「…見ててね、蕾ちゃん。絶対に仇は討つから」
『雪にやられたわけじゃないけど… 頑張って!』
「おっしゃー! トリプルアカネスペシャルをかましてくるでー!」
今日は球技大会の当日、校舎と校庭全域を使ってのチーム対抗雪合戦の日だよ。 …あかり君は、今日まで欠席。1日で何かが変わるってことも考え難いし、あかり君も元気だから参加する気だったんだけど… 学校の側から、1日待ちましょうって言われちゃってさ。
病気で帰った日も相当苦しそうだったし、2週間丸々病欠だから、仕方ないところもあるんだけどね… だって、2週間ずっと病気で登校できなかった生徒が、1日中体を動かす雪合戦の日に復帰は… ね。行事に参加させたいって思ってくれてはいたと思うけど、中々難しいよね。実際はずっと元気だったんだけど、学校には病気で体調不良で登校できません、としか伝えてないから。
それに、よりにもよって雪合戦だし。病み上がりの人間に全力で雪… みたいな玉をぶつけるって、投げる側も気を使っちゃうでしょ。だから、あかり君は欠席… だけど、先生と話してスマホでビデオ通話する許可は手に入れてきた。首からスマホぶら下げて、臨場感たっぷりの映像をお届けだよ。 …酔ったら目を離すよう伝えてあるから、そこは安心して。
「お姉ちゃん、どこに行く?」
「…作戦、ないんやっけ」
「ないよ、みんなバラバラにスタートしてったでしょ」
「…せやな、どこから行こか」
チームとして統率が取れてないのは想定内… 私達のチームのスタート地点は図書室だから、とりあえず近くの階段で上の階を目指そうかな。 …スタート地点が図書室って、中々に狂ってるよね。セーフティールームでは玉は投げないから、逆に図書室を守るためなのかもしれないけど… 向こうのチームは体育館だよ? なんでこっちは図書室なんだ…
「玉、ちゃんと持ってる?」
「持っとる。それに、どこでも補充できるんやろ?」
「まぁね… 相手の玉も奪えるし、心配はいらないか。 …私に当てないでよ」
相手チームが近づいてくる前に、良さそうな場所を確保しよう。あかり君と話す暇があって、お姉ちゃんと協力できる場所…
「完成した…」
「琴葉キャッスルやな!」
『砦みたいになってるね!』
選んだのは、知らない教室。3階まで上がって、すぐ近くの教室に入っただけだから、何年何組なのかは本当にわからない。 …そもそも、教室なのかも怪しい。特別教室の可能性もあるんだよね… コンピューターが沢山あったり、絵画とか肖像が飾られてたら何室か分かるんだけどそういうのはまったくないよ。だから、教室だと勝手に思ってる。 …ちゃんと確認すればよかったかな。
それと、この教室にはもう誰も入れないよ。適当な机と椅子をドアに押しやって、支え棒みたいにしてあるからもう開かない。もし開いたとしても、大量の机で城壁を築いたから、そう簡単には攻略されないはず。ずっと扉と格闘してたら、誰かが後ろから撃ち抜いてくれると信じて、私達はこの教室に立て籠もるよ。
玉は部屋にあったカゴ1つと、階段にあったカゴを運び込んだから足りるはず。尽きたとしても、ほぼ真下に図書室があるからね。機を伺って補充するよ。
…で、だよ。要塞を作り上げたとしても、相手に玉を当てないと意味がないんだよね。私達が何もしなかったら、人数が2人減ってチームが不利になるだけだから。かといって、廊下側は机が邪魔で投げても無駄。となれば、攻める方向はただ1つ!
「…遠すぎて狙えへんな」
「当たらなくてもいい… 相手の気を引くだけでも十分!」
『撃てー!』
圧倒的高所から、一方的に校庭を撃ち下ろす! 教室の中なら窓があるから下から当てられることもないし、ベランダに出れば敵を狙って投げるくらいはできる。肩に自信はないし、3階から投げても簡単に避けられるとは思うけど… 気を引ければ、味方がなんとかしてくれるはず。まぐれで当たれば御の字、外れてもオーケー、気楽にいこう。
…少し経ったから報告するね。うちの学校ってコの字になってるんだけど、今の私達ってコの字の外周部から真ん中の空間に向かって玉を投げてるんだよね。 …私達の作戦を真似てやり出す人もいるわけじゃん。そうするとさ、コの字の色んな場所から真ん中に向かって玉が飛んでいくことになるの。 …大惨事だよね。
校庭に行かなくてよかったって本気で思ってる。だって、大量の障害物を利用しながら攻めてくる正面の敵と、どこからともなく降ってくる乱雑な上からの攻撃の両方を気にしないといけないんだよ。相手は自由に攻撃してくるのに、反撃は絶対に当たらないってさ… 無性に腹が立つよね。
まぁ、上から投げるのも問題があるんだけど… 私達がいるのって味方の拠点のすぐ上だから、下には味方がたくさんいてね。敵チームに玉を当てようと思ったら、結構な距離を投げないといけなくて… 1球投げるために助走して、振りかぶって、全力で投げて… 肩、痛い。当たったかもわからないから達成感もないし…
「葵ちゃーん! 補充入れたよー!」
「…お姉ちゃん、お礼お願い」
「ありがとーございまーす!」
玉の補充方法は確立したから、玉切れの心配はないっていうのだけが救いかな… 元々、玉が一杯に入っていたカゴにロープをくくりつけて、ベランダから下に落としてるんだ。そこに味方の人に玉を入れてもらったら、ロープを引っ張ってカゴから玉を回収。洗練されてるでしょ? おかげで、無限に玉を投げられるんだけど… 玉が無限でも、私の肩は有限なんだよね!
