お城で写真を撮った後、葵に『行きたいところがあるから着いてきて』と言われたので歩いている途中なのですが… すでに、帰りたいと思ってます。昔、通った覚えがある道なんですよね。
あの時は、本当にワクワクとしてたのに年齢制限で乗れずに泣きながら帰ったんです。だから知ってます、この先にあるのはジェットコースターです。というか、ジェットコースターって大きいんですよ。見えるんですよね、遠くからでも。
「帰らない?」
「なんでさ、美味しい寿司屋があるよ?」
「ないよ、ジェットコースターの下に寿司屋はない」
「…よくジェットコースターってわかったね?」
「わかるよ、見えてるもん」
「じゃあ、乗ろっか」
「乗らないよ、絶対に乗らないから」
意地でも言い続けますし、何が何でも乗りません。そもそも、遊園地に誘われた時から言い続けてるんですよ、ジェットコースターは苦手だって。怖くないなら良いですけど、遠くから見てもわかるほど大きなジェットコースターが怖くないわけないんですよ。高さがあるのは間違いないんですから。
葵が乗りたいなら自分で乗ればいいのに、僕に乗らせようとしてるんですよね。怖いから一緒に乗ってほしい、なら少し考えますけど… 僕が絶叫してるところをみたいって考えが透けて見えるんですよ。遊園地につれてきてくれたのは葵ですし、出来ることなら応えたいですけどジェットコースターは本当にだめです。気持ち的には、マイナスに近い
「ジェットコースターを乗りこなすあかり君が見たかったなぁ」
「乗りこなすのは無理だよ、馬じゃないんだから」
「馬なら乗る?」
「乗らない」
「でもねあかり君、今の服を考えてみなよ。他の乗り物だとスカートの中が見えちゃうけど、ジェットコースターは前に座席があるから見えないよ」
「……たしかに?」
正論で殴られると困る… 正論かはわかりませんけど。でも、
…ナチュラルに、絶叫系の乗り物だけで考えてたな。コーヒーカップとか、ゴーカートとか、それこそ前から行きたいって言ってた観覧車だって撮られることも見られることもないですよ。それで撮られるとしたら、後をつけられて狙われてます。そういう時は何に乗っても変わらないでしょうし、狙われてたら誰か気づいてくれると思います。
だって、オーナーは僕達がお城に入りたがってることをわかる人ですよ? カメラで見守っててくれてるに違いありません、不審者がいたらスタッフさんが来て速攻ですよ!
「さぁ、乗ろう。私もずっと乗りたくてさ、1人で待つのは暇でしょ?」
「暇ですけど、待つほうがマシです。待ちますよ、葵が乗ってる数分くらいなら」
「えー? 私、隣に家族がいないと怖くて泣き出しちゃうこともあったんだよね。だから、乗ってほしいなぁ?」
「怖くて泣き出す乗り物に乗りたがらないでよ」
「…いいから乗ろ?」
「嫌です、何を言われても乗りません」
「今日は私が晩ごはんを作るんだけど、何にしようかなー? ミントの素揚げでいいかなぁ、美味しそうでしょ?」
「……っ、乗ります」
ずるいですよ、ご飯を人質にとるだなんて。逆らえないじゃないですか… それに、葵だと本当に作る可能性があるから怖いんですよ。冗談じゃなく、僕が乗らなかったせいで茜に迷惑かけるわけにもいきませんからね。
列は短めだったので、十分と経たずに僕達が乗る番が来ました。しかも、先頭です。一番キレイな景色が見える場所だと思いますけど、けど… その分怖いんですよ、前に人がいないから地面も空も凄く近い気がして。
「私が左側に座るから」
「じゃあ、僕が右側ですね」
「うん、ちゃんとシートベルトつけてよ」
「つけるよ、子供でもつけるよ」
「まぁね」
スタッフさんにシートベルトの確認をされて、スタートの時です。怖いなぁ…
…とても、怖い思いをしました。怖くて、怖くて、声が出ませんでした。真っ青な空に向かって昇っていくときも、地面に向かって急降下するときも。螺旋階段みたいに、横向きになって輪を描きながら登っていく時も、頂上で突然止まった時も。もう二度と乗りません、ご飯がなくなっても乗りません。
「楽しかったね」
「楽しくなかったです」
「飲み物買ってくるから休んでて」
「わかりました…」
気持ち悪い感覚はないんですけど、どっと疲れたみたいで、歩くのが少し辛いです。叫んだわけでもないのに肩で呼吸してしまってますし、深呼吸しましょう。すー、はー。
「すーーーーーーっ、はーー」
