雪合戦。それは、雪の積もった日に子供達が楽しげに遊ぶゲーム。…本当にそうだろうか? 私はそうは思わない。雪合戦は… 策略を練って、本気で相手を倒し勝者を目指す、血で血を洗うゲーム。 …血は流れないけど。
この結月ゆかり、ゲームが大好きなんです。それも、仲間と手を取り合うようなゲームが大好きなんです。 …お世辞にも上手いとは言えませんが、そんなことはいいんです。なんと、今年の球技大会が雪合戦に決まったんですよ。私は投票しましたよ、さっきも言いましたが仲間と策略を練って戦うゲームが好きなので。 …リアルで体を動かすのは苦手ですが、そんなことは置いておきます。
ミコトさんを通じて判明したリーク情報によると、学校全体を使って2チームによる対戦を行うそうです。全員の服にセンサーを付けて、雪玉を当てると相手の服が光るそうです。多く当てたほうが勝ちで、服が光った人は本拠地まで走って戻る必要があるとか。なんと、服が光った状態の人が玉を持つと電気が流れるらしいですよ。どんな技術なのか知りませんが、不正は絶対に許さないという覚悟を感じますよね。 …本当にどんな技術で、誰が作ったんでしょうね?
学校全体というは、校舎の全教室は勿論、屋上や校庭、体育館や倉庫も含めて全てが範囲です。校舎はコの字なので、コの左上と左下が両チームの本拠地でしょうね。で、ですよ。チームは2つ、ならばチーム分けが存在しますよね? クラス単位だと思いますが、カップルが心臓をバクバク言わせるながら名簿を見るわけです。そんな奴は撃ち抜いてやるとして、私にだって同じチームになりたい相手がいます。
それはもちろん、大切な従姉弟のあかりです。あ、今は従姉妹ですね。そんなあかりですが、昔はかよわい男の子でした。しかし今はもっとかよわい女の子になってしまっています。正直、今の姿も女装と言われたら信じるくらいに、私の中のあかりは幼くて可愛い姿なんですよね。だからこそ、雪合戦という命がけの戦場で守り抜きたいんです! 葵ちゃんが守ってくれるとは思いますが、葵ちゃんだって無敵ではありませんから。葵ちゃんがやられた時にあかりが1人になるのは余りにもハイリスク。運が良いのでなんだかんだ逃げてそうですけど、反撃する勇気があるかと言われたら怪しいですし、やはり私も側にいたいんです。
しかし、チーム分けに干渉することはできません。ミコトさんなら悪い手を使えるかもしれませんが、それがバレた場合は確実に別のチームにされます。ですので、不正ではなく私の運命力で勝利をもぎ取るんですよ。普段の行いも良いですし? まぁまぁ、楽勝ですよ。
…まぁ、私だけの運命力では足りないかもしれないので、もっと幸運な人にも同じことを願ってもらうように頼みましょう。きっと、あの子の力なら最高のチームを作ってくれるはずです! 今は休み時間ですし… 電話しましょう。
「もしもし、あかり?」
『ゆ、ゆかり
「いやー、頼みたいことがあって。あかりも、私と同じチームになりたいですよね?」
『雪合戦の話ですか? そうですね、同じチームになりたいです』
「ですよね? いやぁ、なれるといいですね」
『う、うん。それで… 頼みたいことって?』
「大丈夫です、あかりの力ならもうなんとかなります!」
『え、えぇ? 』
さ、これで大丈夫なはずです。この後することは… 普通に授業を受けるだけですよね。だって、雪合戦ってまだ先の話ですから。雪合戦のことばかり考えるわけにもいきませんし、考えたって意味がありません。それなら、今すぐの授業について考えるべきです。
…で、授業は始まってから適当に考えましょう。もう時間ないですし、強く当たって後は流れで、目立たずシンプルにやればいいんです。よく茜さんやあかりのような少し抜けてたり本能で生きてたり、授業寝たりするような人と同じ括りだと思われがちですけど、私はどちらかといえばミコトさんや葵ちゃんと同じロジカルで、先を考えられる人間ですから。
…コミュ力の代名詞みたいな茜さんや、幸運の申し子たるあかりと違って、私は普通の人ですから。ちゃんと事前準備もしてますし、真面目に授業も受けますから。あの2人は受けなくても許されるだけの才能が… 別に許されてはないですね。
面倒なく、のんびり過ごしましょうか。それが私の性に合ってますから。波乱も混迷もなく、秩序的な人間ですから。 …難しい言葉ばかり並べていると、アホっぽく見えてきますよね。私も今、自分に対してそう思っています。
…良い加減、一人語りは終わりにして、授業受けますか。
「ミコトさん、不正したらしいですね」
「秘密にしてくれ」
「バレないと思ってるの? 皆わかってるよ?」
「まぁ、梅合戦なんてミコトさんしか選びませんから」
「蕾ちゃんくらいは投票してくれると思ったんだがね…」
「あの子は優しいですけど、流石に梅合戦では無理ですよ」
お昼、鳴花のお二人を見つけたので少し話しています。昼食はすでに済ませましたよ、本当はあかり達と食べたかったんですが、今日は3人で食べるそうなので。青春っていいですよねぇ、仲のいいクラスメイトと机を囲んでお弁当… 私にもそんな相手が欲しかったものです。
