蕾Side7 優しい雪は融けて
「ねぇ、蕾ちゃん。お兄さんのこと、少し伺ってもいいかな?」
「はいっ、何かありましたか?」
「その… もうすぐ学年末なわけだけど、このままだと…」
「あぁ… ……先生には全部話したほうがいいか…」
「私もできることはしたいから、取り敢えず連れてこれないかなぁって…」
「先生、明日、私の家に来ていただけませんか。そこで、詳しくお話しします」
「…ここじゃ無理な話ってことだよね?」
「はい。 …お願いします」
「わかった、行くよ」
球技大会から少し経って、学年末が近づいてきました。つまり、1学年進級して2年生になる時、ということです。 …先生が言ってるのは、多分、あかりが単位を取れていないからこのまま進級できないよ、それを何とかしたいから自分探しの旅から連れ戻してきて、みたいな話だと思います。 …僕が紲星あかりだってこと、まだ伝えてなかったんですよね。先生とかには、ちゃんと伝えないとだよね… 戸籍とかも、僕は僕なんだから。
「先生、そこにおかけください。蕾はお茶を淹れてきて」
「はーい!」
「ありがとう… 葵ちゃんが話してくれるの? 蕾ちゃんとか、あかり君じゃなくて」
「はい。 …蕾は説明が苦手なので」
…反論できない。だって、自分で説明できる自信あったら、最初から自分で話してるもん。葵に頼んでるってことは… そういうことだよね。さっ、2人の話を聞きながら、お茶とお茶菓子持ってこよー。
「最初に結論からいいます。紲星蕾イコール紲星あかりです」
「…? 変装… ってこと?」
「病気です。私も詳しいことは知りませんが、そういう病気らしいです」
「…? なる…… ほど…?」
「…詳しいことは、あかりのご両親に連絡していただければ、わかると思います」
…そういえば、先生はお母さんに確認してなかったんだね。僕が来なくなった時点で親に連絡してたら、すぐに性転換のことも先生に伝わってたと思うし… それに、そこから僕にも連絡が来たかも。 …僕も性転換のこと、年が変わるまで親に言ってなかったんだけど。
「連絡しても繋がらないって聞かされてたんだけど、繋がるようになったんだ」
「繋がらなかったんですか!?」
「ずっと繋がっていたと思いますが…」
「その反応… もしかして、だけどさ。私がミコトに貰った、あかり君の両親が書いたという、旅に出るから当分は連絡されても返信できないって手紙、偽物?」
「多分…」「嘘ですね…」
「はぁぁ…」
ミコトさん… 僕がみんなに隠してたから、バレないように手を回してくれていたんですね。 …責めたくなっちゃいますけど、思いは分かりますし、結果論で責めたらダメですよね。実際、あの頃の僕らはバレないように必死に隠してたわけですし… ミコトさんが偽の手紙を用意してくれていなかったら、きっとバレてましたから。 …バレてたほうがよかったんですけどね。
…先生も大変そうだなぁ。ただでさえ料理部のことで大変そうなのに、僕の問題まで抱えて… 料理部は殆ど来てないので、枷にはなってなさそうですけど。僕のことは凄く気にかけてくれてましたし… あかりとしても、蕾としても、感じていました。
今日の種明かしで、少しは楽になるといいなぁ…
「…まぁ、何となく分かったから、詳しい話はご両親に聞いてみるよ。ありがとう、蕾ちゃん… じゃなくて、あかり君」
「楽な方で呼んでください。 …それと、このことは誰にも言わないでください」
「安心して、プライバシーは守るよ。教師が生徒の持病を口外なんてあってはならないことだからね」
「今日はありがとうございました。蕾のこと、これからもよろしくお願いします」
「葵ちゃんもね。今日はありがとう、また次の平日に会おう」
ふぅ… やっぱり、先生を家に招くのは緊張するなぁ。ミコトさんとかヒメさんを招くのとはわけが違うもん。あの2人も凄く偉い凄い人だけど、横の目線で話せるっていうか… 気軽に仲良く話せる。先生にそういうわけにはいかないから…
「ご飯何食べる?」
「お肉!」
「はーい、焼くよー」
「蕾ちゃん、元気かい?」
「おかげさまで元気です、ありがとうございました」
「大変だったって聞いたよ、だから…」
「回復祝いに、料理部パーティーだー!」
「おーっ!」「おー…」「お、おー?」
翌日ですけど… マキさん以外は、僕が元気だったこと知ってますよね。少しだけ、気まずい… 茜はこの機に乗じて美味しいものを食べようとしてるだけだと思いますけど、ヒメさんとかミコトさんはどんな思いで料理を作ってくれたんでしょうか… ヒメさんも元気にコールしてたし茜と同じなのかな…?
「大好きなラザニアもあるよ〜♪」
「梅入りもあるよ」
「中華フレンチイタリアン、沢山あるからね♪」
「梅、あるよ」
「もちろん、ケーキも作ってあるでー!」
「梅ケーキも、あるよ」
「梅対策にチョコミントも用意しておいたよ」
「…酷いなぁ」
「梅もいただきますよ」
「君は優しいな…」
せっかく作ってもらったものですからね、全部食べますよ♪ ミコトさんの梅軍団も、僕の為に作ってくれたわけだからね。 …ただ作りたかったから作っただけって可能性も無くはないけど、善意に満ちてるって信じてるから。
「それじゃあみんな、手を合わせて…」
「いただきまーす!」
「いただきますっ!」「いただきま〜す♪」「いただきます」「いただきます…」
「ふふっ、いただきます♪」
「ごちそうさまでしたー!」
「ごちそうさまでした」「お粗末様でした」「ごちそうさまー」
「くっ、苦しい…」
「…大丈夫? 背中さするよ」
美味しかったー! 茜は… 僕より勢いよく食べ始めて、途中から明らかに遅くなって、それでもデザートをパクパク食べて、蒼白になっちゃった。 …茜らしいね。
「………」
「…? あぁ…」
「この流れで言うことじゃないんだけどさ… 明日から、料理部の部長はミコトになります! みんな、これからも頑張ってね♪」
「えっ?」「うぇ!?」
「もう卒業まで一月程度ですもんね。短い期間でしたが、ありがとうございました」
「ありがとうございました…?」「また、会えるよな…?」
「そりゃ会えるし、喫茶マキに遊びに来てよ。卒業したらずっと店にいるからね♪」
そっか… もう、そんな時期か。僕らの進級が近づいてるってことは、マキさんの卒業も近づいてるってことだもんね。 …半年くらいしか付き合いはないけど、さみしいなぁ。お店に行けば会えるって言われても、なんだかしんみりしちゃう。
「しんみりしてるところ悪いけど、時間が時間だからそれぞれ家に帰るよ。まだ学校でもお店でも会えるんだから、積もる話はそこでしよう」
「それは部長たる私のセリフだよ、ヒメ」
「早く言わない方が悪い」
「そうだよミコト、リーダーとして先頭で頑張って」
「気楽に頑張りますよ」
心地よい今も、いつかは終わってしまう… 僕が男に戻る日は来ないけど、来ないからこそ今を大事に生きていこう。必ず来る未来で、後悔しないためにも… 今しか残せない思い出の残し方、考えてみよう。
「…手紙かぁ。最近書いてないなぁ」
「もう電子の時代だもんね。でも、メールじゃなくて手紙っていうのも味があって楽しいよ」
「葵は最後に書いたの、誰宛のどんな手紙?」
「未来の私に宛てた、希望の手紙かな」
「…タイムカプセルでも埋めた?」