいと何度も思ったものです」
「そういや、うちも葵に同じこと思っとったなぁ。懐かしくなってきた」
「従姉妹だったんですか?」
「同じってそこやない、うちらはれっきとした姉妹や」
「わかってますよ、冗談です」
ゆかりさん、割と話しやすいんよね。年上やし、突飛なことをよく言うし、変な人だとは思うんやけど… うちと同じ系譜、だと思うんよ。思いついたことを隠さずにすぐいう、脊髄で喋るタイプの人。葵やミコトさんとは正反対な、失言ぽろぽろタイプやな。
「マキさーん、私もナポリタンください」
「わかりましたー!」
「うちの見てたら食いたなったん?」
「そりゃそうですよ、話しながらナポリタン食べられたら、自分も食べたくなるに決まってます」
「せやなぁ。うち、美味しそうに食べるねってよく言われるし、コマーシャルでれへんかな」
「そこまでではないです」
「なんでぇ!」
…楽しいなぁ、人と話すん。 …葵も、きっとゆかりさんと同じようなことを言うんやろな。次に葵と話すときの話題として、覚えとこ。 …葵の話やなくて、今はゆかりさんとの話をせんとやね。葵のこと考えてるのはゆかりさんに失礼やもん。
「コーヒーおかわりくださーい」
「今行きまーす!」
「そういえば茜さん、砂糖とか入れないんですね」
「昔は入れとったんやけど、葵にカッコつけようと思ってやめたんよ」
「それで、何か言われました?」
「なにも? 砂糖やめたんだ、としか言われんかった」
「まぁ… 葵ちゃんはそれでかっこいいとはなりませんよね…」
「そんなら、どうしたらかっこいいって言ってもらえると思う?」
「やっぱ、拳で悪いやつをパーンですよ」
拳で悪いやつを… そのためには、葵の前に悪いやつがおらんとよな。ついでにあかりもおったほうがええか、その方がうちがかっこよく見えるやろ。あかりが動くよりも前に、うちが一瞬で悪党を撃破! …いけるな、後は悪党さえ用意できれば…
「うちに殴られる役やってくれへん?」
「私じゃ流石にバレますよ。自作自演のヒーローショーなら、大柄な人に覆面つけて悪そうな動きさせないと」
「うちの知り合いで、一番大きい人… 全員小さいな、ゆかりさん頼む」
「いやいやいやいやいやいやいや、私以外にいい人がいますよ。ほら… ミコトさんとか、小道具で上手くやってくれますよ」
「あの人殴りたない、うちまだ生きてたいもん」
「ミコトさんは裏社会のドンか何かなんですか?」
「やっばゆかりさん以外に適任おらへんよ、頼む!」
「バレますって、この髪色ですよ?」
「なんか… いかつい学ランとか着てたらその髪色でも疑われへんって」
「いやいやいや…」
この後も、ゆかりさんと押し問答を続けたんやけど… うちが折れたよ、まぁ、うちが無茶頼んでる側やもん。押し問答って言うとよく聞こえるけど、実際は無理を押し付けるうちVS意地でも断るゆかりさん、やったからね。 …押し問答もいい意味の言葉やないか。
「ふぅ… そろそろ私は帰ります、茜さんはどうしますか?」
「うちも帰ろかな、少し… 長居しすぎた気ぃもするし。マキさん、お世話になりました」
「お勘定は私が」
「いやうちが… いや、やめとくわ。ゆかりさん、ありがとうなぁー」
「年上に任せてくださいよ、私も楽しかったで… こんなに飲んでたのか」
いやいや、そこは私が、的な流れかとも思ったんやけど… 万一うちが2人分払うことになったら、欲しいゲームがあるんに買えんくなってまう。ここはゆかりさんに払ってもらって、うちのお小遣いは温存や。 …学校終わりにここに来て、もう8時過ぎくらいやんなぁ… 結構おったな、楽しかった。
さ、帰ったらお風呂済ませて、ちゃっと寝てまうか。
…あかりからメール来とる、なんやろ。『伝えたいことがあるので、僕の家に来てくれると嬉しいです。無理なら、明日伝えに行きます』って、1時間以上前に。 …やってまった、気づかんかった。
「気づかんかった、明日こっちから行くよ、っと。これでええな」
送信したし、今度こそ眠るか。おやすみ、勉強はせんでよかったはずやし…
…寝れん、コーヒーのせいやろうか。ゲームしてから寝るか…
