「う〜ん…」
「らしくもない顔だね、どうしたの?」
「マキさんが卒業するまでに、何か思い出を残したいなぁって思ってるんだけど、全っ然思いつかなくて」
「蕾ちゃんらしいね」
「らしくなかったりらしかったり、どっちなのさ?」
「悩んでるのはらしくないけど、思いつかないのはらしいなぁって」
「…とてつもなく失礼だね?」
「蕾ちゃんなら良いかなって」
「良いけどさ… 良いけどさぁ…!」
葵になら何を言われても良いけど… でも、言い方ってのがあるよね。ちょっとは敬意が欲しいよね、うん! …自分でも、似合ってないのは自覚してるけどさ。それでも、ほんのちょっとは傷ついたなぁ。
思い出の残し方、ずっと悩んでるんだ。集合写真はもちろん撮るし、寄せ書きも作りたいなぁって思うんだけど… 写真も寄せ書きも、もっと大人数じゃないと映えない気がするんだ。ほら、料理部って顧問を入れてもマキさん以外に6人しかいないでしょ? 6人の写真じゃこじんまりとしちゃうし、寄せ書きじゃ紙一枚も埋め尽くせないから…
マキさんの卒業なんて生涯にもう二度とない貴重なタイミングだし、最高の思い出を残したいじゃないですか。だからこそ、なんとしても… 何か最高の案をひらめきたいんだよね!
「葵は何か、良い案ある?」
「案? う〜ん… 卒業しても会えるんだし、普通に写真とか撮ればいいんじゃない?」
「そんなありきたりなのじゃつまらない… じゃなくて、映えないよ」
「言い直して〝映えない〟は大概訂正できてないよ?」
「…記憶に残らないよ」
「遅すぎるなぁ…」
つまらないとか、そんなこと、本当に思ってないよ。うん、うん! 思ってない! 人の卒業を見送るんだから、面白くしたいなぁとか、派手にやりたいなぁとか、そんなこと思ってないよ。 …うん。
でも! 派手で面白くて映える方が、記憶に残ると思うんです! …だから! つまらないのは良くないって僕の感想も間違ってない!
「何の話しとんの?」
「マキさんのお見送り会、面白くやりたいんだって」
「面白く… みんなでバンジーとか?」
「この近くにバンジーできる場所ないよ…」
「有ったとしてもやらない、少なくとも私は絶対に」
「…葵って高所駄目やったっけ」
「好き好んで登りはしないかな… バカじゃないし」
「んなっ!? それは高所バンジー界隈を敵に回す発言やで!」
「バカは高いところが好きだからって、高いところが好きな全員が馬鹿とは言ってないでしょ」
「………確かに?」
「絶対わかってないな…」
バンジージャンプに引っ張られて話がどんどんそれていく… あ、引っ張るって命綱の話じゃないよ。話題の話で… ってこの話も余計か。言ったらまたそれるから、言わないでおこ。
…茜の案には端から期待してないし、葵は興味なさそうだし… いつもミコトさんには頼りすぎだしヒメさんに頼るのも申し訳ない。ゆかり
図書室で本でも借りて、祝い方を学んでみようかな…
「いらっしゃいませ〜。蕾ちゃん、お好きな席にどうぞ〜」
「私の席、空いてますよ」
「じゃあ、そこに失礼します」
本をのんびり読む場所といえば、喫茶店ですよね。ゆかり
コーヒー、絶対にこぼさないように気をつけないとね。借りてきた本を汚したりしたら、どんな目に遭わされても文句言えないから… 細心の注意を払って、ね♪
「面白い本を読んでますね。世界の祝い方、ですか」
「うん、ちょっと気になってね。ゆかり
「あまり祝うような出来事もないですし、祝った時も大々的に祝うことはなかったですけど… それでも、ピニャータくらいは知ってますよ」
「ピニャータ… あった、へぇ…」
可愛い人形にお菓子を詰めて、高いところから吊るして、棒でしばく… お、恐ろしいなぁ。くす玉みたいなものって書いてあるけど、ただの玉と可愛い人形じゃ全然違うよ! …ゆかり
「正直、ご馳走とケーキ以上に幸せなお祝いなんてないと思ってますが」
「確かに、お祝いと言ったら豪華なご飯とホールケーキだよね」
「誕生日ケーキ、クリスマスケーキ、ウェディングケーキ… 取り敢えずケーキを出しておけば、問題ないと思ってそうですよね」
「どこ目線の言葉なのさ… でも、そうかもね」
ケーキ、かぁ… 卒業祝いもケーキは良いけど、マキさんを感動させられるケーキは難しいなぁ。僕は別にケーキが作れるわけじゃないし、料理部で1番ケーキが作れそうなのって他ならぬマキさん本人だもん。喫茶マキにもケーキあるし… って、流石にこのケーキは外注かな? そんな厨房なさそうだし。
でも、料理っていうのは良い案だよね。だって、料理部だし。料理部としての思い出作りなら、やっぱり料理が最適か… だけど、みんなで作るの苦手なんだよなぁ。ミコトさんは梅だし、茜はつまむし、葵は待たないし… なんか、それぞれで好きに作って、方向性が迷子なフルコースになりそう。
それでもいいのかもだけどね。今の料理部らしくってさ。
