「すっごく美味しいです、お姉ちゃん」
「そうでしょ、ヒメ、料理には自信あるから」
「お姉ちゃんは、食べるのも、作るのも好きなんですか?」
「うん、好きだよ。好きなものが食べたいから、好きなものを作れるようになったんだ」
「私も、料理するのは好きです。昔は少食で、作りすぎることが多かったんですけどね」
「これからは作り過ぎたら、ヒメのところに持ってきてね。全部食べるから」
「ありがとう、お姉ちゃん」
食べながら、2人で色んな話をしていた。好きな食べ物の話とか、誕生日とか、勉強の話とか。ヒメ姉は勉強が苦手らしいけど、ミコトさんが教えてくれるから、なんとか平均は取れているらしい。
ヒメ姉からは、何度も「今度うちに泊まってよ」と誘われた。ヒメ姉と話しているのは、僕も楽しいし、落ち着く。性転換がいつ治るのかわかったら、ここに泊まっても良いんだけど… 女の子で寝て、急に男になってたら、ヒメ姉にも、ミコトさんにも迷惑だろうから。
部屋に置かれた、古時計を見る。縦に長い、ドラマで見るような時計の針は、12時を指していた。もうそろそろ、家に戻ろうかな。ゆかりねぇにも挨拶できてないし。
「あの、そろそろ家に戻ります。多分、葵とミコトさんも話し終わってると思うので」
「じゃあ、私も行く。菓子折り渡して帰るだけのつもりだったけど、蕾ちゃんともっと話したいし」
「じゃあ、一緒に行こう? お姉ちゃん」
「…ミコトの前では、お姉ちゃんって呼ばないでね。多分、ミコトになんか言われるから」
「…わかり、ました」
ヒメ姉に言われてしまったから、我慢しよう。本当は、お姉ちゃんって呼びたかった。兄弟がいなかったから、憧れてたんだ。茜と葵みたいに、阿吽の呼吸で心が通じた姉妹。
寂しそうな顔をしていると、ヒメ姉は少し悩んだ後、吹っ切れたように笑った。
「やっぱり、お姉ちゃんって呼んで! ミコトに『間接的に私の妹ってことだから、私もお姉ちゃんって呼んで』って言われても、気にしないでね。蕾ちゃんは私の妹だけど、ミコトの妹ではないから、ね?」
「ありがとう、ございます」
ヒメ姉、多分気を遣ってくれたんだろう。底抜けに明るくて、周りの気持ちを支えてくれる、ムードを作ってくれる。ヒメ姉は、多分そんな人。
…ラフに呼んでって言われたのに、さっきからかしこまっちゃってるな。折角出来たお姉ちゃん、妹として、甘えたって良いんだ。もっと、楽な気持ちで行こう。ゆかりねぇは甘えると嫌がったけど、ヒメ姉は甘えたら甘やかしてくれそう。
「お姉ちゃん、手、つなご?」
「お、いいね。それじゃ、しゅっぱ〜つ!」
「お〜!」
2人で町を駆け足で進み、琴葉家まですぐに辿り着いた。一応チャイムを鳴らして、出てきた茜とリビングに入った。
「はい、あがり」
「う〜ん、勝てると思ったんですけどね」
「UNOにハンデは… ないですよね」
「戻りました」
「お邪魔しまーす」
「よ〜し、6人全員揃ったし、
「え、茜さん。あかりも来てるんじゃないんですか?」
「え!? えぇと、えぇとな?」
「そのことについては、私から説明します」
「…は、初めまして。結月ゆかりです。あなたは?」
…なんと説明するか。ゆかりねぇが、僕がいないことを茜に聞く前に帰ってこれてよかった。今の様子だと、先に質問されてたらボロが出てた。
嘘を付く時は、本当のことと嘘を織り交ぜながら話す。ゆかりねぇからしたら今の僕は初対面だし、言葉には気を付けないと。それに、僕はヒメ姉とミコトさんに対して、紲星蕾と名乗っている。紲星あかりを知らないとは言えないから、上手く話さないと。
「私は、紲星蕾です。あかりの双子の妹なんですが、ゆかりさんと会うのは初めてだと思います」
「あかりに、双子の妹? 初めて聞きました」
「そうだと思います。ずっと、遠くで暮らしていたので。ご存知だと思いますが、親が仕事で忙しく、家にいることが少なかったんです。なので、祖父母の家で暮らしてたんです。去年、兄と2人暮らしを始めたんですが、ゆかりさんは丁度町の外に出ていってしまったと聞きました」
「そう、だったんですね。あかりの妹ってことは、私の従妹ですよね。気軽に話して下さい」
「ありがとうございます。それで、兄のことなんですが。兄は、長い旅行に出ました。世界を巡りに行ったらしいです。何日か、何週か、何ヶ月か。もしかしたら、数年単位で帰ってこないかもしれません」
「蕾ちゃんのお兄さん、随分と適当なんだね。世界旅行って、高校はどうするんだろう」
「高校は、その間は休むみたいです」
「お兄さんも、蕾ちゃんも、私達と同じ学校だよね?」
「兄は同じ学校ですが、私は高校には行ってません。勉強が苦手で、兄と同じ高校に受からなくて」
つける限りの嘘をついたと思う。僕の親とゆかりねぇが話す機会は殆どなかったから、僕が一人っ子だと知らないだろう。というか、親が仕事でいない時、僕が一人になるから面倒を見てほしいと僕の親に頼まれて何度かお世話に来てくれてたはず。だから、わざわざ「あかりって一人っ子ですよね」なんて聞かないだろう。
高校に行ってると言うと、学校で探されるかもしれない。行っていないと言えば、問題ないかな。
…なんとか、騙しきれたと思う。その後、あかりの所在について聞かれることも、僕について深く聞かれることもなかった。
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