「おはよう、今日もよく寝たね」
「うん…」
「じゃあ、私は行ってくるから」
「いってらっしゃい…」
体調を崩してから、数日経ちました。僕はまだ鳴花家でのんびりさせてもらっています。高校も休んで、ずっとのんびりです。 …毎日葵が来てノートやら何やらを置いていくので、それを見て勉強してます。さ、サボってないからね?
…とりあえず、顔を洗いに行こう。それから、ヒメさんが作っておいてくれたご飯を食べて… 1人さみしく、昨日の分の勉強をします。ヒメさんもミコトさんもいませんから… でも、そこまでさみしくはないですよ。 …そこまで1人でもないです。
「おはようさん」
「おはようございます、ついなさん」
運転手さん… 改め、
それと、運転席の関係で気づかなかったんですけど、凄く小さかったです。 …失礼は承知で隠さず言いますが、最初は運転手さんだと気づかず、自分より年下の子供だと思っちゃいました。あ、もちろん口には出してませんよ。口に出すほどの勇気はありませんから。 …勇気っていうのはおかしいか。
…朝ごはん美味しいなぁ。
「はい、ノート」
「ありがとう、葵。でも、授業が終わる度に来るのは大変じゃない?」
「すぐそこだから案外楽だよ。それに、あかり君のためなら苦なんてないから」
「本当にありがとう、助かるよ」
「それじゃ、また後で」
「また後で!」
…さ、勉強しようっと。近くにゲーム機もお菓子もあるけど我慢して、頑張ろう。 …鳴花家のお菓子って凄く美味しそうだけど、雑念は振り払って集中しないと。みんな授業を受けてるんだし…
「………」
僕の側にも、先生みたいに見張りの人がいるからね… もちろん、そういうつもりで見てるわけじゃないとは思いますよ。でも、勉強してるところを何も言わずに見られていると、緊張はしちゃいます。葵のノートを見ながら写して、教科書読んで考えるだけなんですけど… 葵って問題と答えをページの表と裏で分けて書くので、僕に自分で考えるターンを与えてくるんです。カンニングせず、頑張って考えないと…
「えーっと、ここは…」
「…左のページだよ」
「あぁっ… ありがとうございます」
「…頑張りな」
「はい…」
バッチリ見られてました… 何を書いてるのか、何を悩んでるのか、全部見られてました。 …いつもは見てるだけだったのに、急に話しかけられた… もしかして、今までも悩んでたら助けられるようにって見てくれてたのかな。葵のノートが見やすくていつもスラスラ進めてたから、ずっと黙って見てただけで…
…背筋ピンってして、頑張ります。
「あかり君、ご飯食べよ」
「葵! お弁当、ありがとう」
「ほんなら、外行ってくる。また後で」
「お疲れ様です」
「お弁当、今日は何かな〜?」
「…実は、今日はお弁当じゃないんだ」
「えっ!?」
お昼、です… 最近は葵が作ってくれたお弁当を、学校を抜け出してきた葵と2人で食べるのが恒例だったのに… お弁当が、ない…!? じゃあ、僕は何を食べれば… 買い物に行こうにも、勝手に外に出るなって言われてるし…
「朝に作っておいたんだ、カレー。盛るから、お皿運んで」
「! その鍋に入ってたんだ」
「そうだよ。 …お弁当じゃカレーは難しいけど、ここなら食べられと思ってね。普段はできないことをしてみようよ」
「流石葵!」
…お弁当でカレーって難しいんだ。コンビニ弁当にあるくらいだし、容器に詰めて持ってくのはできそうだけど… 漏れたら大変とか、弁当箱に色移りしちゃうとか、食べづらいとか、スペースを取るとか、そんなところなのかな。
僕もお弁当はよく作るけど、朝からカレー作るのは大変だなぁって思ってカレーは作らなかったんだよね。今度、挑戦してみようかな。ネットで調べたら良い方法が載ってそうだし… 上手くいったら、きっと葵も驚いてくれる!
