真夏のある日、私は考え事をしていた。昨日眠りにつくときから、今に至るまで、ひたすらに考えた。その結果、明確な結論は出なかった。
私が何を考えていたのかって? つい先日出会った、将来私を『お姉ちゃん』と呼んでくれるであろう少女、紲星蕾ちゃんのことだよ。
彼女と昨日、勉強会をした。喫茶店だったからしっかりと話は出来ていないけれど、彼女からは確かな才能を感じた。高校に通ったことのない少女が、いとも容易く高校の難しい課題を解き進めていたのだ。茜やお兄さんに解き方を教えられていたとしても、得意な科目だとしても、普通は無理だろう。
そして、彼女からは高校への強い思いを感じた。少し話しただけでわかる程だ。高校の話になれば悲しそうな顔をしながら下を向く。高校の前を通るときも、寂しそうに見つめていた。
夏から新しく高校に入学なんてできない。転入や編入も、過去に高校に在籍したことがなければできない。裏でどんな工作をしても、できないだろう。過去に高校に在籍していたのかなんて、調べればすぐに分かってしまう。
…ここで私が手を止めていれば、悩むことなんてなかったんだけどな…
私は調べてしまった。彼女は自分のことを余り話したがらない。だから、『実はどこかの高校に通っていたが、家出して琴葉家に居るんじゃないか。だから問題も解けるし、自分の話もしない』ってね。それなら、転入制度を利用して、私達と同じ高校に通える。色々と穴のある仮説だし、違うと分かっていたのに、調べてしまった。
私には確かなツテがある。親が有名人だと、嫌でも色んな人がやってくるんだ。良い人も、悪い人も。表の人間も、裏の人間も。紲星という名字は珍しいから、蕾ちゃんの戸籍を調べることも簡単… なはずだった。
昨晩、『紲星蕾という少女の戸籍を調べて欲しい』と裏の人間に頼んだ。数十万で引き受けてもらった。私は普段お金を使わないから、余ってるんだ。今が使い時だと思った。結果は、以外にも早く今朝送られてきた。
『紲星蕾なんて人見つかりませんでしたよ? ちゃんと実在する人じゃないと、調べられませんよw』
…なんと言えばいいのやら。人が隠していることを調べた罪悪感、裏の人間を頼った自身への嫌悪感、彼女が誰なのかという恐怖感。そして、それらを掻き消すほどの好奇心。彼女に対して、大きな、 大 き な 興味を抱いた。
「…ミコト、そろそろ落ち着いたら? さっきからずっと半笑いで歩き回ってて、流石に気色悪いよ?」
「それはすまない。 …そうだ、ヒメ。もしも蕾ちゃんが私達と同じ高校に通ってくれたら、嬉しい?」
「そりゃもちろん。でも無理でしょ?」
「転入書類とか、学校に色々確認してみないとわからないけど、おそらく無理だと思うよ」
「…見るだけ見てみるか。明日、転入とか編入の制度、確認してくるよ」
「…行ってらっしゃい」
戸籍がない人間… いったいどういうことなのか。別の名前があるのは間違いないだろう。紲星あかりという男性の双子の妹というのも嘘? …わからないな。
…茜や葵ちゃんはこのことを知ってるのかな。あかりさんと蕾ちゃん、両方と仲が良いらしい… というか、あかりさんが旅行に出る時に託されたんだっけ? …あれ、おかしくないか?
私と蕾ちゃんが出会ったときのこと、しっかり思い出そう。確か、葵ちゃんに何か誤解されて、それを解くために行って、皆でトランプや卓球をした。その時に、あかりさんが世界旅行に行ってる話とかをされたんだよね。
その時、ゆかりさんも来てたんだ。あかりさんに会いに来てたんだったと思う。そうだ、前日に喫茶マキで茜と話をして、あかりさんが琴葉家に居ることを聞いて、来た… はず。
だけど当日あかりさんは居なくて、代わりにいた蕾ちゃんから世界旅行のことを教えてもらった。うん、やっぱりおかしい。
蕾ちゃんが琴葉家に来たのは、私達が出会った当日なんだ。でも、前の日に私と電話で話したのも蕾ちゃんだった。それに、葵ちゃんが『蕾ちゃんはいつも運がいい
』って言ってた… と、思う。蕾ちゃんがこの町に来たのは最近のはずだから、〝いつも〟なんてわからないと思うのに。
去年この町に来たって言うのも嘘なんじゃないか? だって、去年の蕾ちゃんは中学生。中学校の転入にも戸籍は必要だろうし、転入するならあかりさんと同じ中学校、つまり茜や葵ちゃんとも同じ中学校だろう。それなら、あの2人も蕾ちゃんの本名を知ってるはず。
…頭がこんがらがってきた。きっと紲星蕾と言う名前は偽名で、私達に身分を明かせないから嘘をついてるんだろう。茜や葵ちゃん、あかりさんと話し合って嘘をつくと決めた。そう考えることにしよう。それなら、辻褄は合うと思う。
どうせ、深く考えたって答えは出ない。これ以上考えるのはやめにしよう。悪い人じゃあなさそうだし、本当のことを話してくれるまで待てばいいんだ。それに… 少し、いいことを思いついた。
私がなんで蕾ちゃんの戸籍を調べたのか… 思い出してみよう。
蕾ちゃんを私達の高校に転入させたかったんだよ。転入には、〝過去に高校に通っていた〟って言う事実が必要だから、それを調べていた… 別に、蕾ちゃんな個人情報を明らかにしたくて調べているわけじゃないんだ。
ないなら、作ればいい。だって、蕾ちゃんは本来存在しないんだ。実在する人の経歴を書き換えるのは難しいけど、真っ白な紙に新しく経歴を書き加えるのはそう難しくない。なにせ、私には確かなツテがあるからね!
蕾ちゃんが高校に通いたいのなら、私が転入させてあげよう。まぁ、君が本当のことを話してくれないと、嘘の戸籍も作れないけどね。
転入制度の確認をして、経歴を作って転入する準備が済んだら、彼女を家に呼ぼう。正直に話してもらったのに、転入出来なかったなんてことになったら申し訳ないからね。
さぁ、蕾ちゃん? 選択権は、君にあるんだよ。
どのキャラの話が気になりますか
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