「ふむ… それといった様子はない、か」
私室で1人、私は息をついた。なんとも退屈で、つまらないと言わざるを得ない。机に置かれたパソコンには、少し荒っぽくも確実に、3台の隠しカメラによって撮られたとある男女の部屋の映像が流れている。何も起こらない、ただの日常を私は見ている。
とある男女というのは勿論あかり君と葵ちゃん。私を慕ってくれる義妹である茜に頼まれたからこうやって私は彼らの日常を覗き見ているわけだが… これなら航空写真を見ていたほうがよほど楽しかったかも知れない。あの2人が恋人同士だと思って、私は面白いところを見たいという、善悪で言えば明確に悪な心を持って見ているというのに…
あ、面白いところを見たいとは思っているが、2人がキスでもしようものなら私は見るのをやめるさ。少なくとも2人が隠していることであるのは間違いないし、見られて嬉しい人はいないだろう。私が見たいのは、あの2人が照れた表情を見せながら、恥ずかしがりながら、デレデレといちゃついてる光景だからね。毎日、苦いゴーヤとコーヒーを用意してるのに使う機会がないよ。
そもそも、あの2人は部屋にいない時間が長すぎる。片方だけがいることはあっても、2人共部屋にいるのは寝る時くらいじゃないかな? 映像を何十倍にも加速して、2人揃っているところだけをじっくりと見ているんだが、1時間もない。朝になったらおはようの一声すらかけずに部屋を出ていってしまうし…
今日の映像も殆ど内容はなし、葵ちゃんが部屋の中を歩き回るという奇行が見れたけど、私も考え事をしてる時は歩き回ってしまうし同じなのかも知れない。いつもより長く部屋で話してたけど、真面目な話っぽそうだしね。
葵ちゃんは冷静な印象だし、照れてるところを1度も見れてないのは想定ない。盗聴器を仕掛けてないから何を話してるのかわからないけど、どんな話でも葵ちゃんが照れてるのは想像できない。だけど、あかり君が照れてるところも1度も見れてないのは想定外だね。
前にあかり君が泊まりに来た時、私が勝手にお風呂に乱入しただけで茹でられたように真っ赤な顔をするくらいなんだから照れやすいとは思うんだけどね。画質が少し荒いから確信を持って言えるわけじゃないが、葵ちゃんと話してる時も、話し終わって寝る時も恥ずかしがっている様子はない。照れてる、とも感じない。
もっと鮮明に撮れるカメラを用意すればよかったかな、そしたら2人の些細な表情の変化もわかるのに。まぁそこまでいったらストーカーと同じようなものだし、度が過ぎてると思うけど。それに、私が見たいのはちょっと照れくさそうにしてる顔じゃなくて、冷静さを失うくらい恥ずかしがってたり、2人で抱き合いながら寝てる姿だから画質が良くても関係ないんだけどさ。
ここまでそんな様子もなければ、そうなる雰囲気すらない。本当に付き合ってないんじゃないかって思ってしまうくらいには。それを調べるのが私の役割なんだから、白か黒か見極めないとね。
「ミコト〜、晩ご飯できたよ〜」
「わかった、今行くよ」
美味しい梅料理を食べて一息つこう、同じ映像を見続けても何もわからないんだから。最近は茜と話してばかりで、ヒメと話せてなかったし、今日はゆっくり話そう。可愛くて素直な妹のことを、姉として導くのも仕事だから。生まれながらにして持つ責任ってやつだね。
「最近ずっと部屋にいるけど、何してるの?」
「秘密かな。時が来たら教えるよ」
「茜ちゃんとどこか出かけることも多くなったけど、どこで何してるの?」
「それも秘密かな。いつか教えるよ」
「言えないような事をしてるの?」
「違う違う、いつか話すから」
ヒメは私を信じてくれてないのかな… 無理もないか、最近は自分勝手に動きすぎた。毎日のように茜と報告会をして、作戦を練って。よく恋愛ゲームにある展開だよ、何か理由があって特定の女の子とばかり会っていたら、他の女の子からの好感度が下がって大切なイベントのフラグを逃してしまった。そんな展開。
でも私はもっとヒメと仲良く、親しくなりたい。血の繋がった姉妹なんだから、最高に仲の良い相手でありたい。家族に嫌われたら、私は泣いてしまうよ。
その日は少しヒメとテレビを見ながら笑って話をした。そして迎えた翌日、いつものように登校して授業を受けた。お昼休み、いつも茜とヒメと3人でお弁当を食べる時間なんだけど、茜から『葵とあかりが屋上に向かったで!』とメールが来た。
私達もいつも屋上で食べてるのだが、今会うのはまずい気がする。2人のことを犯罪まがいなことをして探っている以上、あまり話したい状況じゃあない。『追いかけて、屋上の扉前で2人を見ながらお弁当を食べよう』と送って私も教室を飛び出した。
廊下の曲がり角のあたりで、窓を通して屋上を見る。入口のあたりを動いてる何かがいる、多分ヒメかな。つまり、今行くとあかり君達に出会ってしまうかもしれない。でもここで立ち止まっていても廊下を通る人に変な人だと思われかねない。1度教室に戻ってからもう1度曲がり角に向かう。動いてるものが3つ、あかり君と葵ちゃんが屋上に来たと考えて良いね。私も向かおう。
屋上の扉前に行くと、もう茜がいた。扉を少しだけ開けて、2人で静かに話を聞く。話を聞けば聞くほど、嫌な汗をかく。ヒメが私と茜の話をし始めたと思ったら、どんどん話が変な方向に進んでいく。そして、私は気付いた。
あかり君と葵ちゃんが部屋でいちゃついてる映像が撮れないのは、あの2人が私達にカメラを仕掛けられてると気付いてるからなんだ。あの2人は、私達の様子がおかしいことに絶対に気付いてる。それなら、私達はどうすれば良い? 2人に言われる前に、先に謝ったほうが良い、よね。
…隠しカメラ、バレないと思ったんだけどなぁ。いつバレたんだ?