「美味しい?」
「うんっ! 凄く美味しいよ」
「それならよかった、まだ沢山あるから」
沢山あるなら、沢山食べよう!
少し時は流れまして… ご飯を食べた後は葵もすぐに学校に戻って、帰ってきたついなさんと少しお話して、そのついなさんも先ほど帰宅して… 今は、リビングで扉と時計を交互に見てます! 時間的にもうすぐなので…
「ただいまー!」
「おかえりなさい、ヒメさん、ミコトさん」
「ただいま、葵ちゃんもすぐ来るよ」
「迎えに行ってきます!」
「もういるよ… 嬉しいけど、病欠なんだから家は出ないで。学校前なんだよ、ここ」
…確かに。草木が生い茂ってるから、見えないとは思うけど… 僕が鳴花家にお世話になってるのも、どんな病気なのかも、クラスメイトには言ってない秘密だからね。結構長く休んでるし、体調悪そうにしておかないと…
「荷物置いてきますね」
「うん、また後で!」
「また後で」
「蕾ちゃん、今日は何か楽しいことはあったかな?」
「ん〜、特には。ずっと勉強してたので、テレビも観てませんし…」
「偉いね〜、私だったら絶対、ドラマとか見ながらやってるよ」
「ヒメならそうだろうね」
「んなっ、ジョークだよ! ちゃんと勉強するって」
「あはは…」
…こういう時ってどう会話に切り込めばいいのか、いつもわからないんですよね。姉妹だけで会話が完成されていて、僕が混ざる余地がないって感じで… 琴葉姉妹の間には躊躇わずに突っ込めるんだけどね。あっちはもう、僕も姉妹の一員みたいな感じがするくらい馴染んじゃってるし…
「とても仲がいいですよね」
「血の通った仲だからね、当然さ」
「蕾ちゃんも、あかりさん? とは仲いいんじゃないの?」
「…そうですね。好き嫌いも全部一緒なので、世界中の誰よりも仲がいいと自負しています」
「…まぁ、そうか」
「やっぱり姉妹はどこでも一緒だよね。そういえば、ゆかりさんとも血が繋がってるんだっけ?」
「そうです。 …そこまで以心伝心って感じじゃないですけど、仲は抜群ですよ」
「そういう関係も良いよね♪」
蕾とあかりが… って話になると、少し気まずい気がしてきます。ヒメさんは仲良し兄妹って思ってくれてるみたいですけど… 同一人物なので。1人しかいないので、そりゃあ好みは同じですし、趣味も同じですし、行動も一緒です。イコール以外になり得ないですよ。だって、どっちも僕なんですもん。僕と僕の行動が違ったら、それはドッペルゲンガーです。
「そういえば、あかりさんがいつ帰ってくるかってまだわからないの? ほら、去年の夏から自分探しの旅に出たんでしょ?」
「…そういえばそんな話だったね。ただの旅行と聞いた気もするが…」
…どう答えましょうか。帰ってくる、とは絶対に言えません。だって、もう2度とヒメさんが思い浮かべている、蕾の兄である〝紲星あかり〟は帰ってきませんから。 …僕が男に戻る日が自分探しの旅から帰ってくる日の予定だったんですけど、その日はおそらくもう来ないので。
「…わかりません。でも、きっとどこかで、楽しくしていますよ」
「そっかぁ… ごめんね、蕾ちゃんもさみしいのにこんなこと聞いちゃって。どこにいるか分かればこっちから行けるのになー」
「まぁまぁ、自分探しの旅って言うのは、日常から離れて新しい自分を見つけるものだろう? こちらから探しに行くのは野暮ってものだよ」
「それもそうなんだけどさ… 良い話しか聞かないし、何より蕾ちゃんのお兄さんなんだよ? 会ってみたいじゃん。ミコトは思わないの?」
「…特別探したいとは思わないかな」
目の前にいますからね…
…っと、葵がもう戻ってきてますね。門の前に見えました。迎えに行ってこようっと!