「うぉー! おりゃー!」
「元気だね…」
『葵は大丈夫?』
「大丈夫だよ、疲れただけ…」
「軍師様は休んどき! 投げるのは、フィジカルモンスターたる、うちにお任せや!」
「フィジカルモンスターさん、全然当たってなさそうだけど?」
「む〜っ!」
球技大会で肩を痛めたっていうと名誉の傷って感じがするけどさ、雪合戦で肩を痛めたっていうと愚か者としかおもえないよね… 私も、そんな愚か者になりかけてるんだけどさ。 …もうちょっと気楽にやろう。我が家の愚か担当はお姉ちゃんとあかり君の2人で十分だから…
「失礼なこと考えてへんか?」『酷いこと考えてる顔してる!』
「そんなまさか… 私が失礼で酷いことなんて考えると思う?」
「思う」『…うん』
「…ごめん、考えてた」
「…まぁ、ええよ」『許そう!』
運よく許されたし、失礼は続けるとして… 肩を痛めないためにも、休みながら次の策を考えよう。なんて言ったって、私はチームの軍師様だからね。 …自分で言うと恥ずかしいね。
「あっ! あおい! ゆかりさんがおるで!」
「うそっ、ゆかりちゃんが!? …ほんとだ、結構近づいてきてる」
「なぁ、葵」「ねぇ、お姉ちゃん」
「「………」」
『わ、悪いこと考えてる顔だ!』
悪いことなんて考えてないよ… それに、策を練るのもやめにしたから。今、私達がやることは1つに定まったからね♪ 愚か者になってもいいから…
「やったるでー!」
「くらえっ!」
こちら結月ゆかり、完璧なる隠密を駆使し敵陣奥地への侵入に成功… ふっふっふっ、ここまで何度もやられましたが、この池に舞い戻り遂には敵陣への潜入に成功しましたよ。このままどこかに隠れて、油断した敵を狩るとしましょうか…
「…ゆかりちゃん?」
「…あ、マキさん」
「確か敵だよね…」
…バレたって関係ありません! 既に、私の肩で届く間合いです!
「って、上から!?」
「隙あり!」
「あっ… こ、ここまで来たのに…」
「…なんか、ごめんね」
「大丈夫です、マキさんは悪くありませんから…」
今、誰か知りませんが上から、私に対して大量に投げつけてきましたよ! まったく、酷いことを… 悪逆非道な敵の顔だけでも拝んで帰りましょう!
「よっし!」
「やったでー!」
あぁ、身内でした…
よしよしよし、ゆかりちゃんを撃破! …当てたのは私達じゃなくてマキさんだけど、私達が倒したようなものでしょ? こういう時は、倒した気になって浮かれるのが1番だから。
「隙あり!」
「んなぁっ!?」
「ミコトさん!?」
ど、どこから!? 部屋の扉はまだ閉鎖されてて、ミコトさんは… 背中に、グライダーがついてる…! この人、向かいの校舎から飛んできたってこと…!? やばすぎるって… ルールで規制されてないからって飛んでいいわけないでしょ!?
「………」
「………」
「…どうやって下戻ろか」
お姉ちゃんはやられた、そしてミコトさんには部屋に入られた… 床に玉は転がってるから、いつでも戦える。でも…
「…お互いに、相手が動いた瞬間に攻めるつもりみたいだね?」
「…にらめっこは好きじゃないんです。だから…」
ミコトさんは玉を持っていて、私は持っていない。床の玉を拾おうとしたらその隙を攻められるだろうから、ミコトさんが投げるのを待ちたいけど… ミコトさんには、私のそんな考えお見通しのはず。私がやられたら、この部屋をミコトさんに占領される。味方の本拠地の上を取られたら、何人やられるかわからない… この戦いは、チームの勝敗に直結しかねない。
…攻めよう。手元に玉はなくても、床には沢山あるんだ。それに、今の私には…
『…頑張れ』
胸ポケットの中のあかり君がついている! ミコトさんとは、お互いに逆の壁を背にしながら向かい合ってる状態… 玉を拾うためにも、一工夫必要かな。
「…来たか!」
先ずは壁を左足で蹴って右前に走りながら体勢を落として、ミコトさんの投げた玉を前転で避ける! そのまま近くの玉を拾って、体を横に倒しながらミコトさんに向かって投げる!
