自己紹介の後は、いつもどおりに授業を受けた。休み時間に、「よろしく!」とか「お兄さんはどうしてるの?」とか言われたけど、特別なことはなかった。
強いて言えば、隣の席が葵でよかった。数学とか、わからなくても聞いたら教えてもらえるから助かった。それに、授業中に他の人に話しかけられないのも。急に話しかけられたら、びっくりしちゃうし。
何か起こったのは… お昼のことだった。4限目が終わって、お弁当でも食べようかと立ち上がった時、廊下からドタドタと走ってくる音がした。それから、教室の前側と後ろ側の両方の扉が一気に空いた。
「あかね! お弁当を一緒に食べよう!」
「蕾ちゃん! 来て〜!」
「…はぁ」
「元気なのは良いことだけど、廊下は走らないでね? それと、扉も丁寧に扱って下さい」
「あ、すみません」
「申し訳ない」
教室中の視線が、ミコトさんとヒメ姉に集まる。それから、名前を呼ばれた僕が見られる。恥ずかしい… というか、初日からやめてほしいという気持ちだった。
「それじゃあ茜、屋上で待ってるよ」
「蕾ちゃんも、待ってるからね!」
「行くで〜! うぉ〜!」
「…蕾ちゃんはどうする?」
「…行ってきます」
「はぁ… 私も行くよ。あの人らを叱りたい気分だし」
「走らないでねー」
走って行ってしまった茜の後をゆっくり追いかける。屋上… どこの階段を登ればいいんだっけ?
「こっち。そこの階段登っても、3階までしか行けないよ」
「あ、そうなんだ。教えてくれてありがとう、葵さん」
「…普通に話して大丈夫だと思うよ」
「…じゃあ、ありがとう、葵」
「はい、どういたしまして」
話しながら、廊下を進む。窓からちらっと外を見たら、校庭でベンチに座りながら食べている人が見える。そこから上に視線を向けたら、空を飛ぶ飛行機が見える。そして、明るい太陽が見える。
教室から、楽しげに笑う声がする。廊下を前から走ってくる人もいる。トイレに向かう人も、水道で手を洗う人も。いつもの学校の光景だけど、懐かしくて、なんだか楽しくなってくる。
階段を登る。屋上に着いたときには、もう足が痛かった。扉を開けて、屋上の空気を吸う。廊下と違うのかわかんないけど、気持ちいい気がする。
「お、葵〜! 蕾〜! こっちや〜!」
「そんなに呼ばれなくても、わかってるよ」
「葵ちゃん、蕾ちゃん。2人にも、私が丁寧にお弁当を作ってきたから、食べてほしいな」
「私も作ったよ!」
「…あの、私、自分で作って来ちゃったんですけど…」
「私もです」
「…茜? もしかして、伝えてないのかい?」
「…? あ〜、あー、あー! 忘れとったわぁ…」
…ミコトさん達、気合を入れて5人分お弁当作るから、僕達には作らないでって茜に伝えてたんだって。でも、茜が僕達にそれを伝え忘れてたから、自分の分を作ってきちゃった。どうしよっか、お弁当が沢山あるよ。
「…余りそうなら、ゆかりさんとか呼んでくる?」
「そやなぁ、うちが走って呼んで来るで?」
「余らないから大丈夫だよ」
「…この数だよ? この後も授業があるし、無茶はできない」
「あ〜、美味しいです」
「お、蕾ちゃん、美味しい? 沢山あるから、好きなだけ食べちゃっていいよ」
「ほんとですか!」
「ミコトさん、蕾に食べられる前に自分の分は食べたほうがいいですよ」
「…そうだね、気を抜くと全部食べられてしまいそうだ」
…そんなに食べないよ。そこまで食い意地はってないもん。自分の分しか食べないよ。ほんとだよ? 僕より、茜に気を付けた方が良いんじゃないかな。だって、今も葵のお弁当からエビフライを盗ろうとしてるもん。あ、バレた。
「…帰ったらお説教ね」
「う、うちは悪くないで〜? …そう! エビフライが美味しすぎるのが悪いんや!」
「正座でお説教ね」
「い、いや〜? そんな、お説教しなくても良いんじゃないですか、葵様。そ、そう思うやろ、蕾」
「え? う〜ん… 私にはわかんないかな」
「反省文も追加ね。それと蕾ちゃんも真面目に答えなくていいから」
「反省文… ミ、ミコトお姉ちゃん、助けて欲しいなぁ」
「然るべき時にしっかりと叱るのも、年上の責任だよ」
「そ、そんな…」
…そんな助けて欲しそうな、うるっとした目で見られても助けないよ。茜が悪いもん。助け舟なんて出したら、僕も沈んじゃうよ。茜の後ろから、ニコって小さく笑いながら葵が見てきてるもん。無理だよ。
他のほう… ミコトさんとヒメ姉の方に行こう。床に正座しながら、背筋を伸ばして、綺麗に食べてる。静かに、茜と葵を微笑みながら見てる。これが、年上の余裕かぁ… 僕も、こんな大人になりたいな。
「ヒメ、ちゃんと梅も食べたかい? ほら、梅干しも梅ジュースもあるよ」
「…食べたよ。ほら、朝にお米に乗せて」
「それなら、もっと食べたほうがいい。1個だけだと、十分じゃないからね」
「あ〜、そういえば、登校前にもう1個食べたかも」
「そう? 沢山食べて損はないから、はい、梅干しおにぎり」
「…絶対に食べさせる気じゃん」
「うん。あ、蕾ちゃんも食べる?」
「1つだけいただきます」
「じゃあ、私は優しいから、2つあげよう」
「要らないです」
「そんなこと言わずにさ「要らないです」
もっと、他の人に憧れよう。
どのキャラの話が気になりますか
-
あかり(黄色)
-
あおい(水色)
-
あかね(赤色)
-
マキ(黄土色)
-
ミコト(青色)
-
ヒメ(ピンク)
-
ゆかり(紫色)