「えっと、服、買うんだよね?」
「せやでぇ、任せとき!」
「これとか、後はこれもいいんじゃない?」
ショッピングモールの下着店。そこに僕たちは来ていた。女性物の下着が並ぶ光景に、少しばかし緊張する。女の体でも、心は男の子だからね…。お店の外で待ってようと思ったけれど、引きずり込まれてしまった。
「なぁ、葵。下ばかり買ってるけど、上は?」
「待ってお姉ちゃん。あれは覚悟を決めないと。私達より大きいのは確実なんだから、軽い気持ちで測ると(私達が)痛い目見るよ」
「せやなぁ。でも、覚悟を決めるためにパンツを10個買う妹の姿は見たくないわ」
「…幾らあっても困らないから」
2人がなにか話しているけど、小声で聞こえない。というか、お店の真ん中あたりで1人置いてかれた僕の気持ちを考えて欲しい。「ここで待ってて」って言われたけど、お店の外じゃだめなのかな。
少し経って、2人が買い物袋と器具を持った店員さんを連れて帰ってきた。あの器具… メジャー?
「それじゃあ、お願いします」
「は〜い! それじゃあお客様、こっちのお部屋に入って下さ〜い」
「わかりました…」
何がなんだかわからないままに、桃色髪の店員さんに連れられてカーテンで仕切られた部屋に入る。笑顔の店員さんが、これから何をするのか説明してくれた。
「このメジャーで、バストを測って行きますね〜。お連れのお客様から、「あのサイズは(心が折れて)測れない」と言われましたので、店員の私が代わりに測らせていただきます!」
「バスト…」
「一先ず、服の上から測りますから。緊張しないで大丈夫ですよ〜」
店員さんがメジャーを広げながらにじり寄ってくる。服の上からなら… そんなに恥ずかしがらなくてもいい、のかな。でも! 恥ずかしいもんは恥ずかしいし…
「店員さ〜ん! 正確なサイズが知りたいから、服脱がして測ってくださ〜い!」
「お願いするで〜!」
「わかってます! 一旦服の上からで慣れてもらって、その後一気に測っちゃうんで!」
「!?」
必死に恥ずかしさを堪えながら、声にならない声を押し殺しながら数分、愉快に笑いながら測る店員さんが「終わりましたよ〜!」と言って部屋を出るまで耐えた。あの店員さん、なんであんなに楽しそうだったんだろう。
「お連れ様〜、あのお客様のサイズは☓☓☓ですね〜。あっちのコーナーに、いいサイズの下着がありますよ〜」
「わかり、ました…」
「店員さん、ありがとうな〜。それと、あかり〜、部屋から出てきて〜」
「…うん」
なにか、大切なものを失った気がする。そもそも、友人に胸のサイズを知られるのって女性なら普通なのかな。わかんないけど、普通じゃないと思うな。
それから僕はまた店の真ん中に放置された。虚ろな目をした葵と、葵を励ましている茜が戻ってきたのは、30分は経ってからだった。2人が持ってきた下着を買って、試着室で着替えてからお店を出た。
下着店を出て、今度は普通の服屋さんに入った。流石に1つの服を使い回すわけにもいかないし、何着かは買っておかないとと思って。
「あかり君、この服とかどうかな?」
「もう少し、露出の少ない服のほうが…」
「そんなら、これはどうなん! 露出も少なくてかわええで!」
「スカートもちょっと、恥ずかしい…」
2人が次々と服を持ってくるけど、肩や胸元が見えてるような服とか、スカートがひらひらとしている服が多かった。やっぱり、ちょっと恥ずかしい。
「ねぇ、あかり君。今は女の子なんだよ? もっと女の子を満喫しないと。ほら、可愛い服が似合うんだから、着よ?」
「せや! 男に戻ったら着れなくなるんやで? 今のうちに着とかんと!」
「でも、恥ずかしいし…」
「うちらが見たいんや、着て!」
「そうだそうだ〜! 写真も取らせろ〜!」
「え、えぇ…」
結局試着室に押し込まれて、露出の少ないスカートの服を沢山着ることになった。着て、試着室を出て、茜と葵がそれを見て話して、僕はまた試着室に入って別の服を着る。そうやって、2人の気が済むまで試着した。
「もういい?」
「うん。今、お姉ちゃんが買いに行ってるから」
「…どれ、買いに行ったの?」
「ブラウスとかワンピースとかジャケットとか、ロングスカートとか。色んな服だね」
それから少しして、服がいっぱいに入った袋を両手にぶら下げた茜が帰ってきた。外行き用のきちんとした服とか、家でだらっとする時に着る用のラフな服とか、考えて買ってくれたらしい。でも、少し多いような気もする。
「ねぇ、今はどこに向かってるの?」
「食品売り場やで〜。家には2人分しかないから、あかりの分を買ってかんとな」
「迷惑だし、僕はいいよ」
「迷惑だなんて思ってないよ。それに、あかり君の方が大変なんだから。もう少し頼って」
「…うん、ありがとう」
食品売り場で、明後日までの材料を買った。お野菜も沢山買ったし、お肉とかお魚とかも買った。海老も10尾は買ったし、チョコミントのアイスもいくつか買った。
それから、ゆっくり歩きながら琴葉家に帰った。