寝坊した葵と2人で、小走りで駅に向かっていく。駅まで着いたら休めるし、座れなくてもそんなに遠くじゃないから疲れることはないでしょ。遊園地、久しぶりだなぁ。8時の開門には間に合わないと思うけど、8時半には着くかな? 入場ゲートの行列もなくなってそうだし、いい時間かもね。
電車にもすんなり乗れて、運良く座れたから足の力を残して遊園地へ。殆ど並んでないから、入るのもすんなり行けそう。チケットは葵が持ってる、はず。
「チケット、あるよね?」
「あるよ、忘れるのはお姉ちゃんだけだよ」
「だよね、よかったぁ」
急いで出てきたし不安になっちゃったけど、よかった。鞄から取り出してチケットを手にした葵と、ゲートにいる受付さんのところへ。確か、入場許可証とリストバンドをもらうんだったかな? 年齢確認の手間をなくすために、渡されるはず。高校生は黄色だったかな…
「受付です、チケットを見せてください」
「このペアチケットです」
「…はい、わかりました。お名前をお願いします」
名前を言わないとなんだ、昔は聞かれなかった気がする。チケット見せたら入れるわけじゃないんだね、実は昔も親が言ってくれてただけで聞かれてたのかな? 名前言わなきゃ。 …どっちの名前だ?
「琴葉葵です」
「…紲星です」
「紲星あかりさんで間違いないですか?」
「はい、紲星あかりです」
葵がチケットを買う時に名前を登録したのかな、事前に言っといてくれないと蕾って名乗っちゃうところだったよ。困るなぁ、今朝言う予定だったのかな? でもよかった、向こうから聞いてくれて。紲星って聞いたらわかるか、親戚以外に聞いたことないや。
「こちら入場許可証と、青いリストバンドになります。リストバンドは常に着けていてください。紛失してしまいましたら、すぐに近場のスタッフに連絡ください」
「青だったか、黄色だと思ってた」
「時代は青だよ、私の色」
「にしては濃くない?」
「まぁね。あ、受付の人、ありがとうございました」
「ありがとうございましたー」
「それでは、お楽しみください」
青いリストバンドをつけて、僕達は園内に入っていく。周りの人を見ても、青色の人は1人もいない。赤とか緑とか黄色とか、色とりどりだからもしかしたら受付の人の気分で渡してるのかもしれない。でも、青色は運が良かったな。葵の色だもん、ちょっと濃いけど。
下調べをしてくればよかったな、と少しだけ後悔しながらも葵の後ろについていく。どこに向かってるのわかんないや、地図もないし。ゲートから正面に進んでるし、真ん中の方に向かってるのかな? 中心にそびえ立ってる、大きなお城の方にどんどん進んでる。昔は上に行って写真も撮れた気がするけど、今はどうなんだろう。お城の奥に観覧車も見えてきた、朝一で乗れなかったし夜に乗ろうかな? ロマンチックでいいよね、夜の観覧車。
「葵、お城の方に行ってみようよ。昔は登れたと思うんだよね」
「私も登った記憶がある、行こっか」
「よーし、映える写真を撮ってゆかり
「…だね、撮ろう」
それから2人でちょっとだけ歩いて、お城の近くまでは来た。正面に来たんだけど、入れそうな雰囲気じゃないな… ロープが張られてるし、少なくとも真正面から入れるわけじゃなさそう。横に出入口があったりしたっけ?
「あ、あれ見て。あの立て看板」
「んー? あー、なるほど…」
立て看板には、『土・日・祝日はお城の内部に入ることはできません 混雑を避けるための策となっております 楽しみに来られた方は申し訳ありません』と書かれていました。 残念、確かに人が集まったら危ないですもんね。高さもありますし、人気の遊園地ですから。さて、次はどこに行こうかな。
っと、遠くから男の人が走ってきてるな。ナンパかな、葵を守ってあげなきゃ。間違いなく僕達に狙いをつけてる、真っ直ぐに来てるもん。でも、遊園地のスタッフさんっぽいな… 服がスタッフさん用のやつだ。でもそういうナンパの可能性もあるか。
「あの、なんですか?」
「すみません、琴葉様と紲星様でいらっしゃいますか?」
「えっ、はい」
「どうかしましたか?」
「お城に案内いたします。裏口がございますので、そちらからお入りください」
「…入って良いんですか? それと、なぜお城に入りたがっているとわかったんですか?」
「当遊園地のオーナーより、琴葉様と紲星様にお城の裏口へ案内するように命令を受けております」
「オーナー…」
もちろんだけど、僕はオーナーさんと話したことなんてないし名前も知らない。それは葵も同じだと思うし、紲星家にも琴葉家にもそんなお偉いさんと話す機会なんてないはず。茜が気を利かして話をつけておいてくれた、なんて出来るような規模の話じゃないし… わかんない、ちょっと怖いな。
「ありがとうございます。オーナーさんからは、どんな命令を受けたんですか? 詳しいことは言えないと思いますが、言える範囲で聞かせてもらえませんか?」
「オーナーのご友人である、鳴花様が来園したと話がありました。その鳴花様のご友人である、琴葉様と紲星様がお城の前にいるので案内するように、と命令を受けた次第でございます」
「めいか… ヒメさんかな…」
「ミコトさんでしょ、このリストバンドもそういうことか…」
そうか、ミコトさんは葵よりちょっと髪の青色が濃いんだ。このちょっと濃い色の葵色リストバンドは、本当はミコトさん色のリストバンドだったんだ。なるほど… ミコトさん、僕達が遊園地に行くことを知ってオーナーさんに伝えてくれたんだ、優しいなぁ。でも、それなら一緒にくればいいのに。
…あれ? 僕と葵がお城の前に着いたのってついさっきだよね。カメラで見てる、にしてもスタッフさんが来るの早いなぁ。まるで、お城に行こうって話してたのを聞いてたみたい。
ミコトさんが相手だと盗聴もあり得るなぁって思えちゃうのも問題だけど、この服は茜に見繕ってもらった服だしミコトさんにはこの服で会ってないから仕込まれてないはず。もしかして、オーナーさんがカメラをずっと見張ってて、僕達がお城の前に来た瞬間にスタッフさんに命令したのかな。凄い優しいオーナーさんだなぁ、僕達のためにありがとう。
それから、スタッフさんは僕達をお城の裏口に案内してくれた。扉を開けてくれて、中に入ったら『ここからは琴葉様と紲星様のお二人でお楽しみください』と言って立ち止まってしまった。自分がいると話しづらいんじゃないか、って気を使ってくれたんだろうなぁ。凄い、良い人だ。
「…気になることはあるし問い詰めたいことはあるけど、今は楽しもっか。ほら、写真撮るよ。ゆかりちゃんに送るんでしょ?」
「上からの写真じゃなくていいの?」
「廊下の写真も映えるよ。それに、上に上がったら他の人から見えるじゃん。話題になっても困るでしょ、立ち入り禁止のお城に登った二人組って」
「確かに… 2人で写真撮ろう、一緒に写りたいけど自撮り棒とかある?」
「…持ってない。スタッフさんに頼もうか」
呼びに行ったら、快く答えてくれた。僕のスマホで写真を撮ってもらった後は、しっかりした撮影用のカメラでも撮ってくれた。葵も自分のスマホで撮ってもらえばよかったのに、人に見せられないものでもあるのかな? なーんて、葵に限ってそんなことはないだろうけど。
カメラの写真は退園する時に渡してくれるらしい。楽しみだなぁ、ちゃんと映れてるといいなぁ。