「飲み物をいれるけど、何がいい? お茶でもジュースでも」
「お茶でお願いします…」
「よーし、ゲームつけるね」
「お願い、します…」
結月ゆかりです。今は鳴花家のリビングでして、柔らかくて気持ちのいいソファーに座りながら、テレビゲームの準備をしているところです。ゲーム自体は2Dの世界で採掘や建築、探索などを行い自分達を強くし、大量のボスを倒していく名作ゲームです。過去に1人でクリアしたことも、実績コンプリートを目指してやり込んだこともあるゲームですので、何ら問題はないのですが… 部屋で寝転がりながら、おやつ片手にプレイすることとは状況が違うんですよ。
「朝ごはんって食べてきた?」
「はいっ、食べてきました」
「それじゃ、私の料理を堪能してもらうのはお昼からだね…」
「楽しみに、しています…」
実は今回、私はこの家に泊まるんですよね。鳴花家が名家だとは知っていましたが、その場のノリで『1日じゃクリアできないと思いますから、泊まってもいいですか?』なんて言った数日前の自分が憎いです… ですが、慣れたら問題はないはずです。今はこの空気に、飲み込まれているだけで… 1日いれば、自分の家と同じように、気楽に過ごせるように… なる、かなぁ…?
「持ち物ってどうやって変えるんだ…?」
「L2とR2です、ここのボタンですね」
「お〜、ありがと。十字キーじゃないんだ」
「十字キーは別の機能が割り当てられてるんですよね。操作を変えることもできますけど、十字キーって咄嗟に押しづらいので、この操作に慣れたほうが後々楽ですよ」
「…緊張、解けたかな?」
「え? そ、そうですかね…?」
「イキイキしてたよ。でも、その方が楽しいから、気楽にね」
こ、これが、ゲーマーの
「ツールごとに役割があって、剣は戦闘用、斧は──
「いえーい!」
「イェーイ、やりましたね!」
「いやあ、強かったね」
ふぅ… 始めて4時間ほど経って、最初のボスを倒しました。このボスは出現条件が複数あって、普段はその条件を満たさないように気をつけながら自分達が強くなってから戦うんですが、初めてやる人に言うのも無粋と思ったので黙っていたので、思ったよりも早く戦うことになりました。でも、3人いれば何とかなるものですね。やはり数ですよ、数は全てを解決します。この手のゲームで、1足す1が2に終わることはまずありませんから。
「キリの良いところだし、私は昼食を作ることにするよ。何か食べたいものはある?」
「特に食べたいものはないですが… 手伝いましょうか?」
「大丈夫、私1人でできるさ。それより、私の分のアイテムも集めておいてくれよ?」
「わかりました、お任せください!」
「梅は少なめでねー」
「わかってるよ、自分で食べるもの以外はちゃんと作るさ」
ミコトさんの手料理… 食べた覚えはありませんが、料理部のエースとして活躍している話は聞きます。毎日のように創作料理を編み出し、茜さんに食べさせていると… 楽しみですね。梅料理しか作らない、なんて話も聞いたことがありますが、私は梅も食べれる人ですから。流石に、梅干しだけとか言われると酸っぱくて頭がおかしくなりそうですが、そんなことはないでしょうから… ない、ですよね?
「ねぇ、これってどうすればいいの?」
「はいはい、それはですね… こんな感じに操作すると上手くできますよ」
「おぉ、なるほど。ありがと、流石だね」
「褒めても何も出ませんよ? あ、宝箱見つけたので開けます?」
「すぐに出てるじゃないか」
「…場所どこだろ」
「あ〜、案内します」
まぁ、ミコトさんは信頼できますから。はっきりと言いますが、私よりも立派な人ですからね。人格者って言えばいいんですかね。親しい間柄では少し… いえ、だいぶはっちゃけるだけで、節度もわかった上で、理性を持って悪ふざけをしているだけです。 …だからタチが悪いんですけどね。ですので、何も心配することなんてないんですよ。自分で言うのもなんですが、客人ですからね、私。流石に… ここで悪ふざけした料理は出てこないはずです。
「ヒメさんヒメさん、良い武器拾いましたよ」
「えっ、見たい見たい! どこ行けば見れる?」
「今から拠点に戻るので、待っててもらえれば」
「私も面白い物を拾ったし、見せあったらご飯にしよう。もうすぐ焼き上がるはずだから」
「結局、何作ったの?」
「梅抜きグラタン、美味しいはずだよ」
…梅抜きってわざわざ言いましたけど、グラタンには普通梅は入りませんよね? でも、良かったです。信じてはいましたが、心の奥底では梅のフルコースの可能性に怯えていましたので。やっぱりミコトさんはちゃんとしてくれますね。
「梅入りもあるけど、どうする?」
「梅抜きをいただきます」
「私も梅抜きで」
「よかった、ここで梅入りが食べたいと言われたらどうしようかと思ったよ。私の分しか梅入りは作ってないからね」
…それならどうして言ったのでしょうか? ただ、ミコトさんは普段からこういうところがありますよね。梅入りが食べたいのか梅抜きが食べたいのか、作る前に聞けばいいと思うんですが… きっと、ミコトさんの信条に背くことになるんでしょうね。いつも… 何かした後に聞いて、やっぱりって感じで笑ってるのを観ている気がします。
「今日はきっと長い1日になる。梅料理はまた後で振る舞うことにするよ」
「私もそう思います。まだまだ楽しみましょうね」
「梅料理は要らないよ」
これを食べたら、またゲームです! 今はまだお昼、私の中では1日の前半… 今日はまだまだ、終わりませんからね! 一気にクリアまで… は、厳しそうですが、行けるところまで進めましょう!
「で、ここのスイッチを押すと…」
「おー! 凄い! 体力が出てきた!」
「そして、このタイマーを付けると…?」
「ま、まさか…!」
「そのまさか! 定期的に回復アイテムが出てくるようになるんです!」
「これ! もっと欲しい!」
「…盛り上がってるところ悪いけど、もう夜だよ。お風呂用意できたけど、誰か最初に入りたい人、いる?」
「もう少し続けさせて下さい」「まだやることあるから先入って!」
「…私が入るか」
…ミコトさんの後ろ姿、少し虚しいですね。タオルと着替えを持って歩いているだけなのに、なんだかさみしげといいますか、悲壮感が漂っているんです。私にはどうすることもできませんが…
「あ、これいる?」
「貰います」
さ、ゲームに戻りましょうか。
「お休み、良い夢を」
「おやすみ〜」
「また明日も、よろしくお願いします」
長い1日が終わりました… 楽しい1日でしたね。最初はどんな豪邸なのかと思いましたが… 過ごしやすい家でしたね。トイレやお風呂も最新鋭で凄いなと思わされましたが、絵画とかはなく普段通りに暮らせました。あ、絵画が悪いと言いたいわけではなく、私の家にはないので普段と違う、という話ですよ。いつもと違うものはそれだけで疲れますから。
さて、明日も早くからゲームですのでベッドに… え、凄いふわふわしてる。なんですかこのふわふわ感、雲で寝るような感覚ですよ。枕も… ふわふわしてますね。これは… やばいかもしれません。ベッドの上で飛び跳ねたら、受け止められて体が浮かび上がるかもしれません。 …これはミコトさんのベッドですから、そんなことはしませんよ。
今日はミコトさんがヒメさんの部屋で一緒に寝るそうです。それで、私はミコトさんの部屋を使わせていただきました。ですので、部屋を探索したり、ベッドで遊んだりせず、ちゃんと眠りましょう。おやすみなさい!
…眠れないですけど? こんな感覚、あまりにも未知で眠れないんですけど?