「いらっしゃいませ〜」
ケーキがショーウィンドウに沢山並んでいる。後で
「この大食いケーキ3kgをお願いします」
「私も、同じのをお願いします」
店員さんが驚いたような顔付きで戻っていく。そして、10分ほど経って6色の大きなケーキが運ばれてきた。
店員さんがタイマーをスタートさせてから、食べ始める。全部の味を一口食べてみたけど、どの味も食べられそう。適当に、手前側にあるショートケーキから食べ始めた。
「美味しいですね、ヒメさん!」
「甘くて、良い味だよね」
「私、こんな大きなケーキ食べるの初めてで、興奮してます!」
「うんうん、わかるよ、その気持ち。食べ切れそう?」
「はい!」
「よし、じゃあ競争だ!」
それから、ひたすらケーキを食べた。お腹いっぱいで食べれないと感じることはなかったし、甘くて気持ち悪くなることもなかった。最初からハイペースで食べ続けて、30分で3kg全てなくなっていた。
「ご馳走様でした」
「はやっ」
「ヒメさんも、後ちょっと、頑張ってください!」
「う、うん。まだ時間は半分あるし、余裕で食べ切れるよ」
それから10分ほどして、ヒメさんも食べ切った。いや〜、美味しかった。量は多かったけど、これくらいなら普通に食べ切れる、というかまだ食べたりない。でも、ヒメさんはもうお腹いっぱいで苦しそうな顔をしていた。
お店を出て、2人で歩く。食後のウォーキング、というやつだ。外の空気を吸いながら、適当に歩く。もう少ししたら、家に戻ろうかな。
「蕾ちゃん、よく食べるんだね」
「はい、沢山食べられます」
「だからそのサイズに… 私もよく食べるけど、どこで差がついたのか…」
「?」
「そろそろ、家に戻る?」
「あ〜、多分今は葵とミコトさんがお話をしていると思うので、もう少ししてから帰ろうかなと」
「じゃあ、うちにくる?」
「ヒメさんの家、ですか?」
「うん、ここから近いから。ミコトが沢山作った野菜があるから、食べてくれると助かる」
「家庭菜園してるんですか?」
「まぁ、そんな感じ。家見ても、驚かないでね」
野菜、食べたい。なんか、食べ物を貰えたらどこにでもついていきそうな自分が怖い。信じられる人にしかついていかないよ、ほんとだよ。ヒメさんは、信じられるから。
それから、数分歩いた。学校の近く、大きな門を開いて、緑に囲まれた場所に入っていく。梅の木が何本も咲いた道を通り、そこに家はあった。
「これが、ヒメさんの家… なんですか?」
「うん、そうだよ。周りの木とか花は、ミコトが育ててるやつだから。踏んだりすると、怒られるよ」
「…気をつけます」
「一応、門の中は全部私有地だから。広いでしょ?」
「凄い広いです。こんな土地を持ってるって、凄いところのお嬢様だったり…」
「そんな、ただの人だよ。親が少しお金持ちなだけ。さ、入って」
ヒメさんに促されて、家に入る。広い土地の中に、普通の一軒家が建っていた。外観も内装も普通のお家。木造りの家で、なんだか落ち着いた。
「親御さんは住んでないんですか?」
「うん、親は別の家」
「じゃあ、2人でこの家に住んでるですね」
「そうだね。元々、私達が中学を卒業した時に、ミコトが『高校に行くか農家になるか』で悩んでさ。そしたら、高校に通いながら農業できる家を作ってくれたの。親が付いていくと子供の成長に繋がらないって、親は付いてこなかった。親がいるとミコトは静かだから、来てほしかったんだけどね」
正直、話の内容が自分達の感覚と違いすぎて理解が付いてこなかった。中学卒業のお祝いに、家を貰ったってこと? 凄いなぁ、別の世界の話みたい。
「お優しい親なんですね」
「うん、優しくて、自慢の親だよ。蕾ちゃんの親は、どんな親なの?」
「よく遊んでくれたり、好きなご飯を毎日作ってくれたり、大好きな親です」
「蕾ちゃんも、今は親と住んでないんでしょ? 茜さんのお家で、居候してるって聞いたけど」
「親が仕事で当分いないので、茜たちにお世話になってます」
「じゃあ、今度うちにも泊まってよ。蕾ちゃんが一緒だと、楽しいからさ」
「機会があったら、お願いします」
いつ元に戻るかわからないから、他の人の家には、あんまり泊まりたくないんだよね。
「よ〜し! 腹ペコな蕾ちゃんのために、ヒメちゃんが料理を作ってしんぜよう!」
「あの、私も手伝います」
「いや、蕾ちゃんは座ってて。蕾ちゃんが思わず我が家に来たくなるような美味しい料理を、作るからね!」
「…よろしくお願いします」
気合の入ったヒメさんを見て、僕もなぜだか気が引き締まる。さっきまでに比べて、ヒメさんの喋り方が随分と砕けた気がするけど、これが素なのかな。明るい声で、安心する。
ヒメさんが作ってくれた料理は、酸味が効いていて美味しかった。お米とサラダ、それからお肉だけど、全部に隠し味として梅果汁を入れているらしい。ミコトさんが大量に作った梅を消費するために、色んな料理で使っているんだって。
食べれば食べるほど、ヒメさんが新しいサラダを作ってくれる。楽しそうに作るヒメさんを見ると、僕も楽しい。
「沢山食べてね、蕾ちゃん。幾らでも作るからね〜」
「はい、ありがとうございます」
「お礼なんていいよ。蕾ちゃんは食べっぷりがいいから、作る側も楽しくなってくるから」
「そんなに、ですか?」
「そう、そんなにだよ〜 あ、後さ。蕾ちゃん、いつも丁寧に喋ってくれるけど、ラフな感じで良いからね? さん付けも、なんか遠いみたいで変えてくれると嬉しい」
「じゃあ、ヒメ…ちゃん?」
「呼び方はなんでもいいから、考えといて」
呼び方… 茜や葵とは長い付き合いだから、呼び捨てで呼べるけど、ヒメさんを呼び捨てにするわけには… でも、人をちゃん付けで呼んだことがないから、ちゃん付けだと緊張しちゃうな。葵はゆかり姉をちゃん付けで呼ぶけど、年上をちゃん付けって、なんか変な感じだし。 …茜は、ミコトさんをお姉ちゃんって呼んでたっけ。
「…ヒメお姉ちゃん」
「ふぇっ!? おおお、お姉ちゃん!?」
「い、嫌でしたか?」
「嬉しい、嬉しいよ。急にお姉ちゃんって呼ばれて、驚いちゃっただけだから。でも、なんでお姉ちゃん?」
「茜がミコトさんをお姉ちゃんって呼んでたので、私はヒメお姉ちゃんって呼ぼうかなって」
「ミコトが参考なのか… まぁでも、お姉ちゃんって言われると気持ちいいね。ありがとう、蕾ちゃん」
「はい!」
喜んでもらえて、よかった。ヒメお姉ちゃん!
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