「葵〜。お姉ちゃん、部長から呼び出されてもうたから学校行くことになったわ。洗濯とかよろしゅうな。ご飯は冷蔵庫に作り置きがあるから、お昼はそれでも食べといて〜な〜」
「また呼び出し? まぁ、洗濯はしとくけど」
「それじゃあ、行ってくるで〜」
「いってらっしゃい」
「ばいば〜い」
買い物を済ませた後、予定通りに琴葉家で勉強会をしていた。その
「ん、もう2時過ぎてる。あかり君、お昼ごはんにしよっか」
「わかった。冷蔵庫に入ってるんだよね? 僕が持ってくるよ」
「うん。じゃあ、私は食器でも持ってこようかな」
昼ご飯の準備をする。冷蔵庫から大皿に載ったサラダと漬物を持ってきて小皿に盛る。葵が炊飯器からお米を
「いただきます」
元々泊まりでの勉強会の予定だったから、今日のお昼と夜のご飯は一緒に食べると決めていた。勉強会の合間に、休憩がてら笑って美味しいご飯を食べる。そんな暖かな空気で過ごすはずだった。
だけど今、僕達の間に流れている空気は重い。盛り上げてくれる茜もいないし、葵は勉強してるときからずっと上の空だった。何考えてるかわからないのはいつも通りだけど、今日はなんだか雰囲気が違った。悩んでいるふうに見えた。
「お米のおかわり、もらうね」
「今日はよく食べるね。前はもっと少食じゃなかった?」
「う〜ん、なんかお腹減っちゃって。後3杯は食べられるかも」
「おかず足りなかったら、お姉ちゃん用のエビフライでも揚げようか?」
「そんなに食べないから大丈夫だよ。それに、茜に悪いし」
そうは言ったものの箸は止まらない。お米をお茶碗3杯分食べた頃には、机からおかずはなくなっていた。もうちょっと食べたいけど、少し食べ過ぎかもしれない。葵の方を見ると、小さくニヤけながら僕の事を見ていた。
「お腹空いてるなら、幾らでも食べていいよ。エビフライも揚げてくるから」
「うん、ありがとう。でも、こんなに食べちゃったら夜の分がなくならないかな、大丈夫?」
「炊き直せばいいし、食べたいのに我慢するもんじゃないよ。身体が変わっちゃって、それでお腹が空いてるんでしょ、多分。一過性の物だろうし」
「…わかった。ほんとに、ありがとう、葵」
「ん。別に」
結局、2杯追加で食べた。こんなに食べても苦しさはなくて、ただただお腹いっぱいな幸福感に包まれていた。相変わらず笑みを浮かべながら僕を見つつ、チョコミントアイスを食べる葵の姿がなんだか怖かった。
「あかり君もいる?」
「チョコミントはいいかな… ねぇ、葵。なんでそんなに笑ってるの?」
「いやぁ、凄い幸せそうに食べるから。ただのお米と作りおきの料理を食べてるだけなのに、なんで
そんな嬉しそうなのかなぁって思ってさ」
「…そんなにかなぁ?」
「うん、満面の笑みだったよ」
茜の料理は美味しいし、葵と話しながら食べている楽しさもある。だけど今までもよくあったことだし、そんなに幸せそうなんて言われたことなかったんだけどなぁ。なんでだろ?
「あ、部屋の事なんだけどさ。リビングで寝るって言ってたけど、やっぱり体に悪いよ。私のベッド、昔の名残で2段ベッドだからさ? 私の部屋で寝なよ」
「女の子の部屋に上がり込むわけにはいかないよ。僕はソファーで寝るから、ね? 別に、慣れっこだから」
「学校でも寝るような人がベッドじゃないと寝れないとは思ってないよ。ただ、これからずっとソファーって訳にはいかないでしょ?」
「泊まるのって今日だけでしょ?」
「あかり君、その状態で一人暮らしするつもりなの? たまに泥棒に入られる家なのに、そんな可愛い女の子が1人で寝てたら襲われるよ? 明日以降も
「そんなに可愛いかな?」
「羨ましいほどにはね」
そんなかな? なんか嬉しい。でも、葵の部屋か…
「葵は嫌じゃないの?」
「なにが?」
「僕に、男に部屋に入られるんだよ?」
「あかりちゃんは女の子でしょ?」
「ち、違うよ!?」
「冗談よ。別に、あかり君に部屋に入られたって嫌とは思わないから。変なことしないってわかってるし、ねぇ?」
葵こそ、いつか寝込みを襲われるんじゃないかな。まぁ僕は襲ったりしないけど。そういうのに、興味、ないから。
それから、葵は部屋が
日が沈み始めた夕焼け空の頃、目を覚ます。あくまで寝るつもりはなかったんだけど、バーって文字を見たら寝ちゃった。パチパチと何かを揚げている音がする。玄関の扉が開いて、誰かが入ってくる。
「ただいまやで〜!」
「おかえり。あかり君寝ちゃってるから、静かにね」
「わかったで〜。じゃあ、ちっちゃな声でな…」
茜が帰ってきたなら、揚げてるのは、エビフライだったみたい。琴葉家で揚げ物を作る時に、エビフライが作られないことはないだろうけど。チョコミント揚げたことあったな。