「はぁ…」
ため息なんて、どうしたの? って、優しく聞いてくれるような人は、私の側には誰もいないようだ。周りの人間に、もっと構えと言いたいわけじゃない。 …そもそも、ここには私以外に誰もいない。共に雪玉を放った仲間達も、心優しき親友達も、姉思いの妹も、いないんだよ。 …当然とも言えるがね。
私は今、反省文を書かされている。大きなことをやらかしちゃったんだよ、それに関しては申し訳ないと思ってる。それに関してはしっかりと謝ったし、後始末も済ませると言ったさ。現に、校舎は何もなかったかのように私の蛮行の後は消えている。
残念ながら、それでも許してもらえなかったがね。担任にも、私の問題行動を事細かに4つ説明されたよ。 …大きなことをやらかしたとは言ったが、それが1つとは言ってないだろう? 私は4つやった、1日の間で。
1つ目はバズーカ砲さ。空気砲のように、高速で玉を射出しある程度離れた相手を撃ち抜く傑作でね。見様見真似で自作までして、校舎内で敵を何人も撃破したさ。 …味方も何人か誤射したが、それは大した問題じゃない。ただ、当てた相手が倒れることもあったから、途中で撃つのはやめたよ。私でも、怪我させうると分かった物は使わないさ。
その流れで敵陣まで侵入してから校庭に飛び出して、2つ目のやらかしさ。相手のホームに近い玉補充用の籠を自分達の陣地に運ぶことができれば、相手のリソースを削れるんじゃないかと思いついてしまってね。これもスポーツマンシップに反すると叱られたんだ。 …他のやらかしに比べれば軽度なものと言えるがね。
運んでいる途中、上から投げ下ろしている人物の存在に気付いた私は、3度目の凶行に走ってしまった。運んでいる籠と共に校舎の3階まで駆け上がり、教室に立て籠り… 窓から、籠ごと全ての玉を投げ捨てた。これなら確実に下を通っている相手を倒せると思ってね。 …ただ、籠ごとなのが良くなかった。時間はかかるかもしれないが、籠を傾けて玉だけを落とせばよかったと後悔もしているさ。籠は幸い誰にも当たらなかったが、大事故に繋がりかねなかった。 …これに関しては、真剣に申し訳なかったと思っているよ。考えが足りていなかったと、しっかり謝罪させてもらう。
ただ、1番問題視されたのが4つ目なんだよね… これに関しては、私は何も問題ではないと思っているんだ。誰も危険でなく、妨害にもなっておらず、敵を倒す意思のあり利敵でない正しい行動だと。
…詳しくいうと、私は点検用の通路や放置されていた梯子を使って体育館の屋根に登り、そこで持参したグライダーを展開して敵本陣に切り込んだんだ。それも、我々に甚大な被害を与えていた強敵、琴葉姉妹の構える3階の部屋にね。そして油断していた茜を撃破するも、葵ちゃんの策謀に嵌まり撃沈… 勝ちきれなかったことが悔しいが、それ以外に思うことはない。悪いことをしたとなんて、欠片も思わないさ。だって、誰も巻き込んでいないだろう?
ルールは守った、そして墜落することなく目的地まで完璧なフライトを敢行した。それがこっ酷く叱られるとは… 私には見抜けなかったよ。籠投げやバズーカに比べれば安全で、実際に怪我なく終わったんだから… もちろん、それまでの行いがと言われたら何も言い返せないがね。4つ合わせて考えたら、叱られて当然のことさ…
「おーい、元気かー?」
「ヒメ? …ヒメも何かしでかしたのかい? 血は争えないものだね」
「違う違う、勝手に巻き込むな。ミコトが真面目にやってるか見に来たんだよ」
「…話し相手にでもなってくれないか?」
「それくらいならいいよ、私も暇だから。だけど、それは手伝わないから、絶対に」
「大切な妹を巻き込んだりなどしないさ」
「怪しいなぁ…」
本当だよ、反省文を人に書かせては意味などないからね。たとえ相手がヒメでなくあかり君や葵ちゃんだったとしても、手伝わせなどしないさ。あかり君は役に立つかわからない、とか葵ちゃんは絶対に手伝ってくれない、みたいな否定的な考えではなく、反省文の意味を考えてのものだよ。 …本当だよ?
