目は覚めたけど、まだ少し眠たい。そっと窓を見ると、綺麗な夕焼け空。茜空って言ったりもするんだったかな? 玄関の方に首を返す。鮮やかな色の髪が見える。確かに、今の空は茜色だと思いながら、体を起こした。
「起きたんか〜?」
「うるさかった?」
「ううん、大丈夫。結構寝ちゃったな」
机に散らかした勉強道具を片付けて、顔を洗って鏡を見る。顔も体も、女の子のまま。戻らないことを嘆いても仕方ない、か。窓の外を見ながら、ぼーっとしていた。何かを考えるでもなく、ただ時間を過ごした。
「あおい〜、部長から飴ちゃん貰ったで〜。食べへん?」
「私はいい。あかりくんは?」
「食べたいな」
「あとな、コーヒー豆も貰ったから後で煎ってみようと思うんやけど、葵やりかたわかる?」
「私は知らない。部長に聞けばよかったんじゃない?」
「部長に聞くと長くなるから」
「…確かにね」
コーヒー、お母さんがよく飲んでたな。苦いのが苦手だから飲んだことはないけど、確か、ゆかりねぇもたまに飲むって言ってた。美味しいコーヒーを淹れる喫茶店があるんだって自慢げに話してたもん。 …折角だし、今度飲んでみようかな。
コーヒー豆は放置されて、机に料理が並んでいく。半分はエビフライに支配され、残りのスペースにお米とお味噌汁。美味しそうなきつね色で、芳しい香りがする。口に運ぶと、カリカリとしていて、美味しさで頬がゆるむ。
葵は茜のために何度もエビフライを揚げているから、上手なんだろうなぁ。お米とエビフライを交互に口に運び、お茶碗の底がすぐに現れる。そして、山盛りにお米を追加する。
おかわりのお米も食べきりそうな頃、茜の方に視線を向ける。茜の好きなエビフライ、食べ過ぎてないかな。すると、茜と目線があった。
「あっ」
お互いにエビフライを咥えながら、思わず笑い出す。なんだかおかしな感じだ。お昼に葵が笑ってたのは、こういうことだったのかな。確かに、幸せそうに口いっぱいに好物を頬張る姿を見ると、思わずニヤけてしまう。
その光景を見た葵も、クスッと笑った。そういえば今日は全然笑えていなかった気がする。朝からずっと不安で、笑顔とは程遠い顔をしていたような。でも、やっぱり笑ってるのが1番だね。
「落ち着いて食べなよ。2人して咥えちゃってさ。エビはないけど、足りなかったら他のを揚げるから」
「あかりに食べられる前に食べんと!」
「お米だけでも食べられるから、茜が全部食べちゃっていいよ?」
「でもあかり、まだ3尾しかたべてへんやろ?」
「いや、お昼に少し食べたから…」
「…作り置き、足りんかった?」
「凄いおなかすいちゃって、食べ過ぎちゃった」
お昼は、異常なくらいお腹が空いて沢山食べた。今もお腹が空いてる。お茶碗に3杯目のお米を
先に食べ終わった葵が、冷蔵庫からアイスを取ってきて食べ始める。勿論チョコミント。時々他のも食べるけど、特に理由がなければチョコミントアイスを食べている気がする。チョコミントを食べながら、葵がテレビをつけた。
ニュースが流れている。スポーツとかバラエティとか、色んなニュースが流れているけどあまりよくわからない。特段好きなスポーツもないし、お笑いは普段見ないし、この街は平和だから不審者も出ない。
そんな中、ぱっと目を惹かれるニュースがあった。近くのお店で大食いランチが始まったらしい。10人前くらいの量があるらしいけど、今なら食べれる気がする。食べきったら無料らしいし、挑戦してみようかな。
焼き肉の食べ放題の新コースが出来たってニュースもあった。それに、喫茶店が新メニューの開発をしてるとか。この街のニュース、ご飯のことばっかりだな。だけど、大事だよね。
「明日、食べに行こうかな」
「大食い? 確かに、食べられそう」
「あかりって少食じゃなかった? そんなに食べれるん? …いや、お茶碗3杯食べてるし、実は大食いだったん?」
「今日、ずっとお腹空いてて。幾らでも食べれそうな感じがするんだ。明日もこんな感じなら、お腹を満たすために食べに行こうかなって」
「全部食べたら無料だし、気に入ったら毎日食べに行けばいいんじゃない?」
「…毎日食べきってたらお店潰れそうやけど」
そんな他愛もない話をしながらお米を食べ続ける。4杯目を装って、今度は何もかけずに食べる。すると、葵の顔から笑みが消えて、立ち上がって冷蔵庫を開けた。
「流石に味無しで食べさせる訳にはいかないし、なにかつくるよ。だから、箸を置いて少し待ってて」
「あ〜、あかり。少し覚悟をしたほうがええよ。何を作るのかわかんないけど、多分怒ってるから」
「…え、怒ってるの?」
「さっき、他のを揚げるって言ってたのに、あかりが葵を頼らないでお米だけで食べたから。何が出てきてもあかりが食べるんよ?」
「…本当に、何が出てくるの?」
「はい、チョコミントの唐揚だよ、食べて?」