ま、食べた後に友人と世間話をするのも誇れる青春だと思いますが。転校前の私にはそんな相手すらいませんでしたから… やめましょ、この話。悪い思い出だけじゃありませんが、今はそんな話をしている場合ではないので。
「雪合戦、楽しみです?」
「梅をどう使うか考えてるけど、面白いんじゃない?」
「自信はないけど、私も楽しみだよ。玉が空を飛び交うんでしょ? 見た目も面白そうじゃん」
「ですよね、私も楽しみなんですよ」
乗り気ですね、まぁそんな気はしていましたよ。お硬い雰囲気のある2人ですけど、盛り上がることが好きなのは知ってますから。 …行動力と行動の規模が私とは桁違いなだけで、同い年の人間ですからね。結局は、似てるんですよ。 …同じというには差がありすぎますが。
「ゆかりさん、実は私、とある奇策を考えていてね。どう? 手を貸してくれない?」
「…同じチームになるかわかりませんよ?」
「そこはほら… ね?」
「だめですよ?」「なにするつもり?」
「むぅ… それなら話せないか」
ミコトさんのことですから、梅が好きと答えるまで出ることができない部屋とか作るつもりなんだと思いますよ。雪合戦を梅合戦に変えるのが目標でしょうからね。 …流石に、そこまでのことはしないと思ってますよ? 常識人ですから。ただ… どんなことをしてもおかしくない、負の信頼はありますから。
…ミコトさんは恐ろしいですよ。常識をわかった上で破る人間ですから。芯が強い、ブレないといえば褒め言葉なんですけどね… 人に迷惑かけることも滅多にないですし、立派な人ですから。
…ミコトさんについては色んな話を聞きますけど、ヒメさんに関してはあまり話を聞きませんよね。ちょっと… 掘り下げてみますか。私のゲームで鍛えた調査力で、新しい情報を手に入れてみせますよ。
「ミコトさんとはよく話しますし、ヒメさんからも話を聞かせてもらえませんか?」
「私? う〜ん、何話す?」
「…好きなものとか、どうです?」
「合コンみたいで
「ミコトは黙ってて」
「うぐぅ…」
流れるようにミコトさんのお腹に一撃が入りましたけど、それは置いておきましょう。ただ、何を聞くのかは考えないとですね。好きなものだと漠然的ですけど、好きな色とか聞いても何にもなりません。それなら、聞くべきは…
「趣味とかありますか?」
「趣味? う〜ん、料理とか、園芸とか、勉強かな。ゲームもするよ、下手だけど皆の話題についていきたいから頑張ってるんだ」
い、いい子… よし、今度ゲームに誘いましょう。勝てる相手だからとか、そんな理由じゃないですよ? 私は葵ちゃんやあかりとも、ゲームを通じて仲を深めたんですから。 …適当なこと言ってます、気づいた時には親友でしたから、どうすれば仲良くなるのかとか分からないんですよね。
「それなら、週末に一緒にどうですか? 教えられることもありますし、何よりゲームは一緒にやったほうが楽しいですから」
「いいの? それなら、私の家においでよ。学校前で待ち合わせて、案内するよ」
「お願いします。いやぁ、週末が楽しみになってきました」
「わたしも、まぜてもらおうか…」
「いいですねぇ、多いに越したことはありませんから」
「…ミコトは要らなくない?」
「ひどいよヒメぇ…」
笑っちゃいけないんですけど、少し面白くて笑ってしまいそうです。あのミコトさんが、お腹を抑えて苦しそうにしながら声を絞り出してるんですよ。それをヒメさんに一蹴される、と。まぁ、このまま面白がっていてもいいんですが、ゲームは大人数の方が楽しいですから。ミコトさんに助け舟を出すとしましょう。
「私は、ミコトさんもいたほうがいいと思いますよ。ゲームにもよりますが、人数が多ければ駒になりますから」
「酷い言い方だけど… そう、そのとおり。私はどんな雑用だってするよ、ヒメと遊べるならなんだっていい」
「…別に、私もミコトと遊ぶの嫌ってわけじゃないし、普通に遊ぼうよ。ただ、ちょっと面白くなって言っただけだから」
「妹がツンデレかと思ったら、殴って苦しんでる人を見て笑ってるだけだった…」
「い、言い方! そんな猟奇的なわけじゃないから!」
ミコトさんはこれで誘って、仲間に加わりましたが… 他に誰か誘うのかどうか、ですね。ヒメさんのことですから、あかりや琴葉姉妹を誘えば喜んでもらえると思いますが… 今回は、誘わないでおきましょう。あの子達もそれぞれでやることはあるでしょうし、私だけでヒメさんを楽しませてみせましょう。今の私には… できるはずです。
「では、週末に校門前で。授業なので失礼しますね」
「はーい、また今度!」
「お待ちしているよ」
さ、授業行ってきます。
「……ふぅ」
「別に緊張しなくて大丈夫だよ? 私とミコトしかいないし、大して高いものもないし」
「いえ、その… この家の規模も、ヒメさんの服装も… 私には、レベルが高くて…」
ヒメさんは私服なんでしょうけど、お洒落なフリルのワンピースですし、鳴花家の門は厳かでしたし、遠目でもわかるほど大きな敷地で大きな家ですし、お花も綺麗に咲いてますし… あかり、葵ちゃん… 助けてください、私には… 世界が、違いすぎます…