銀色に染まった山、白い森に遮られ見えなくなった街の明かり、風にかき消され届かない声… 普段の日常とは様変わりして、まるで異世界に来たかのように錯覚しそうな景色。 …美しい自然が紡ぐ、私とあかり君だけの世界。私が… 思っていた通りの雪山の景色だ。
だけど… 少し、私の想像を超えていたかな。寒い、寒いと言いながら体を寄せて暖まる。転びそうだからといって、手を繋いで歩く。綺麗な星空を見ながら、これまでの歩みを思い出す… そんなキャンプになるはずだったんだ…
寒いものは寒いけど、防寒着が邪魔で体を寄せ合っても人肌なんて欠片も感じず。かといって、防寒着を脱いだら体を寄せる程度で何とかなる寒さでもない。そんな寒さでは雪の積もった外を歩き回ろうなんて思うこともなく、そもそもスノーブーツのおかげで1人でも満足に歩ける。星空は綺麗でも、かすかに降る雪の中では空を見上げる余裕もない… 私の作戦は、完璧だったはずなのに…
「なんだかんだ、もう夜だね」
「…そうだね」
「最初は愚痴っちゃったけど、楽しかった。葵はどうだった?」
「あかり君に楽しんでもらえたなら、それでよかったかな」
「…葵の感想が聞きたいな」
…今日1日、つまらないとは思わない。1面の雪に囲まれて、大切な人とテントの中で雑談して、温かい料理を一緒に食べて、そして眠る… こんな非日常な1日、つまらないわけがない。でも… もっと自由で、もっと楽しめると思っていたんだ。だから…
「…不完全燃焼、かな」
「いっぱい予定、立ててたもんね。ねぇ、どんな予定だったの?」
「聞いても無駄だと思うけど…」
「せっかく作ったんだし、聞かせてよ」
上手くいかなかった予定を話すのって、少し恥ずかしいけど… ここまで来たら、関係ないか。予定帳… あった、これに全部書いてある。
「まずは、雪遊びを色々と考えてたんだ。ほら、雪だるまとか、好きでしょ?」
「好きだね。作るのも楽しいし、次の日に元気に立ってたら嬉しい」
「後は、雪合戦。学校でやる奴とは違って、本物の雪でやったらどんな感じなのか、2人でやって、作戦会議なんかも開いて…」
「それはまた今度、家でやろっか。会議なら家でもできるでしょ?」
「…そうだね、そうしよう」
…予定では、雪合戦の後は寒さに震えながらテントに入って、暖房の前で肩を寄せ合いながらの作戦会議、だったんだけどね。
「ご飯は、外で飯盒炊飯に挑戦。薪も自分達で集めて、炎だけは持ってきたライターを使うつもりだったんだ」
「飯盒炊飯も、家でできるかもね。ほら、庭なら… 結構煙でそうだし、火事と間違われちゃうかな」
「かもね… 後は、雪の上に寝転がって天体観測」
「雪は無理だけど、天体観測も家でできそう。今度やろうね」
…これも、2人でくっついて寝転がって、指で星を指しながら談笑する予定って書いてある。この為に、冬の星も少しは調べたのにな… 星座の探し方も覚えて、クイズとかも作ってあるよ。自分用の星を確認する為のメモも、要らなくなっちゃった。
「…他には?」
「…もうないよ。それに、言っても悲しくなるだけだから」
「…えいっ!」
「あっ、ちょっと!」
油断した… 私のメモ帳を取られた… っていうか、早く取り返さないと! 妄想的なメモ書きは見られないようにしないと…!
「か、返して!」
「予定くらい見てもいいでしょ? そーれーとーもー? 見られちゃいけないことでも書いてるの?」
「ぐっ… 返して」
「…そんなに読まれちゃいけないこと書いてるの? …ごめん、返すね」
…空気が、悪い。 …仕方ない、こうなったら…
「…やっぱり読んでいいよ。でも、読み上げたりはしないで!」
「…ありがとう。やっぱり葵は優しいね。 ………ふむふむ」
はぁ… 1つも上手くいかなかったイチャイチャ計画が……嫌われなければいいな。 …はぁ。
「葵、横座ってもいいかな」
「いいけど…」
「…ぎゅ〜」
「あかり君…?」
「今日1日、ありがとう。楽しかったし、嬉しかったから。 …こうして欲しいんでしょ?」
…本当に、あかり君は優しいね。雪のように柔らかく、朗らかで、包みこんでくれる。 …髪色も雪みたいだし、丁度いいかもね。
「…私も、あかり君のおかげで楽しいし、凄く嬉しいよ」
「…そんなに嬉しい?」
「…うん。ありがとう。私のわがままに付き合ってくれて」
「わがままだなんて思ってないよ。葵にはいつも助けてもらってるし、今日もお世話になったし… それに、この程度のことなら毎日でもいいよ?」
…不完全燃焼って言葉は取り消すことにするよ。今日1日、楽しかった。燃え尽きてしまっても良いと思うくらいには… ね。
「それでは、授業を始め…」
「すぅ… すぅ…」
「お、起きて…! 蕾ちゃん…!」
「おーきーろー、授業だぞー!」
「んぅ…? おはよう… ございます…」
「おはよう、ここでは寝ないで下さい。 …そことそことそこも」
…何人寝てるんだ、このクラス。月曜日なんて、1番疲れもなくて元気だろうに… あかり君、一昨日のキャンプの疲れが抜けてないのかな。それなら何とかしないと… 毎日寝られたら困るし、私のせいで怒られるのを見るのは心苦しい。
…解決に取れるアプローチは2通りあるけど、どっちにしよう。授業中に寝させて、それを誰にもバレないように隠すか、授業中に寝かせないか… 前者は何も問題は解決してないけど、後者もボケっとした頭で授業だから良くない… 1授業分寝かせて、他の授業を真面目に受けさせた方が効果的かな…?
「ごめん、寝ちゃってたよ。起きないと…」
「…先生! 蕾ちゃんの体調が悪いようなので、医務室に連れて行きますね」
「えっ…?」
「はーい、いってらっしゃい」
「元気だよ…?」
「…いいから、早く来て」
…こんなことをしたくはないんだけどね。何度もこうやって保健室に行ってたら信用されなくなるし、仮病だと思われる。 …実際、体調不良なんかじゃないから仮病なんだけどね。 …多少信頼を失っても構わない。使えるものは、使える時に使わないとだからね。
「…行くよ」
「う、うん…」
「…葵は戻らなくていいの?」
「授業はわかるから問題ないよ。 …今は、蕾ちゃんが心配だから」
「ありがと…」
…仮病じゃなかったよ。少し熱も出てるし、本格的に体調を崩しちゃったみたい。病気かもしれないし、私も離れたほうが良いのかもしれないけど… 離れるつもりはないよ。風邪だとしたら、雪山キャンプが原因の可能性もあるし、それに…
「えへへ… ありがとう」
「…安心して休みな」
弱ってる恋人を、放置なんてできないでしょ? どこから情報が流れたのかは分からないけど、もう少ししたらミコトさん付きの運転手さんが迎えに来てくれるらしいし… それまでは付き添おう。その後は… その時に考えよう。
「…雪合戦までに治るかなぁ?」
「…きっと治るよ、まだ1週間あるんだから」
「だといいなぁ…」
…必ず治るよ。そう信じてるから。