「これで仕留める!」
っ! 投げた玉は上がりすぎたし、倒れたところをミコトさんに狙われた… 立ち上がって避けるのは間に合わない、これは…
『止まれー!』
「…っな!?」
さっき投げた玉が、天井に当たって落ちて、ミコトさんの玉に当たった…!? そんな奇跡が… でも、流れはこっちにある! ミコトさんはすぐに足元の玉を拾うだろうから… 倒れたまま、直ぐ側の玉をつかんで、適当に、全力で、投げる!
「当たれ!」
「…完敗だ。徳が足りなかったかな…」
「か、勝った…」
勝てた… 自分でも何が起こったのか、よくわからないけど… 勝てたなら、それでいい。最初に投げた玉がミコトさんの玉を打ち落としたことも、最後適当に投げた玉が咄嗟に避けたミコトさんの避けた方向に反れたことも、全部運が良かっただけだけど… でも、空を飛んでまで攻めてきたミコトさんの撃退に成功した…!
「途中、蕾ちゃんの声が聞こえたけど…」
「このスマホで、通話してたんです」
『どうも…』
「…なるほどね。それじゃ、勝てないな」
…ありがとう、あかり君。あかり君は、とてつもなく運がいいからね。きっと今回の幸運も、あかり君のお陰だよ。 …本当に、助かった。
「茜、パラシュートで一緒に降りるかい?」
「あ、お願いしまーす…」
…アレ、後から怒られないのかな。
「えー、はい。雪合戦、お疲れ様でした!」
「お疲れ様でした…」
「なぁ、勝ったやろ? 勝ったよな?」
「静かにー。本当は終わってすぐに、全員で校庭に集まって結果発表の予定だったんですが、それは取りやめになりました。どうしてだかわかりますか?」
球技大会が終わって、チームのホームに戻ったら教室に帰るように先生方に言われて、戻ってきたところ。 …結果発表が取りやめの理由、心当たりしかないよね。だって、私に向かってきてたからね。
「ミコトさん…」
「実は、何件か問題視される行為が行われておりまして、その確認を行いました。わかってると思いますが、今回の大会は細かいルールを決めていません。大まかなルールさえ決めれば、良識の範囲内の行動しか起こらないと信じた結果です。自由に考えてほしいという思いもあって、そう決めました。 …その結果、グライダーで空を飛ぶ、お手製のバズーカ砲を撃つ、補充用の籠を持ち去るなど、様々な暴挙が行われました」
…あれ? ちょっと待って、最後のやつ… 補充用のカゴを持ち去る? ……黙ってよう。
「それらの行為の是非を巡って、話し合いを行いました。結果として、今回はルールを厳密に設定しなかった我々にも落ち度がありますので、殆どのことは不問となりましたが… グライダーとバズーカに関しては安全性を考えても言語道断ですので、使ってる人を見たという方は詳しい情報提供をよろしくお願いします」
……これは、どうしようか。使ってる人は見た、というか使われたんだけど… ただ、先生の顔を見てもグライダーがミコトさんってことはわかってると思う。またあいつか… みたいな顔。だって、堂々と飛んでたし… 校庭の上を跳んできたんだから、全員に見られてるよ。
…それと、ずっと気になってるんだけど、バズーカ砲って何? 雪合戦で使うものなの? …バラエティとかで使う顔にパイを撃ち出すやつの玉バージョン、とかなのかな。誰がやってたのかわからないけど… 凄く、ミコトさんが怪しいよね。あの人、これからどれだけ指導されるんだろう。
「…暗い話は終わりにして、お待ちかねの結果発表に行こっか」
「おー!」
「勝ったのは… 勝ったのは〜!?
「………」
「私達の、勝利だー!」
…不思議なことに、感動も、興奮も、欠片も込み上げてこない。チーム全員で勝利を掴み取るような競技なら感動するのかもだけど… これ、殆ど個人戦の連続だよね。全生徒を半分に分けてチームを組んだら、連携なんて取れるわけないんだから。卓球とかは個人戦の連続でも、チームで勝ち取ったって感じがするんだけどね…
まぁ、そんなことは良いとして… 負けるよりは勝つ方がいい、それは間違いないでしょ? 私としても楽しかったし… それで良いんじゃないかな。これを通して学んだことは、自制心を持って遊ぼうってことくらいだけど… それでいいでしょ。
「勝ったな、葵!」
「そうだね… 頑張りが無駄にならなくて良かったよ」
『来年は私も頑張るぞー!』
…来年は別の競技がいいなぁ?
「あかり君、酔ってない?」
『だい… 丈夫。問題ない…よ?』
「ほんまか? 苦しかったすぐ画面から目を離して、外の梅でも見るんやで〜?」
「絶対に無理だけはしないで。吐きそうなら、すぐに止めて」
『…わかった。でも、ずっと応援してるからね』