「ほ〜、これがミコトバズーカか…」
「素晴らしい出来だろう?」
「比較対象を見たことないからなぁ…」
「家に戻れば、プロトタイプミコトバズーカが沢山あるよ」
「それ結局全部ミコト製じゃん」
「…それなら、ヒメも作ってみるかい?」
「遠慮、使い道もないし」
「それもそうか…」
バズーカの処分方法は考えないといけないね… 球技大会用に調整しているから、適当に捨てても悪用はされないが… 流石にためらいはするさ。他校の雪合戦に流用されないとも言い切れない。だから、確実に処分したいんだが…
「これ、学校に取り上げられたの?」
「もう返却されてはいるが… そうか」
「どうした?」
「大量のバズーカは学校に処分してもらおう」
「あぁ… かわいそう」
よし、あとで持ってきて担任に押し付けよう。処分できないと言われたら額に突きつけてやればいいし… 我ながら良い案だ。
…そんなことを考えている暇があるなら、さっさと反省文を済ませろって話なんだがね。これを終わらせない限りは何もできやしないんだから…
「差し入れ持ってきましたー」
「蕾ちゃん! もう大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、家でも元気にしてるじゃないですか」
「でも、ミコトが言うには要観察な状態なんでしょ?」
「あくまで経過観察が必要なだけで、問題はないよ。 …病欠の生徒が平然と校舎に侵入しているのは問題があるかもしれないが」
「ちゃんと許可は取ってあります」
「許可を出した側の問題か…」
あかり君の体調を正しく把握しているのは私とあかり君本人と、後は葵ちゃんの3人だけなんだ。両親でさえも、今の正確な状態は知らないはず。そんなことを学校が知ってるはずもないから、あかり君は2週間も休む重い病気だと思われているはず。
…そんな相手を、本人が元気になったと言っていても、少なくとも病欠の間は入れちゃダメだと私は思うが… 私のせいで教師が疲れていて冷静に判断できなかった、ということにしておこう。 …良くないが。私の罪が増えるのは!
「家で焼いてきたクッキーです、糖分補給にどうぞ」
「おー! ありがと!」
「私も貰うよ、丁度砂糖が欲しかったんだ」
「ミコトさんへの差し入れなんですから、遠慮せずに食べちゃってください」
「…ふっ」
「…悪い顔」
そこまで悪い顔はしてないと思うが…
「もちろん、ヒメさんもたくさん食べてくださいね」
「ありがと♪」
ふぅ。糖分を取ったら、また書き進めないとね。
…反省文、どうして紙媒体で書かせるんだろうか… 頭が疲れるってことはないが、腕と指が痛んできたよ。万年筆だから書き直しても効かないし、誤字脱字に気をつけながら書く必要まである… それは私が鉛筆を使えばいいのかもしれないが、スマホかパソコンで書かせてくれればもっと楽だったのに。
…反省文である以上、楽に書かせないことも目的のうちだったりするのか…? 替え玉をしたら字形でわかるし、理にかなっているのかもしれないな… 書く側からしたらたまったものではないが。
「…終わった、帰るか」
「お疲れ様ー、真面目に書いたんだねぇ」
「あぁ、顧問… 私だって、真面目に書く時は真面目ですよ」
「枚数制限ないから〜って言って、1枚しか書かないかと思ってたよ」
「そんな物を渡されて反省したとは思えないでしょう?」
「そうだけど… 16枚も書かれるとは思わなかったら…」
…16枚、か。私もここまで書くとは思わなかったよ。ヒメもあかり君も帰ってしまったし、もう外は暗闇だ… 顧問に反省文を押し付けて、さっさと帰るとしよう。 …球技大会は昼には終わったはずだし、7時間くらいいたのか…? …クラスメイトは今ごろ、風呂の中で今日のことを懐かしんでるんだろうな。
…帰ろう。
「また明日」
「明日は休みだよー」
「料理部はやりますよ」
「あ、そっか…」
「顧問なんですから、把握してください…」
「…お疲れ、ゆっくり休みなよ」
「…はい」
「ただいま、ご飯あるかな…?」
「ミコトさん! もちろんです、みんなで食べましょーっ!」
「…食べてないのかい?」
「蕾が、ミコトさんが頑張ってるから帰ってくるのを待って、みんなで食べようって言うので、みんなでテレビ見ながら待ってたんですよ」
「頑張ってるっていうか、自業自得だけどね…」
「…優しいね、ありがとう」
…こんなことで、案外反省文も悪くないと思ってしまう自分は、少し単純すぎる気もするな…