まるで嵐のような1日だった。朝、いつものように目を覚まして、朝のチョコミントを食べる。それから、勉強会のための準備をした。程なくしてお姉ちゃんが起きてきて、勉強会に参加する友達の、
日が昇りきった8時、本来ならあかり君もここにいて、
「あおい〜。あかり、ちょっと遅くなるって。寝坊したんやってさ。後、声がなんか変やったから喉痛めたのかもしれん。アイスよりも喉飴の方がええんちゃう?」
「…チョコミントの喉飴?」
「ミントは喉にいいかもしれんな〜。ただ、あかりはミントが苦手やったと思うで?」
「チョコは好きって言ってたよ?」
「ならチョコミントも好きかもしれんな〜」
なんかお姉ちゃんが適当に話してる気がする。チョコミントの話をするといつも軽くあしらわれてるような? でも、あかり君がチョコミント好きになってくれたらこの家ではチョコミント好きが多数派になるんだよね。
それからちょっとして、お姉ちゃんが朝ご飯を作り始めた頃にピンポンが鳴った。多分あかり君かな? 駆け足で玄関に行って扉を開けた。
「は〜い、あか…り…君? じゃないか、どなたですか?」
「う、うん。あかりだよ、紲星あかり」
「…え?」
それはなんとも不思議な話だった。知り合いに
まず肯定、そして受け入れて、信じる。突然の体の変化で不安になってる相手を、更に不安にしちゃいけない。現実でそんなこと起こるの? とか、どうしてそうなったの? とか気になることは沢山ある。だけど、そんなことは後で聞けばいいからね。
それからはトントン拍子で進んでいった。お姉ちゃんに説明する時、ちょっと焦って変なことを口走った気がするけど、大丈夫だよね? 自分でも何を言ったか覚えてないけど、お姉ちゃんもそんな覚えてないと思うし…
ご飯を食べたらショッピングモールに向かった。あかり君の服を買うために。あかり君を下着店の真ん中に放置して、お姉ちゃんと2人でパンツを選んだ。
お姉ちゃんに買い過ぎって言われたけど、多いほうが良いんだよ。お姉ちゃんの分もいつも多めに買う。別にやましいこととかはないんだけどね? 10個とか纏めて買うと、1個や2個なくなっても気付かないから…
それから店員さんを呼んであかり君のスリーサイズを測ってもらった。私は青髪のひ弱そうな店員に頼む方がいいって言ったんだけど、お姉ちゃんが「今は元気な店員さんのほうがいいんやない?」って言うからピンク髪の店員さんに測ってもらった。
あの青髪の店員さん、なんか私に近い空気を感じたんだよなぁ。チョコミント好きなのかな? いや、もしかしたらミントそのもの? でも、ピンク髪の店員さんからもミントの気配を感じたんだよね… チョコミントの時代が刻一刻とやってきている… ふふっ。
それから食材を買いに行った。あかり君を1人にするわけにはいかないし、3人分ってなると明日には足りなくなっちゃう。あかり君は少食って聞いたけど、もしかしたら嘘かもしれない。あかり君に限って嘘をつくとは思えないけど、あの胸のサイズを考えると、追加の栄養が必要かもしれない。
「なぁ、葵。冷蔵庫のエビがなくなってたし、買ってええよな?」
「いいよ。それに、止めても買うでしょ?」
「せやなぁ」
「お姉ちゃん、チョコミントアイス食べきっちゃったから買ってもいい?」
「残ってた気がするけどええよ。それに、止めても買うやろ?」
「もちろん!」
「…普段から仲がいいんだね」
「せやで〜。まぁ、普段は葵から甘えてくるんやけどなー」
「…エビ、棚に戻してくるね」
「っ、うそうそ! うそやから、ごめんな、葵? だから、その、エビだけは…」
「いいよ、そんな謝らないで。ちゃんと買うから」
いつものような睦まじい姉妹の会話。私から甘えるって、たまにしかしないのに。それに、あかり君にバラすって。そんなの、エビを失う覚悟を持って言うことだと思うんだよ。まぁ、訂正してくれて助かったけどさ。
それから、家に帰って来た。お姉ちゃんは部長に呼び出されて、学校に向かった。家には私とあかり君。例の知り合いによると、他の人が数時間は絶対にこない状況で、仲の良い男女二人。何も起きないはずもない… らしいけど、何も起きないだろうね。あかり君、そういう気がなさそうだし。
チョコミントを布教するための料理を考えながら、普通のご飯を食べる。ちゃんと勉強もした。私は2人より頭がいいと自負しているんだから、スラスラと問題が解けた。あかり君より早く解いたけど、正答率は五分五分だった。
少し雑談もしながらのお昼を過ごした後、あかり君に半ば強引に私の部屋で寝るように約束させた所で、ちょっと部屋をきれいにしてくると言って部屋に戻る。あかり君を部屋で寝かせることを考えたら、見られたら不味いものを片付けないといけない。
日記はデカデカと表紙に『葵の日記 勝手に見るな』って書いておけば問題ない。後は宝物は箱に入れて、クローゼットの裏にでも隠しておこう。それと、かつての黒歴史ノートは机の鍵付きロッカーに。
2段ベッドもきれいにしておかないとね。私がいつも寝ているベッドの下側であかり君に寝てもらうとして、私の私物を上のベッドに移しておこう。枕の下に敷く写真とか、ミントのぬいぐるみとか。あ、でもあかり君はサメが好きって言ってたしサメのぬいぐるみは下のベッドに残しとこう。
部屋を綺麗にしてリビングに戻ると、あかり君は眠っていた。悪戯しようかともちょっとは思ったけど、可哀想だからやめておいた。取り敢えず、チョコミントでも食べて休憩しよう。
よく見たら、あかり君は教科書を立てて前から見えないように隠して寝ている。もしかして、学校でも? ノートも開いてるけど、全く記入されてないし、さては寝る気満々だったな?
取り敢えず教科書を倒して、勉強していた風な状態に戻してあげた。家で勉強するときに教科書立てるって普通しないし、怪しすぎるからね。お姉ちゃんが帰ってきた時にバレないようにしてあげよう。
夕飯を作ろうかとも思ったけど、まだ早いかも。今日は揚げ物だから、あったかい時に食べたいしね。それに、チョコミントを使った揚げ物はお姉ちゃんが嫌がるから私が好きな唐揚げは最後に作らないとだし。
お姉ちゃんには美味しくないって言われたけど、チョコミントは唐揚げにしても美味しい。下味にミントの風味を付けた鶏肉を揚げる。油にチョコミントを入れると他の料理にも味が残るから家族を思い我慢して、チョコミントは調味料と合わせてソースにして唐揚げと一緒に食べる。美味しいよ?
余計なことを考えるのはやめよう。そのあとは家をウロウロしながら今日のことを思い出していた。まだ昼間、1日の折り返し地点かもしれない。だけど、中身の濃い1日だった。私は面白かったし、楽しいと思ったけど、2人は全然違う感覚かもしれない。
難しいことを考える。性転換の直し方とか、全くわからない。だけど、1つだけ言える。下を向いたり、不安になっちゃいけない。あかり君を支えてあげないと。そんなことを考えた。
でも、ちょっとしてから気付く。男の子のあかり君と女の子のあかり君。どっちの方が興奮する?
私は、チョコミントのように清らかで美しい澄んだ心を持っていないのかもしれないね。