やばいやばいやばいぃ! 完全に油断してた、ヒメ姉に聞かれるまで気付かなかった。ゆかりねぇが家に帰りたくなくて琴葉家の玄関前で寝てたことを蕾が知ってるわけないじゃん! 蕾としてゆかりねぇに会ったのは今年の夏が初めてなんだから、ゆかりねぇが高校2年生にもなって真夏の夜に外で寝てることになっちゃうもんね…
ゆかりねぇの名誉のためにも違うって言わなきゃ。でも違うって言ったら『じゃあいつ見たの?』って聞かれて困っちゃう。どうしよう、どうしよう?
「…今の話はここだけの話にしてください、絶対に本人に言わないでくださいよ」
「わかった、言わない」
ありがとうあおいぃー! ヒメ姉の中でゆかりねぇの株は地に落ちたかもしれないけど、これから頑張って株を上げ直すから。今からゆかりねぇの良いところを伝えれば、凄い人だって思ってくれるはずですから!
「でもゆかりさんって凄いんですよ? いっつも周りのことを見てて、泊まりに来てくれた時も私達が疲れてると思ったら自分から料理もしてくれましたし、悪いことをしたと思ったらすぐに謝れる立派な人なんですよ!」
「ヒメさんの周りの人は
葵、自分のことを棚に上げた? でも葵に謝られたことってあんまりない気がする。悪いことをしないからなのかな。謝られた時も軽く謝られて終わっちゃってる気がするし、茜みたいに床に頭をこすりつけたりお説教されてるところを見てない気がする。
「私の周りに謝れない人いるよ、1人だけ」
「どなたですか?」
「ミコト」
「あ、はい…」
ミコトさんは、まぁ… 誠実な人ですけど、すんなりと謝らないのは想像通りですね。曲がらない人というか、自分が悪いと思うことはしない人なので、中々謝らなさそうです。怒られても、『悪いとは思えないから謝らない』ってきっぱり言いそう。
でも、この前胸を触ってきた時はすぐに謝ってもらった気が… すぐではなかったですね、寝起きでヒメ姉に連れてかれちゃったので。でもその日のうちに謝ってもらえましたし、あんまり悪いイメージはない… あれ、裸を見られたことは謝られてない?
まぁいいや、今はゆかりねぇがイイ人だってヒメ姉に知ってもらうのが大事ですから。ミコトさんのイメージが悪ければ、相対的にゆかりねぇが良いイメージになりますからね! ヒメ姉の中のミコトさんって凄い評価が低そうですし…
「それにゆかりさんって優しくて、よく外食に連れて行ってくれますし、全部奢ってくれます! 後、プレゼントもくれるんですよ!」
「それは餌付けされてるんじゃない?」
「葵も色々貰ってたじゃないですか!」
「貰えるものは何でも貰うよ。病気とかマイナスな物以外は」
「なるほど、もっと色んな物を買ってあげたら私も琴葉家に…」
「そういう話ではないです!」
それだとヒメ姉からプレゼントが欲しくて話題に出したみたいじゃないですか! 違いますよ、僕はゆかりねぇの優しさを知ってもらうために話してるだけなんです。何か貰えたら嬉しいは嬉しいですけど…
「えっと、それに… ゲームも上手いですし、面白い話も沢山してくれますし、友達も沢山… は居ないですけど、街に知り合いの人は多いです!」
「ゲーム、上手いかな… それにそこまで面白い話もない気がするけど」
「葵はなんでさっきから否定するんですかー!」
「なんでだと思う?」
「え? わかんないです… ヒメ姉はわかりますか?」
「わかんない。ミコトなら面白そうだからって理由でそういう意味も価値もないことをするけど、葵ちゃんはしないだろうし」
う〜ん、わかんないですね… 僕も、葵が人をからかうというか、愉悦する感覚を味わうために否定するってタイプじゃないのはわかってます。ミコトさんも面白そうだからって否定しまくる人ではないと思ってます、信じてます。
でも、他に葵が否定する理由があるのかって聞かれたら浮かばないんですよね。ゆかりねぇが嫌いだから悪く言ってる、なんてことはないと思います。この前も楽しく遊んでましたし、葵は人を嫌ってても悪く言ってるのを聞いたことないです。
「 わかりません、教えてください!」
「じゃあ、今度2人きりのときに教えてあげるよ」
「今はダメなんですか?」
「今はヒメさんがいるから駄目」
「やっぱり私嫌われてる? ここまで3人で話してたのに、一番気になるところだけ教えてもらえないなんてことある?」
「ありますよ。少なくとも、私にとってヒメさんと蕾じゃ明確な差がありますから」
「はっきり言うねぇ… そこが良いところなんだとは思うけど…」
秘密にしないといけないことなのかな…? 気になりますし、ヒメ姉には悪いですけど後で聞かせてもらいましょう。お弁当も食べ終わりますし、このまま解散になりそうですので、その後に聞こうかな?
「あ〜、気になる。もっと話したいけど私やることあるんだよね、クラスでやること。蕾ちゃん、後でメールで教えて! じゃ!」
「…間違えても送らないでね」
「送らないよ。ヒメ姉に隠したいことなんでしょ? わざわざバラしたりしない、誓うよ」
「そんなこと誓うくらいならもっと別のことを…」
「ん、なんて言ってるの? 葵、最近ちっちゃな声で話すこと多いから聞き取れないこと多くてさ」
「独り言だから気にしないで」
独り言なら『なんて言ってたの?』なんて野暮なことは聞きませんけど、なんて言ってたのか気にはなりますよね。2人でいるときに思わず呟いちゃったことですよ、気にならないわけがありません。家に帰ったらしっかり耳の掃除しとこう、次は聞き取れるかも。
「それで、なんでゆかりねぇのこと褒めたら否定してきたの?」
「なんとなく」
「え? なんとなくなの?」
「本当のことを言うと、イラッとしたから」
「イラッとしたって、何かゆかりねぇとあったの?」
「そういうわけじゃないよ。それに、今は気分良いから」
「う〜ん? 難しいなぁ…」
葵は不思議だなぁ… でもちょっと気になる、さっきまでイラッとしてたのに急に気分が良くなるって、何があったんだろう。気になるなぁ。