茜「ただいまー!」
…返事があらへん。もうすぐ登校せんと遅刻やで、寝坊し過ぎやないかー? 全くしゃーないなー、起こした… あれ、机に料理があるやん。あの2人もう起きとるやん、なんでおらへんのや。もう高校に行ってもうたんかな、それでうちの分の料理だけ作っておいてくれたとか。優しいなぁ、でも今から食べたら間に合わんから置いとくな。というか量も多すぎるで、食いきれへん。これ食い切れるのあかりだけやろ。
ラップもされとらんしうちがしてあげるかー、全く世話が焼けるなー。とりあえずうちも高校に向かうか、スマホは部屋で充電しっぱなしのはずやしそれ取って即ゴーやな。っと、メール来てるやん。葵からか、なんやろ。『どこいった』、かぁ… そういや書き置きもしてへんかったな… 今から高校行くってメール送っとこ。
と、いうことで高校まで来たで。時間は余裕あり、せやけど心に余裕なし。葵がお
校内で恐る恐るしとったら変な人やし、堂々と行こう。ここじゃ葵も怒鳴れないはずや、人の目を気にしちゃうタイプやからな。それにあかりもおる、あかりの前でうちに怒鳴ったところは見たことあらへん。いつも呼び出されるんや、でも今は呼び出される場所があらへんで。よし、行くでー!
「待 っ て た よ」
「待たせたなー、心配させてごめんなー」
「今日は話したいことがたくさんあるんだ、お昼になったら 屋上 に行こうね?」
「蕾も一緒に行こうなー?」
「ぼ… 私は教室で食べますよ、なので姉妹水入らずで話してきてくださいね」
終わった、か…? いやいや、でも屋上はミコトさんも来るはずやし叱られても助けてもらえるはずや。それにうちには切り札があるんや、そう! この遊園地のチケットがある! 葵の怒りも収まるはずや、絶対にな!
…そうしてうちはお昼休みを迎えた。いつものようにミコトさんのお弁当をゆっくり食べる、なんてふうにいかんのはわかっとる。チケット1枚握りしめて、屋上で葵を待ち構える。さぁ葵、決戦やでー!
「ねぇ、お姉ちゃん。何か言うことあるでしょ?」
「プレゼントがあるんや、葵。まずはこれを受け取ってから話をせーへん?」
「話を逸らそうったっていかないよ。何の連絡もせずにいなくなった件について弁明を、ね?」
「これがプレゼントなんやけど、あかりと2人で行って欲しいと思って人気の遊園地のペアチケットをとったんや。まずは受け取ってくれんか」
「…どこの、本物?」
「この前新しいジェットコースターができたってチラシ配ってたあそこや、本物やで」
「…ふーん、やるじゃん」
この反応は、うちの勝ちか? 少なくとも正座でお説教の雰囲気やあらへんよな? よーし、ミコトさんに用意してもらったことを秘密にしちゃったけどええやろ、うちが全部用意したってことにしたほうが葵によく思われるはずやし。ミコトさんには後でちゃんと話そうっと。
「ありがとう、でも朝の話は終わらないからね?」
「おう、わかっとるで。すまんかったな、急に留守にしてもうて」
「どこで、何をしてたの?」
「チケットを買いに行ってたんや、少しでも早く葵の喜ぶ顔が見たくてな」
「…そう言われると責めづらいからやめて。何か変なことをしてるんじゃないなら怒らない、というか怒る気は失せたよ。でも次からはメモを残すなりスマホを持っていくなりして。次やったらお説教じゃ済まないから」
肝に銘じときます… ふいー、でもよかったわ。葵に怒られることもなく、うちは自由の身。しかも葵とあかりのデートまでセッティング! 完璧な仕事や、陰で2人を支える優しきお姉ちゃん、それがうち!
「茜、渡せ… おや、葵ちゃんもいたんだ。茜から聞いてるだろうけど、盗撮の件は申し訳なかったと思ってる。殴ってくれてもいいよ、それだけの権利がある」
「こんにちは、ミコトさん。大丈夫です、大して怒っていませんので。2人で昼食ですよね? 今日は私もご一緒していいですか?」
「もちろん、4人で食べる昼食も楽しいだろう。ヒメもすぐにくるはずだし、少しだけ待とうか」
「い、いやー? 葵はあかりと2人で食べたほうがええんやないかなー? ほら、そのほうがあかりも喜ぶで?」
「あかり君も呼ぶよ、いいですよね?」
「勿論、ただヒメもいるからラブラブしないでくれよ」
「私は周りが見えている自負があります。そんなことしませんよ」
5人で食べるのは楽しみやけど、やけどぉ… ミコトさんにチケットを用意してもらったことがバレるかもしれん、ミコトさん口軽いからなぁ。バレてもたいして葵の機嫌を損ねへんやろうし大丈夫やろうか、ちょいと怒られるかもやけど。『頑張ったの半分以上ミコトさんじゃん』とか言われるかもやけど、それで済んだら御の字や。元はもっと酷いほど怒られるはずやったんやからな。
というかヒメさんも来るんか、そっちのほうがまずい気がするんやけど。この前、無茶苦茶疑われてたやん。あれから話すの初めて、いやあの時も盗み聞きしてただけやから話してはないんやけど。ミコトさんが話してるとは思うけど、どう伝えてるんやろうか。
なんて考えとったら、すぐに2人が来てもうた。ヒメさんだけ大変やろうな、あかりのことも知らんし、葵とあかりが付き合ってることも知らんわけやし… うちらも気をつけんとな、誰かが口滑らしたら芋づる式に止まらんくなるぞ。フォローしようとして失敗する未来が見えるんや。
「たいして経ってないのに、凄く久しぶりな気がします」
「蕾ちゃんは高校に慣れなくて大変だったでしょ? そういう時は時間がゆっくりに感じるからねー」
「日常が濃かったですからね。楽しくていいですけど、落ち着いた暮らしに戻りたいものです」
「それはそうだね、普通ほど素晴らしいものはない。喜劇も悲劇も、見るのはいいが当事者にはなりたくない」
「うちは長いなんて感じへんなぁ、もう一瞬で時間が進んでるような気分やわ」
「お姉ちゃんはいつも遊ぶこととご飯のことしか考えてないからじゃない?」
「言えてるかもね、茜は難しいことを考えずに生きてる。勿論良い意味で言ってるよ」
「わかります、私も大概そう言われますけど、茜のほうが遊び人ですから」
褒められてる気がせーへんのやけど…? まぁええか、反論の余地があらへんし。それにうちの話なら幾らでもしてええで、話題の中心にいれるんは気分も上がる。葵とあかりの話題にならない限りは誰もボロを出さんやろうし。
「そうだ、今度みんなでカラオケ行こうよ。来週の土曜日とか、どう?」
「カラオケ! 楽しそうです!」
「…再来週にしませんか? 確か、来週の土曜は気になってた回転寿司のお店がオープンするんです」
「再来週は用事があって、無理なんだよね、ごめんね。そうだ、皆で回転寿司にも行こうよ。私がお金は出すよ?」
「えー、あー、日曜のほうがええんちゃう? ほら、寿司とカラオケだと疲れてまうし、葵も1人で食べたいやろ?」
「そうだよヒメ、日曜にしよう。私も土曜は用事があるんだ。な?」
「あ、うん、わかった。それじゃあ日曜ね」
「来週の土曜日に寿司屋なんて開きましたっけ?」
あかり! 葵の隣に座っとるんやからちょっと手を見てみるんや! 背中側に回して露骨に隠しとるそのチケットの日付を見るんやー!