…でも、できるなら。ちゃんとした物を作って、ちゃんと思い出に残したいよ。全員の思いを込めて、整ったちゃんとした何かでお祝いしたい。それが難しいんだけどね…
「そういう豪華なパーティーには、歌と踊りも欠かせませんよね」
「ハッピバースデーも歌うもんね」
「それもそうですけど… やっぱり、歌って空気を作れるじゃないですか。綺麗な歌声で、歌詞に乗ってみんなの心がまとまる。だからお祝いでよく歌うんじゃないですかね?」
「なるほど… ゆかり
「そりゃ、ゆかり
詳しいってだけで、今は参考にならないんだけどね… だって、マキさんの卒業祝いで歌う曲なんてないよ。何度も言うけど、料理部ってマキさんと顧問を除くと5人しかいないんだよ。合唱曲を歌っても寂しいし、かといって感動的な5人組の曲なんて限られるし… 何より、歌だけじゃ短すぎる。やっぱり思い出に残るパーティーにするためにも、長くやりたいよね。歌うにしても、別のことも考えないと。
「詳しいゆかり
「えっ? えー… 後は、プレゼントじゃないですか? 誕生日とかクリスマスはプレゼントが目玉じゃないですか。ピニャータだって、プレゼントの一種ですよ」
「ゆかり
「ゆかり
…凄い、調子に乗ってる顔してる。声も大概だけど、凄い調子に乗ってる感が溢れ出てる。でも、気分が良いならそれでいいか… 僕としても助かってるし、プレゼントって案も良さそうだからね。プレゼント… まぁ、中身は後で考えよう。みんなで考えればいいからね♪
せっかくゆかり
「ゆかり
「やっぱりお寿司とか、高級なお肉じゃないですか? それと、やっぱり量ですよ。小皿料理がたくさん、よりも大皿料理がドーンってあると心が躍りますよね」
「確かに… 大皿でドーンドーンドーンってのが最高だよね…」
「トリプルドーンは多いですけどね…」
みんなで料理することになるかもだし、ちゃんと覚えとこう。ご馳走は美味しいものをおっきなお皿にたくさん盛る! 事前に取り分けるよりは、食べるときに取る方がご馳走感高そうかな… 唐揚げだって、3個ずつに分けとくよりも山盛りにして置いておくほうが美味しそうだもんね。どんな物も、食べる時は取り分けるんだけどさ…
「お祝いって服装とかも決まってるのかな…」
「物によると思いますよ。誕生日なら私服ですし、ウェディングなら着飾らないと」
「…ゆかり
「持ってると、思いますか?」
「ゆかり
「無いですよ、冠婚葬祭とは縁が無いので」
「特に真ん中はなさそうだよね」
「婚がなさそうはちょっと怒りますよ…?」
「そういう話とか全く聞かないし」
「まぁ、そうなんですけど…」
ゆかり
「はーい、コーヒーとラザニアです。ごゆっくりどうぞ〜」
「ありがとうございます」
「せっかく一緒なので私が奢りますけど、量は考えてくださいね?」
「奢りだからって普段より食べたりはしないよ」
「普段が怪しいんですけどね…」
むぅ… 確かに普段からよく食べるけどさ、そんなの言われてもどうしようもないじゃんね。だって食べたいんだもん。それに、沢山食べても太ったりしてないんだよ? 僕、これでも健康体だから。食べる量は性転換してから増えた気がするけど、健康なのは元からだよ。 …風邪引かないけど、バカじゃないよ。
「…もう1個頼もうかなぁ」
「まぁ、もう1個なら…」
「もう2個頼もうかなぁ…」
「まぁ、もう2個なら… とはなりませんからね?」
「ダメかぁ」
「…別に、食べたいなら幾らでも奢りますけどね?」
「いいの!?」
「…まぁ、はい。あか… 蕾なら、良いですよ」
…何個頼もうかなぁ。
「…………」
「ごちそうさまでした!」
「…マキさん、食べきったら無料の大食いグルメとか始める予定はないです?」
「案はあったけどね〜、これ見たら、ねぇ?」
「ですね… これも可愛い従姉妹の為と思えば、安い出費… とは言えないですね。サイフが軽くなるなぁ」
「あ〜… 自分の分は、自分で払おうか?」
「いや、私が払いますよ。プライドがありますから」
「ありがと、ゆかり
…食べ過ぎたかなぁ。好きだからたくさん食べるけど、食べなくても動けるからね。あ、ゼロは無理だよ、並には食べる。でも、人並みに食べたら普通に生きていける… と、勝手に思ってる。食べられるなら無限に食べたいけどね♪
っと、食べただけじゃないんだった。ゆかり
「本当にありがとう、ゆかり
「美味しい料理が食べれたから言ってるだけじゃないですよね〜?」
「んなっ、そんなことないよ!」
「ふふっ、わかってますよ。そんな現金な子じゃないって知ってますから」
「もちろん!」
「…単純な子だから物に釣られることも知ってますけどね」
「む〜!」
くぅ…!
「人のことを単純だーなんていうの、良くないと思うな!」
「でも、自覚はあるんじゃないですか?」
「あるけど、あるけどさ! それでも、失礼だよ!」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、単純なのも良いところだと思ってますよ」
「また! 単純って! 言った!」