Part34 また明日
「本当に初めて?」
「うん、初めてだよ」
「人の背中を洗う才能あるんじゃない?」
「なにそれ、要らない… 使い所ないでしょ、仕事にもならないし」
「仕事があってもやらないでよ」
「うん、やらない。知らない人の背中は流石に洗いたくない」
背中洗うだけなのに、上手いも下手もあるのかな。ただ洗うだけだし、初めてだから上手いなんてことないと思うし。というか、葵も茜以外にされたことなんてないだろうしわかんないでしょ。茜が僕よりわかりやすく下手だった、のかも知れないけど。
早くお風呂でたいけど、いつになったら出ていいんだろう。人の裸を見ると、その… 恥ずかしいしさ、やっぱり一緒に入りたくないんだよ。でも、恋人は一緒に入るらしいからなぁ。どのくらいなんだろう、僕の方が結構先に入ってたし最後まで一緒だとのぼせちゃうよ。
「ありがとね、洗ってくれて。髪もお願いしていい?」
「いいけど、女の人の髪の洗い方なんてわかんないよ。上手く洗えなくても怒んないでね?」
「あかり君、今女の子でしょ。自分の髪と同じように洗ってくれれば良いから。大丈夫、お姉ちゃんよりは上手いから」
「茜、そんなに酷いの? まだやってない僕以下って…」
「0点より下ってことだよ、何もやらないほうがまし」
茜、酷い言われようだな… 葵がそこまで言うって、どんだけ酷いんだろう。茜のことが大好きな葵が言う0点より下、僕基準だとマイナス100点くらいだと思うし… 髪に虫を乗せて遊んでくる、にしてもそんなに低い点にはならないよね。どんなことしてくるのかな、ちょっと気になっちゃう。今度頼んでみようかな。
不安ではありますけど、頼まれたからには頑張ろう。右手でシャワー浴びせつつ、左手で髪を梳かせばいいよね、多分。わっしゃあってやると嫌かもしれないから、ちゃんと上から下に流すように。梳かしたところに水を当てる、感じでいいと思う。
葵の髪、柔らかいなぁ。指がスルスル入るし、サーって簡単に梳かせる。絹のような髪、っていうのはこういうことなんでしょうか。どうしよう、力込めすぎて抜いちゃったら… 変に絡まっちゃっても大変だから、気をつけないとね。
「痛かったりしない? 大丈夫?」
「痛くないよ。なんなら、もっと強くてもいいくらいかな」
「マッサージしてるわけじゃないんだけど…」
「わかってるよ。もっと、がーって洗っちゃっていいってこと」
「わかった、頑張ってみるよ」
「流石に、あんなに丁寧にやってたらあかり君が冷えちゃうでしょ」
僕にもシャワーがかかってるので寒くはないですけど、心配させるわけにはいきません。言われたとおり、少し荒っぽくやりましょうか。左手を髪に突っ込んで、わしゃわしゃ適当に掻き回して、シャワーも全体に散らすというか、じゃーってかければいいんですよね、多分。
…ちょっと前まで1人でのんびりとお風呂に入ってたのに、急に忙しくなっちゃったなぁ。こうやって髪を洗ってると、また入るみたいじゃないですか。もう十分温まったので出てもいいんですけど、葵は『もっと話そうよ』って言って出してはくれないんでしょうね…
「そうそう、上手だね」
「ありがとう、背中洗いを褒められるよりは嬉しいな」
「それじゃあ、毎日洗ってくれる?」
「流石にちょっと… 髪洗うだけじゃなくて、お風呂も一緒になるでしょ?」
「うん。あかり君は嫌なの? 私と一緒のお風呂」
「恥ずかしいから遠慮したい、かな。たまになら良いけど…」
「じゃあたまにね。お願い」
本当にたまにだと良いなぁ。なんでかは知らないしわかりませんけど、僕のお風呂には
「洗ってくれて本当にありがとね。お礼に私があかり君の髪を洗うよ」
「葵が来る前に自分で洗っちゃったから大丈夫だよ」
「じゃあ明日洗う。恩はしっかり返さないとでしょ?」
「…やっぱり髪洗ってほしいな。今、ここで」
葵は本当に、人とお風呂に入りたいんだろうなぁ。多分だけど今のも、僕がもう髪を洗ってるのわかってて言ったよね。見たらわかるもん、髪が濡れてるんだから。それで… 明日も一緒にお風呂に入りたくて、言ったんだろうなぁ。
実は寂しがり屋だったのかな、葵って。冷静でツンとした頭良い子が、家では寂しがりで家族大好きっ子、こういうのをギャップ萌えって言うんだよね、多分。違うのかな、わかんないや。
「本当に今でいいの? 洗っちゃったんじゃないの?」
「うん、今がいい。明日は1人で入りたいから」
「…そっか、ごめんね。丁寧にしっかり洗うから、そこに座って」
「うん、お願い」
謝られると申し訳なくなってくる。葵のことが嫌いなわけじゃないし、一緒に居たくないってわけでもないんだよ。ただ、お風呂は1人がいいなぁってだけだから。どうしよう、不快にさせちゃったよね。僕も謝ったほうがいい、のかな…
「どう、気持ちいい?」
「…あ、うん」
「それはよかった、またして欲しくなったらいつでも言ってよ」
「うん、また今度お願いするね」
「気に入ってくれたなら良かった。明日もしようか? 明後日もしてもいいよ?」
「今週中は良いかな」
「…わかった、ごめん」
また、謝らせちゃったな… 葵がそんなに一緒のお風呂が好きなら、僕が折れたほうがいいのかな。目を逸らして体を壁に向ければ何も見ず何も見られないし、恥ずかしくはない、と思うから。それでも葵が良いなら、毎日、入ろうかな…