「おーい! 起きて! もう時間やばいから!」
「んん、まだ寝かせて…」
「もう授業始まるんだって! 置いてくからね!?」
「そんなに慌てんでも… というかあかり、どうしてうちの部屋に?」
「それは後、早く着替えて準備して! おにぎり作ってくるから、食べながら走って学校行くよ」
「そんなじか… もう30分もないやん!」
「ずっとそう言ってるから!」
…あかり、なんでうちの部屋に? 後でって言われたけど、何か理由あったとしても困るよ? うち、これでもか弱い女の子やで? そんな女の子の部屋に勝手に入り込むのは、だめやろ。なぁ? はよ着替えて追いかけな。
「あかりー! どこ行ったー!」
「はいはーい、おにぎり食べる?」
「それは食べるけど、なんでうちの部屋に入ったん? 勝手に入られたら困るで?」
「今日、僕の家に来るって言ってたのに来なかったから、心配で見に来たんだよ」
「それはすまんかったけど、部屋に入ったらあかんよ?」
「そう?」
「そう? って…」
…あかんな、これは指導せんと。ちょっと抜けてたり、ぽえーって常識外れなことをするのが、あかりのええところなんやと思うけど、レディの部屋に入ることに躊躇いがないんはあかんよ。性転換したばかりの頃から琴葉家で暮らしとったけど、あの時はちゃんと恥じらいも躊躇いもあったんに… 慣れてしまったんか? 慣れたらあかんよ?
「そもそも、男の子が勝手に女の子の部屋に入ったらあかん。もちろん逆もあかんよ? そりゃあ、同性でも勝手はよくないけど、異性の部屋は絶対にあかんから」
「同性だよ?」
「今は、やろ。ずっとその感覚やと、男に戻ってから大変やで?」
「あー、戻らないからいいよ」
「…それ、ほんま?」
「ほんまーよ、戻らない」
「そうか、それなら… とはならんからな?」
一瞬流されるところやったけど、そもそも勝手に入るなって話や。
…え、あかり元に戻らんの? 葵、大丈夫かな… 元に戻る前提で付き合ってたんやないんかな…?
…いや、大丈夫やな。思い出した、性転換したあかりと初めて会った日、葵なんか口走っとったわ。別に、あかりがどうであれ… 葵には関係あらへんか。あの子は… そういう子や。ゆかりさんと葵はそういう点は信頼できるから。 …負の信頼や。
「…まぁ、それはわかった。けどお説教はするから」
「えぇっ!? 元はと言えば、茜が起きないからだよ!? それに、僕がいなかったら遅刻してたからね?」
「ぐっ、そこを突かれると反論が… で、でもや。それでも電話とかノックとか色々あるんやから、部屋には入っちゃあかんよ。見られても困るもんないけど、だめや」
「…着信履歴、見てみなよ」
「え? そんな、電話されても起きんなんて… 17件やとぉ!? そ、そんなにかけられてたんか… わ、悪かった。これはうちが悪い、すまんかった」
「まったく…」
あかりが女の子の部屋にズカズカ入る無神経なやつなんやなくて、うちが17回も電話されてスマホが鳴っても起きんねぼすけさんなだけやった。 …いやでも、それでも入るのはよくないやんなぁ? まぁ、うちはこっから言い合って勝てんから何も言わんけど。助かったんは事実やし、部屋に入られても何も困らんし… 葵の部屋に突っ込んだりしたら咎めるけど、今は許したろう。
「よし、学校行くか!」
「そうだ、急がなくちゃ! 茜、おにぎり食べながら走れる?」
「なめんな、うちは琴葉茜やで? なんだってやったるわ!」
「遅刻だから、2人共。早く席座って」
「間に合わんかった…」
「茜は見捨てる方がよかったかのかな…」
…遅刻してもうたって落ち込んどったんやけど、隣でなんか酷いこと言っとるなぁ。まぁええわ、あかりがおらんかったらもっと酷い遅刻しとったし。 …滑り込みアウトやからそこまで怒られんかったけど、もっと遅れとったらどうなったんやろ。ちょいと怖いな… 先生よりも、葵が。あかりを巻き込んでまったのは事実やから…
「………」
あ、だめかもしれん。目が笑っとらん、目でうちを刺してきとる。 …怒られてくるわ、後で。それ以外は普段通りやし… 色々考えるんわ、1度終いにしようか。