「はい、水。落ち着いたら、歩きながら次行く場所考えよっか」
「そうしましょう、行けますよ」
「もういけるのか… 近くにウォーターライドがあるし、そっちに向かいながらにしよっか」
「逆に行こう」
乗りません、近付いたら乗せられるかもなので近付きもしませんよ。来た道を戻ることになってしまうんですが、それでもいいです。色々ありますから、遊園地の真ん中に戻るわけですし。さーて、次は何乗ろうかな。レストランにも行きたいな。
「吐きそう…」
「ごめん、やり過ぎた」
「うぅ…」
色々乗りました、というか乗せられました。断らないとだめだと思ってたんですけど、断れなくて… どっちに行ってもジェットコースターはありますし、避けても別の絶叫系の乗り物があるんです。葵に言われるがままに全部乗ってたら、流石に苦しい…
「肩持つよ、休める場所行こう」
「うん…」
「本当に、ごめん…」
普段なら『謝らないで』って言うところですけど、言いませんよ。言える元気もないですし、葵に乗せられたわけですし。もっと謝って欲しいくらいですよ。
「晩ごはんはあかり君の食べたいだけ作るから、吐かないように頑張って耐えて」
「…頑張る」
好きなだけ食べれるんですか。今日のことは全部許しますし、頑張って耐えます。吐いちゃったら、晩ごはんを食べる時に思い出しちゃいそうです。それに、感覚が残っちゃうと食べる気もなくなっちゃいますし…
「よしっ、このベンチで休もう。落ち着いたら帰ろっか」
「観覧車は乗ります、絶対乗ります」
「…わかった、そのためにも休もうね」
吸って、吐いて、水飲んで。葵の肩にもたれさせてもらいながら、少しだけ休みました。1日中遊んでましたから、少しずつ夜になってきています。秋の夜、暗くなってきた空に月が綺麗に輝いてます。今、観覧車に乗ったら綺麗だろうなぁ。
「…おっけー、もう行けるよ。観覧車行こう」
「よし、倒れないように手を繋いどこっか。大丈夫だと思うけどね」
「ありがとう、助かるよ」
それから2人で観覧車まで行きました。行列になってるかと思ってたんですが、思ったほどは並んでいませんでした。すんなりと乗れて、少しずつ上がってきています。一番上からみたら、どれぐらい綺麗な景色が見えるかな。
「反対に行ったほうがいいかな? 手、離すよ」
「このままでもいいんじゃない? 並んで見るのも楽しいよ」
「…わかった、握ったままにしとくね」
葵と2人きり、観覧車から外の景色を眺める。真っ暗な空と、下で輝く遊園地の装飾。少し遠くを見れば、遊園地の外に広がる大きな街。僕達の家は見えないけど、確かあっちの方かな。僕は指を差した。
「きれいだね」
「本当にね… ずっと見てたいな」
「うん、ずっと見てたい」
「また、来ようね」
「来月じゃ早すぎるし、来年とか、どう?」
「いいね、その来年も、更に来年も、ずっとずっと来たい。もちろん、2人でね」
うん、僕も来たい。でも、来れるのかな。だって、高校を卒業したら遠くに行くかもしれないよ? 僕も、葵も、どこでどう暮らしてるかわかんない。きっと、今とは違う暮らしだから。
「僕も、来たい。でもさ、きっといつか、来れなくなる。ここから見えないくらい遠くに行ったら、どうなるのかな」
「変わらないよ、遠くに行ってもね。だって、どこに行っても私はついてくから」
「…そっか」
「そうだよ、うん」
葵はきっと、僕がセンチメンタルな気分になってると心配して、安心させようと言ってくれたんだと思う。だけど、だけどさ。僕は、ありがとうの一言さえ返せなかった。うれしかったんだよ、葵についていくって言われて。でもさ…
寂しいなって、嫌だなって思ってしまった。葵とずっと一緒にいるなんて、できっこないと思う。だって、今の僕達はまだ高校生だよ。僕も将来のことなんてわかんないし、葵がどんな生き方をするかもわからない。だから、その時のことを考えちゃってさ。 …忘れよ、考えたってろくなことがないや。
………変だな、僕。いつも、将来のことなんて適当に考えて、適当に結論も出さずに止めて、すぐに切り替えられるのに。ちょっとだけ、引きずっちゃうかも。それに、葵が将来どんな生き方しても僕には関係ないのにね。葵に限らず、茜も、ミコトさんも、ヒメさんも、僕に何かできるわけでもないし、それぞれが好きに生きるだけ。なのに…
「…ずっと、一緒にいたいなぁ…」
って、思うんだ。さっきまで、ジェットコースターに乗せられた恨みが募ってたのに。