なにも、起こらへんかった!
昨日は2人のお風呂に貼り付いてたのに何にも起こらなくて、その後の晩ごはんの時も、
でもな、うちも諦めなかったんやで? 眠いから寝るわ〜って部屋に戻ってから重いまぶたを気合で開き続けてな、あの2人が寝室に行くのを待って待って待とうとしたんやで。
…まぁ、1時間経っても廊下を歩く音がせんかったから、諦めたんやけどね。多分やけど、ずっとリビングであの2人は遊んでたんやろうなぁ… 廊下で床に寝そべってバレないようにしとけば、リビングで甘々な2人を見れたんやろうか。
そして今日も、何も起こらへんかった。毎日同じことをしても無駄やと思ったし、そもそも2人が別々にお風呂に入ったから違うことをせざるを得なかったんやけど、いい案が浮かばんかったから力技を選ばせてもらったで。ずばり、窓超えや。
うちが先にお風呂に入る言うて、脱衣所に行くやろ? そこで服を脱がずに浴室に入って窓を開けて庭に出るんや。そして、静かにリビングの方向に歩いていって大きな窓のそばまで行く。頭を出したらバレるやろうから、服にしまっといたスマホを取り出してカメラを起動や。盗撮みたいやけど、怒られないやろうって思ってた。
…怒られないと思ってた。長い時間撮影してるとお風呂でのぼせてると間違われそうだから数分しか撮れなかったし、映像の殆ど葵がおらんかった。それで浴室の窓をくぐって戻って、服を脱ぐために脱衣所に行ったらな… おったんや、葵が。
スマホがバレたみたいでな、『盗撮されてるかもしれない!』ってうちに伝えるために脱衣所に来てくれたんやって。そしたらうちの服がなくて、葵が不安の絶頂にいるときにうちが脱衣所に戻ってもうたってわけや。服を着て、スマホを手にしたうちが。
『とりあえずお風呂に入って、話はそれからだよ』って言ってる時の葵、顔は青ざめてるんにじっと睨んで薄笑いしてて恐ろしかったで。お風呂を出たら怒られるから、怖くて怖くて出れんかったもん。これでのぼせたらもっと怒られるから、覚悟を決めて出たんやけど足がな、枷がついたみたいに重くてな。恐れ知らずのうちがここまで怯えたのは初めてかもしれん。
もちろん、酷く叱られたで。原稿用紙を3枚手渡されて、書き終わるまで部屋から出てくるなって言われた時は絶望した。明日の朝になっても出れんかもしれないって思ったもん。いつも土下座しかしてこなかったから、反省文の書き方なんてわからん。先生も教えてくれへんもん。
でもな、うちでも驚くことにすんなりと書けて、今は自由の身になったんや。でも部屋にこもっとる。だって怖いやろ、リビングに行ったら葵と会うかもしれないんやで。そんな恐怖の中で、うちは画期的な名案を思いついたんや。
お詫びとして葵に遊園地のペアチケットを渡すんや。これであかりとデートしてきなって言ったら、葵は許してくれるはず。決して安い出費やないけど、これなら葵の機嫌を絶対に取れる。それに、その後をつけたらデートで甘々な2人を見れる。一石二鳥な完璧な作戦やろ?
ミコトさんにお願いして、来週の休みのチケットを用意してもらった。これを明日ミコトさんから受け取って、葵に渡す。その時にお金を払うことになるから銀行にもよっとかんと。財布には2千円までしか入れちゃだめって、昔に葵に言われたから足りないんよね。流石に高校生なんやし増やそうかな…
そして、朝早い時間にうちはしっかりと目を覚ます。葵は起こしてくれないと思ったから、スマホのアラームを設定しておいたんや。賢いやろ?
リビングに降りても真っ暗、明かりもついてないし誰もいなさそう。とりあえず明かりをつけて、冷蔵庫から適当な惣菜を取って机に置いて、昨日の夜に葵が炊いといてくれたお米をお茶碗に盛って、よし。2人が起きてくる前に食べきってミコトさんの家に行ってまうでー!
がっとかきこんで、ちゃちゃっとお皿も洗った。日も昇ってきて時計は6時を指しとるけどまだ2人は起きてこん。パジャマで外出るのはまずいから制服に着替えて、ミコトさんの家にダッシュや!
ちょいと走って疲れたけど、無事についたしオーケーやな。門の鍵は… かかっとらんから開けれるけど、チャイムは鳴らしといたほうがええよな。
ピンポーン、鳴らしたけど待たんでええよな。うちが行くのは伝えてあるし、今もスマホで連絡したから大丈夫やろう。乗り込むでー! ちょっとでも早くチケットを受け取って葵に渡さないといかんのや。うちの居場所が消えてまうから…
「お邪魔しまーす! ミコトさんはいますか?」
「鳴らしたら待つことを心がけようか。ピンポン押して走ってだと、子供のいたずらと間違えられてしまうよ?」
「う、ごめんなさい…」
「事前に連絡してもらえてたからいいよ、わかってたし。ただ、
肝に銘じとこう。ミコトさんは顔が広いし、うちがやらかしたらその噂をすぐに掴みそうやから… 気を付けんと。
「はい、頼まれてたチケット。お金は要らないよ、盗撮してたお詫びってことで」
「ありがとうな、ミコトお姉ちゃん!」
「どういたしまして。せっかく来たんだしご飯も食べていかない?」
「これ渡さないかんから、じゃあな!」
「あぁ、ばいばーい。 …そんなに急がなくても、良い気がするんだけどな…」
そうしてうちは家に帰った。